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大陸記~王国騒乱~  作者: 龍太
一章 王都の戦い
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      狩りの支度 ② 

「ルカを護衛にして、傭兵団に探りを入れる。最悪そこで敵対しても逃げるぐらいは出来るだろう。向こうとしても騒ぎになるのは御免だろうしな」


 昼間から王都で騒ぎを起こすとなれば軍が黙っては居ない。

 常駐兵力、第一軍の一万を筆頭に各軍に二千、合計二万四千。それが全て出るわけではないが、数百、数十程度では手も足も出ないだろう。

 加えて王都には国王が居る。炎王その人が出ようものならば、一万の兵と同等の戦力と言われる存在によって灰燼と帰すだろう。無論軽々しく国王が出る事体にはならないが。


「そういえば、八軍の総兵力はどんなもんなんだ?」


 この砦内に居るのが全てだとしても、外見の大きさから千程度だろうとあたりをつける。その程度で軍と名乗るのはどうかとも思うが。


「空間系術式があっからな。監獄国の大監獄と同じ理屈で砦内の空間は拡張されてんぜ。地下方面が主だから、まぁ五千って所じゃねぇの。一階から四階までの上層はまだ人間やってる奴が主に居るしな」


 予想外に多い数に渋面を作る。下があるというのならば、さしずめ今リーゼたちが使っている上層は蓋という扱いなのだろう。その下には、更に人間として生活できない奴らが居るのだ。


「地下に居るって連中が上に出てこない事を祈りたいもんだ。そいつらを使えば殲滅に手は足りるんだろうが」

「やめておいた方がいいわ。地下のは、戦場に出して突撃させるぐらいしか役に立たないのよ。許可も下りないでしょうし。だから、そうね。将軍に言えば暗部から十人程度なら貸して貰えるでしょうから申請しておくといいわ」

「暗部を?」

「ええ。八軍の前身ぐらい聞いているでしょう? その繋がりよ。私としてはもう少しまともな兵を増やした方がいいんじゃないかと思うけれど――」

「他の部隊の奴じゃ無理だろ。逃げるぐれぇならまだマシだが、反撃してきたらうざってぇ」


 そこまで面倒な軍ならいっそ解体してしまえばいいだろうと思うのはリーゼだけではないはずだ。

 だがそれでも必要があるのだろう。

 この軍が必要な理由が。


「……はぁ。色々、わかってきた。今回は調査だから必要ないだろうが、一応申請は出しておく。許可が下りるまでに捕縛の用意をしておく方向で動こう」

「りょーかいりょーかい。んじゃ俺は行くわ。アンタはすぐに動くのか」


 部屋から出るニアスが意地悪く笑うが、それに対して首を横に振る。


「準備が必要だろ。ああ、やっぱり説得は俺がやるからお前はそのまま行っていいぞ」

「ハッ、いいねぇ。よぉくわかってんなぁ」


 からからとした笑いを上げながら部屋から去って行く。その様子を見送ってからリーゼは本題とばかりリベイラに向かい合う。


「リベイラ、一応聞いておきたい。お前は、中立でいいんだよな?」

「あら。気づくのが早いわね。ええ、私は絶対中立を自評しているわよ」

「医者、だからな。この部隊に居る医者がまともだとは思わない。ただ誰でも治療するんだろう?」

「勿論。まぁいいわ。それで? 貴方にも肩入れする気はないけれど」


 中立を掲げるなら誰かに肩入れする事は出来ない。もしもそれをしてしまえば、おそらく誰からも狙われる事になる。

 リーゼとしては上手くそこを狙い自分に付けたいが。順当に考えれば成功率は七割。しかしリベイラの異常がわからない事にはその計算も役には立たない。

 最悪、狙った事を悟られて殺される可能性もあるのだから。


「とりあえず、全員の情報だ。詳しくなくていい、戦闘の型だけでも教えてくれればいいんだが」


 戦闘を一度くらい見れば問題はないだろう。

 ルカに関しては路地裏で極秘の護衛をされていた時、僅かに聞いただけだが。リーゼからするとそれで十分だ。

 更に砦内での足運びからあらかた戦闘方法の予測はついている。


「ルカは鬼族としての身体能力の高さを生かしての近接戦闘を得意としているわ。それも超近接。打撃系ね。得意術式は身体強化。イニーは小回りが利くからそれを活かしての斬撃。物質生成を扱うから、武器は何でもね」


