第2話 応援~練習とその後~
翌日、僕は登校してすぐに担任の土崎先生に進路相談室へ呼び出された。
「これが生活委員の顔写真付きの名簿だ。しっかり覚えておくように。」
顔写真付きの名簿か、結局自己紹介すら昨日は出来なかったからな。これは助かる。僕はすぐさま名簿を確認する。
1年1組、厨川醍醐。昨日、仏頂面で腕を組んでいた七三分けの無口な男子生徒だ。その下には何やら目を疑う文字が。改造人間。は?
1年2組、鏡北登。秋田弁の坊主頭男子生徒だ。個人的には彼とは仲良く出来そうな気がしている。その下には『人間』と書いている。何故?
1年3組、四ッ谷ななか。ポニーテール黒ぶちメガネの女子生徒だ。僕のことを何故かずっと見ていたな。結局昨日声を聞かなかったが、極度の人見知りという可能性がある。その下にはまたしても『人間』と書かれていた。だからなんで?
1年4組、殿水まはる。あれは忘れもしない、サラサラロングヘアーのグラマラス美女だ。少し近寄りがたい雰囲気があるな。んで、その下には『アンドロイド』とある。…僕は夢でも見ているのか?
1年5組、神代咲。長身ショートボブの陽キャ女子生徒だ。彼女のことはアホだと思っていたが、それは間違いだと昨日分かった。自分のことを気軽に『お嬢様』と呼べと言っている奴だからな、正しくは変人だ。でもその下にある文字は『変人』ではなく『人間』だった。先生、間違ってますよ。
1年6組、鹿平勝雄、僕だ。変神代さんからは『美味しそうな名前』と言われた。そんな日本語初めましてだ。因みに僕のところにも『人間』とある。知ってた。
ここまで見て問うことはいろいろある。昨日のことも含めてな。
「改造人間とかアンドロイドとか何ですか?」
「文字通りの意味だよ。」
「だからちゃんと説明して下さいよ!」
「…実はわたくしは普通の人間ではない。超能力を使うことが出来る人間だ、そして科学者でもある。」
「超能力科学者って、科学的なのか非科学的なのか、矛盾してませんか?」
「んなことどうだって良いだろ。」
うちの担任は適当だなと改めて思った。土崎先生は話を続ける。
「厨川醍醐は改造人間だ。瀕死状態だった彼をわたくしが改造して復活させた。そして殿水まはる、彼女はわたくしが作った戦闘用アンドロイドだ。見た目は完全にわたくしの趣味さ、良いだろう?」
「改造人間とかアンドロイドとか信じられないですね。証拠はあるんですか?」
「戦ってみれば分かる。でも生身の鹿平君では返り討ちに遭うだけなのだがね。死ぬかもしれないよ。」
「…分かりました、とりあえず今は信じます。」
と言いつつも信じられないが、本当に改造人間、アンドロイドだった時に困るからな。命大事に、念のため。
「あと、昨日言っていた『異世界への入り口』とは何ですか?」
「こことは違う世界への入り口だ。失踪事件の犯人はこの入り口を通って、いや我々からすれば出口なのだが、それを通って犯人はこの世界にやって来た可能性が高い。実際、異世界への入り口が出現してから生徒が次々と失踪している。」
「その犯人とは一体…。」
「恐らく、わたくし同様に超能力を使う人間であると考えられる。捕まえても超能力で逃げられてしまう。だから戦って倒す必要があるんだ。」
「戦って倒すって言ったって、僕普通の人間ですよ?僕だけじゃない、鏡くんや四ッ谷さん、神代さんだって普通の人間だ!」
「それは心配ご無用。わたくしは君たち普通の人間向けに秘密兵器を用意しているのだよ。応援練習後に昨日の教室に集合、そこで御披露目しよう。楽しみにしておくと良い。名簿は返してね。じゃあまた後で。」
