第19話 この瓶の中の液体は何でしょう?
「そうと決まれば早速…」
芝童森さん、いやあんな詐欺師まがいのことをする奴に「さん」付けは要らないか。芝童森の姿は徐々に変わっていき、2本の角に鋭い牙、全身が刺々の怪物に変化した。
「召喚・必勝剣!」
「召喚・咲裂弓銃!」
「召喚・四能銃!」
僕、神代さん、四ッ谷さんはそれぞれ腕章を装着、それぞれの第三神器をマテリアライズし、装備する。厨川くんはどこからともなく取り出した日本刀を構える。
「普段は君たちのバックアップだが、今日は助太刀させてもらおうかな」
土崎先生も臨戦態勢だ。
「行けっ、オリフソン兵!」
芝童森が指を鳴らすと上空から中世ヨーロッパ的な見た目の兵士が降ってきた。見渡す限りの兵士、兵士である。一体全体何体いるのだろうか。兵士たちは危なげもなく地面へ着地すると、そのまま僕たちの方へ向かってきた。
「はあああ!」
幸いにも相手の武器は剣で僕も剣。目の前の兵士を倒し、芝童森の元へ行かなければならない。奴が戦闘を放棄して逃げてしまう可能性も0ではないからな。
僕は芝童森を徹底的に信用していない。勝ったら本当に貰えるのかもよく分からない。しかし今はこの剣を振るうのみだ。
「雑魚狩りはお前たちがやれ!芝童森、お前の相手は俺だ!」
「おい、ちょっと待て!」
僕の制止も虚しく厨川くんは兵士を完全無視し、一直線に芝童森の元へ向かう。
「くそっ、キリが無い…」
剣でちまちま倒しているようでは日が暮れて夜が明けてしまう。
『ここはあたしたちに任せて!行くよ、ななか!』
『うん!』
腕章の通信機能で僕へ呼び掛ける神代さんと四ッ谷さんは、いつの間にか校舎の屋上にいた。
「何か作戦があるのか?」
『勝雄、あんたは避けてて!』
とりあえず神代さんに言われるがまま避ける。
『ななか、お願い!』
『うん!集約弾、発射!』
四能銃から放たれた弾丸は手前にいた兵士に当たる。そしてその兵士を中心に、磁石のように兵士だけがくっついていく。凄いなこれは。
『くらえ!』
お次は神代さんによる咲裂弓銃の連射攻撃。
『おりゃあああ!』
オーバーキルかと思うくらいの容赦ない攻撃が兵士を襲う。辺りは一面爆煙に包まれるが、ここに僕いるの忘れてないか。ちょっとでも回避場所がずれていたら被弾していただろう。
因みに土崎先生はどこへ行ったかというと、
『わたくしが新たに開発した集約弾、なかなかやるね』
神代さんたちと共に高みの見物で自画自賛していた。
煙が晴れるとそこへ居たのは芝童森と、芝童森と対峙している厨川くんのみであった。ということは、芝童森が召喚したオリフソン兵は全滅したということだ。
「あなた方の力、わたしの想定以上ですよ」
どこか余裕綽々といった口調で話す芝童森。
「よそ見をするな!」
厨川くんは刀で芝童森を突こうとする。しかしあっさりと左手で防がれてしまった。
「何っ!」
「そろそろわたしも本気を出す頃ですかね」
厨川くんの刀を押し退け、芝童森の右拳による腹部への攻撃が決まる。厨川くんは怯み、少し後ずさる。
徐に赤褐色の液体が入った、蓋付きの小瓶を取り出した芝童森。
「さて問題です。この瓶の中の液体は何でしょう?」
「貴様と問答を繰り広げている場合ではない!」
芝童森に対し、お構い無しに斬りかかる厨川くん。小瓶の破壊を狙ったか。
「血の気が多いですね。あなたは人を斬りつけることしか能がないのですか?」
芝童森は右手から発せられるバリアによって厨川くんを弾き飛ばした。
「くっ、面倒な奴だ」
厨川くんは弾き飛ばされて倒れ込むが、刀を杖代わりにすぐさま立ち上がった。流石改造人間、体は僕たちより丈夫だ。
「さて改めて問題です。この瓶の中の液体は何でしょう?」
そして再び始まるクイズ大会。
「毒じゃないかしら?あれを口に含んで毒霧を発射するのよ!」
屋上から戻ってきた神代さんは調子良く答える。プロレス技じゃないんだから。
「残念」
芝童森が神代さんに向けて左手をかざすと、そこから赤色の電撃が発せられた。神代さんはその場に倒れ込んでしまう。
「あ、あんた、何したのよ」
「クイズ不正解のペナルティーですよ。体の痺れは暫くしたら消えますので御安心を」
あの電撃で全員動けなくなったら負けも同然、どうする僕。
「誰かいませんか?答えないようであればわたしの勝ちということで」
何だこいつは。奴がしたかったのはクイズ大会か?だったら我々はお門違いだ。歴戦のクイズ王でも呼んで大会をすれば良い。
さてこの状況、どう打破すれば良いのだろうか。クイズに答えなければ奴は日本の貴重なお宝共々、無限の彼方へ行ってしまう。しかし答えて不正解であれば電撃を受けて行動不能に。クイズの内容としては単に「瓶の中の液体は何なのか」当てるというもの、ヒントは赤褐色という視覚情報のみ。蓋をしている為匂いは分からない。瓶の中を知る為にはどうすれば良いんだ?ヤマ勘の一か八かでいくか?
