亡霊3
「ん」
車を走らせてしばらくするとハッシュは右を指差す
レイラが右折するとそこにはオープンカフェのような建物があり、
そこにいる人達は皆、午後のティータイムを楽しんでいた。
「ここか・・・またずいぶん洒落た所だな」
レイラが車のドアを開けると同時にハッシュが店に駆けて行った。
「おいおい、走るな、転ぶぞー!」
そんなレイラの注意を聞かずハッシュは店のショーウィンドウへ走っていく
その顔は変わらず無表情であったが、目だけは輝いている
そしてレジに立っている女性の店員に駆けよる
「ストロベリーチョコドーナツくださいな」
普段よりも少し大きい声で店員に注文する
しかしそう言われた店員は少し困った顔をした後、視線をハッシュに合わせた。
「んー・・・ごめんねお譲ちゃん、ストロベリーチョコドーナツは
さっき売り切れちゃったのよーまた今度買いに来てねー」
「え・・・?」
それを聞いたハッシュは一瞬固まると、へなへなとうなだれぺたんとその場に座り込んだ。
まるで演劇に出てくる悲劇のヒロインのように落ち込むハッシュを見て
レイラは苦笑いした後、店のカフェテラスに座っている黒いキャップを被った
中年の男と向かい合うように座った。男がこちらに視線を向ける
「来たな、今回の報酬を渡しに来た。これまた洒落た場所指定したじゃねえか」
「うちの姫様の要望でな」
ふんっと男が鼻息を荒げると分厚い封筒をレイラに差し出した。
レイラは封筒の中身を覗くと、「確かに」と言って自分の胸ポケットに入れた。
「今回の報酬は多いじゃないか?そんなに大変な仕事でもなかったが・・・」
「あぁ、確かお前らの今回のターゲットだった男はあるマフィアのリーダーだって噂だ
最近このあたりあるマフィアが勢力を上げてきたおかげでマフィア同士の争いが絶えないらしい
そこでお前らみたいなフリーのヒットマンにそのボスの暗殺を頼んだ訳さっ・・・と」
男は席から立ち上がるとこの店の紙袋からストロベリーチョコドーナツを取り出し、口に咥えた
「あの嬢ちゃんに言っといてくれ、ほんの少し遅かったな、と」
そう言い残すと男はドーナツを咥えながら路地裏に消えていった。
男が消えたあと、ハッシュがとぼとぼとこっちに戻ってきた
「ほらほら、また来てやるからこれで好きなドーナツ買ってきな」
レイラは先程の封筒から一枚紙幣を取り出してハッシュに渡す。
「全種類買ってきていい?」
「3つまでにしなさい」
ハッシュは軽く溜息をつくとまたレジへとかけて行った
そんな中、店の近くの黒色の車の中からハッシュとレイラを覗く影があった。
一人はまだ若く20代くらいで、もう一人は髭を生やした中年だった。
「発見しました・・・本当に彼女達なのですか?」
「情報は確かだ、いいからそのまま監視してろ」
「了解」
若い男が答えると
レイラとレイラにドーナツのおかわりをねだるハッシュに視線を戻した