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三高生活委員カツオ  作者: けいティー
第3章 農聖王編
23/26

第23話 主役は遅れてやってくるのよ

「ということは、神代さんは普通の人間ではなくなるのですか?」

「…ワタクシの蘇生法ではそうなりますわ。ですが今はこの方法しかありませんの」

 少々間があった後、会長は答えた。しかし僕たちの不安そうな表情で察したのか、さらに続ける。

「イクサヤマドリを体内に宿したところで、日常生活を送る分には支障ありませんわ」

「なら問題は無いな。頼んだ」

「そうだな、会長お願いします」

「神代さんをお願いします!」

 厨川くん、僕、四ッ谷さんは会長に今一度、神代さんの蘇生を頼んだ。

「では改めまして、始めますわよ!」

 神代さんの胸元に置いた石版に右手をかざす会長。10秒もしないうちに石版が青白く光り始めた。そしてみるみるうちに胸部の傷が塞がっていく。

「うっ…」

「会長、大丈夫ですか?」

 会長は左手で胸元を押さえ、苦しそうにしている。

「こ、これくらい…平気…です…わ…」

 明らかに大丈夫ではなさそうだ。額に汗をかき、苦痛に顔を歪めている。

 蘇生法とやらはものの1分で終わった。しかし会長は終わった途端、その場に座り込んでしまった。

「会長!」

「明日中には…目を…覚ましますわ…」

 会長の言葉が弱々しい。

「神代は生き返ったみたいだな」

 厨川くんは神代さんの脈拍を確認し、僕たちにそう告げる。四ッ谷さんも厨川くんの真似をして脈拍を確認、喜んでいた。

「ええ…」

「ありがとうございます、会長。ですが今度は会長が…」

「もう1つの…余っているベッドに…寝させて…もらえますか…」

 僕と厨川くんで、神代さんの隣のベッドに会長を寝させる。会長の体が熱い。かなり火照っている。

「冷却シートと、タオルと、それから氷枕です」

 僕は四ッ谷さんに頼んで役立ちそうなグッズを持ってきてもらった。まあ全て保健室内で調達したものだが、こんなものだろう。

「お水と体温計も、持ってきますね」

 再び保健室内を物色する四ッ谷さん。

「申し訳…ありませんの…この蘇生法は…体への負担が…大きくて…一生のうち…そう何度も…使えるシロモノでは…ありませんわ」

 会長の声は依然として弱々しい。

「そこまでして神代さんを救って下さるとは…」

「と…当然ですわ…」

「もう喋るな、今は体の回復に専念しろ」

「あ…あなた…見かけによらず…優しいですわね…」

 会長の言葉に厨川くんが少し照れているように見えるのは僕だけか?

「一晩俺はここに残る。お前らは一旦帰れ」

「でも…」

「遅くならないうちに帰った方が良い。家族が心配する」

「そうか、今日の厨川くんは何だか優しいな。てか、厨川くんこそ、家族が心配するんじゃないのか」

「俺は一人暮らしだからな、心配いらん。…分かったならとっとと帰れ」

「分かった。四ッ谷さん、帰ろう」

「うん」

 僕と四ッ谷さんは保健室を後にした。


 翌日、僕は登校して真っ先に保健室へと向かった。扉を開けると、昨日と同じ体勢で厨川くんが座っているのが見えた。

「おはよう、2人の調子はどう?」

「神代の様子は相変わらずだ。ミリノは平熱に戻って今は静かに寝ている」

「厨川くんはずっと起きていたのか?」

「…まあな。俺は改造人間、多少徹夜したところで平気だ。俺はこの2人の目が覚めるまでここにいる」

「そうなのか。まあ無理はするなよ、じゃ」

 そう言って僕は保健室を後にした。


 この日、土崎先生は学校を休んだ。代わりにホームルームを担当した副担任からは体調不良だと伝えられたが、恐らくリッキーノの修繕をしているのだろう。リッキーノは修理中、神代さんは眠り続けている今、ゴーターと土買さんに対抗出来る戦力は僕と厨川くん、四ッ谷さんの3人だけ。とてもじゃないが、3人だけでは勝てそうにない。

