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三高生活委員カツオ  作者: けいティー
第2章 三高祭編
9/22

第9話 激突!三清学園の刺客

 先ずおさらいしておこう。僕、鹿平勝雄が通う高校は『秋田県立第三(だいさん)高等学校』である。学校偏差値は60オーバー、秋田県南で一番の進学校としてその名を轟かせている。

 そして同じ市内にある『秋田県立三清学園(さんせいがくえん)』は県内でも数少ない中高一貫校の1つであり、8割方の生徒が三清学園中学校から三清学園高等学校へと進学している。

 何故最初にこの説明をしたのかというと、それはこれから行われるある行事と関係があるからだ。その行事は野球定期戦。毎年のように三高と三清が市内のスタジアムで試合をしている。そして僕は今、そのスタジアムの観客席に、友人の杉宮理音と共にいる。

 先程試合が始まった。1回表は我ら三高の攻撃、吹奏楽の演奏に合わせてメガホンを叩く。先頭打者が2ベースヒットで出塁した。…などと言っている僕ではあるが、野球の知識に乏しい素人目線での実況となるのでそこはご了承願いたい。

 スタジアムで野球観戦といったことを今までしてこなかった僕の15年の人生、16歳を間近に控えた今初めての経験だ。先述の通り、僕は野球にやや疎い。しかし簡単なルールやどういうプレーが凄いのかは何となく分かるので、これが意外と楽しい。

「勝雄、随分と楽しそうだな。」

 気だるそうにメガホンを叩く杉宮くんは、これまた気だるそうに言う。

「杉宮くんは退屈そうにしてるけど。」

「俺はスポーツというものに興味は無いんだ。ただ、授業が潰れるだけ嬉しいってもんよ。」

「折角の学校行事なんだし、ちゃんと応援しようよ。」

「お前は真面目だなあ。そもそも素人の野球見て何が楽しいんだ?」

「全く、高校野球の良さを何も分かっていないようだね。」

「良さって何だよ。」

「高校野球はプロとは違って3年間という限られた時間で選手たちは頑張っているんだ。そこにかける情熱は桁違いだよ。それにプロとは違って、所々プレーが甘かったりする。それが決定打となって奇跡の逆転劇が生まれることもある。実際あったでしょ、秋田県代表がさ…。」

「お、おう。分かった分かった。」

 僕の勢いに杉宮くんは押され気味だった。

「って、あれ1点入ってんぞ。」

 杉宮くんに言われ、得点の電光掲示板を確認すると確かに『1』と刻まれていた。

「いつの間に…!あー、見逃してしまった…。」

 ここは杉宮くんのせいにするのでも良かったのだが、まあこれは会話に夢中で見ていなかった僕が悪いしあまり責められないだろう。


 試合は1回ウラ、三清学園の攻撃に入る。

「あの3年生ピッチャー、結構実力あるらしいよ。」

 などと僕がうんちくをひけらかしたところで、高校野球に微塵の関心も無い杉宮くんには「へー」と気の抜けた返答で流されてしまった。因みにこの回は三者凡退で終わった。序でに2回表も三者凡退だった。

 そして2回ウラ、先頭打者とその次の打者が続いて出塁。さらにフォアボールで三高はノーアウト満塁のピンチを迎えていた。最高潮に盛り上がる三清学園の応援、追加点が僅かであって欲しいと願う三高。

