或る脇役たち
会話のみでどこまで説明になるかの実験作。
地の文がないのは仕様です。
「いい天気だな」
「そうだな」
「暇だな」
「王城の裏門だしな」
「王女様がた、ふらっと来ねえかな」
「来ないだろ。そりゃあ……三姉妹そろって美人だし、そばで見てはみたいけど」
「じゃあ、おまえどの方が好みよ」
「そう、だな……長姉アレステア様、かな」
「おまえ……実はマゾ?」
「なんでだよ。実力で色付きの騎士団任されてた努力の人だぜ? 一度目にする機会はあったが、あの剣技の冴え……憧れるぜ」
「おまえ真面目だったんだな……」
「おれは思いのほか不真面目なお前に幻滅だよ。……で? お前は?」
「ああ、末妹グラミアス様の可憐さ、半端ねえよな」
「そういう自分は幼女趣味かよ」
「違ッ!? ほ、ほら、よく言うだろ『可愛いは正義』って」
「知らんよそんな言葉。だがまあ、わからんでもない。それに一度行方不明になってから、表情が凛としてるというか」
「だろ? それにあの黒騎士を従えてる辺り信じられないカリスマだよなあ」
「ああ」
「幼女すげえ!」
「アホ言うな。黒騎士に殺されるぞ」
「っと、マズイマズイ」
「しかし黒騎士といえば、本当に何者なんだろうな。グラミアス様や龍将アイジオン卿が帰還されたときには既に一緒にいたという話らしいが」
「近衛騎士団が手こずってた邪龍の群れを生身の単騎で蹴散らした、王国最強の騎士。しかも忠誠を誓うのはグラミアス様ただ一人……か。しびれるね!」
「もうちょっとグラミアス様が成長されれば、物書き連中が喜んでロマンスに仕立て上げそうだな」
「しかも素顔の一切わからない仮面の男! ドラマの香りだぜ!」
「なあ……陛下に頭を下げず、グラミアス様の命で初めて膝を屈したって噂、本当だと思うか?」
「本当だと思うぜ。だってアイジオン卿以外の五将、最近デスクワークにも出てこないらしいじゃん。礼儀を叩き込もうとして返り討ちにあったんだってきっと」
「単騎で町一つ吹っ飛ばす龍将にそれだったらまさしくバケモノだな」
「ところでよ」
「ん?」
「ひとつ、黒騎士の面白い噂があってな」
「なんだ?」
「あの仮面の下は、黒髪なんだってよ」
「黒髪? まるで伝説の始祖王だな。ところで、その噂の出所ってどこなんだ?」
「……悪い。実は知らん」
「お前な……。まあいいや」
「なんか腹減ってきたな」
「……そうだな。宿舎のヌシの機嫌は、今日どうだったよ」
「ヌシ……あのおばはんか。悪くはなさそうだったな。今日は野菜メインの煮物だって言ってたぜ」
「最近そればっかじゃねーか。肉食わせろ肉」
「交代ついたら屋台でも寄ってくか?」
「そうだな」
「それにしても……」
「暇だな」
「王城の裏門だしな」
「いい天気だな
「そうだな」