後片付け(エピローグ)
いつものようにいつも通りに。南部の件についての自分の中でまとめを終えた後。
書類を整理していたら将軍に呼ばれ、頭が痛くなるような話をまた聞かされる羽目になった。
「……申し訳ありません。今、なんと?」
「貴族位を持つ者の勤め、と言うよりは緑髪将軍の仕事を引き継げ」
いつものように部隊を指揮して。いつものように後ろ暗い仕事をして。何故か将軍に呼ばれた理由。
当然なんだが、当たり前なんだが。すっかりと忘れていたというべきか。それとも忘れたかったというべきか。
「……領地のこと、ですね」
「そうだ。山脈の民が緑髪将軍の系譜としか交渉をしないと言ってきた。リーゼ・アランダムが軍に戻ったことが知られたのだろう」
貴族だからと言って何か得があるわけではない。基本的には貴族でも領地などがあるわけではなく、ただ国から貰える給料が増えるのと、邸宅が一つ与えられ、名誉が下される。
帝国などに行けばそれなりの待遇を与えられるのが得といえば得だろう。
責任者として拷問を受ける類の良質待遇だが。
「私でなければ、ですか」
「そうだ。期間は……三月もあればいいだろう。早く戻るならばそれでも構わない」
得はない。そう、基本的には。
養父であるギルは特殊な位置だった。どこから現れたのかは終ぞ言わなかったものの、何故か山脈と繋がりがあり交渉しての交易を行う事ができ。
一度結ばれた契約はギルが死した後も一応続いては居たが、今回リーゼが軍に戻ったと山脈の民が耳に入り、ならば彼の子が交渉の席に付くのが当然だとでも言ったのだろう。
いや、もしかすると顔でも見せにこいという暗喩なのかもしれないが。
「……わかりました」
養子とは言え、緑髪将軍ギルハンベータが唯一家族として扱った者だ。
付随してしまう責務。軍から抜けている内には許されていた事が、先行きの不安な現状で足を取るか。
……投げてた俺の自業自得だな。
「その間、特務はどうしましょう」
「ハルゲンニアス・ワークを代理としろ。山脈から来た遣いの者と同行すれば道程は安全だろう」
頷き、同時。執務室の扉が突然開かれる。驚きながら後ろを向けば、襤褸に身を包んだ何者かが立っていた。目算で俺より高い身長。身体の線は服に隠れて見えない。男か女かは不明。
襲撃というわけでもないだろうが……。誰だ?
将軍に視線を向けると険しい視線でその何者かを見つめる。なら客じゃない?
疑問に思ったと同時にソレは笑う。
「ルーケスヴァ・シェフェイ。ギルハンベータ・ルーケスアク?」
口から出たのは低い女性の声だ。懐かしい言葉の響きでもある。もはや使う事はないと思っていた言語であると同時に、まさかまた会う事になるとはと思っていた人物。
「ルーケスヴァフィギ。ギルヴァレル・ギルハンベータ・ルーケスアク・オエリカ。シェジード?」
「オェリハルブ・シェジード・カーエイ・リバルド。……茶番はこれまでにしましょ。勝手に入ってごめんなさいね、将軍様。こいつは貰っていきますよ」
襤褸を取った姿から現れたのは狼族であることを示す雄雄しい耳。そして、茶色の毛に堀の深い顔立ち。
そんな彼女は男らしい笑みで笑った。
「……お久しぶりですね、叔母さん。突然すぎます」
「ええ。久しぶり……リーゼ。大きくなったわね。えぇと、とりあえず初めましてシルベスト将軍。リバルド・アクレス。ファジル国王の許可は貰ったわ、はいこれ許可書。貴女の部下は気絶させちゃってごめんね。時間もないから早く行くわよ」
「ちょ、待ってください。俺にも準備があります。……申し訳ありませんシルベスト将軍。叔母に代わりお詫び致します」
「……構わん。それよりも時間が惜しい。後のことは私がやろう。お前は早く行け、開明君の護衛ならば心配もないだろう」
開明君。おそらく実力では二十座と同等といわれる、探検家。
そして、ギルと同じく山脈の外へ出た、山脈の民。
「もしかするとこの子は帰ってこないかもしれないけど、その時はごめんね」
「え? ちょ、何を!」
何かを言う間もなく首元に痛みを感じて、意識が刈取られた。
「……山脈に我らは干渉しない。リーゼ・アランダム。陛下にとっての最善をつかめ」
その直前に将軍の声が聞こえたはずだが。何にせよ俺の都合は関係なく世界が進むのだろう。
二章終了。というより三章プロローグみたいな感じになってしまった。
ただ前話で得るべきだった情報は手に入れたみたいになったので、前話をラストにしても良かったかなぁ、と思います。
さて。とりあえず三章は一章の校正作業を終えてからになると思われます。
まだ一文も書いていないのはちょっと厳しいので、校正しながら少しぐらいは書いていきたいですね。
多分今月中には次の章をやると思うのでお待ち下さい。
王国の地図も下手ですけど描いてみます。それでは。




