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大陸記~王国騒乱~  作者: 龍太
一章 王都の戦い
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      狂宴 ⑤

「あー。だりぃな」


 呟かれると同時にニアスやダラングの展開していた炎術が溶けるように消える。

 逆に氷術は使いやすくなり、ニアスに対峙する男の槍には通常以上の長さの氷が展開されていた。


「あの馬鹿野郎、仲間割れしてやがんな」


 この状況、ニアスには思い当たる事がある。ムーディルが編み出した上位氷術『墓標の天幕』だ。込められる量と規模から戦術級に当たるであろう氷術。

 範囲を絞ればもう少し小さくなるのだろうが、ヒロムテルンと争っているのならばこの場を全て覆うぐらいでなければまともに遣り合えないと判断したのだろう。


「チッ。ダラング、てめぇはどうだよ」


 突き出される槍を剣で弾き、槍の側面から伸びる氷の手は出力を増した『炎蛇』で溶かす。

 消える前にダラングの放った『炎槍』は何人かに命中したもののそれ程の効果は出ていない。範囲内の炎術を弱め、氷術を強化するという効果まで付随しているのが戦場に展開されている術式の特徴だ。

 使いどころさえ間違わなければ最高の術式だが、いかんせんこの状況では悪手。


「炎術は諦めるとするわ。全く、彼はいつも自然に私の邪魔をしてくるわね」


 ここにいないもう一人の術学者に悪態を吐きながら、ダラングは実験にならないこの状況を終わらせるための術式を紡ぎ始める。

 言葉に出す必要はない。脳裏に描けばいい。

 察したのだろう男は声を挙げダラングを槍で示す。


「あの女を殺せ!」

「応よ!」


 走る男の前に立つのはニアス。炎術の威力は弱まったとは言え彼の使う炎術の威力は折り紙付き。


「ハァッ!」


 裂帛の意志と共に繰り出される槍の連撃。目的はニアスをこの場に留まらせる事。

 そうすればダラングを守る者は居ない。

 見た目からして明らかに接近戦に慣れて居ない相手だ。いかに中位を軽々と操る相手でも近寄ってさえしまえば殺すのは容易い。

 更に男は理解していた。先ほどの近距離で術式を展開する方法。先読み、なんて無駄の多い手段をとる必要はない。必要なのは精密な操作性。


「フッ!」


 弾かれる槍を回し石突を顎に向けて回す。軽々とそれを防ぐニアスのすぐ下に氷の腕を展開。だがそれは纏われている微弱な炎によって簡単に溶かされる。


「はん。早ぇな。まぁ俺一人相手にしてんだから楽なもんか」


 相手の近距離に術式を展開しようと思えば相手の術力によって阻害される。だがそれは、消え去るというわけではない。

 展開の難度が僅かに上がるだけ。術式の構成を強固に、術力の通る道を確固すればい。

 氷術が展開しやすいこの状況で成功しただけだ。しかし訓練すれば、奇襲以上に戦闘面での強化はある。


「干渉し合ってっと難しくなるだけだからなぁ」


 緩い動きで振られる剣を弾き『氷槍』を展開。その一動作の隙を突きニアスは近寄るが巧みに振るわれる槍によって牽制され、八匹の炎蛇で迎撃する。

 槍捌きは二流の上。術式の使い方も同じ。だがこの状況は少しばかり厄介。

 相手が氷術を得意するために起こった事態。

 だが、だとしても。

 勝利は揺るがない。


「地力が違ぇよ」


 相手の得意術式が強化されているとは言え所詮は二流。ニアスの勝利は揺るがない、時間が延びるだけだ。

 しかし格下の相手だからと言って強引に片を付けるというのは趣味からは遠すぎる。


「一つ言うがよ、別にダラングは近接が弱いわけじゃねぇよ」


 男は勘違いをしている。ダラングが近寄られた程度で殺される、その程度の術士だと。


「……はぁ。思考の方向は不自然な程に皆一緒ね」


 自身に向かって疾駆する姿を目視して溜息を吐く。敵の思考は今まで戦ってきた相手と然程の違いがない。

 予想外の動きを見せない事に落胆し紡いでいた術式を展開。

 後方、ダラングの頭の後ろに黒い小さな穴が広げられる。それは空間系術式。


「実験名『風槍が及ぼす暴走状態での破壊領域の実証』だったかしら」


 穴から旋風が吹き荒れ、切りかかった男の身が縦に分かたれる。前方部と後背部。出来のよい標本のように鎧ごと切り分けられた男はそのまま前後に崩れ落ち、更に穴から別種の何かが噴き出る。