「まさかアレか?特撮でよくある『飲んだら巨大化する薬』みたいなやつか?」
頭に真っ先に浮かんだものをそのまま発した。オタク的発想だがどうだ?まさか当たっているなんてことは…。
「なんと…正解です。ではご褒美としてこの効力をお見せしましょう」
芝童森は小瓶の蓋を開けると、その中身を一気に飲み干した。
「貴様、何をしている!」
厨川くんはそう言っていたが、言った相手は芝童森…ではなく僕だった。
「いや、不正解だと神代さんみたいなことになるだろ」
「そんな下らないクイズに付き合うよりだったら、力ずくでも小瓶を破壊すれば良かっただろ!」
「は?それが出来なかったからこうするしか無かったんだよ」
「俺ならば小瓶を破壊出来た」
「何を根拠に?芝童森から一発、いや二発貰ってた癖によく言うね」
「何だと貴様!」
「ふ、2人共落ち着いて!」
僕と厨川くんの口喧嘩を仲裁したのは四ッ谷さんだった。
「い、今は、あれを倒すことに集中しよう」
四ッ谷さんが指差す方向には、校舎よりも巨大になった芝童森がいた。
「巨大化エキスを取り込んだわたしの力を見よ!」
芝童森は両手を僕たちの方へ向けると、そこから電撃を放った。が、誰一人ダメージを受けなかった。その理由はそう、アレだ。
「危機一髪でしたね。農聖王リッキーノ、只今参上いたしました」
僕たちの頼もしい仲間、リッキーノだ。リッキーノは自身の腕を僕たちの盾として使い、守ってくれた。リッキーノがいなければ、敵に巨大化された時点で詰んでいたことを考えると本当に頼もしい。
「さあ皆さん乗って下さい」
僕と厨川くん、四ッ谷さん、神代さんはリッキーノに乗り込む。芝童森の攻撃により体が痺れている神代さんは強制的に乗せられた、といった状況であるが。
神代さんは前回高所恐怖症で全くリッキーノを操縦していなかったので、今回体が痺れて行動不能になろうが特に変わらない。リッキーノ曰く「乗り込む」ことに意味があるらしい。
「こんなロボットまで持っていたとは…」
リッキーノが仲間になったのは最近の話、知らなくても無理は無い。
「流石のあなたでも、私の存在までは把握していなかったようですね」
「ですが、わたしだって負けられないのです!」
芝童森は両手から電撃を放つ。
「豊作盾!」
リッキーノは頭部の編み笠を外し、シールドにした。以前の戦いでも使っていたが、そんな名前だったのか。
当たり前といえば当たり前なのだが、この編み笠は本物ではない。あくまでも編み笠風のパーツであり、そうでなければ編み笠で電撃を弾くなど出来る訳が無い。リッキーノは盾を構えながら前進、芝童森との距離を詰める。
「わたしの攻撃が全く効かないではないか!」
「貴様、先程よりも弱いな」
厨川くんは芝童森を煽る。
「フッ、まだわたしにはこれがあるのだよ」
そう言うと芝童森の背中から生物的な翼が出現した。
「このわたしを捉えることは出来るかな?」
飛行能力を発動した芝童森は、空からリッキーノを翻弄する。
「すばしっこいですね」
「あ、あの、リッキーノさんは、その、空、飛べないんですか?」
四ッ谷さんは恐る恐る聞く。
「申し訳ありません。一切飛べません」
「となるとここは俺の出番だな」
厨川くんは操縦桿を握る。どうすると言うんだ?
「こういうのは心の眼で見るんだ」
そんなのマンガでしか聞いたこと無いんだが。
「そんなこと、出来るの…?」
「任せろ」
四ッ谷さんの心配をよそに厨川くんは一言。何だか頼もしい。
厨川くんが瞳を閉じると、リッキーノも連動して瞳を閉じる。数秒の沈黙の後、
「ここだ!」
背後からやって来た芝童森に対し、リッキーノ(厳密にはリッキーノを操縦する厨川くんかな)は振り向きざまの手刀で墜落させた。お見事。
「今だ、種苗交換ビーム!」
「「種苗交換ビーム!」」
リッキーノに続いて僕と四ッ谷さんは必殺技をコールする。コールの後にリッキーノの目からビームが炸裂、芝童森を撃破した。
「…わたしの完敗です。ですが、いずれまた、わたしはそのお宝を奪いに行きますよ」
そう言い残して芝童森は空へ飛び立っていった。そして無事お宝回収に成功。
リッキーノは僕たち4人を地上に降ろした後、記憶改竄フラッシュの光と共に姿を消した。体が痺れて動けなくなっていた神代さんだったが、一定時間が経過したらしく痺れが消え、動けるようになった。これで一件落着かと思ったのだが、聞き覚えのある嫌な声が耳に入った。
「君たち総じて賢いじゃないか。1名を除いては」
ゴーターが神代さんを見て言う。
「何こっち見て言ってんのよ!」
「不満かな?」
「不満よ!」
「じゃあどうするのかな?」
「あんたをボコボコにするに決まってるでしょ!」
「待て、ここで戦ったら奴の思うツボだ。先ずは何故ここにいるのか聞かないと」
「あんたは本当に平和主義者ね」
僕の制止に渋々了承する神代さん。しかし芝童森とは対話せず、あっさり戦いに乗ってしまった僕は本当に平和主義者なのだろうか。
「鹿平勝雄、正しい判断だね。でもその判断が命取りになるかも」
ゴーターは一瞬のうちに僕の背後へ回り、強烈な一撃を与えた。僕は数メートル飛ばされ倒れ込む。
キャラクター紹介!
(19)オリフソン兵
所属:オリフソン星
誕生日:不明
オリフソン星で開発された戦闘用アンドロイド。中世ヨーロッパっぽいデザインが特徴である。