第17話 いきますよ、種苗交換ビーム!
頭部に編み笠、左肩にはマントを装着しているという特徴的な見た目の巨大ロボ、その名は『農聖王リッキーノ』。我々4人のピンチに駆け付けてくれた。これが土崎先生の言っていた「巨大生物に対抗する為の兵器」みたいだ。
「さあ、今のうちに私に乗って下さい」
「乗る?君は操縦しなくても意思を持って動いているロボじゃないか」
「確かにそうです。ですが、鹿平勝雄さんや皆さんの力があればさらに強くなれます」
「そ、そうなのか?」
うーん、いまいち良く分からないな。「さらに強くなれる」というのが漠然とし過ぎている。
「アリズドッグが起き上がる前に、さあ皆さん乗って下さい!」
まあアリズドッグを倒せるならここは乗るしかないよな。ということで僕たち4人はリッキーノに乗り込む、というか強制的に乗せられた。一瞬にして我々はコックピットへ来たがどんな仕組みなんだろうか。
さて乗り込んだは良いが、読者の皆はロボットを操縦した経験はあるだろうか。因みに僕は無い。勿論厨川くんも四ッ谷さんも神代さんも無いらしい。コックピットからは360度全体を見回すことも可能だが、他のコックピットにいる仲間の様子も見ることが出来るようになっている。他3人を見る感じ、恐らくそうだ。その3人のうち、明らかに様子がおかしい方が1名、神代さんだ。
「あ、あたし、高所恐怖症なんですけど…」
「ビビるな、みっともない。戦士として失格だ」
厨川くん、自分は高所恐怖症じゃないからって随分キツいこと言うねえ。
「はあ?あたしいつから戦士になったって言うのよ?あたしは学生よ、JKなの!」
「操縦方法につきましては、私からあなた方の脳内に情報を直接インプットいたしますので」
リッキーノがそう言った直後、強烈な頭痛が走る。痛い。思わず膝をついてしまうレベルにはね。
10秒後、頭痛は治まった。何ということだろう、今の僕にはこのロボットを操作出来るような気がしてならない。とりあえず操縦桿を握ってみると、無意識のうちに操作していた。あたかも以前からこのロボットに乗っていたかのように。高所恐怖症の神代さんはやっぱり高所恐怖症で、コックピットの壁にしがみついて動かない。
起き上がり突進してきたアリズドッグにパンチを食らわせる。続けざまにキック、かなり効いているようだ。
「力が溢れますね。ありがとうございます」
何も感謝されるようなことはしていないけども。まあ今はアリズドッグを倒すことに集中しよう。
続いてアリズドッグは口から火炎放射を行う。ここは頭部の編み笠を左手に、盾のように装備して攻撃を防いだ。再び間合いを詰めてチョップ、そして膝蹴り。かなり弱ってきている。
「よし、皆さん必殺技ですよ」
リッキーノの指示により、僕たち4人はコックピット内の必殺技発動スイッチを押す。
「皆さん、私の後に続いてこう叫ぶのです。『種苗交換ビーム!』」
何だその見当もつかない技名は。
「いきますよ、種苗交換ビーム!」
「「種苗交換ビーム!」」
あれ、2名ほど言ってないな。僕は言ったし、もう1人の声の主は四ッ谷さん、ということはお察し下さいね。
僕と四ッ谷さんの必殺技コールの後、放たれた種苗交換ビーム、もとい「目からビーム」はアリズドッグの体を貫いた。アリズドッグは爆発、我々生活委員会が勝利した。
「また皆さんと戦えて嬉しく思います」
「また?どういうことだ?」
厨川くんが呟く。確かにこの「また」というのは気になるな。
「私は殿水まはるの記憶を受け継いでいるのです。あなた方と戦い、ゴーターに敗れ去ったその記憶を」
これは驚いた。『第1世代型アンドロイド』と呼ばれる初期型はバックアップ出来ないんじゃなかったのか?
