表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸記~王国騒乱~  作者: 龍太
二章 道化師団
53/147

休憩時間 後始末

「報告書や研究資料は見つからないのか、無能共」

「あはは。そうして座ってみているだけで他人を無能と評すことが出来るとは、羨ましいですね副将軍」

「ほう。死にたいのか」


 外へ出て争い始めた二人を放っておいて、四人は帝国騎士が使っていたと思われる隠れ家を捜索していた。

 不自然な程にあっさりと死んだので何かが見つかる可能性は低いが、それで帰るわけにもいかないのが軍人というものだ。


「あー。お二人は何か見つけたっすか?」


 隠し部屋を探してみたりベッドの下などを見ていた双子の兄が研究者二人に問いかける。

 今のところは誰も何も見つけていないので鬱憤が溜まった二人が外に出たのは仕方がない事なのだ。

 そもそも居たところで邪魔にしかならなかったので双子としてはどちらかが死んでくれると好ましいと考えられるぐらいには、この十数日が過酷だった。

 砦内部に居る場合はイニーや他の部隊から襲われる恐れがあるが、この旅では何もしなければ不興を買い、下手な事をすれば殺されるという暗黒の日々だったのだ。

 十数日もそんな生活を送っていれば多少は心が荒んでも仕方がない。


「何もないな。研究狂」

「解析は終わったわよ。誰か考えた術式陣なのかしら。資料は見事に残ってないけれど、あの術式陣はわかる部分だけは解析したわ。自然に記憶頼りだから怪しい部分があるけどね」


 探すことをすでに止めて紙に向かい合っていた二人はそのまま自分たちの思考へと沈んでいく。このまま放置すればまた副将軍が要らない事を言って、殺し合い間近の出来事に発展するのが眼に見えた双子の妹は、問いかける。


「え、えっと。どんな陣だったんですか? 新種の術式だとか?」


 本来ならば的外れにも程があるのだが、今回に限ってその問いは正解に近いと言ってもいいだろう。


「新種、ええ。そうね。近いかもしれないわ。一部が空間に関する記述だったけれど、その他に重量に関する記述があったのよ。自然と発想はわかるけれど。重さを操る術式なんて、ねぇ。体積を奪うなら普通に殺した方が早いと思わない?」

「だが、そういう類ではないのであろう。重さなどどうでもいいが、帝国が術式で一歩先を行くのは気に食わぬな。我が居た時にはそんな事など出来なかったというのに」


 ぶつぶつと呟き始めた言葉を頭の中で懸命にも書きながら要点だけど妹は頭の中で纏める。

 簡単に言えば、重さをどうにかして空間に何かをして、都市を破壊する。それを目的とした術式陣だったのだろうという事だ。

 その後も長々と説明したリベイラの補足によれば問題点しか見つからないと結論が出る。

 術力の必要量が多すぎる点。東部の一都市を破壊する意味がないという点。更に使えば術者も効果範囲内のため巻き込まれるという点。

 一部分からそこまでを読み解くのは、天才ゆえだろう。


「何でそんな陣を使おうとしたんですかね、帝国は。王国が喧伝するように雪で頭ヤられてるんですかね?」

「まぁ、わからないでもねぇけどな。けど数人の騎士と引き換えに都市を一つ潰せんなら戦果としちゃ十分なんじゃねぇの?」


 軍を動かさずに済むならそれに越したことはない、とは言えない。


「兄さん、戦争は相手の都市が欲しいから行なうのにそれで潰してたら意味がないでしょ。軍は動かすのに資金が居る金食い虫なんだよ? 国外に動かせば、監獄国に対しても警戒しないといけないし、帝国はたまに反乱が出るからそこにも気をつける必要があるしね」

「ほぅ。貴様はよく知っているな。少し興味が出た、解体しよう」

「隊長さんの私物でしょ、その二人は。余り罰せられるのも面倒だからやめておきなさいな。幾らあの人でもお気に入りのおもちゃを壊されたら自然と怒るわよ?」

「ふむ。……確かに一理はある。だが罰せられるよりかは、貴様に研究材料を奪われるのが癪であるな」

「あら、気づいたの? それは自然に残念ね」


 気を抜けばこれだから特務は恐ろしい。下手な事を口走ればすぐにムーディルは他人を解体しようと動いてくる。

 実際に旅の最中で二度ほど四肢の関節を外されてそのまま引っこ抜かれるところだった妹は顔を真っ青にして安堵の息を吐いている。抜かれなかったのは副将軍が一応守ったからだが、その際に片腕を刺されているので妹からすればどっちもどっちな相手でしかない。


「兄さん、何か見つかった?」

「何もねぇよ。つーか帝国騎士が情報残してたら確実に偽情報だろ。アイツらの陰湿さと隠蔽技術の高さは並じゃねぇし」

「言われてみるとそうだね。じゃあ、もう帰ろう。私は一刻も速く逃げて、違う。早く今回の件を報告しないといけないから先に帰りたいなーって」

「……副将軍が許すか?」

「だよねー。早くリーゼ隊長と合流したいよぉ。あの人の傍に居ればまだもう少しだけ理不尽が少なくなる気がする……」


 どっちにしろ危険が多いことは変わらないが、まだマシという事でしかない。それに最悪襲われても返り討ちが出来るからというのが大きな理由なのだろう。

 双子はどちらともなく大きく溜息を吐くと無駄な捜索作業を再開する。


次回更新はちょっと遅くなって金曜か土曜になるかもしれません。

次が二章最終章で多分、長くても全4回ぐらいになると思われます。

予定は未定ですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