「あーあ、これ負けたな。」

 鼻をほじりながら試合を見守る杉宮くん。

「まだ終わらんよ。試合はまだまだどうなるか分からないからね。ん…この音楽は…!」

 僕は三清学園の吹奏楽の演奏に思わず反応する。

「あーこれ何の曲だったっけ。」

「『かかる小坂の鉄路遊園(レールパーク)』の主題歌、『only this railpark』だよ!」

 アニメ屈指の神曲の演奏に、敵ながら思わずリズムを取ってしまうオタクな僕である。

「あーそうだそうだ、随分前のアニメだよなあ。あ、1人戻ってきたな。」

 杉宮くんの言葉で我に返った僕は再び試合観戦の方に集中する。っていうか1人どころかもう1人戻ってきているじゃないか。

「1対2、まだまだこれから!よし!」

 ちゃんと応援しよう、などと杉宮くんに言ったのは僕だ。思い出したように自分に喝をいれる。

「さっきまで敵チームのアニソンにノリノリになっていた癖になあ。まあいいや。」

 彼はそう言ってニヤニヤしながら横目で僕を見る。

 この後ランナーがまた1人生還し、我らが三高は2点ビハインドの状態となった。あまり野球で『ビハインド』という言葉は使わない気がする、いや結構使うのかな…まあ良いだろう。3回以降の展開はダイジェストでお送りする。

 3回表、2アウト満塁の展開から三高は1点を返した。そのウラは選手の見事な連携によるダブルプレーで無得点、4回と5回では両者ともにヒットは出るものの得点には繋がらなかった。5回ウラ終了時点で『三高2-3三清』となっている。このタイミングで僕はトイレに行く為、席を立つ。


 トイレはスタジアムの外にある。まあまあ距離はあるが散歩がてら歩く。トイレを済まし出てくると、何やら見たことのある3人が見たことの無い3人と向き合って立っているのを見かけた。決闘的な何かだろうか。僕たち普通の人間には分からない過去の因縁でもあるのかね。因みに見たことのある3人とは、土崎湊斗先生、厨川醍醐、殿水まはるである。見たことの無い3人は、それは見たことの無い人たちなので何者かはよく分からない。しかし見た目にはなかなか特徴があった。

 土崎先生の向かいには、赤みがかった髪でお団子ヘアー、かと思えばヤンキーのような特攻服を着て、竹刀を持っている女性がいた。

 厨川くんの向かいにいるのは、どこぞの勇者か人造人間かのような、肩まで伸びている焦げ茶色のサラサラヘアーと右手に携えている薙刀が特徴的な男性である。制服からして三清学園の生徒であることは確定だ。

 そして僕が一番驚いたのは殿水さんの向かいにいる人物だ。顔だけでなくスタイルまで、というか何もかもそっくりなのである。制服が三清学園のものだということ以外で違うところといえば、やや青みがかった瞳と髪だろうか。いやこれは誤差の範疇かもしれない。殿水さんはアンドロイドだ、ということはその殿水さんそっくりの彼女はアンドロイドのモデルとなった人間か?または殿水さんと同じモデルのアンドロイドか?6回表の試合が始まるというのに、こちらが気になってそれどころではなくなってしまった。物陰に隠れて見守ろう。