「リッキーノは、まはるちゃんってこと?」
「まあそうとも言えるでしょう。ですが彼女とは似ても似つかない見た目ですし半分殿水まはるですかね。皆さん、これからよろしくお願いいたします」
ここまで律儀なロボットは初めて見た。
「ね、ねえ。もう終わったでしょ?お、降ろしなさいよ」
一刻も早く地上に降りたい神代さん。
「これは失礼。では皆さんを降ろしましょう」
我々は一瞬にして地上へ戻ってきた。
「私には最後にやることがあります」
そう言ってリッキーノが見つめる先は、アリズドッグによって破壊された町だ。
「生活委員やその他特別な力を持った方以外のこの町の方々、そしてこの町そのものに『記憶改竄フラッシュ』を行います」
その技、殿水さんも使っていたのを思い出す。
「記憶改竄フラッシュ!」
リッキーノの両目から発せられた眩い光はこの町を包み込んだ。光が消えるとリッキーノの姿も消えていた。これで町に現れた巨大生物騒ぎ、巨大ロボット騒ぎは無かったことになったらしい。町も元通りになった。何とまあ都合の良い能力だろう。
戦いの後、僕はリッキーノについて土崎先生に聞いた。土崎先生曰く、殿水さんは体に大きな損傷を負って活動を停止したものの記憶だけは無傷であり、その殿水さんの記憶を丁度開発途中であったリッキーノに移植したらしい。つまりリッキーノは殿水まはるであって殿水まはるではない、みたいな感じだ。
「殿水まはるはわたくしたちの仲間だ。戦いの中散っていった彼女を忘れてはならない」
土崎先生はそう語ってくれた。そして『記憶改竄フラッシュ』によって町中の人の記憶が改竄された訳だが、どう改竄されたか確認する為、杉宮くんに聞いてみた。彼曰く「今日は避難訓練があった」ということらしい。
その日の帰り、
「か、勝雄くん…。一緒に帰らない?」
「ああ。いいよ」
四ッ谷さんとの帰宅のお誘いだ。以外にも四ッ谷さんと一緒に帰るのは今まで無かった。と言っても駅からは方向が違うのでそこまでなのだが。
玄関で待ち合わせをし、2人で高校前のバス停まで歩く。しかしこのシチュエーション、非リアで恋愛関係音沙汰無しの僕にとっては慣れない状況。勿論会話は無い。
バス停で待つ。バスが来るまではまだ時間があるな。僕は思考を巡らす。僕と四ッ谷さんの共通の話題といえば、アレだね。アレの話をしよう。先ずは無難にいく。
「最近の秋宮ハルキ観てる?」
補足、『秋宮ハルキ』とはテレビアニメ『憂鬱なる秋宮ハルキ』のことである。
「うん…毎週欠かさず観てるよ」
「そうか、そろそろ2クール目だな」
「そうだね」
「楽しみだな」
「うん」
何だこのぎこちない会話は。今考えてみると四ッ谷さんと共通の趣味について談義する時はチャット内が殆どだ。面と向かって話すのって思っているより少なかった気がする。また沈黙になってしまった。何で今日僕を誘ってくれたのか気になるが、まあ何となく見当はついている。しかし今は我慢だ。次はあの話題にしよう。
「最近あれ観たんだよね。『県民斉唱スンホギア』。」
「その作品知ってる!まだ観たことは無いんだけどね…」
お、良い感じに食らい付いてくれた。
「バトルもののアニメなんだけど、拳1つで立ち向かう主人公とか剣を振るって戦う先輩戦士がカッコいいんだ。迫力のあるバトルシーンだけでなく、劇中挿入歌がもう神曲揃いでさ…」
おっと、1人で盛り上がってしまった。オタクはこういう時に話しすぎてしまうのが玉に瑕だ。自重しなければ。
「へぇー、そんなに面白いんだね。今度観てみようかな」
四ッ谷さんの表情がゆるむ。これは『怪我の功名』ってやつかな?
