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二話 兄として

ある日、俺には妹ができた

「それじゃお父さんたち当分帰ってこれないから。家のことは頼んだぞ、常。」

「はぁ!?」


 父親と母親が家に帰ってくるなりそう言った。


「ちょーっと仕事の用事で遠くに行かないといけなくなってな。あ、金については心配いらないゾ。」

「それの心配してんなら他の心配もしろよ...。」


 まるでご都合主義のラノベだ...。


「ということで妹たちのことも頼んだ。頑張れよ」

「聞く耳なしかよ...」


 そうして二人は玄関へと足を運び、扉を開ける。


「いってらっしゃい」


 寂しくなるなぁ。そんなことを思っているといきなり父親が口を開く。


「――水狗、葵、紫水、この三人にはそれぞれ悩みがある。」

「え?」

「だがお前は優しいお兄ちゃんだ。その悩みを解決してやれ。...それだけだ。じゃあ行って来る!」


 そうしてガチャンと扉が閉められる。


「え?なんであれだけ。」


 そのまま仲良くなるための助言と受け取っていいだろう。


「悩みか」


 俺は胸に手を当てる。


「ふぅ...。そういうことやったことないんだけどなぁ。まぁとりあえず」


 俺はリビングに戻り


「飯作るか」


 そうして慣れた手つきでご飯作りを始めた。


―――――――――――――

「おーい、お前ら飯だぞー」


 俺は二階にいるであろう三人に向けてそう言い放つ。

 するとドンドンという床を蹴るような音が聞こえた。

 おそらくわかったという返事だろう。

 そうして俺はソファに座って降りてくるのを待った。


「わー美味しそうー」


 最初に降りてきたのは水狗だった。


「あんた意外とできるのね」


 次に降りてきたのは紫水だった。

 そして...


「あれ?葵は?」


 葵だけリビングに来なかった。


「あー、あいつはそういうやつなのよ。私たちがお母さんと住んでた時も部屋から出てこなかったからご飯を部屋の前に置いてたわ。そして私たちが食べ終わって見に行くと空になった食器が部屋の前に置いてある。そんな感じだったわね。」

「葵おねーちゃんとご飯食べたーい」


 いわゆる引きこもりということなのだろう。

 部屋で何をしているのか気になるところではあるが無理に入るわけも行かないため今はそっとしておくことにした。


「わかった。後で飯を持ってくよ」


 そうして比較的水狗と紫水とある程度会話はでき、

「「「いただきます」」」

 そうしてご飯を食べ始めた。

 もちろんそのあと葵の部屋の前にご飯を置いた。



 次の日、俺は朝早くから起き、みんなの分の弁当を作った。


「紫水ぐらいは手伝って来れてもいいのに」


 そう愚痴をこぼしながらも俺の手は迷うことなく作業を進める。


「あっ...」


 リビングの入口から声が聞こえる。

 紫水か?

 そう思いながら振り返ると、そこには藍色の髪を持った少女、葵がいた。


「あ、葵、おはよう」


 少しぎこちなくなってしまったが言えてはいたと思う。


「...何、してるの」


 ここで俺は初めて葵と言う妹の声を聞いた。

 警戒しているのだろうか、声は小さく、鋭く突きさしてくるかのような視線だった。


「弁当を作ってるんだ」

「いらない」


 俺の言葉を遮るように葵は言う。


「...え?」


 聞き間違いだろうか。


「聞こえなかった?いらない。私の分、作らないで。必要ないから」


 そう言って洗面台の方へ駆けて行った。


「いらないって...」


 登校途中に買っていくということなのだろうか。それとも...


「いや、憶測でものを考えるな」


 俺は頭をぶんぶん振りその思考を放棄した。


――――

「いってきまーーす!」


 水狗は元気よくそう言い、歩いて学校へと向かった。

 元気なのはいいことだなぁなんて思いながら俺は玄関を後にする。


「なぁ紫水。」


 リビングにいる紫水に俺が話しかけると


「話しかけないで」


 と唐突にそう突き放された。


「...なんで」

「なんでもこうもないわよ。私たちはつい最近知り合った。そんなやつを軽々と兄だとは認めないし、他の妹たちのこともろくに見てあげられない奴なんて兄じゃない。」

「ろくに見てあげてないって...少なくとも水狗とはある程度仲良く――」

「間違ってる」


 言葉を遮り紫水は否定の言葉を述べる。


「水狗"とは"うまくやってる?じゃあ、私と葵は?誰かひとり攻略できればそれでいいって?」

「いや、そんなこと一言も」

「それに」


 紫水は続ける。


「水狗のことを、常、あんたは何もわかってない。あの子の心を何も。」

「―心...」


 確かに俺は水狗のことをよくわからないやつだと思ってる。

 行動原理がいい例だ。だからこそ、咎めないしそれについて深く疑問も抱かないようにした。

 それが間違いだったということなのだろうか。

 お兄ちゃんなら何をするべきなのだろうか。

 俺は、このままのやり方でいいのだろうか。

 俺は思考する。自身のやるべきことを確認するために。

 妹たちを救うために。


「...そう、だな。...ありがとう」


 俺の口は自然とその言葉を発していた。


「はぁ?」


 突然の感謝の言葉に紫水は困惑の顔を見せる。


「お前の言葉で俺のやるべきことがある程度定まった気がする。まだ、葵とは会話もほとんどできてないし、お前の言う水狗の心は何もわからない。流れに身を任せて会話をすればいずれ仲良くなれると思ってた。だが、」


 俺は決意を固める。


「それはお兄ちゃんじゃない。お兄ちゃんは妹たちの面倒を見て、悩みを聞いて、解決してあげて、仲が良くって、いつでも頼られるような存在だと思ってる。それに俺はなりきれていない。...いや、本当はそんな風に思ってなかったのかもな。だが、お前の言葉でわかったんだ。...だからありがとう。」

「な、なによ。私はあんたを兄と認めないってだけで......」


 紫水俺の目を見る。


「――っ!」


 すると紫水は顔を赤くして部屋へと戻っていった。


「ツンデレかな?」


 そして兄として一段階成長した俺はバックを背負った。

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