「何ボーッとしてるんだ?」

 教科書の背表紙で僕の頭をコツンと叩く。ゴーターだの土買さんだの、そんな事情を知らない杉宮くんだ。

「きっと暑くてだね」

 同じく生保内くんも呑気だ。

「ああ、いや何でも…」

 今日ばかりは何も起こらないことを祈ろう。現在は昼休み、あと半日だ。僕は黙々と弁当を胃にかきこむ。


 しかし昼休みが終わりを告げるチャイムが鳴った頃、他の教室から耳をつんざくような大きな爆発音と悲鳴が聴こえた。午後イチの授業を担当する先生が爆発音と悲鳴が聴こえた方へ様子を見に行ったのだが、ボロボロになり這って教室まで戻ってきた。

「き、君たちは…逃げなさ…」

 先生はそう言い残して気を失ってしまった。

「みんな、逃げるよ!」

 学級委員長女子の一声により、6組の生徒は自主的に裏山の方へ避難を始める。しかし奴らに対抗し得る力を持っている僕は逃げる訳にはいかない。その対抗する力を持つ者で戦える者はわずか3人しかいないという、なかなか絶望的な状況ではあるが何とかするしかないのだ。

「勝雄、どこ行くんだ?そっちは危険だぞ!」

「ごめん、ちょっとトイレ」

「トイレなんか行ってる場合か?下手したら命に関わるんだぞ」

「でも…限界だ!」

 僕は腕章を装着しつつ、戦いの舞台へと向かう。

「あ、おい…!勝雄!…ったく、神彦!お前は先に裏山へ行ってろ。俺はあのバカ野郎を連れ戻す!」

 すぐさま杉宮くんが追いかけてきた。


 悲鳴と爆発音が聴こえた教室に到着すると、やはり土買さんがいた。爆風により窓ガラスは割れ、教室内のあらゆる物が粉々になっていた。

「フフッ、待ってたわ」

 土買さんは死能銃(フォースマグナム)炸烈弓銃(ブルームボウガン)を携え、不気味な笑みを浮かべてこちらを見た。そこへ杉宮くんがやってきた。

「おいおい、これどういうことだよ…ってあんたは…土買さん!?どうなってんだ勝雄、お前何か知ってるんじゃないのか?」

「説明は後、今は土買さんを助けることが優先だ」

「助ける?どういうこと?」

「彼女は悪い病気みたいなものにかかっているんだ。それを取り除けば…」

 竜の因子についてはだいぶオブラートに包んだ。

「だからどうやって?」

「僕がやるんだ、召喚・必勝剣(ビクティソード)!」

 僕は必勝剣を構える。杉宮くんは呆気にとられ、何も言葉が出てこない。そりゃそうだ、無から剣が生まれたからな。

「鹿平!」

「勝雄くん!」

 厨川くんと四ッ谷さんもそれぞれ武器を携えて現着した。

「役者は揃ったようね。じゃあ戦いに相応しい場所へ移動しましょうか」

 校舎を破壊して現れたダークリッキーノに、土買さんは吸い込まれていった。タイミング良く、腕章に通信が入る。

『リッキーノです。生徒玄関前に私が待機しております。私に乗ってダークリッキーノを追いかけましょう』

『こちら土崎、わたくしもいるよ。リッキーノは4人いて初めて全力を出せるからね。その人数合わせさ』

「随分と良いタイミングですね」

『ありがとうございます。これも土崎先生のお陰ですよ』

「それじゃ、行こうか」

「勝雄、今度はどこ行くんだ?」

 リッキーノの元へ向かおうとした時、杉宮くんに呼び止められた。

「心配するな。土買さんは絶対に取り戻す」

 僕はサムズアップをして杉宮くんに返した。これで良かったのだろうか。まあそれはともかく、僕たち3人はリッキーノに乗り込んでダークリッキーノの追跡をした。