 耳をすましてみると彼らの会話が聞こえてくる。その内容はこうだ。

「久しぶりだなあ、リゼオン。」

 お団子ヤンキーは先生に対して言う。先生の本名を知っているということは、彼女も先生と同様アティカシアの人間である可能性がある。

「その名前ではあまり呼んで欲しくないな、ギャラクス。」

「それはお互い様だろ。オレのここでの名前は向能代(むかいのしろ)春香(はるか)だ。」

 お団子ヤンキーさんは『ギャラクス』という名前らしい。ということはアティカシアの人間で間違いない。

「何故俺たちを呼び出した?」

 厨川くんは腕を組んで正面の3人に問う。

「折角の機会だからな!一つ手合わせ願いたいと思ってだ!我がライバル厨川醍醐よ、しっかり鍛練は積んでいるな?」

 こう言っているのは、厨川くんの真向かいにいる薙刀の男子生徒だ。

「当然だ。」

「うむ、俺様もだ!」

 この薙刀男子はどこか暑苦しさを感じるな。

「まはる、強くなられましたか?」

 そう問うのは、殿水まはるのそっくりさんだ。

「ええ。お姉様こそどうなのですか?」

「私も常に成長しているのですよ。」

 一体成長しているのはどこなんだろうねえ、とどこがとは言わないが物陰からそれを凝視してしまう。僕も立派な男子高校生ですからね、しょうがないね。


「では、始めようか。本気でかかって来い!」

 竹刀を構え、臨戦態勢のギャラクス、もとい向能代。開戦は6回表の野球の試合が始まったのと同時刻だった。

「はあああ!」

 一直線に突撃していく土崎先生。

「今日こそ貴様を斬り刻む!」

 刀を鞘から引き抜き、薙刀男子に向かっていく厨川くん。

「俺様の大砂川(おおさがわ)流薙刀戦術を刮目せよ!」

 大砂川流、何だかよく分からないけど何となく凄そう、という感想しか出てこない。殿水まはるドッペルゲンガー対決(勝手に命名した)も始まっており、バトル漫画さながらの人知を超えた戦いが繰り広げられていた。戦いが始まってからというもの、時々姿は確認出来るのだが、僕のような普通の人間に彼らの戦いを目で追うことなど不可能である。そういえば先程の会話を聞いた限りでは敵ではないみたいだし、僕が戦闘用の腕章をつけて介入することは必要無さそうだ。

「あんた、そこに隠れて何してるのよ?」

 後ろから声を掛けられ、思わずビクッとする。振り向いてみるとそこにはショートボブの女子生徒がいた。

「うっ、びっくりした。何だ、神代さんか。」

「何だって何よ?ってかあんたここで何してんの?」

「あそこで土崎先生と厨川くん、殿水さんが戦ってる。」

 僕は指を差して神代さんに教える。

「え?誰もいないじゃない?」

「よく見てみ。」

「あっ、たまに見えるわね、人影が。で、これが何故先生と醍醐、まはるだと分かるの?」

 僕は先程の一部始終を神代さんに説明した。

「へーなるほど。まさか三清にも異世界人がいるとはね。興味深い。後で詳しく聞かないと。」

 ニヤリと口角を上げる神代さん。かと思ったら何故か真顔になった。

「あんた、さっきの話ウソだったら承知しないわよ!」

 今度は指をポキポキ鳴らしてこちらを睨み付ける。神代さん、君の感情はどうなっているんですか。

 スタジアムでは高校球児たちが熱戦を繰り広げられているというのに、僕と神代さんは物陰に隠れて別の『熱戦』に見入っていた。

「野球、今何対何だ?」

「そんなこと知らないわよ。スコアが気になるなら戻って観戦すれば良いじゃない。あたしはここにいるから。」

「…まあそうだよね、しかしこっちが気になってしまう…!」

 ごめんなさい野球部の皆さん、杉宮くん。最初あんなに「しっかり応援しよう」とか高校野球の良さを偉そうな口振りで語ってたくせに今や野球そっちのけで。来年の定期戦はちゃんと応援しますので。

 僕がお詫びの言葉を心の中で何度も言っていると、試合終了のサイレンがけたたましく鳴り響くのが聴こえてきた。それと同時に彼らの戦いは止まり「また今度」と言わんばかりに、未知の3人はその場を立ち去っていった。


「観客席に戻りましょ。」

「そうだな。」

 神代さんと僕は高校野球の裏で行われた戦いを見届け、観客席に戻る。杉宮くんが心配しているかもしれないしな。

 席に戻ると案の定杉宮くんは心配していた。「ちょっとお腹痛かっただけだよ」と誤魔化してみたら信じてもらえた。電光掲示板に表示されたスコアを見てみると、4-3で我らが三高が勝利していた。

キャラクター紹介!

(9)杉宮理音すぎのみや りおん

所属:1年6組

誕生日:8月3日

 一人称「俺」、特にこれといった見た目の特徴は無い人間の男子学生で本作の主人公・鹿平勝雄かびらかつおの友人。誰とでも親しくなれることが特技。

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