支え
「起きやがれー!」
玄関から雷火ちゃんの声が響く。
燈浬が学校を去ってから、5日がたった日曜日。
「起きやがれってー!」
隣の部屋には、たくさんの機械だけが残されていた。
「起きろー!」
僕が無力だったからこそ、起きてしまったこの事件は、今だに僕を攻め続けていた。
「起きろつってんだろが!」
雷火ちゃんがスライド式のドアを思いっ切り開けた。
「やめてくれ雷火ちゃん、僕は今、自分の無力さを痛感しているところなんだ。」
「てめーは先にやるべきことがあるだろ!」
「そういえばこのあたりで強盗が流行っているんだってよ。」
「へぇそうなんだな。また物騒になってきてんだな。」
「…………」
「…………」
しまった、言い逃れしにくい返答が……。
「じゃねーよ!さっさときやがれ!」
「僕は知らない!」
「てめーにしか出来ないんだよ!さっさときやがれ!」
そう言われつつ、僕は引きずられてどこかにつれて来られる。
どこかといっても、どこかはわかっている。燈浬の部屋だ。
機械だけが残された燈浬の部屋、機械だけでも残ってくれている燈浬の部屋だ。
この機械には沢山の情報が詰まっている。
それを燈浬は残していってくれたんだ。
「さぁパスワードを解きやがれ。全てはお前に託されてるんだ。」
雷火ちゃんが僕に言う。
「といっても、燈浬から僕に託してくれたパスワードは832(10)だけ。打ってみてもパスワードは解除されないよ。」
僕がパソコンに打ち込む動作をして、そういった。
そう、昨日突然に送られてきた、燈浬からの一通のメール。
『PASS:832(10)
パソコンに様々な情報が詰まっているわ。参考にして。』
このPASSがどういう意味なのか、僕は今だにわからない。
「てかなんだかんだいっても、一日一通程度はメールをしてんだな。」
「卓球の話ばっかだけど、確かにメールはしているよ。」
そういい終えると、パソコンにまたも向き合う。
「(10)ってのがキーポイントだと思うぜ、私は。」
雷火ちゃんが、僕のスマホの(10)のところを指をさして言う。
「(10)か十進法とかか?ならパソコン慣れしている燈浬らしく、二進法に直すか。」
『1101000000』
そう打ち直す。 しかしやはり弾かれる。
「ああ〜わけわかんないな!」
雷火ちゃんが頭を抱える。
「ならあれだ、10人に832個のものを分ける計算とか。」
それを言われて『8320』を打ち込む。そして弾かれる。
「なら関数―――」
「いやもう流石にないと思う。やっぱり燈浬ちゃんらしくパソコン関連だよ。」
「でも全然わからないじゃねーか!」
雷火ちゃんがふて腐れたように足をばたつかせる。
確かに全然わからない……。
「どうせわからないなら、違う人にも聞いて見るのも手だ。」
そういって僕が立ち上がり、ドアを開けて外へ出た。
「聞き込みって訳か。面白いな、私らしいしよ!」
そういって雷火ちゃんも外に出てきた。
「まずは先輩に聞いて見よう。」
「呼びましたか?」
調度よく階段から先輩二人が上がって来る。
「瀬永先輩、燈浬が残してくれたパソコンについてなんですが……。」
瀬永先輩と史先輩に説明しつつ、燈浬の部屋へと来てもらう。
「パソコンっていったら、12進法とかも使うよ!」
そういって、史先輩が『538』と打ち込んだ。
結果は―――
「またダメですね。」
「またかー。もう無理な気がしてきましたよ!」
雷火ちゃんが燈浬ちゃんのベッドに倒れ込む。
「他にも思い当たるのを試していきましょう。」
そういって、30分程度打ち続けたものの、結局時間ばかりが過ぎていった。
「もー!違う人もよんでみようよっ!」
史先輩が走って外へと飛び出す。
「そうですね。僕も友達呼んできます。」
そういって双木の家へと向かう。
しかし双木の家に着く前に、双木とであった。
「あれ?苗代じゃねーか?なんでこんな所に?」
「お前こそ自転車に乗ってどこにいくんだよ?」
「え?そりゃあ……。」
双木が僕の来た方向を指差す。
「お前んとこに行こうかと思って。」
「調度よかった、僕もお前に着てほしかったんだ。」
そんなこんなで、双木にパスワードについて説明しながら燈浬の部屋にむかっていると、燈浬の部屋の前で四人の女性が立っていることに気づく。
「おう。久しぶり。練習試合のときにあった後輩だったよね?」
