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肯定してくれる存在

「探したって……?」

僕が燈浬を見ると、燈浬が歯を食いしばっていることに気づいた。

「早過ぎる。早過ぎるし速すぎる。なぜこんなに早く気づいて、何故こんなにも速く、ここにこれたのかしら?」

まるで敵を見るように、燈浬は少女を睨みつける。

「全くお姉ちゃんったら、私がいつ、用がないときにお姉ちゃんに連絡をしない、といったの?いってないよね。」

エヘッ、とかわいらしく笑うとすぐさま言葉を繋ぎ始めた。

「第一ね、怒りたいのは私の方だよ?お姉ちゃんったら、勝手に身を隠すんだもん。盗聴器をつけてなかったら、見つけられなかったかも知れないよ。」

「盗聴器……いつの間に……!?」

燈浬がより一層歯を噛み締める。

そんななか、全く話を理解できていない僕は、困惑する他なかった。

「ど、どういうことだよ?」

僕がそう口を出すと、少女が少し不機嫌そうに僕に言葉を発する。

「あなたの声も聞かせてもらったわ。ずいぶんとお姉ちゃんと仲良くしてたみたいね。けどそれも今日でおしまい。明日から私達の学校に返り咲いてもらうから。」


「なんでだよ。それは燈浬がきめる事のはずだろ?なんで燈浬のことを君が決めるんだよ。」

そう僕が言い返す。しかし、少女は全く平然とこたえる

「何もしらないお兄さん。あなたにはいわれたくないわ」

そして、少女が一呼吸おくと、衝撃の事実を僕に突き付けた。

「お姉ちゃんがツッコミキャラとも知らかったくせに」

突然の事実。

ツッコミ?ツッコミってあの、「なんでだよ!」とかの?

「燈浬がツッコミキャラだった!?」

僕が驚愕する。そんな中、燈浬も、少女と同じように、平然と肯定しだす。

「あら?いわなかったのかしら?私はあなたから『!』を取り除いたようなツッコミキャラよ。」

「聞いていない!聞いていないどころかお前はボケしかしていない!」

「まぁ私のツッコミはレベルが高すぎて、あなたにはついていけないとみこしての行いよ。感謝して欲しいわね。」

そこまでいわれて我慢出来るほど大人でない僕は、燈浬に対しボケをかます。

「そうか。確かに僕にはついていけないだろうから仕方がないかもな。僕ったら馬鹿だなぁ。」

「そうよ、あなたは馬鹿なのよ。」

「…………。」

「あら、何その不満そうな顔は?私何か悪いこといったかしら?」

「ツッコめよ……。全く、『ボケ役はツッコまなければただの馬鹿』っていうだろ?」

「あら、そんな言葉初耳だわ?誰の格言かしら?」

「僕の格言だよ!この悪意の塊め!」

格言というよりも、自分自身に讒言(ざんげん)をかましたような気分だけどな!

「あら?私は善良な人なのだけれど。むしろ私ほど善良な人なんていないんじゃないかしら。」

「お前が善良な人だとしたら、世界中の人全てが善良だ!」

「そう考えると、私のことさえ善良と思ってしまえば、全ての人が善良にみえる訳じゃないのかしら?それってとても素晴らしいことじゃない?」

「裏を返して考えやがった!しかもなんかうまい!」

「つまり――――」

「あーもう!お姉ちゃん私のこと忘れてない!?」

突然――いや、本当はさっきから一所懸命アピールしていたのだけど、スルーさせていただいていたところ、急に少女が叫んだ。

「忘れてなんかいないわ。ただ妬いているかわいい妹を見たくて、少しいじめてしまっただけよ。」

「え?そうなの?やっぱりお姉ちゃんは優しいね!」

簡単に、なお無表情に少女をあしらう。

「ていうか……こんな無表情の返答でよく信じられるな……。」

普通、そんな表情で放たれた台詞を、簡単には信用できないだろう。現に、今回の返答は、明らかに適当に返答していたし。

だというのに、少女は自信満々で僕に言い返す。

「お兄ちゃんはまだ、付き合いが短いから知らないんだろうけどね、お姉ちゃんは無表情の時こそ、内心では私を溺愛してるんだよ!いわゆるクーデレって奴なんだ!」

クーデレの使い方が違う。そして尚、お前は騙されてるよ。

僕が内心でツッコむ。

しかもその台詞を少女にいった、張本人さえも、小さな声で

「そういえば、そんな設定も吹き込んでいたわね。」

と呟いていた。

「まぁそんなことはどうでもいいんだった。さぁいこうか、お姉ちゃん。」

少女が燈浬に近寄り、袖を引っ張る。

しかし、その催促は燈浬の、意外なる言葉で打ち消された。

「やめて。わからないのかしら。私はこの学校が好きなの。世界中の何よりも。そう例え、こんな綺麗な星空でさえも、劣って見えるほどに。」

その言葉は、僕からしても意外だった。

いつもだったら、もっと理論的に、そう、『好き』なんて抽象的で、なおかつ自分の感情的なものは言わなかっただろう。

けれども、今回は完全に逆だった。

そしてそれは、何故だか僕を突き動かす。

「僕も燈浬と一緒に過ごしたいんだ、だから―――」

ここから消えてくれ

そういって少女を見る。いや、むしろ睨んでいた。僕は少女を完全に敵対していた。

けれども、少女は全くそんなことを気に止めずに、語り始める。

「そうなんだ、お姉ちゃんはここの卓球部が好きなんだね。だけどね、それはほんの一時的なものでしかないんだよ。だって当然じゃない。一番今に近い時に感じた喜びが、より一層強い喜びになるんだから。」

「何が言いたいんだよ。」

僕が口を挟むと、その少女が完結に言を発した。

「こんな部活よりも私の方がお姉ちゃんにとって特別だって言いたいんだよ。」

さっき言った事柄を再び少女が告げる。

「理由は簡単だよ。人はね、より自分の行動を否定されない環境を好むんだから。」

「何を言って―――」

「私はね、一番『大切な存在』っていうものは、一番『自分を肯定してくれる存在』、というものだと思ってるんだ。だってそうでしょ?どんな事をしても自分を肯定してくれるなら、何をやっても構わない。つまり本性を押さえなくていいんだから。だからね、一番『お姉ちゃんを肯定している存在』の私はあなたたちよりも大切で大事なのよ」

その少女の言葉に僕は反論なんて出来なかった。

その考えを否定する要素が思い付かなかった。

そんな、僕がただ佇んでいたら、燈浬が突然少女に文句をいう

「『大切な存在』が何かなんて、突然問われて返答なんてできるわけないでしょう?第一、あなたの持論なんてしった事じゃないわ。私は現に、あなたよりも―――」

「ばらしちゃっていいのかな?」

その突然の少女の言葉に、燈浬が口を閉める。

そして、少女を睨んで怒り混じりに言を接ぐ。

「規約違反よ。」

「あーあー聞こえなーい」

そう言って僕の方を向くと、不敵な笑みをしつつ、考えられない事を言った。

その言葉が、どれほど残虐な行為かも考えられなかった。


「卓球で私に勝てたなら、お姉ちゃんを返してあげるよ」


そしてなにより、これの事が始まりになり、全てが変わりだす事になることも、ぼくに考えられなかった。

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