表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三高生活委員カツオ  作者: けいティー
第2章 三高祭編
8/23

第8話 よろしく!彼は教育実習生

今回から第2章に突入です。

 生徒失踪事件が解決し、高校に入って初めての定期考査も終わった。手応えはまずまずだったと思う。そんなこんなで時は過ぎ、5月下旬を迎えていた。気温も上がってきており、制服の上着を脱いで椅子の背もたれに掛けている人が多い。僕もそうだ。

 この日の朝のホームルームでは普段見かけない人がいた。この日の為に床屋やら美容室やらに行ったのであろうびしっとした髪型に新品同様のスーツ、青地に金色の模様が入ったネクタイ。年齢は20くらいだろうか。どうやら担任の土崎(つちざき)湊斗(みなと)先生の紹介曰く、彼は教育実習生らしい。

「南秋大学教育実習生、生鼻崎(おいばなざき)文人(ふみと)です。短い間ですが、少しでもクラスの皆さんと仲良く出来るよう頑張ります。よろしくお願いします。」

 そう言って彼はニッコリスマイルを振り撒いた。少々嫌に感じてしまうのは今日が月曜日だからだろうか。


 今週は教育実習生が来たくらいで特に変わり映えはしない始まりだった。今日も今日とて委員会の招集がかかったが、最早それは当たり前と化している。いつも通り時は過ぎて昼休みになった。

「メシ食おうぜ!」

「わざわざ言わなくてもいつも一緒に食べてるでしょ。」

 弁当片手に僕の机の元へやって来たのは同じクラスの男友達、杉宮(すぎのみや)理音(りおん)である。僕の左隣の席に座り、弁当箱を開ける。

「そういえば勝雄(かつお)はもう知っているとは思うが、生活委員の鏡くん転校したらしいな。」

「え、そうなの?」

 僕はこう返答したのだが、この場合の反応は(かがみ)北登(ほくと)が転校したことを知らないというより、転校したことになっているということへの驚きである。まあそうした方が自然だからな。時期は不自然だけど。

「え、お前知らなかったのか!何でも両親の急な都合だとか。せめて転校する前に俺たちにお別れの挨拶くらいしてくれても良かったのにな。」

 弁当箱を開けてからずっと喋っているな杉宮くんは。早く食べなさい。


 帰りのホームルーム。教育実習初日で若干疲れが見える実習生を横目に、土崎先生の話を聞く。そういえば今週は教室の掃除当番だったことを先生からの連絡で気付かされ、ホームルーム終了後に渋々掃除用具ロッカーからモップを取り出す。他にもほうきやちりとりがあるが、それは他の人に任せるというのが僕のスタンスである。黒板消し担当は制服がチョークの粉まみれになるからな、これも誰か頼んだぞ。教室でモップ掛けをしていると、僕と同じくモップ掛けをしていた教育実習生・生鼻崎先生に話し掛けられた。

「この教室、暑いよね。」

「そうなんですよね。クーラーも無いですし。」

「実習生の控え室は涼しかったからさ。」

「そうなんですね。羨ましいです。」

 …会話終了してしまった。若干の気まずさが流れていたのだが、それを断ち切るかのように同じ掃除当番の女子が生鼻崎先生に話し掛けてくれた。

「先生はどうして先生を目指そうと思ったんですか?」

「まあそうだね、いろいろあって。でも将来先生になるつもりは無いかな。結構やることが多くて大変だし、そもそも教員免許が欲しくて実習に来ているからね。」

 そういうこと、堂々と言っても良いのか?まあ正直に答えてくれる先生というのは好印象な気もする。


 掃除が終わり、僕はいつもの特別教室へと向かった。引き戸を開けると厨川(くりやがわ)醍醐(だいご)殿水(とのみず)まはる、四ッ谷(よつや)ななか、神代(じんだい)(さき)の4人がいつもの席に座っていた。取りあえず挨拶しておこう。