土崎先生は名簿を持って、軽やかな足取りで部屋を出ていった。
「土崎に朝から呼び出されるとはなあ、何かしたのか?」
1年6組の教室へ戻ると、からかうようにクラスメイトの男子生徒が話し掛けてきた。昨日の係決めでのキャラ崩壊が切っ掛けなのか、あれから話し掛けられるようになった。僕に話し掛けてきた彼の名前は杉宮理音。
「別に何にも。」
「ふーん、怪しいな。」
杉宮くんは目を細めて僕の方を見る。
「まあいいや、そんなことより今日の放課後、応援練習あるぞ。勝雄は団歌覚えてきたか?俺は全くだ。」
「まあね、死に物狂いで覚えてきたよ。」
僕はドヤ顔で杉宮くんに言ってみる。
「何だと!俺は、お前が仲間だと思っていたのに…。」
「まあまだ朝だし、これから頑張って覚えよう。」
「勝雄は、どうやって歌詞覚えた?」
「何度も声に出して読んだ。暗記にはインプットは勿論、アウトプットも大事だよ。」
「その方法じゃ授業中に覚えられないじゃねえか…。」
「自業自得だね。でも何もしないよりは少しでも覚えた方が良い、頑張れ。」
「トホホ…。」
そう言って、うつ向き加減で杉宮くんは自分の席へ戻っていった。
放課後、応援練習の時間となった。僕は教室の清掃を終えて、足早に裏山へ向かう。ちんたらしていると応援委員(応援練習を取り仕切る委員)に注意されるので、基本的に駆け足で移動する。
裏山に到着すると、既に1年生全員が揃っていた。三高の応援練習は1年生だけのイベント、応援委員主導のもと校歌や団歌などを歌う、というか叫ぶようなものだ。そうでもしないと応援委員に注意され、前の方に摘まみ出されるらしい。まだ初日なのでよく分からないが、県内でもトップクラスに厳しいことで有名だとか。これが伝統なんだもんなあと思っていた矢先、下駄を履き、白い服を身に纏った男子生徒が現れた。どうやらこの人が応援委員会の委員長、すなわち応援団長みたいだ。
「最初は校歌を歌う、腹から声出せよ!」
団長の力強い声が裏山に響き渡る。
「「「押忍!」」」
僕含む1年生の声も同様に響き渡る。そして校歌を歌う為、姿勢を正す。
「校歌、斉唱!」
団長の掛け声と共に吹奏楽部の演奏が始まった。僕は力の限り声を出す。もう喉を痛めるとかどうでも良い、とにかく応援委員に摘まみ出されないようにせねば。
何とか校歌を歌いきり、次は団歌を歌う。団長の「団歌ぁぁ!」の掛け声に1年生は「セイヤッ!」と答える。言い回しが難しい歌だが、暗記の甲斐もあってここでも耐えた。その後、武道部歌、競技部歌などを歌い、また団歌に戻る。朝の段階で団歌を覚えていなかった杉宮くんは早くも応援委員に摘まみ出され、前にいた。そして何度目かの団歌を歌っている時、事件が起きた。
「お前、前に出ろ。」
応援委員に摘まみ出されてしまった。何故だ?ちゃんと暗記して歌っていたのに。声も出ていた。向こうの勘違いだとすれば、完全にとばっちりである。不服ではあるが、応援委員に歯向かっても無駄だ。やれやれと思いながら渋々前に出る。
前に出たことによって、200人超の1年生から注目を浴びる。なかなか恥ずかしい。因みに僕の隣には杉宮くんがおり、彼はニヤニヤしていた。
「ニヤニヤするな!真面目にやれ!」
「お…押忍!」
団長に注意された杉宮くんは慌てて返事をする。
最後に校歌を歌い、裏山での応援練習初日は終わった。6組から解散ということで僕と杉宮くんは帰ろうとしたのだが「お前は帰るんじゃねえ!」と団長に引き止められ、他の6組生徒の帰りを見送る形となった。全クラスが帰ってから裏山に団長と共に残ったのは僕含めて6人。僕と杉宮くん、1組の生徒2人、4組の生徒、そしてあの特徴的な坊主頭の鏡北登くんもいた。