 ダークリッキーノが降り立ったのは三高から少し離れた山中、その場所だけ樹木がなく、広く平らなスペースとなっている。

「リッキーノ、復活したのね。でも何度復活しようともこのダークリッキーノで叩き潰してやるわ」

「それはどうでしょう。私は土崎先生のお陰で大幅パワーアップをして蘇りました。今度こそあなたを倒します」

 リッキーノも気合充分のようだ。

「さあ、かかってきなさい」

「お望み通り!」

 まずは先制、パンチ攻撃。大きく振りかぶって構えるリッキーノ。

「ダークリッキーノの装甲は硬いの。そんなパンチじゃ…」

「くらえ!」

 ダークリッキーノにパンチがヒットした。以前とは違う。装甲に傷がついている。

「パンチ力、上がったみたいね。でもそのくらい想定済みよ」

「ならば新兵器の出番だ、リッキーノ!」

 土崎先生の言う新兵器とは何なのか。

「分かりました、超稲(イネカルン)刈鎌(スラッシャー)!」

リッキーノのコールにより新兵器が装備された。両手持ちの巨大鎌だ。早速リッキーノはダークリッキーノを目掛けて振り下ろす。

「うわあああ!」

 巨大鎌の威力は凄まじかった。あの硬い装甲に一撃で大きな傷をつけたのだ。

「そんな、だったら凶作盾(ハーベストシールド)!」

 ダークリッキーノはリッキーノ同様の盾を装備、しかし鎌の切れ味の方が上だった。呆気なく盾は斬り刻まれる。

「これが生まれ変わったリッキーノだ!」

 珍しくタメ語で言い放つリッキーノ。鎌による連撃でかなりのダメージを与えることに成功した。それでもダークリッキーノは反撃しようとするが、そろそろ限界が近付いているようだ。

「さあ皆さん決めましょう、新米の一撃!」

「「「新米の一撃!」」」

 厨川くん以外3人の技名唱和により、鎌を振るった最強の必殺技が炸裂した。しかしまだしぶとい。ダークリッキーノは鎌を白羽取った。ボロボロなのにどこにそんな力があるというのか。

「この技を、受け止めたのか…!」

 リッキーノも驚愕している。

「…まだ、負ける訳にはいかない…!」

 ダークリッキーノは白羽取ったまま、鎌を破壊しようとしていた。これはまずい。するとそこへ1羽の赤褐色の鳥が現れた。

「リッキーノ、避けて!」

「鳥が喋った…のか?先生はどう思いますか?」

「わたくしも鳥から聞こえたよ。もしかして…」

「これでどうよ!」

 その鳥は翼の部分から鋭利な羽根を飛ばす。

「ああああ!」

 断末魔と共にダークリッキーノは爆散した。ただの鳥ではないことは確かだ。

「おいしいところ、持っていかれましたね」

「リッキーノ、そんなのに拘ってるのか?終わったから良いだろ」

 僕の緊張が解けたのか、つっこむ余裕さえ出てきた。

「まあそれもそうですね」


 戦いが終わり、僕たち4人は地上へ降りる。同じタイミングであの鳥が、人間の姿へと変える。

「待たせちゃってごめん」

 身長高めなショートボブの女子生徒の姿だ。

「やはり神代さんだったのか」

「主役は遅れてやってくるのよ」

 にこやかな表情で神代さんは語る。

キャラクター紹介!

(23)ミリノ

所属:秋田県立第三高等学校3年1組、生徒会執行部(生徒会長)、エトコイ族

誕生日:12月3日

もう1つの名前:大鳥おおとりさくら


 普段は三高の生徒会長だが、その正体は異世界アティカシアの少数民族エトコイ族の少女である。エトコイ族に伝わる特殊な蘇生法で神代咲を蘇生させた。

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