「是非観てみてくれ。『農免ファーマー』シリーズが好きだったら絶対ハマるよ」
補足、『農免ファーマー』シリーズとは日曜あさ9時から放送している特撮ドラマである。現在放送しているのは『農免ファーマービリド』、日曜あさ放送でありながらシリアス展開の連続で、それでいてなかなか面白い。
そしてここからはその『農免ファーマー』の話に。四ッ谷さんの緊張もほぐれてきたような気がする。
話をしているうちにバスが停留所にやって来た。僕たちはバスに乗り込み、終点の駅前バスターミナルで下車する。
まだ電車が来るまで時間があるので、僕たちは駅の待合室の椅子に座る。
「今日は大変だったね」
「ああ。なかなか衝撃的な1日だった」
「リッキーノに乗った時、ロボットアニメのパイロットとか戦隊メンバーの一員みたいな気分になれて実はちょっと楽しかったんだ。あ、ごめん…。ななか…変だよね?あんな大変な状況なのに『楽しい』とか思っちゃって…。ななかどうかしてる…」
「僕も楽しかったよ、実は」
「え?」
「あんな巨大ロボに乗って、戦って。特撮オタクなら興奮して当然だよ。必殺技コールもやってて凄く楽しかった。厨川くんは性格的に必殺技コールみたいな、ああいうの絶対にやらないだろうし、神代さんは高所恐怖症でそれどころじゃ無かったけど、でも『生活委員会』として一緒に戦っているんだという一体感があって良かったよ」
少し間を置いて四ッ谷さんは話す。
「ななかも、良かったと思う」
「まさか委員会に入ったら同じ委員会の同級生が敵で、教育実習生も敵で、かと思えば巨大生物に対しロボットを操縦して打ち倒す、こんなこと全く想像していなかったな」
「そうだね。勝雄くん…委員会活動は楽しい?」
「刺激的な学生生活になって、最初は少し面倒だったけど今は楽しさが上回り始めている、って感じかな」
「ななかもそう思う。こうやって話せるのも生活委員会に入って勝雄くんとお友だちになったから」
改めてそう言われるとちょっと照れくさい。
「そろそろ時間だから行くよ」
まもなく帰りの電車が2番線にやって来る。改札を通ってホームへ行こうと、席を立って待合室を出ようとした時、
「ちょっと待って…!」
四ッ谷さんに呼び止められた。
「ん、何だ?僕が忘れ物でもしてるのか?」
先程まで座っていた場所を確認するが、忘れ物はしていないみたいだ。
「あ、あの…」
またもや四ッ谷さんの緊張モードだ。リュックの中から何かを取り出そうとしている。チラッと見えたがしっかりラッピングされている。
「それ…」
僕が見ようとすると四ッ谷さんは隠そうとする。
「もしかしてあれか?僕が今日誕生日だから…」
「う、うん…!」
四ッ谷さんはラッピングされた箱を取り出して僕にプレゼントしてくれた。
「お誕生日、おめでとう…ございます…」
「四ッ谷さん、ありがとう。やっぱり最初から僕にそれを渡すつもりで…」
「だって…渡すタイミングが…」
「今見ても良いかな?」
「家に…帰ってから開けて…」
照れくさそうに下を向く四ッ谷さん。正直言って…可愛い。
「あ!行かないと、それじゃあ!」
電車は既に来ていた。急ぎ足で改札を突破し電車に乗り込む。
因みにプレゼントだが、中身は農免ファーマービリドの変身アイテムだった。四ッ谷さんらしいセレクトだ。
キャラクター紹介!
(17)農聖王リッキーノ
所属:秋田県立第三高等学校生活委員会
一人称「私」、頭部に編み笠、左肩にはマントを装着しているという特徴的な見た目の巨大ロボ。必殺技は目からビームを放つ「種苗交換ビーム」である。