第4話 校内~見回り大作戦~
「あ、あの…。」
四ッ谷さんは僕の制服の袖を掴み、先程の自己紹介よりも大きな声で言った。
「何かな?」
向こうから話し掛けてくるとは思わなかった、これは良い流れだ。僕は四ッ谷さんに対して出来るだけ優しい声で言った…つもりだ。
「特撮とかアニメとか、好きなんですよね…?」
「そうだけど…。」
「な、ななかも好きです…。特撮とか…アニメとか…。」
勇気を振り絞って言っていることが伝わってくる。まるで意中の男子に「好きです」と告白する女子のようだ、いやこれも似たようなものか。
しかしまさか四ッ谷さんが特撮やアニメ好きとは驚いた。無口な女子が折角自分から話し掛けてくれたんだ、これは会話のキャッチボールをするしか他ない。
「そうなんだ!特撮だったら何が好き?」
「ちょ、超絶神ブレイガー…。」
「僕もその作品好きだよ!どの回が一番好きかな?やっぱりあの伝説の最終回?」
無意識に早口になったような気がする。人間、好きなものを語るとそうなってしまうもの。気を付けねば。
「うん!声援が力になって奇跡のパワーアップ!からのブレイガーキック!あれ良いよね!」
四ッ谷さん、過去一の声量、そして話すスピード。これは相当オタクと見た。彼女の表情はとても生き生きしている、思ったより可愛いじゃないか。
「四ッ谷さん、本当は明るい性格なんだね。」
「ななかは、ちょっと人見知りで…。」
「でも、僕には勇気を出して話し掛けてくれたんだね。」
「うん、ななか、趣味の合う人なかなかいないから。友だちも少ないんだ。」
「だったら僕と友だちになろうよ。僕も趣味合う人がそんなに居ないんだよね。」
「え、いいの?」
「勿論。」
四ッ谷さんはとても嬉しそうにニコニコしていた。この教室にいるのは僕と四ッ谷さんの2人だけ、本当の四ッ谷さんを知るのは僕しかいないというのは優越感に浸れて良いな。
「よし、そろそろ帰るか。話の続きはスマホのチャットでな。」
「うん、特撮談議いっぱいしようね!あとアニメの話も!」
四ッ谷さんの明朗な声を聞いた後、僕は帰宅した。
その日の夜、僕はチャットにて四ッ谷さんと特撮やアニメについて語り合った。とにかく四ッ谷さんの熱意は凄かった。文面からでもしっかり伝わってくる。僕よりも多くの特撮やアニメを観ていて、守備範囲が広いということがよく分かった。
結局週末は特撮アニメ談議に明け暮れて気付けば終わり、また月曜日が始まる。月曜日というのは誰しも憂鬱な気分になるというのは自然の摂理だが、僕としてはいつにも増して憂鬱な気がした。今週も放課後は応援練習、その後は委員会活動という最早恒例となりつつあるスケジュールである。
そして先週と同じように時間が過ぎ、応援練習の時間となった。週が明けても応援団長は姿を見せず、今日も団長代理こと副団長が白い鉢巻きを巻いて偉そうに立っていた。そんな応援練習も終え、いつもの特別教室へ直行した。
今日の活動は校内パトロールである。土崎先生曰く「学校内に生徒失踪事件の犯人が潜伏している」らしい。この学校の生徒ばかりが失踪しているという理由からそのような仮説を立てたらしいが、説得力に欠けるな。土崎先生の主張に反論してやろうかと思ったが言う暇も無く、特別教室から追い出されるようにパトロールこと校内見回りを開始した。基本的には2人1組で校内を回る。厨川くんと殿水さん、鏡くんと神代さん、そして僕と四ッ谷さんの組み合わせだ。厨川殿水ペアという改造人間とアンドロイドのペア、いくらなんでも過剰戦力では?
そんな不公平さを感じつつ、でも趣味が合う友人と回れるだけでもその不平不満は薄れた。僕は四ッ谷さんと雑談をしながら校内を回る。
「今週の『憂鬱なる秋宮ハルキ』観た?」
四ッ谷さんは最近放送されている人気アニメの話題を振ってきた。
「勿論。今週もハチャメチャやってたよな。」
「笹子ちゃんが可哀想に思えてくるんだよね。」
「あれを毎日やられたもんにはなあ。」
「しんどいよねー。」
校内を回ってみても特に怪しい人影は無く、四ッ谷さんとのアニメ談議が盛り上がったくらいだ。
「先生は生徒の中に失踪事件の犯人がいると言っていたが、本当なんだろうか。」
僕の小声の呟きに、四ッ谷さんは返答する。
「ななかはそんなこと信じたくない。犯人は別にいると思う。」
「四ッ谷さんは人が良いね。」
僕のこの一言に、四ッ谷さんは少し照れていた。
この日は特に何も無く、そのまま解散となった。土崎先生曰く校内パトロールは基本的には毎日やるみたいだ。何とも煩わしい。
次の日もその次の日も、校内を回った。ペアはその日によって違う。初日は四ッ谷さん、次の日(火曜日)は厨川くん、水曜日は殿水さんだった。厨川くんは最低限のことしか話さない為に沈黙の時間が長く、それは永遠に感じた。殿水さんは気を利かしてなのか、いろいろと話題を振ってくれた。そもそもこれは校内見回りという委員会活動であって、お友達と楽しくお喋りしながら校内を歩く会ではないことを忘れてはならない。そして木曜日、あまりにも校内見回りの収穫が無いので土崎先生はこう告げた。
「今日から学校周辺も回ってもらう。」
