第27話 厨川Ⅰ:機動馬を乗りこなせ
俺は厨川醍醐。そしてここは異世界アティカシア。常に夕方のような空が広がっている気味の悪い世界だ。何故ここに俺がいるかと言うと、修行をするためである。
あれは忘れもしない6月の三高祭前日祭。ゴーターの手によって殿水まはるは命を落とした。いくらリッキーノが記憶を引き継いでいるとはいえ、俺に言わせてみればあれはニセモノだ。こうなったのは誰の責任だ?鹿平たちはまだ戦いに慣れていなかった。そうなると鹿平たちよりも戦いの経験があるにも関わらず、俺が弱かったことに原因があると考えた。そして訪れた夏休み、学生の身分が故に、大きく余った時間を利用しない訳にはいかない。俺は修行して強くなる、そう決めたのだ。二度とあんな目に遭わないために。
俺は普通の人間だったが、とあることが切っ掛けで改造人間となった。改造人間となって間もない頃、修行のために訪れた場所がある。この夏休みはそこで再び修行をし、新たな俺に生まれ変わるのだ。
前方にあるのは広大な敷地を誇る巨大な屋敷。俺はその屋敷の門の前にいる。和風デザインの門に近代的なインターホンが付いているのでそれを押す。
「誰だ?」
「厨川醍醐」
「入れ」
同時に門が自動的に開く。しかし俺だから良いものの、来客に向かっての一言目が「誰だ?」は流石に失礼だろう。そう思いつつ、敷地内へと足を踏み入れる。
門の奥には立派な日本庭園が広がっており、普通に観光地として金儲け出来るレベルだ。目の前にある建物も和風建築であり、かなり立派な作りだと分かる。石畳を進んで引き戸を開けると、老齢の男が出迎えてくれた。インターホンの声の主、アマハ老師である。
「醍醐、やはり来たな」
「予見していたというのか」
「まあな」
そこへもう1人、俺と同じくらい、いや同じ年齢の男が奥から現れた。
「厨川醍醐!待っていたぞ!」
夏ということもあって余計に暑苦しさ倍増のこの男、大砂川信太である。
「お前も来ていたのか」
「修行の為だ!厨川醍醐、お前も同じだろう?!」
「ああ」
俺は正直言って、大砂川は苦手なタイプド直球だ。
「さて2人揃ったところだ。早速やるか」
俺は荷物を置き、大砂川と共に庭の一画で突っ立っていると、老師がオートバイに乗って颯爽と登場した。しかもノーヘルである。カルガモの親子のように老師が乗るオートバイの後ろにもう1台、無人のオートバイが付いてきている。
「お前たち2人には、このオートバイを乗りこなしてもらう」
老師はオートバイから降り、開口一番そう言った。
「…それだけか」
「それだけだ」
「それだけなのか?!」
「それだけだ」
老師は2回目、少々強めに言っていた。
「しかしアマハ老師!オートバイに乗ることが本当に修行なのでしょうか?!」
「大砂川と同意見だ。バイクに乗ることでどう強くなるっていうんだ」
「フッフッフ、このオートバイはただのオートバイではない」
得意げに何か話し始めたな。
「このオートバイは、意思を持っている。その名も『機動馬』、このオートバイを乗りこなした時こそ、己の強さが認められたということになる」
「つまりこの機動馬は、強い者にしか乗りこなせないということか」
「うむ、その通りだ。因みにコイツは『鉄で出来た生物』だからな、体力がある限り走ることが出来る。まあ滅多なことがない限りそんなことは無い」
「2台あるがどちらに乗るんだ?!」
2台の機動馬、一方は赤でもう一方は青である。
「青の機動馬『オモノ』には醍醐、赤の機動馬『コヨシ』には信太に乗ってもらう。まず機動馬に跨がってみろ」
老師に言われるがまま、俺たちはそれぞれ機動馬に跨がる。
「エンジンはどう掛ける、ってこれは生き物だったな…!どうやって走るんだ?!」
「強さを認められれば、跨がった段階でオートバイにエンジンが掛かる。何も起こらないということは、そういうことだ」
「なるほど、確かに俺のバイクもびくともしないな。それで、どうやって俺たちの強さを証明する?」
「決闘なら受けて立つぞ、厨川醍醐!」
大砂川は指差しポーズで俺に言ってきた。
「決闘だと片方強いということしか証明されんじゃろが」
「…それもそうだな!で、どうするのだ?!」
「あそこの山にいる、アリズドッグを狩ってこい。首を持ってきたら機動馬たちは認めてくれるだろう」
アリズドッグとは6月、三高に現れた巨大生物のことだ。本来の生息地はここアティカシアで、目の前に聳える山はどうやらアリズドッグが大量に生息しているらしい。
「老師もなかなかスパルタだ。リッキーノでやっと倒したデカブツを生身で倒せとはな」
「でもやるだろう?!厨川醍醐よ!」
「ああ勿論だ、大砂川」
「そうと決まれば出発だ!」
こうして俺と大砂川はアリズドッグを狩りに山へ向かった。未舗装ではあるものの、麓から頂上まで登山道が整備されているみたいだが本当に出てくるのか?などとと思いつつ、山道を歩いていると大きな足跡を発見した。
「これは…アリズドッグの足跡か?!」
「その可能性が高い」
「そういえば以前アリズドッグと戦った時はどうやって倒したんだ?!」
「リッキーノの目からビームで一撃」
「そうか!目からビーム、頑張れば出せないか?!こう、気合いで!フン!」
「何バカなことを言っている」
その時、山にアリズドッグの鳴き声がこだまする。
「近くにいるのか?!」
次第に大きくなる足音、それも1匹ではない。
「早速お出ましのようだな」
俺も抜刀する構えを取る。同時に大砂川は薙刀を構えた。
10秒後、大きな鳴き声と共に本丸が姿を現した。アリズドッグ、しかも2体だ。
「一度に2体、探す手間が省けたな!うおおお!」
現れるやいなや大砂川は薙刀で突っ込んでいく。
「焦っては奴に勝てん。奴の動きを見ろ」
俺は抜刀し、相手の出方を伺う。後ろを向くモーション、すなわち尾での薙ぎ払いか…!
