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5・奇才の思い付き 3

 作戦部へと連れて来られた哀れな男は、統監に手渡した書類を回し読んでいる作戦部の面子の前で、柄にもなく緊張していた。


「ふむ。で?その根拠は何かね」


 メガネを掛けた厳しそうな痩せ男が問いただす。


「まず、今回の件を引き起こした潜水艦に関する推定になりますがー」


 軽薄さは鳴りを潜め、真面目そうに語り出した男。

 内容は統監に語ったものと同じである。


「真の初葛宰相か」


 四角顔がそう不満そうに呟く。


「はい。在り来りの潜水艦であれば彼は採用しなかったでしょう。そして、20センチ砲はあくまで試験艦をそれらしく見せる為の余興だと思います」


「まるで作戦部の人間みたいな物言いだな、貴様」


 メガネがそう問いかける。


「一応、士官課程は修了してますので、基本くらいは」


 軽薄そうにそう流せば、メガネは面白く無さそうに鼻を鳴らす。


「それで?余興で御花見を邪魔された仕返しがイルカの遊戯かね」


 これまで静かに聞いていた作戦部本部長も鋭い目で男に問いかける。

 

 さすがにこれには狼狽する軽薄そうな男。


「いえ、その・・・はい。まず、今回の砲撃潜水艦ですが、蒸気タービンによって高速力を持ち、大きな船体から長期の任務が可能なものと推察しております。50トン級になるであろう主砲設備を撤去すれば、より大量の燃料や真水を積めるでしょう」


 2000トン級大型潜水艦として建造した場合、80日程度の航海日数になる事も考えられ、事によれば北海半島と旭の間に広がる旭日海ではなく、大洋へと漕ぎ出し、旭皇国より東の海を荒らす能力すら備えている可能性も考えられた。


「なるほど、戊海を容易に抜け出す為に高速力を持ったと言うのだな?」


 その質問に頷く軽薄そうな男。


 現在の真は、戊海の外に基地を持たない国である。


 大陸の覇者となった真ではあるが、半島という要害の外に出るには、今の段階では北真海峡を抜け出す必要があり、幅は100キロと広いが、すぐ先に西旭日諸島が連なるため、簡単に大洋へと抜け出す事が出来ない。


 この海峡を迂回するには大陸を更に南下し、併呑しないといけないが、そこは大河と密林が覆う場所。通行も容易ではないため、歴代真皇帝も手出しはしていなかった。


 ここに標識を設置し、内陸まで運河を作り、密林を征服するのは飛行機が実用化し、密林を飛び越える事が容易になる30年先の話である。

 そのため、現在の真は密林と大河が障壁となり、大海へと容易に足を踏み出せなかった。

 もちろん、踏み出した頃には空母が実用化され、旭の裏をかいて大洋に覇を唱える事など出来はしなかったが。


 閑話休題


「だが、話が見えん。それと機械イルカはどう繋がるのだ?」


 本部長は軽薄そうな男の返答では理解が出来ていなかった。


 彼だけでなく、その様な返答で理解しろと言う方がおかしいのだが、当の軽薄そうな男はお構いなしである。


「西旭日諸島に基地を設け、イルカ型潜水艦を配します。飛行船基地を設けて海峡の哨戒を行う事で、諸島周辺を潜航するおおよその時間は掴めるでしょう。あとは、イルカが魚の群れを追いかけ、ガブリ」


 と、ひとり話を進めてしまう。


 作戦部の面々はポカンとするしかなかった。


「貴様が何を言っておるのかさっぱり分からん!」


 暫く後、素直にそう答えたのは四角顔の男であった。


 今度は軽薄そうな男が腕組みをして考え出す。


 そして、何かに思い至りおもむろに話始める。


「今回の事件を起こした潜水艦は水上を20ノット超の高速で疾走できるものと思われます」


 そこで一度話を切り、見回す。

 作戦部の面子も頷く。


「では、この潜水艦が北真海峡を抜けた後はどうしますか?」


 そこで更に見回した。


「北真海峡から西旭日諸島まではおおよそ500キロになります。仮に平均的な潜水艦であれば、諸島周辺に近づく前に発見可能です。潜航距離などおおむね100海里、200キロは走れませんから、海峡から諸島までを夜の間に駆け抜け、諸島周辺だけ潜るという方法はとれません。飛行船を飛ばせば容易にあぶり出すことが出来るでしょう」


 そう聞いた面々は頭の中で計算する。

 既存の内燃機関では、2000トンクラスの潜水艦には非力であるため水上速力は15ノットが限界とされている。西旭日諸島に辿り着く前に捕捉、撃破されるか、仮に上手く哨戒網を躱せても、夜の間に諸島の警戒網まで抜け出し大洋へ至る性能は持ち得ていない。


 だが、20ノットを超える水上速力なら話は違って来る。


「なるほど、北真海峡で発見されようと、夜の間に諸島へ接近し、あまつさえ最低限の距離だけ潜り、時間を見計らって夜になればサッサと浮上して大洋へ出ていけば良いのか」


 一人がそう口にした。


「はい、そうなります。そのため、島の間を結ぶ探知網を敷き、発見し次第追跡、攻撃する手段が存在すれば、突破を阻止できるようになります。現在の仮装巡洋艦や徴用船では到底追い付ける相手ではありませんから、速度が遅い潜航中を狙うしかありません」


 この当時、まだ機上型磁気探知機などはなく、飛行船を飛ばして海峡を潜航する潜水艦を発見することは出来なかった。

 昼間であれば発見後に爆弾を投下する事も出来たが、高射機関砲の普及で撃墜される危険性が高くなっていた。

 まだ飛行機の実用化がおぼつかない時期でもあった事から、潜水艦に対抗できる潜水艦と言うコンセプトへの注目度は高かった。


 これがあと10年遅く、飛行機に十分な能力が備わったならば、現在の攻撃型潜水艦、当時の駆潜潜水艦の登場ははるかに遅れていただろうと言われている。 


「なるほど、その為に乙級潜水艦の機関や電池を利用してのイルカ型潜水艦開発か」


 作戦部の面子は話を聞き、自ら考える事で納得するのだった。



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