「今のが威力重視なのだけれど上位並の術力を込めながら範囲は身の回りだけ。こっちは範囲重視なのだけれど」


 次に荒ぶのは緩やかな風。そよ風のような吹きつけは緩やかに、そして鋭利に向かってきた男の身体を切る。先ほどとは違い殺傷力は薄い。

 しかし時間稼ぎの効果はあった。全員の目に対しての薄い切り傷。一秒もかからずに直せる程度の傷とは言え。


「威力が弱くなってしまったの。どちらも構成はほとんど一緒。槍の形を考えた人がいかに優秀なのかがよくわかるわね」


 目が見えない状態でよろめく二人は圧縮された風により胸を貫かれて絶命する。

 上位の術士。それは最適の判断を冷静に下し判断力を持ち最適の術式を選べる者が呼ばれるもの。


「おいダラング! 俺まで巻き込むなっつーの!」

「あら。それで死ぬようなら貴方を前に立たせないわよ」


 目から血を流した後を見せながらニアスが声を上げる。暗部の男も今の隙のせいで一人殺されたのだが、彼女にとってそれは些細な事だ。


「随分と信頼できる仲間だな!」


 突き出される槍と、八つの氷の槍。それに対して青筋を浮かべながら、ニアスは炎の壁を前に作り出す。

 燃え盛る壁に阻まれ男が離れるが、暗部の二人が取り残される。

 悪手だ。誰がどう見ても、これでは味方を見捨てるようなものだ。


「ダラング! 面倒くせぇ!」

「はいはい。じゃあ三方はお願いね」


 氷の壁を作り対抗すれば熱気は弱くなる。だが、更に三方に炎の壁は作られた。

 屋根の下を抜けば逃げられると思い、それを実行する前に。


「暗部の二人は、残念だけど。責任は隊長さんにあるから彼を責めて?」


 呟きと共に炎の壁が拡散し、炎を統べるように風が笑う。

 運ばれる炎は風と共に。相手の身体の内へと強引に入り込む。

 内から、内部からの破壊に対し人は抗しえる手段を持たない。息を得ようと口を開ける男たちの口から炎が漏れ、消そうと地面を転がる男の目からも炎が出る。


 炎を絶やさぬようにダラングが精密に風を操作し、更に炎は燃え盛る。

 その火を受けなかったのは、僅か二人。

 咄嗟に氷の靄を作りだした隊長格の男と、それに付き従うように立っている風を纏う歴戦の戦士と言った風体の男。


「これで面倒くせぇ作業は終わりだ。んじゃダラング、お前は遊んでていいぞ」

「ええ。空間系術式の構成でも確認しているわね。七座の術式構成なんて滅多に見られないもの、自然と期待と高まるわ」


 ニアスの言葉に従い、まるで心配をせずに弾む足取りで解析を始める姿を見て、後ろに倒れ燃え盛る死体を見て。

 男は、恐怖の篭る視線を向ける。


「狂ってる」


 獰猛な、凶悪な、獣の如き笑み。


「当然だ」


 此処から先はただの遊び。誰も語らない退屈な戦いとなる。






「~♪」


 鼻歌交じりで振るわれる豪腕。紙一重で避けることに成功するが、男は己の失敗を悟っていた。

 相手を獣だと信じた勘。それが間違い。

 放った術式を低位風術で軌道を変え、突撃した三人の力を使って絶妙な力の配分で後ろに吹き飛ばし、腕や足の骨を折り一瞬で無力化。その後にリベイラは意識を奪う。

 流れるような作業を行なう恐るべき技術。

 最小限の力で余裕を持って最大限の成果を上げる。


「……何だ、貴様は」


 避けたと同時に空中で回転し足先が首筋を掠る。それだけで、男の意識は刈取られ膝から崩れ落ちる。残りは二人。


「ねーベイちゃん。もう少し弱くやった方がよかった?」

「彼らじゃ楽しむのは無理だったんじゃないかしら? 雪が降っているという事はあの二人が喧嘩しているみたいだし、傭兵団の団長さんが残っているわ、だからそっちで遊んだらどうかしら?」