そもそも犯人は校内に居るなどと決めつけるのがダメなのだ。周辺に犯人が潜伏している可能性もあるし、犯人がいなくても何かの痕跡もあるかもしれない。こうして僕は鏡くんとペアを組んで学校周辺を見回る。
「そういえば先生に聞き忘れたんだけど、どこに『異世界の入り口』が現れたんだろうか?鏡くんは何か知ってる?」
「入り口が現れる場所はその度に違うらしど。つまりこの辺全部回らねばダメだっちゅうこどだな。」
「鏡くんは委員会の活動めんどくさいって思わないの?」
「なんも。散歩だど思えば運動なって良いど。」
なんというポジティブシンキング。見習いたいところだ。
「そういえば鹿平くん、四ッ谷さんと随分と親しいみでだども。何かあったんだべが?」
「まさか嫉妬しているのかい?」
「いや、気になっただげだ。普段は無口で大人しなさ鹿平くんの前ではいぐ喋ってらし。」
「共通の趣味があったからね。四ッ谷さんは人見知りだけど、趣味が同じとあらばすぐに心を開いてくれたんだ。」
「んだなが!四ッ谷さん、いぐ分がらねんた人だっだがら。因みにその共通の趣味って何だべ?」
「特撮とアニメだよ。」
「んだっけな!最近は観でねども、おらも特撮好ぎだど。」
「アニメはどう?」
「アニメは観ねな。でも何かオススメあれば教えでけれ。」
「憂鬱なる秋宮ハルキ、面白いよ。ちょうど無料配信中だから今からでも追い付けるし是非観て!」
「分がった!」
鏡くんは屈託の無い笑顔を見せた。あまりアニメを観ないようだが、ここからいろんなアニメをオススメして沼ってくれたら本望だ。仲間が増える。で、肝心の見回りだが収穫無しだった。翌日、金曜日、遂にあの体力とメンタル削りイベントである応援練習が終わりを告げた。最終日になっても団長は現れることが無かった。そして生徒失踪事件の方だが、今週は誰1人として新たな行方不明者がいない…と思いたかった。土崎先生からの話によると、残念ながら10人ほど昨日から行方不明になっているらしい。そんなこともあり、今日も昨日と同じように学校とその周辺の見回りとなった。今日の僕のペアは神代さんだ。
彼女から発せられるマシンガンの如きトークに何とか対応し、見回りを終えた。勿論収穫無し。いつもの特別教室にて反省会だ。
「君たち、ちゃんと見回りやってるか?今日は10人も失踪してたんだぞ!」
土崎先生は珍しく怒っていた。
「先生も見回りやれば良いじゃないですか!」
そう大声で言ったのは神代さんだ。ごもっともな意見である。
「わたくしはね、いろいろ忙しいの。だから君たち生活委員にやらせてるじゃないか。」
仕事が忙しいから生徒にやらせているというのはまあ良い。でも時間を割いて見回りをした生徒に向かって怒鳴るのは違いますよ先生。
「見回りに関しては、うん、各自で頼む。何か気付いたら随時チャットか何かで報告してくれ。」
委員会活動としての見回りは一区切りにするみたいだ。土崎先生はさらに話を続ける。
「来週は挨拶運動がある。朝7時40分から8時までやるから、7時半くらいまでには学校に着くこと。良いかな?」
「先生!いくらなんでも早すぎます!」
神代さんは挙手して立ち上がる。
「1週間だけなんだから、頑張って早起きしてくれ。」
「えー…。」
あれ、全く同じやり取りを先週の金曜日見たぞ。「まあそういうことなんでよろしく」と言って土崎先生は特別教室を出ていった。今週の委員会はこれにて解散、来週もなかなか忙しそうだ。
土日の2日間の休みというのはあっという間に過ぎるものである。また憂鬱な月曜日が始まった。しかも今日は朝から挨拶運動、めんどくさいが委員会らしい活動といえよう。僕はいつものように登校し、気だるい歩きで生徒玄関へ向かった。
「あ、おはようございます!」
「おはよう。」
生徒玄関には厨川くんと殿水さんが既にいた。殿水さんの朝なのに底抜けに明るい挨拶に、僕は朝のローテンションで返す。
「厨川くん、おはよう。」
今日は何となく厨川くんにも挨拶をしてみる。予想通りだが、こちらを睨んだきり何も挨拶をしてこない。
「厨川さん、ちゃんと挨拶しないとダメですよ。」
「…おはよう。」
殿水さんに言われてようやく挨拶をした。厨川くん、君は子供か。いや16歳は民法では子供なのだが、それとこれとは別だ。
時間は7時39分。40分からスタートなので1分前だ。始まるギリギリにやってきたのは四ッ谷さんと鏡くんだった。
「ごめんなさい、遅れてしまって。」
「四ッ谷さん、1分前だから遅刻してないよ。」
「そうなんですか?なら良かった。」
胸を撫で下ろす四ッ谷さん。
「おはよう!」
殿水さん同様、明るく元気に挨拶をするのは鏡くんだ。
「神代さんと先生がまだ来でねみでだな。」
「7時40分、時間ですね。」
殿水さんは生徒玄関にある壁掛け時計を見て言った。神代さん、そして土崎先生、遅刻確定。神代さんはともかく、言い出しっぺの土崎先生は遅刻したらダメだろう。挨拶運動初日はこうして幕を開けた。
キャラクター紹介!
(3)殿水まはる
所属:1年4組
誕生日:10月3日
一人称「私」、ロングヘアー美女アンドロイド。スタイルもかなり良い。誰に対しても丁寧語で話す。