「甘い!」
俺は飛び上がり、アリズドッグの脳天を狙う。しかしここはアリズドッグが一枚上手だった。突如モーションを変え、火炎放射をしてきたのだ。まずい、だが俺は改造人間、人間には到底不可能な動きをすることだってできる。俺は脳天狙いの態勢から回避態勢へと空中で咄嗟に変える。アリズドッグの口が大きく開き、渦となった火炎が放射された。なんとか回避成功だ。
地面に着地して方向を変え、再びアリズドッグへ向かう。今度は攻撃を当てることに成功した。だがアリズドッグの皮膚が硬く、刃が通らない。
「何だこいつは!さっきから攻撃を当てているのにちっとも効いていないじゃないか!」
どうやら大砂川も俺と同じ状況らしい。
「生物ならば弱点はある」
俺は自分へ言い聞かせるように言った。
そして俺たちは引き続き、アリズドッグの攻撃を回避しながら、攻撃を当てていくことに徹する。しかし解決の糸口が見えぬまま時間は過ぎていき、体力は消耗する一方だ。
「くそっ、万事休すってやつだな」
俺たちはいよいよ万策尽きてしまった。疲弊し切った体に容赦なく、アリズドッグの火炎放射が襲いかかるみたいだ。アリズドッグは火炎放射のモーションへ入る。いくら改造人間といえども所詮は人間、体力が無ければ動くことは出来ない。今の俺は満足に逃げることが出来ないくらいには疲弊していた。
「厨川醍醐!大丈夫か?!」
大砂川はこちらを見て言っているが、そちらこそ大丈夫か?ほら、言わんこっちゃない。よそ見をして攻撃を食らい、飛ばされてしまった。何やってんだ。…いやそれは俺の方か…。
口から黒煙が漏れだし、まもなく俺は業火で焼き尽くされることだろう。どうすればいいんだ。アリズドッグの口が大きく開き、火炎放射が…ってん?何も起こらない?
どうやら俺は救われたようだ。だがここからが問題、さてコイツをどうやって倒すか。
「厨川醍醐!腹部を狙え!」
やや遠くから聞こえる大砂川の声。
「腹部にごくわずかだが、皮膚が柔らかい箇所がある!そこを狙えばアリズドッグの活動が大人しくなるだろう!」
先に大砂川にアリズドッグを攻略されてしまうとは不覚だが、それが分かればこっちのものだ。で、肝心の『柔らかい箇所』だがどこのことだ?
「おい、さっぱり分からん」
遠くにいる大砂川に向けて、大声で言う。
「微妙に色が違う!多分そこが柔らかい箇所だ!多分絶対だ!」
期待したのが間違いだった。『多分絶対』の時点で期待値はだいぶ下がった。でも何も打開策が無いこの状況、試してみる価値はある。確かに一部分だけ皮膚の色が薄い部分がある。そこを狙うか。
「はあああ!」
俺は腹部狙いでアリズドッグに立ち向かう。1度目は失敗したが、2度目の攻撃は腹部の柔らかいと思しき場所に命中した。
アリズドッグは雄叫びを上げて、その場に倒れ込んだ。どうやら絶命したらしい。俺がアリズドッグを討伐したのと同じタイミングで大砂川もアリズドッグを倒したみたいだった。同じような雄叫びが聞こえる。
「まさか大砂川が先に弱点を見つけ出すとはな」
「まあ勘だったんだがな!運が良かっただけだ!」
「そうか」
「厨川醍醐、感謝の言葉が無いぞ!」
「この借りは必ず返す」
「君はそういうやつだったな…!だがそれでこそ厨川醍醐だ!」
俺たちはそれぞれ討伐したアリズドッグの首を老師の元へ持ち帰る。
「アマハ老師!アリズドッグを狩って帰って参りました!」
「これで良いんだよな?」
俺たちはそれぞれのアリズドッグの首を老師に見せる。
「まさかこんなに早くアリズドッグを討伐するとはな、流石だ」
「さあ機動馬よ!俺様たちの強さを認めてくれ!」
「これが俺たちの力だ」
俺と大砂川はそれぞれ機動馬オモノ、コヨシに話し掛けると、ライトが点滅しエンジンが掛かった。
「機動馬は2人を認めたみたいだな」
老師は腕を組み、「この2人はワシが育てたんだぞ」と言わんばかりの満足そうな表情を浮かべていた。
「さて飯にでもするか。大したもんは準備出来なかったがな」
大したもんは準備出来なかった割りには、家の外からでも豪勢な料理が並んでいるように見える。本当は早く討伐して帰ってくることを老師は予見していたんじゃないのか。
キャラクター紹介!
(27)五堂恭介
所属:秋田県立湯南高等学校1年B組
誕生日:5月16日
一人称「ワイ」、勝雄の地元の友人。生粋の秋田県民だが、何故か関西弁のような口調で話す。エセ関西弁は得意だが、英語は苦手。