「そっちの人はもう少し痛くしてくれるかなぁ……」


 ふっとルカの姿が掻き消える。まるで最初から居なかったように消した事に傭兵団の二人は戸惑い、即座に後ろへ剣を振るう。

 だがそれは。


「えっとね。身体系術式で知覚とかをもっと強化した方がいいよ?」


 上から降りた悲しげな顔をしたルカによって二人、即座に意識を奪われたことでこの場所での戦闘は終了する。あっけなく、あっさりと。


「ベイちゃん。次は痛くなれるよね? なれなかったら凄い痛くしてくれるよね?」


 不安そうな、今にも泣き出しそうな顔でルカはリベイラに抱きつく。

 その姿はまるで親に捨てられた幼子のようにすら見える。普段のルカの姿を知っている暗部の男は困惑の視線をリベイラへ向けるが、それらの一切を無視した。


「ええ。その時は私がとても痛くしてあげるわ。だから安心しなさい」


 優しく背中を叩くリベイラの姿は、まるで母のようであった。






「甘いぞ眼球貫」


 百を越える氷の刃が不規則な軌道を持って屋根の上を走るヒロムテルンの背を狙う。

 次に氷の針が上空から無数に降り注ぎ、横からは氷壁が圧殺するために動く。

 逃れるには前方か、屋根を刳り貫いて下へ動くしかない。

 空中を自在に動く氷の上で指を弾き、更に前方に低温の靄が浮かびあがる。


「さて、ね。甘いのはどちらかな、ディル」


 瞬間、後方から風の弾。圧縮された低位風術『風弾』がムーディルの顔へと迫り、それを危うげなく自身の周りに作った氷の盾で受け止め、盾は形を変え箱の形となり中に閉じ込めた弾もろとも砕け散った。

 その最中に左の氷壁を二発の弾を放ち砕き左へと抜ける。


「ふん。では少し本気を出してやろう」

「あはは、知っているかい? ギラネス・ヴィザールの出してる空想本でそういう台詞は(グムブェ)を踏むって言うらしいよ」

「ああ、知っているとも。悪役が言った後は確実に負けるのだな。だが残念ながら、貴様も我も悪であろう?」


 確かに、と頷きヒロムテルンの速度が増す。前衛型の速度にも劣らぬ疾駆を見せ、その瞳の色は徐々に深まる。

 施している精神系術式が切れそうな感覚を味わいながら、そちらにも心中を裂きムーディルは舌を打つ。

 流石はヒロムテルン、と。

 ただの雑魚にならば目の前に術式を展開するのも技量から考えて不可能ではないだろう。だが、ヒロムテルン。かつて『死弾の射手』と恐れられた男。


 リーゼ並に少ない術力でありながらその適正は自然系全てを持つ男。少なさは彼にとって大きな不利にならない。己の身体から僅かに放出されている術力を強くし、目の前に展開されるのを防いでいる。

