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大陸記~王国騒乱~  作者: 龍太
三章 未踏山脈
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というお話(エピローグ)

「将軍、リーゼ・アランダム帰還しました」

「今は入るな!」


 部屋の前に来たリーゼが声を上げれば、中から副将軍ウィニス・キャルモスの怒声。


「構わない。入れ」


 そしていつも通り静かで平坦な将軍シルベストの声が響く。

 微かに迷いしかし静止の声がない事を確認してリーゼが扉を開ければ。

 血の臭いが充満していた。


「……何が?」

「帝国騎士の副長とやりあったところだ。殺せはしなかったが手傷は負わせた。帰還の報告だけならば構わない」


 平時と同じように淡々と喋るシルベストには、片腕がない。血が落ちるのはそこが原因だろう。

 治さないのは自分の腕がないためであり、また材料となる腕をまだ補充していないのだろう。


「いえ。……帝国騎士の計画に関する情報を得ました。これの真偽と判断を仰ぎたいと思いまして」


 懐から書類を出せば、傍らに控えるウィニスが奪うようにして書類を取りシルベストの前に置く。

 しばらくそれを眺めれば、視線だけでウィニスへ命令を下し彼女は部屋の外へと出て行く。おそらく、国王に書類を届けに走ったのだろう。


「真実だろう。貴様が山脈に向かってからだが騎士の動きが活発化している。王都に潜んでいたものはユーファ・ネルカネルラの働きでほぼ壊滅された。特務には動いてもらう」

「……そういう暗部みたいな動きをするとは、予想外ですね。おそらく成り行きか何かなのでしょうか。それと、もう一つ。……あちらの書類にもありますが、聖騎士が道化師団との争いに協同を申し入れてきました」

「陛下や宰相殿の領分だ。判断してくださるだろう。山脈との交渉ご苦労。特務と共に三日の休養を与える」


 その時間で暗部や軍が情報を集めるのだろう。そして必要とあれば特務を動かすつもりもあるはずだ。

 何よりこの休養は。


「それほどまでに?」

「ウィニスでも全滅させられる程の被害だ」


 戦力である特務が負った傷の深さが予想以上のものだったからだ。決してこれまでのように万全の状態で騎士に挑むことは出来ないだろう。


「わかりました。それでは失礼します」


 そうなれば、彼らを曲りなりにも率いるリーゼとて無事に生き延びる目が低くなる。

 最悪五体を失おうとも頭と胴体があるならばリベイラの治療で治ることはあるだろう。それでも無駄になる時間を考えれば手放しで安心できる事柄ではないはずだ。


「取らぬは竜の牙だな。何にせよまずはアイツらの状態を確かめないと……と思ったが。お前が訓練をしているなら最悪だって事か」


 執務室から出て上層へ向かおうとしたリーゼの目に入ったのは、剣を持ち何人かを殺しているニアスの姿だった。

 いつもとは違い閑散としている砦内を見れば、おそらくイニーが殺しまわったのだろう死体が数十落ちている。


「楽しかったかい、旅行は。こっちも楽しい宴だったぜ」

「ああ。悪くなかったし、お前らも楽しそうで何よりだ。死んでなかったことが唯一残念だが?」

「悪運だけは良かったみてぇでな。ルカとイニー、リベイラ、ヒロムテルン。あと双子か。あと一月は無理だぜ? くっ付けても他人の腕だしよぉ」


 色も形も特に不自然なところは見られない。リーゼ程度の使い手ならそこまでの訓練は必要としないだろう。した所で誤差は大きくならない。

 だが、一流の者はその些細な誤差を危惧しそれこそが大きな違いを齎す。特に、彼らが戦うべき相手などには大きな隙として突かれるだろう。


「それは喜べるし、安心できる話だ安心した――完治する前に潜り込んだ帝国騎士の殲滅をする事になる。喜んでいいぞ」

「そいつは笑みが出るくれぇに嬉しいクソったれな知らせだ。将軍やアンタの優しさが身に沁みるぜ」


 唾を吐き捨てる表情には常の余裕が見られない。それ程までに厳しい状態だと言うことだが、それでも行なわなければならないのだろう。


「それだけ元気なら問題ないだろう。こっちもなるべく遅らせるようにする。それに俺らが動かずとも軍は優秀だ。手が余っているなら出番はない」


 苦い顔はそれを欠片も信じていないことを示す。当たり前だ。

 いかに軍が精強であろうとも敵は帝国騎士。それも王国に潜入し大規模な計画を実行しようとする手練。シルベストが引き分けた男すらも騎士の副長。

 並みの兵士では相手にならない。だからと言って対抗できるような者は数少ない。


「そうかい。夢見る乙女みてぇな慰めありがとうよ。ったく。くだらねぇ世界だ」

「同感だよ。他の皆を集めてくれ、これからの予定を話す」

「休暇から戻って仕事しようってアンタも酔狂すぎんぜ」


 嘲笑する声を上げて手を叩きながらニアスはリーゼの後ろで剣を持ちながら進む。

 リーゼを殺したところでこの先の帝国騎士との争いは起こることを悟っているのだろう。そしてその場にリーゼが居るならば、まだ生存率が高くなるだろうと言うことも織り込んでいるはずだ。


「……後ろから刺すなよ。そういえば他の奴にも聞くがお前は恋人を蘇らす話で何か珍しいことでも知ってないか?」

「あぁ? んな事ぁ他の奴に聞けよ」

「そりゃそうだ。とりあえずは武具をあらかたそろえるか。第四特務らも使えるようなら使えるようにしておきたいな。……それよりも書類の始末が先か?」

「双子にでもやらせておけよんな事。大したことがあるわけでもねぇだろ」

「そうしておくか。何はともあれ、誰も死なないならいいんだが」


 溜息と共に呟かれた言葉にニアスは答えず、溢れる血と肉の臭いに紛れて消えた。

 そして六日後。

 帝国騎士たちの計画は最終段階を迎える。


3章完結しました。あとがき的なものは後で。

4章は2月になってからになるかと思われます。

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