「お疲れ。」

「お疲れ様です。」

 殿水さんはアンドロイドらしからぬ豊かな表情で言った。時たまアンドロイドであることを忘れそうになるくらい、普通の人間と遜色無い。

「おっつー。」

 神代さんは堂々と使用禁止のスマホを弄りながら言った。隠すこと無く堂々とやってのけるその度胸は尊敬に値する。

 厨川くんは何かボソッと呟いたのが見えたが何と言ったのだろうか。人見知りの四ッ谷さんは会釈で答えた。

 僕はいつもの、四ッ谷さんと神代さんの間の席に座る。するとどうだろう、嫌でも右隣にいる神代さんのスマホ弄りが目についてしまう。僕は神代さんに忠告しておこうと声をかける。

「あのなあ、いつ先生来てもおかしくない状況だってのに、よくそんな堂々と…。」

「見つからなければ良いのよ。勝雄、先生来そうだったら教えて。」

「何だよそれ。お前が弄らなければ良いだけの話でしょう?」

「どうしてもスマホを使う用事があるの。」

 世話しなくスマホを弄る神代さん。そこへ言わんこっちゃない、土崎先生が実習生の生鼻崎先生を連れて教室へやって来た。神代さんは教室の引き戸が開くのと同時にスマホを仕舞う。一瞬土崎先生がこちらの方を見たような気がするが、気のせいと信じたい。土崎先生は何事も無かったように教卓の前に向かった。生鼻崎先生は教室の引き戸近くに立っている。

 開口一番、土崎先生は僕たちに向かってこう言った。

「自転車点検をしようと思う!」

「藪から棒に何ですか?」

 僕は思わず聞き返す。

「これからの活動計画だよ。もうすぐあるクラスマッチや三高祭での見回りも我々の重要な任務だが、その前に自転車点検、イベント目白押しの時にトラブりたくないからね。」

「自転車点検とは具体的に何をするのですか?」

 殿水さんは挙手をして淡々と話す。その近くでは生鼻崎先生が熱心に何かメモを取っていた。この委員会活動にメモする要素があるのか不明だが、まあ勤勉な人なのだろう。

「我々は自転車点検のプロフェッショナルではないからね、せいぜい自転車シールを貼っているかどうかをチェックすることくらいだ。勿論、今年のシールを貼っているかどうかね。」

「いつやるんですか?」

 あまり積極的とは思われたくないが、一応期日は聞いておこう。

「明後日、水曜日の昼休み。4時間目の授業が終わったら玄関に集まってくれ。」

 そう言うと土崎先生は、生鼻崎先生と共に教室から出ていった。

「き、今日の活動は終わり…ですか?」

 僕のワイシャツの袖を摘まみ、四ッ谷さんはか細い声で言う。

「いや、まだ何かありそうだけどね。一時的に教室から出ていっただけだと思うよ。」

「もしかして、実習生に聞かれたくない内容の話とか?」

「僕たち生活委員の真の活動目的がまさしくそれだね。」

「確かに…。」

「あんた達、何2人でコソコソしてるのよ。」

 そこへ神代さんが割り込んできた。

「別に大したことじゃないよ。」

「ふーん。」

 僕の回答に不服だったのか、神代さんは怪しむ目つきでこちらを凝視している。

 3分ほどして、土崎先生は謎のアタッシュケースを持って教室へ戻ってきた。再び教卓の前で話し始める。

「さっきいたのは実習生の生鼻崎先生だ。委員会活動を見たいと言うから参観させた。で、ここからが本題だ。」

「てっきり自転車点検の話で終わりかと思ってましたけど。」

 あからさまにやる気の無い神代さん。

「そんな訳が無かろう。あれは委員会活動している風に見せるためのやつだよ。前説みたいなものだ。でも自転車点検の話は本当だからね、明後日の昼休み忘れずに。」

 土崎先生の説明にやる気の無い返事を神代さんは返した。気を取り直して土崎先生は本題に入る。

「例の生徒失踪事件は解決した。犯人は我々生活委員の元メンバー、鏡北登だったのだがな。もう1度、念のため言っておくが、彼は一応転校したことになっているから、勿論真実は言わないように。秘密徹底で頼む。」