 近づけば体術や短剣と組み合わせた術式が避けられぬように放たれる。恐ろしいのはそれだ。

 知覚できない程の遠距離狙撃など彼の持つ長所の一端でしかない。全方位を確実に視る眼による近接戦。

 緑の術眼血族だからこそ出来る芸当。


「さて。降参すれば今宵は片腕だけで許すが」

「おやおや、随分気弱だね。僕に負けるのが怖いの?」


 壁を蹴って走る背を追いながら後方に霜が次々に降り行くが、捕らえる事が出来ない。

 前方に氷の塊を展開し、その壁から無数の氷の針が放たれる。前方には針。後方から霜。

 壁を砕こうと霜は追いかけてくるだろう。霜から逃れるのは不可能。それ以上の速度で走るというのは生物には無理だ。


「どの口が言うか」


 三つの弾丸を前方に撃ち込み、氷塊の軌道を変える。更に最小限の針を吹き飛ばし、炎弾へ過剰に術力を込め、霜にぶつける。

 上位術式を相手に低位術式では通じない。


「チッ」


 だが、複数ならばどうか。

 十発の炎弾を最も構成の脆い部分へと連続で着弾させると霜を破壊し後方へ駆ける。

 背に氷の針が幾つか刺さるが、すぐに身体系術式で内部に入った針を筋肉の収縮と低位以下の炎術で体温を上昇させ氷を完全に消した。


「今のを防ぐか。雑魚とは違うな」

「あはは。一度味わったからね。放っておいて時限式で内部を刻まれるのは御免だ。心臓が破壊されるのは二度と味わいたくないさ」


 更に術式を紡いで周囲に浮かぶのは四種の属性の弾丸が浮かび上がる。


「ふん。――ならばこれはどうだ」


 空から、巨大な氷塊が落とされる。

 走ろうとも避けられず、砕くにも上位術式でなければ砕けない。上位氷術『悪塊』に対して、低位術式しか扱えないヒロムテルンでは圧倒的に不利。


「君を先に殺せば止まるだろう? ついでに天幕も解除されるから楽だ」


 前方は氷の刃。後方からは氷の針。地面は凍てつく。

 四種の低位術式で抗うのは無謀な試みだ、誰もが呆れ、誰もが笑う。

 だが、抗い得るのが『死弾の射手』と呼ばれかつての特務を相手に四肢を縫い付けられるまで抗った男。

 ムーディルの周囲に弾が更に四つ展開され、四方からその身を狙う。

 四肢を狙うそれを再度氷の盾で防ぎ、だが、再度八つを展開。


 無軌道であり不規則な動きを持ち、ムーディルを狙わずに周囲を高速で動き続ける。視界の端を飛ぶそれらは邪魔だが、守りを破る程の威力はない。後の不安要素といえば東の空で戦っている副将軍二人だがヒロムテルンを助けに来るような心優しいウィニスではないとして思考から除外。

 守りに徹していれば勝てる。などと甘い考えを持つような素人ではない。

 ヒロムテルンと最も組む機会が多いムーディルは、知っている。悪辣な彼の手腕を。

 無論それはヒロムテルンも同義。互いの手の内から裏まで知っている。


「厄介な男だ」

「同感だよ」


 駆ける。風を置き去りにする感覚、精神の安定化が強制的に行なわれている状態では争いのために整える事が出来ていない。

 だが、遊びのような殺し合いなのだ。ならばこの状態で丁度いいと考え、ヒロムテルンは後方から迫る針を弾の一つを動かし最小限砕く。

 ムーディルの戦法には、穴がある。

 いや、穴と言うのも憚れるような欠陥だ。癖ではなく、その精神性から来る欠点と言っていい。


 解体狂。偏執的なまでに他者を解体する事を好む、その気質。ヒロムテルンが最終的に相手の眼球を抉るのと同じように、止めだけは解体に括る。

 圧殺では彼の矜持が許さない。貫くのは勿論、出血多量で殺すなんて結末は狂った心が更に捻れるだろう。


 だからこそ自然と相手の本命が見える。前方に展開された無数の刃、と見せかけた上でこの低温下で静かに行なわれる間接などを緩やかに凍らせる事による四肢の分解、の裏にある霜を直撃させ氷の中に閉じ込め粉砕する上位氷術『氷像』を行なった上で精密に破砕していく方法。

