間話 揺るがす炎
それは彼にとって遊びだ。
術式の一切を使わず素手で攻撃をいなし、術式が展開されようと余裕をもって避ける。
圧倒だ。
格の違いなどという小さな差ではない。生物としての次元が違う。
例えるならば空を飛ぶ鳥と空。敵う、敵わないという差ではない。
「遥か上の存在……」
傷だらけで倒れる女が呆然と呟く。神具の能力はすでに使った。術式の全てを出し尽くした。だと言うのに、それでも。
三人が幾ら抗おうと、結局の所は無意味だ。
自然に抗うことが出来ないように強大すぎる力の前では全てが無に帰す。
「死は不平等だ。願う者には訪れない」
倒れる三人を興味の薄い目で見回し、息を吐く。
「才はある。しかし……不安定だ。それでも、全てが終わる終幕への欠片になるのだろうな。行け。殺す気はない」
それだけを言うと警戒もせず彼女らに背を向けて歩き出す。
隙だらけの背中。動けば殺せそうだと錯覚しそうになるほどに無防備なその背を狙おうと、倒れる三人は動こうした刹那。
「ぁ」
三人の除く大地が、五十ロートの範囲が全て消える。
一瞬の灼熱。三人を避けて通る悪夢の微風は周囲にあった全ての木を灰燼帰す。
彼女らが座っていた場所も例外ではなく、しかし身体どころか服にすら傷の一つも付いていない。
「炎王」
彼女らの歯が鳴った。幾たびの死線を越えてきたはずだった。生と死の境界を幾度も彷徨った。その果てに得た力に絶対の自信があった。
しかし、頂点の一角を前にした時に人は感じる。
自分が積み重ねたことの無意味さに。
「励め」
それだけを言い残してファジルは姿を消す。
後に残された三人は絶望を前にして何も出来ずに歯を食いしばる。
そして。
「……道化、騎士、血族。変革節目は近い。俺はどう立ち回るべきか。それが多数の幸福ならば従うべきなのだろうな」
自嘲気味に呟かれたファジルの言葉は風に紛れて消えた。
次回の更新は八日か九日です。