 前衛に関しては予想通りと言うべきか。

 ルカは肉弾戦の典型的な近接重闘拳術士。イニーは近接軽剣術士といった具合か。


「ムーディルは術士。得意術式は確か、闇と氷ね。闇術による霍乱と氷術による攻撃と援護。ダラングは火と風。中距離からの大火力での殲滅が得意、だったかしら」


 ムーディルは中距離補助型術士。ダラングは遠距離攻勢型術士。属性によっては呼び方にもう少し差異はあるものの、立ち居地としてはそんなものだろう。


「ヒロムテルンは昨日味わったようだけど狙撃。ニアスは万能型で火。私もどちらかと言えば万能型、なのかしら」


 ヒロムテルンは超遠距離術士、とでも言うべきか。他にそんな存在をリーゼは見たことがないため呼称は知らないが。ニアスは言うならば中距離剣術士。リベイラも同じようなものだろう。


「成程。構成としては悪くないな。実力的にもかなりのものなんだろう?」

「そうね。あまり見た事はないけれど、軍の兵たち相手なら一人で三十人は相手に出来るんじゃないかしら」 


 単純に三十人を相手にするようなことではない。連携攻撃を得意する三十人だ。

 指揮官にもよるが倍の盗賊団程度なら危うげなく殲滅する事が可能な人数。


「頭おかしいな」

「だから居るんでしょ」


 確かに、と頷き再びリーゼは詰め込んだ情報を頭に纏める。

 頭に浮かぶのは情報。軍に入る前から得た情報。獣戦士傭兵団。王都の地形。曖昧ながらも二度の襲撃で得た、敵の性格。多角的な方面から見たこれら。


「王都内の小さな区域に空間系術式を使いたいな。今回はいらないと思うが」

「将軍に申請しておきなさいな。無人空間ぐらいなら可能だと思うわ」

「……俺の常識は何度壊されればいいんだ?」


 空間系術式は、難度が異常に高い。空間を支配すると言えば聞こえはいいがそのために使われる膨大な術力と術式の複雑さ、そして適性者の少なさから研究が進まない分野だと言われている。

 理論上はこの世界とは別の世界にも行く事が可能と言われているが、成功例は一つもない。ただし、そのための実験の成果により範囲内の空間を無音にする事などは可能だ。

 だが、位相を僅かにずらし限られた者だけが存在できる空間というのはそれらの難度の比ではない。


「国王が使う、わけじゃないだろ?」

「裁定局副長アナレスと、国王護衛の兄妹じゃないかしら。あの兄妹だけかもしれないけどね」

「ああ、噂だけは聞いた事があるな」


 先代の女王アズリアに仕えていた不死の兄妹。兄のアラエルと妹のエルエ。不老術式でも用いているのか外見に老いはなく、その実力は万軍に匹敵する、と噂されている。

 噂、というのは実際に戦っている姿を見た者が少ないが故にだ。だがそれが話半分だったとしても国王の護衛という大任を果たしているのだから並ではない実力があるのは確か。


「かなり昔から居る兄妹だものね。場所作りは上の人に任せて、貴方は仕事をこなしなさい」

「ああ、また後で」


 部屋を出て歩く。二人の説得、ルカへの通達。報告書の作成に将軍への申請。

 二日目にしてそれなりに面倒だという事に溜息は出るものの、やる事がある内は努力する気になる事が出来る。


「半年前は、暇だったしな」


 暇ついでに外に出る事も考えながらリーゼは己の部屋へと歩いて行った。

 道中で襲ってきた者と戦い、リベイラの元へと直ぐに行ったのは、余談だろう。


全員の情報 …… 奥の手の一つ二つ三つぐらいは皆もってる。


護衛の兄妹 …… めっちゃ強い。


不老術式 …… 術式を学ぶ者の目指す地点の一つ。

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