『助け 』
「一週間の停学処分……」
それが僕らのうけた処分だった。
「悪いな、苗代まで巻き込んで」
雷火ちゃんはずっとこんな調子だ。
落ち込んでるというよりは、さっきのことに触れられないように距離を置いている、そんな態度。
「いいさ、雷火ちゃんの罪が少しでも減ってくれるなら」
全治二ヶ月。雷火ちゃんが与えた攻撃は、それ程までになった。
逆にそれほどですんで幸いだったのかもしれない。
なにせあの時の雷火ちゃんの表情は、殺人でもしかねない表情だったから。
「私を慰めてくれるのは、嬉しい。だけどいつまでも私の部屋にいないでくれ。」
そう、僕は小一時間は雷火ちゃんの部屋にいた。
理由は簡単。雷火ちゃんがあれほどの行動をとった訳を聞くため、タイミングを伺っているからだ。厳しいのは承知のうえだ。
「まぁ、別にいいじゃないか」
「ふざけんなよ。私の自由時間をつぶすんじゃねーよ。てか――――」
苗代がここに居続ける理由くらいわかってる。
そういって勉強机の椅子から飛び降りて、ドアの方を指差す。
「帰れよ」
「嫌だ」
「なんでだよ」
「雷火ちゃんに苦しんで欲しくないからだ」
「事情を話したところで、私は苦しみから解放されない。むしろ悪化する」
「そんなの話してみなきゃわからない」
「第一、もし事情を苗代に話して、苗代が勝手に事情解決しても、ただの自己満足でしかない」
雷火がそういった瞬間、説得をするために押さえていた感情が急に溢れ出した。
『自己満足』理由は知らないが、とても腹がたった。
「自己満足で何が悪い。」
「てめぇはただ、身近な人が苦しんでいるところを見たくないだけだ。自分が無力だと思いたくない、人を救ったつもりになる自己満足。」
「だからなんだ。僕が僕の事情で動いて何が悪い。」
「迷惑だっていってんだよ!私には私の事情がある!糞自己満足がっ!」
「そうさ!僕はただ自分が無力でありたくないだけなんだよっ!僕が無力だったから燈浬を失った、その事実を受け止めたくないからな!」
そして、僕は抑え切れずに言ってはいけないことを叫んだ。
「第一なんで雷火は、燈浬と妹にいざこざがあることを、みんなに伝えなかったんだよ!家族ならそれくらい知ってるだろ!」
言ってはいけない台詞。雷火ちゃんだって何か事情があって伝えられなかったんだれう。それくらい予想がつくのに、僕はそう怒鳴った。
何よりも、この言葉は雷火ちゃんを傷つけるためだけの言葉なのに。
雷火ちゃんはそれを聞くと、言い返す言葉を失った。
言葉は凶器だ、簡単に人を傷つける。取り返しなんかつかない。
「ごめん、言い過ぎた。」
今頃になってそれに気付いて、僕は雷火ちゃんの痛みを理解しないために逃げる。
最低だ。
「いや、私こそ言い過ぎた。悪かったな、気が立ってたんだ。」
雷火ちゃんも謝り返してくる。
その台詞を受け取ると、僕は雷火ちゃんの部屋からでていった。 何の解決もないままに。
燈浬「さて帰宅用講座でもはじめましょうか。」
七海「そうですね、始めちゃいましょう」
燈浬「そういえば余談になるけれど――」
七海「あれ!?基本卓球用語講座をはじめるんじゃないんですか!?」
燈浬「そういえば猥談になるけど――」
七海「猥談はいやですっ!」
燈浬「いいじゃない、女の子どうしなんだし」
七海「ダメですっ!」
燈浬「しかたないわね。七海ちゃん相手だし、諦めるわ」
七海「それより帰宅用講座はじめましょうよ!」
燈浬「今回はドライブの種類についてよ。
パワードライブ……速さ70―回転量75―コース付き50
スピードドライブ……速さ90―回転量60―」コース付き75
ループドライブ……速さ40―回転量90―コース付き85
(ナックルドライブ……速さ70―回転0―コース付き60)
といった感じかしら?悪魔でも主観的だけど」
七海「回転量が強いと打球は重く感じられます。後しっかりと面を引き締めないと、ボールがオーバーします。着地後に急に低弾道になり加速してくるのも注意です。」
燈浬「けれど回転量が0に近いのも厄介よ。」七海「そうですね。しっかり振り返さないと入りませんよね」
燈浬「後、ドライブがかかってるボールは指に当たると痛い」
七海「わかりますっ!冬とかすごい痛いですよね!」
燈浬「某Mさんは三回連続でドライブが人差し指にあたって、微細骨折を経験しているわ」
七海「卓球で骨折って、また珍しいですね……」
燈浬「あなたの言えたことではないでしょう?」
七海「そうでしたね……。」
雷火「ご飯出来たみたいだっ!」
燈浬「あら早かったわね。それじゃあ基本卓球用語講座を終わります――わ。」
雷火「ぶふっ!」
七海「!?」
雷火「噛んだよな」
七海「ていうか迷いましたね」
燈浬「それじゃあ基本卓球用語講座を終わりよ。後雷火、あなた今日はトマト全部あげるわ。」
雷火「なっ!そりゃねーぜ、燈浬!」