 と読ませた上でやはり刃が本命なのだろう。


 だがどれをとっても必殺。罠のどこを抜けられても問題がないように組まれる術式の運びは天才的だ。いっそ芸術的ですらある。

 最後を抜けたとしてもまだ隠された術式が存在しないはずがない。


「あはは、ディル。遺言は?」

「月に赴くついでに伝えてくれるのかそれはありがたい」


 術式が迫る。

 空の氷塊は落下速度を増し風ごと押しつぶすように。

 前方の刃は大きく広がり、巨大な獣の牙のように。

 左右の槍は隙間なく三層で形作られ。

 後方から追う万に達する小さな針は虫の如く。


「残念ながら、僕の姫が命令しなければ僕は死ねないのさ」


 呟き、黒色の弾がムーディルへと展開される。実体を持たない闇術。相手の視界を奪うことを目的とするそれは、ヒロムテルンが隠し弾として意識を逸らすための一つ。

 視界を覆うために作られたそれを下位以下の光術を用いて作った光で霧散させ、右腕が一部抉られる。


 警戒はしていた。盾は絶対の防御として隙間なく周囲へ展開し、更に網目模様とした細い氷の糸を作り触れれば術式を捕らえるものも作っていた。

 それを全て抜ける事を想定していなかった、とは言わない。一流と呼ばれる術士。想定外を想定できないのならば、激戦を生き残ることは出来ない。


「……手持ちで行なったのならば、脅威であるな。うむ、気が変わった。やはりここで確実に殺すのが最善である」


 右腕から流れる血は身体系術式によりすでに止めてある。だが、更に。

 両足に穴が開く。次いで腕、首筋。耳。

 全てに親指ほどの穴が開いていく。


 ムーディルの周囲を飛び回る弾は未だ存在している。大きさも変化していない。

 展開している術式のどれかが直撃するまで後三秒。それでこの事態は終了するだろう。

 空いた穴の大きさ。そして、ヒロムテルンの精密さ。ならば、これはやはり。


「……走ったのは確実に狙うためであるか。初手で殺せなかったことが敗因であるな。うむ、引き分けとしておこう」


 顔にと心臓に弾が当たらぬように氷の盾を作ると同時、盾は破砕するが、それで止まる。

 代償に盾で防いだ箇所以外は小さな穴が開いていく。

 種は簡単だ。逃亡の間にムーディルの挙動と瞬きをする仕草、そして術力をどれ程強く流しているのかを把握する事に務めた。周囲に浮かぶ弾は意識の間断を作り出すための細工と言った所だろう。

 なまじ視野が広く思考速度が速いため、何の意味もない行動に対しても思考してしまう。微かに目の端を過ぎっていたのもこの時のために作った布石。


 後は拡散されぬように術力を強く圧縮して意識の間断を縫って弾を放つ。術力の消耗は激しいが、その配分を間違えるヒロムテルンではない。

 流す術力は大目にとっていたが、意識の方まで手が回っていなかったのが敗因。氷の上で崩れ落ち、そのまま落ちたら死ぬために徐々に高度を落とす。痛みは無視できるが、他の術式を制御までするのは手が足りない。


「残念。殺せなかった」


 上から落ちる氷塊は消えたが、今更空へと逃げることは出来ない。二秒後に迫る槍と針と刃を完全に避ける事も防ぐ事も不可能だ。

 だから、多少の重傷ぐらいは仕方がないと諦めて弾で前方の刃を砕きながら駆け抜ける。

 他の術式が霧散するまで八秒程度。

 刃を突き抜ければ助かるだろうが、それもまた死ぬか生きるかの瀬戸際だろう。


「あ。隊長さんに後で謝らないとね」


 言葉と共に、ヒロムテルンは刃の嵐を一歩進む。

 右腕は半分程断たれる。足へと突き刺さる。耳が半分程刻まれる。肩に突き刺さる。

 血を噴き出す事も許されない豪華な剣嵐の持て成し。

 残り六秒。それは永遠だ。六秒先のために、ヒロムテルンは術式を巧みに扱い、駆ける。


術学者 …… 術士との違いは適切な術式を戦闘中に使えるかどうか。ただの学者だと焦って攻撃して避けられたりオーバーキルだったりする。スライムにメドローア使うみたいな。


ギラネス・ヴィザール …… 自費出版の小説。語り部が買って内容を語り部が語る。王国で人気の小説。ルカとリベイラ、リーゼはファンである。作中の二人は暇つぶしに読んでいる。


ムーディルVSヒロムテルン …… 互いに本気で殺す気はあった。プロット段階では予定になかったのに突然初めて一番頭を抱えたのは作者である。どっちか死んだら仕方ないと思ったけれど無事に生き残って安心したのも作者である。

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