 実は事件後すぐに、このことを言いふらさないようにという先生からのお達しが来ていたのだが、鏡北登という男、実はドラゴンズアイという名前の異世界人で…などという話を誰が信じるのだろうか。

「先生、事件が解決したのなら僕たちはお役御免ではないのでしょうか?」

 僕は挙手をして土崎先生に問う。

「断じて否だ。この世界にはわたくしと同じアティカシア人が多く住んでいる。彼らが悪さをした時、それを止めるのがわたくしたちの役目!だからわたくしたちの戦いはまだ終わらないのだよ。」

 ドヤ顔で熱弁する土崎先生、それとは対照的に神代さんは大きなため息を吐いて俯いていた。

「これからも一緒に頑張りましょうね、神代さん!」

「う、うん…。」

 にこやかに神代さんへ語りかける殿水さん、そして殿水さんへ申し訳なさそうに返事をする神代さん。神代さんの気持ち、分からなくも無いな。

「あ、あとこれね。修理改良しておいたから。」

 土崎先生はアタッシュケースを教卓に置き、慣れた手つきで開ける。謎のシルバーのケースの中にはちょっとお久しぶりな腕章が入っていた。この委員会の『普通の人』である僕と四ッ谷さん、神代さんは腕章を受け取る。

「この間のドラゴンズアイとの戦いであっさり壊れてしまったから、新機能を追加して強化してみた。」

「新機能とは何ですか?」

 頭文字に『新』と付くだけでどこか魅力的に感じてしまう。僕は率直な疑問を先生に投げ掛けた。しかしその回答は「それはピンチになった時に頼りになるものだから、まあその時をお楽しみに」などという説明を丸々諦めるという適当っぷりだった。

「勝雄、新機能って何だろうね?醍醐を一発で殴り飛ばせるとか?」

 神代さんは先程までとは明らかに違うテンションで、まるで誕生日プレゼントを貰った子供のように、嬉しそうに、しかし物騒なことを言っていた。

「はぁ?俺に勝てるとでも?」

 厨川くんは出現させた日本刀を鞘から引き抜き、神代さんの方へ向ける。

「厨川さん、落ち着いて下さい。」

 と、落ち着いた声で言う殿水さん。彼女に言われるがまま、厨川くんは納刀して大人しく着席した。

「これからクラスマッチや三高祭といった行事がある。その盛り上がりに紛れて悪いことをしている奴がいないか、目を光らせておくんだ。それと、腕章は学校にいる間常につけておくこと。いいね?ということで水曜日よろしく、解散!」

 土崎先生はそそくさと教室を出ていった。この日はこれで終わり、そしてあっという間に水曜日の昼休みとなった。自転車点検といえども特に何かあったという訳ではないので割愛させていただこう。延々と自転車点検を語っても退屈だからな。

 いろいろあった5月が終わり、6月になった。これからクラスマッチや三高祭があるのだが、その前にも別の行事があったことを直前まで忘れていた。僕たちが通う秋田県立第三高等学校のライバル校、同じ市内にある秋田県立三清学園高等学校との野球定期戦である。まあ僕は観戦するだけなのだが、次回はこの様子をお送りしよう。

キャラクター紹介!

(8)土崎湊斗つちざき みなと

所属:1年6組担任、生活委員会担当教諭

誕生日:3月10日

本名:リゼオン

 一人称「わたくし」、マッシュルームヘアとスーツの上から着ている白衣がトレードマークの異世界アティカシア出身の「超能力科学者」を名乗る先生。厨川醍醐を改造人間にし、殿水まはるというアンドロイドを開発した張本人。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