誰にも負けないくらい強く
『もしさっきの試合で卓球をやめてしまうなら、私の全財産をあなたにあげるわ。
そのかわり、続きは読まないで。
正直なところ、あなたが負けることはほぼ確信していたわ。
私の妹は、それこそ私や瀬永先輩達と同じくらいの実力があるのだから、あなたに勝ち目は1%にも満たなかった。むしろ、だというのに、諦めずに試合を捨てなかったことは、とてもよかったわ。
まぁこのメールは、そんなを書くために送ったわけじゃないのだから、本題に移らせてもらうわ。
あなたの敗因についてよ。
大きな三点をあげると、
一つはスマッシュのコース分け
二つ目は レシーブの数
三つ目はその他の技術
が、あなたの敗因だと思うわ。
特にスマッシュ
あなたのスマッシュは、確かに速いわ。だけど、どんなに速くても同じ場所にしか打てないんじゃ、今回のように返されてしまう。コース分けの練習があなたにとって最重要よ。
後は瀬永先輩の言うような練習をしていれば、きっと強くなる。
美鈴を負かすくらい強くなると、私は信じているわ。
追伸:ありがとう。
』
僕はすぐさまそのメールへの返信を書く。書く。書き綴る。
そうしないと、心が折れてしまうから。
何かに集中しないと、泣いてしまうから。
燈浬に、自分の意志を伝えたいから。
『絶対に僕は、燈浬のいうように強くなって、誰よりも強くなって、燈浬を取り返すから……!だから待っててくれ!それでもし、燈浬がかえってきたら――
』
そこで、手が止まった。何を伝えたいのか、わからなくなった。
かえってきたら、伝えたいことがあるはずなのに、何かがわからない。
しかたがないので、そこのメールの文章を消す。
『......だから待っててくれ!
追伸:こちらこそありがとう!』
そうメールを送信する。
そして、バックを持って立ち上がる。
へこたれてばかりでいても、強くはなれない。
だから、僕は卓球をする。
前に進むために。楽しかった日々を取り返すために。
僕は、星さえ見えなくなった空へと向かって走り始めた。
「だけど、ないなら作り出すんだ!例え自然の『光』ほど強い光でなくても!」
僕の向かう先には、僕に希望を与えてくれる、一番の大きさの『光』があるんだから。
そう、少し変わっている奴らだけど、僕を支えてくれる奴らが。
「全く、何をしているのかと思っていたら、やっと帰ってきましたか。」
「おせーぞ!今何時だと思ってんだよ、全く。」
「心配したんですよ。帰ってきてくれないんじゃないかと思いました……。」
「苗代後輩も帰ってきたんだし、さっさと夕飯食べようよ!」
僕を支えてくれる仲間が……そこにいてくれるんだから。
「瀬永先輩、雷火ちゃん、史先輩、七海ちゃん――――」
切れた息を、大きく吸い込み、僕は宣言した。
「僕は強くなりたい!誰にも負けないくらい強く!」
その言葉をきくと、瀬永先輩が僕に言った。
「当然ですよ。むしろ、強くなってくれなきゃ怒りますからね。期待してますよ」
そういって、微笑みかけてくれる。
「早くご飯食べようよ!冷めちゃうよ!」
その言葉に、それぞれが頷き、アパートの食事部屋へと向かう。
そんな中、瀬永先輩が何かを呟いていた。
「一度終わりかけた『光』だけど。まだ初々しい光であるけれど。また、輝き始めてる。やはりあなたを選んで正解でした。そして今から、あなたは救う立場になってください。そうすれば私は――」
よくは聞こえなかったが、気にもならなかったため、僕は食卓へと向かった。
燈浬「いい最終回だったわ。」
雷火「ん?最終回だったのか?中途半端すぎないか?」
燈浬「ええ、最終回だったのよ。緊急最終回。いわゆる打ち切りね」
雷火「そんなの私は言われてないんだけど」
燈浬「何を言っているの、この小説から私がいなくなったら、この小説を読む価値なんてないでしょ?打ち切りも同然じゃない」
雷火「ん?なんかさっきと意味がかわってきてないか?」
燈浬「何を言っているの?変わってなんかいないじゃない。馬鹿にはわからないかもしれないけれど」
雷火「じゃあ私にはわかんないな」
燈浬「そこはあっさり認めるのね」
雷火「まぁつまり、まだ続く訳だな」
燈浬「ええ、一応まだ続くわ。というかまだまだ続くわ」
雷火「んじゃ、帰宅用講座始めるか」
燈浬「緊急で試合について説明させてもらうわ。
試合は、7セットマッチ(4セット先取)、5セットマッチ、(3セット先取)3セットマッチ(2セット先取)、1セットマッチ(1セット先取)があるわ。
先に11点にたどり着いた方が『1セット(1ゲーム)』を手に入れる、というものよ。だけど、相手と自分がどちらも、10点同士になった時は、『デュース』というものになり、先に2点差を付けた方が勝ちとなるわ」
雷火「『セット』と『ゲーム』は全く同じ意味だから注意した方がいいぜ」
燈浬「正直文字で卓球の説明って、読んでも理解し難いわよね」
雷火「前もそんなこといってたよな。まぁ全面的に同意だけど」
燈浬「そういうわけで、どうしてもわからなかったらWikipediaとか動画サイトとかで見てくれると有り難いわ」
雷火「なんて無責任な……」
燈浬「とりあえず、今日はお開きにしましょう。」
雷火「そうだな、基本卓球用語講座、終わりだぜっ!」