「お前らはさっきの応援練習で全然声が出ていなかった!お前たちの声が出るまで付き合ってやるから、感謝しろよ!」
誰が感謝するかよ、頼んでもねえよ、などという気持ちはぐっと堪えて「押忍!」と返事をする。
ここからは声が出ている人から帰れるらしく、がむしゃらに声を出した結果、割りと早く団長の居残り練習から解放された。鏡くんとほぼ同じタイミングだったので、一緒に委員会が行われる特別教室へ向かうこととなった。
「鹿平くん、だべ?おめも居残り練習仲間だどは思わねがった。」
鏡くん、相変わらずの秋田弁である。
「実は僕の場合はとばっちりというか…。」
「おめもんだなが!実はおらもだ!なしてこうなるべなー。」
「理不尽だよね。まあ次は頑張ろう。」
「んだな!」
僕と鏡くんは会話をしながら特別教室へ行き、引き戸を開ける。さすがに居残り練習で遅くなったので生活委員全員集合、かと思いきや、そこにいたのは土崎先生、厨川くん、殿水さんだけだった。
「随分と遅かったね、居残り練習お疲れ様。君たちは来てくれたみたいで良かったよ。」
土崎先生は僕と鏡くんの姿を見て言う。
「すみません、遅くなって。あれ全員揃っていないみたいですが。」
僕は改めて頭の数を数えて言うと、それに殿水さんは答えた。
「四ッ谷さんも神代さんも応援練習の時にはいたのですが、まだ来ておりませんね。3組と5組の教室にもおりませんでしたので、もう帰ってしまったと思います。」
「全く、約束をすっぽかすとは何のつもりだ?」
厨川くんは椅子に座り、腕を組んで貧乏ゆすりをしていた。
「明日の朝、わたくしからも彼女らに注意するから、君たちも見かけたら頼むよ。あと鏡くんにはまだ例の話をしていなかったね。」
土崎先生はそう言うと、僕に今日の朝話してくれたことと同じ話を鏡くんにもした。
「ほぉー、先生が超能力者で厨川くんは改造人間、そして殿水さんはアンドロイド!そりゃすげごど!」
鏡くん、何故君はそんなにすんなりと受け入れられるんだ…。
「疑う訳ではねんだども、何か一発見せでほしっす!」
「確かに。本当かどうか疑わしいですし。」
「良いだろう…。」
厨川くんはどこからか日本刀を出現させ、刀を一振りした。すると机と椅子が綺麗に真っ二つになった。そして刀を置き、拳を握り締めるとそのまま黒板を殴った。黒板どころかその後ろの壁にも大きな穴が空いた。これはもう人間技ではない。
殿水さんに関しては厨川くんのように破壊はしなかったものの、右腕をバズーカに変形させるというこれまたびっくりな仕掛けを披露してくれた。
「あーあ、ちょっとやり過ぎだよ。」
土崎先生はそうぼやきつつ、破壊された箇所に手をかざすとみるみるうちに修復されていった。これは超能力者で間違いない。
「どうだい?信じてくれたかな?」
「…これは信じざるを得ませんね。」
ここまで見せられたらもう信じるしかない。
「こんなの初めて見だど…!」
鏡くんは目を輝かせていた。
「さて、君たちが信じてくれたところで普通の人間専用秘密兵器の御披露目だ!」
土崎先生は近くにあったアタッシュケースを手に取り、カチャカチャと慣れた手つきで開く。いよいよその秘密兵器の全貌が明かされる…!
今回からキャラクター紹介をします。
(1)鹿平勝雄
所属:1年6組
誕生日:6月21日
一人称「僕」、普通の人間である。実はオタクで、アニメや特撮に詳しい。カードやフィギュアをコレクションしている。