22話 そして舞台は次へと移る
暗い部屋の中に二人の男が居た。傍にある麻袋には先日死んだ女、ダラングの首が入っている。
「よく見つけたものだね、君も。後でも付けられたかな」
片方の男は道化の仮面を付けている。この世の全てを嘲笑するような。この世の全てを嘆くようなどこか歪な仮面。
そして片方の男は縛られていた。ありとあらゆる術式で。鎖と縄で。
「いや、何でバレたんですかねぇ。ほら俺の変装を見分ける術なんてないはずなんですがねぇ。口調とか雰囲気とかですかい?」
縛られる男の名はキーツ。リーゼの予測通り、シルベストの推測通り、ヲルトルを殺しダラングの首を持って帰還した男。
決して誰かに気づかれるはずがないと意気揚々ともぐりこんだキールは、即座に捕まった。恐ろしいことに、二人の血族により。
「計画を知る彼は彼女の首を持ち帰ることはしないさ。そもそも、従者たる獣を失い逃げ帰るような柄でもないからね」
失敗したなと内心で考えるがキーツは笑顔を崩さない。これ以上の失態を演じるわけにはいかないというように。
生きて帰れるなど、思ってはいないが。
「さて。計画はもう佳境に入っている。後一押し、いいや、最後の一欠片。それを手中に収めれば、世界は変革される。もしかするれば、私の思いも成就する、かもしれない」
軽い口調で、どこまでも気安く、道化は語る。声に感情はこもらない。声から何も感じられない。前に一度会話をした時はもう少しは感情があったと疑問に思うも、その答えを得ることは出来ないだろう。
「君も出来れば私たちの同志となって欲しい」
「目的によっちゃ、考えますよ」
決してその気ではない言葉に、道化師が笑った、ような雰囲気があった。
おそらくそれは気のせいだ。気のせいなのだろう。しかし。
「確かに、平等ではないからね。私たちは――世界に幸福を齎す」
「あ?」
思わず素が出てしまう程に不釣合いな言葉だった。思わず笑いが漏れてしまう程に愚かな言葉だった。
幸福などと、そんなものはこの世にないと言うのに。
「私たちは世界の不幸を刈り取る。そのために君の力を貸してくれるのならば、嬉しいのだが」
キーツへ腕が伸ばされた。
伸ばされて、しまった。
四章『最後の夜』これにて終了。




