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音のない映画のよう

掲載日:2026/04/22

15分短編です

 私には、心を読む力がある。と言っても私の意思でどうこうできるものではなく、ただ周囲の人間の考えていることが頭の中に流れ込んでくるというだけの、何の役にも立たない、クズみたいな能力だ。

 幼いころから外に出るのが怖かった。家の中に居れば、何も聞こえないけど、一歩でも外に出てしまうと、すぐに頭の中が忙しくなる。

まだこの能力がどんなものかも理解していない頃、両親の夫婦としての嘘を暴いてしまってからは、両親からも距離を置かれ、友人の考えていることを暴いてしまうから、気味悪がられ、保育園にもいられなくなった。

 他人に対する好意も悪意も、嘘も真実も、全部が聞こえてしまう、見えてしまう。そんな状態で、幼い私が、精神を保っていられるわけがない。

 結局私が小学生の高学年に上がるまで、両親とは距離を置いたまま過ごし、そこからは、アパートに一人で住むようにと鍵を渡された。小学六年生ともなれば、家事もできるだろうという判断だったらしい。

 そんな子供時代を過ごした私が、引きこもりにならないはずがなく、両親から金の支援は受けていたから、何とか高校生の年齢にはなることが出来た。というか、そうせざるを得なかったというのが真実だ。

それに最近はデリバリーサービスが出来たおかげで、他人との接触は最低限で済んでいた。

 しかしある日、デリバリーサービスの対応時間外となってしまい、私は夕飯を手に入れるため、泣く泣く深夜を待って外に出た。

 深夜なら、人は少ないから、他人の思考を極力読まずに済む。

 店員のダルそうな思考を振り切ってコンビニを出て、家路を急いでいると、ふと私の傍を通り抜けた、中学生くらいの男の子とすれ違った。その時、小さな違和感に気が付いた。

 普段言葉や音声で流れ込んでくる思考が、彼からは入ってこなかった。代わりに、音のない海の映像が、流れ込んできた。

「・・・あ、あのっ君っ!」

 振り返って声をかけたけど、彼はそのまま行ってしまった。私は何かに導かれるように、彼を追いかけて、肩を掴んだ。私にこんなに行動力があったとは驚きだ。

「あのっ」

 急に声をかけられて驚いた様子だったが、何も話さない。その代わり、彼の思考の中は、相変わらず音は無かったが、私の顔が映った後、医者や親に筆談で話をされている様子が浮かんできた。

「もしかして、声が聞こえないの?」

 私の口の動きで何かを察したようで、彼は頷いて見せた。

 彼は生まれつき耳が聞こえないのだと手話で教えてくれた。私には手話はわからないけど、思考の映像を見れば、内容は一発で理解できた。

 初めて見る、音のない世界の映像。私は彼の思考に興味がわいた。

 スマホに[急で申し訳ないけど、私と友達になってほしい]と書いて伝えると、彼は戸惑いつつも、連絡先を交換してくれた。

 久しぶりに人と話して、私は興奮していたのかもしれない。こんな風に見知らぬ人間に声をかけ、さらには友人になってほしいだなんて、そんなことを口走る日が来るとは思っても見なかった。

でも、あんなに穏やかな気持ちで人の思考を読み取れたのは初めてだ。

 彼の音のない世界を、もっと知りたい。音が聞こえないから、彼には映像しか情報が無い。その分、他人の汚い罵り合いの場面も、なんだか間抜けな映画を見ているような感覚で見ることが出来た。

 私の中に、小さな希望が芽生えたような気がした。

 彼が傍にいてくれれば、私は穏やかに過ごせるかもしれない。

 そのためには、彼の思考だけを読まねばならない。他の雑音をかき消すことが出来れば、私の能力も邪魔にはならないかもしれない。今までそんなことは思いつきもしなかった。彼は私に新たな世界をくれた。



——彼の為、私も変わらねば——

私と彼のターニングポイント

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