そこには、瀬永先輩に由沙と呼ばれていた、バンド部のボーカルをしている女性がいた。他にもバンド部の面子と思われる女性達が三人いる。
「えっと、由沙先輩ですよね?」
「ああ。なんでもパスワードが解けないらしいね。」
「はい、もう一時間になるんですけど……。」
「まぁ人は多い方がいいと思うわ。一緒に頑張ろう。」
由沙先輩が燈浬の部屋へと入る。
それをみて、肩までの長さの金髪をした女性が前へ出てきた。
「私はドラム担当の夏樹涼。で後ろの二人はギター担当の空山瑞華と、裏担当の香月京之。宜しくね。」
そういって手を伸ばして来る。
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
そういって手を握る。
そうすると、涼さん達も燈浬の部屋へと入っていった。
「俺らも入ろうぜ。」
「ああ、そうだな。」
そういって中に入る。
「うおっ!結構満帆じゃねーか!」
それは当然だった。10人もの人が入っているんだから。
だけどたった二週間足らずで、僕はこんなにも沢山の人達に支えられていたんだ。
「人は一人じゃ生きていけないんだよな……。」
僕が呟く。
その言葉を聞いて双木が笑う。
「今更だけど、確かにな。しかも今からもっともっとの人に支えられるんだ。」
「解けたっ!」
『1000011010』
そう打ち込んでエンターキーをおす。
その瞬間にロックが解除される。
すると『卓球データ』とかかれたファイルを開く。
「よしきたよしきた!ビンゴだよっ!」
史先輩が跳ねて喜ぶ。
「やらしい気持ちになるな」
「ああ、やらしい気持ちになる」
僕らが呟く。
「でもこれで見れるんですね。卓球のデータが。何より苗代君の、昔の卓球の試合が。」
瀬永先輩がそういった。
それに便乗して、由沙先輩が笑いながら声をかけてくれる。
「強くなれよ。私達が協力したんだからな。」
「はい、もちろんです!」
そこからは流れ解散でだんだんと散らばっていった。
僕も雷火ちゃんと共に卓球場へと向かっていった。
「あーあ。こんな暑い中練習かよ。」
雷火ちゃんが文句をこぼす。
「確かにきついな。アイスでも買ってからいくか。」
なんとなく提案する。けれど雷火ちゃんが目を輝せて肯定してきた。
「いいな、それ!買いに行こうぜ!」
そういって近くのコンビニまで走っていく。
その時だった。偶然だった。まさか、本当に強盗に会うなんて、思っても見なかった。
「強盗だっ!捕まえてくれ!」
「そこをどけっ!」
「きゃぁ!」
ナイフを振り回し、金を盗んだ強盗がこちらへと走ってくる。
このまま走って来るとしたら……。
「雷火ちゃん危ない!」
僕が雷火ちゃんを庇うように前に出る。
「どけっていってるんだ!」
マスクにサングラスを付けた強盗がナイフを僕に振るう。
卓球であんまり使わない左腕なら……!
なんとか左手を前に突き出して、ナイフをもつ手を弾くように叩く。
しかし、腕を少し切られた。
「くっ!」
死ぬのか……。そう感じた瞬間に、何かを思い出しそうになる。
何か……記憶を失う前の大事なことを。
しかし、それを思い出す前に僕ははっきりと見た。
雷火ちゃんが男を殴り飛ばしたことを。
そして何より、雷火ちゃんがまるで化け物を見るように強盗を見ていることを。
それを感じた瞬間。雷火ちゃんは走り出した。男を行動不能にしに。
男が立ち上がったところをみて、溝尾へと拳を向かわせる。 男が怯むと蹴りを入れる。 倒れかけたら倒れないように攻撃を向かわせる。
そう、本当に男を人と見ていないような猛攻。
「ダメだ……雷火ちゃん!これ以上やったらダメだ!」
僕が走る。雷火ちゃんを押さえに。
「なんで……!なんで今頃見えるんだよ。化け物が……!」
雷火ちゃんが暴行を続ける。
そんなところに、僕が男と雷火ちゃんの間に入る。
「どけよ!」
雷火ちゃんが僕の顔を殴る。
ぐう……。
顔全体に痛みがはしる。口内から血が出る。こんなにも強いのか……。
だけど……手は掴んだ。
「やめろ……雷火ちゃん。これ以上はダメだ。」
「なんでだよ……こいつは化け物なのに……!」
「この人は人だ!」
その言葉を聞くと、雷火ちゃんの動きが止まる。
「もしもし警察ですか!?」
そんな一般人の声がして、10分もかからずに、この場に警察がきた。