第14話 さらば!貴女の最期
「危ねえ!」
僕は赤土沖太の攻撃をギリギリで回避する。ナイフで刺されようもんなら一溜りもない。
「ここは俺がやる。お前らは先に行け」
厨川醍醐は刀を構え、赤土と対峙するようだ。しかしこの『先に行け』というのもそう上手くいかなかったのだ。
「全てはゴーター様の為に…」
赤土が定型文を呟くと、辺りの景色が一変した。
「何なんだこれは…」
見渡す限り何も無い空間、青い空と鏡のように反射する地面が広がっている。
「ここは赤土が作り出した特殊な空間ですね」
殿水まはるは今の状況を説明する。
「それは何となく分かるけどさ、どう特殊なのよ?」
僕も神代咲と同意見だ。
「それは分かりません」
いくらアンドロイドといえども全知全能ではないからな、そりゃそうか。
「場所が変わろうが関係無い。コイツを倒し、元の場所へ戻る。ただそれだけだ」
厨川くんは動揺する素振りを一切見せず、赤土に斬りかかる。しかし呆気なく避けられてしまい、なんと背後を取られてしまった。
「全てはゴーター様の為に…」
赤土はナイフを逆手に持ち替え、厨川くんの背後から急襲する。
「くそっ、俺としたことが…」
このままでは厨川くんが危ない。だが、今からでは間に合いそうに無かった。ただ1人を除いては…。
「まはるブラスター、発射!」
殿水さんは右手にエネルギーを集中させ、赤土目掛け狙撃した。赤土は被弾し、爆発した。
「ま、まはるちゃん、やり過ぎじゃない?」
「四ッ谷さんの言う通りだ。相手は生身の人間だぞ」
「いえ、問題ありませんよ。ほら」
殿水さんが指差した方向を見ると、爆風の中から赤土が現れた。
「確かに被弾していたよな」
「赤土は被弾する直前にバリアを張っていました」
「バリア?」
「はい、恐らくゴーターの能力でしょう」
殿水さんはそう分析する。そうしている間にも赤土はこちらにノロノロと向かってきていた。
「以前会った彼は確かに普通の人間でした。しかし今はアティカシアの超能力者に似た雰囲気を感じます。ちょっとやそっとでは倒れないでしょうね」
「厄介なことになったな…」
ここで厨川くんが補足する。
「この空間では俺たちは不利だ。ここは奴の縄張りみたいなもの、この空間自体が奴の身体能力を向上させているのだろう」
「じゃあ何をしても無駄ってこと?」
「その通りだ。神代にしては勘が良いな」
「『にしては』って何よ、失礼ね!」
「全てはゴーター様の為に…!」
突如、赤土は叫ぶように言った。するとみるみる傷が癒えていく。
「体力…回復…!」
か細い声で四ッ谷ななかは呟いた。
「全てはゴーター様の為に…!」
赤土が次に標的としたのは、四ッ谷さんだった。
「四ッ谷さん!」
「な、何ですか?」
「後ろ!」
厨川くんにしたのと同じ戦法だ。背後に回って奇襲をする、赤土はこれしか出来ないのか?
「まはるブラスター、発射!」
再びまはるブラスターが火を吹いた。赤土は被弾し、爆発した。デジャブである。
同じ言葉しか発しない、そして攻撃がワンパターン、まるで赤土はそういうプログラミングをされているかのような挙動をしている。ん?この予想はあながち間違いではないのかもしれない。
「みんな、背中を合わせるんだ!」
「何でそんな押しくら饅頭みたいなことしないといけないのよ」
「神代さん、ここは僕の言葉に従ってくれ。考えがある」
僕の本気を受け取ったのか、神代さんは素直に従ってくれた。相手は背後に回っての攻撃を得意としている。ならば背中をくっつけて背後からの攻撃を封じれば赤土に勝てるかもしれない。
「全てはゴーター様の為に…!」
赤土はナイフを持って真っ直ぐ厨川くんに向けて突っ込んできた。
「そんな単純な攻撃、この俺に通用しない!」
厨川くんは刀を勢い良く振り下ろした。赤土の体を纏っていた邪悪なオーラのみが斬り裂かれ、赤土はその場に倒れた。同時に僕たちは元いた高校の廊下に戻っていた。
「何とかやったな」
「鹿平、喜ぶのはまだ早い」
「そうだな、早く生徒会室へ行こう」
ここから生徒会室はすぐそこだ。ものの10秒で生徒会室の前に到着した。ラスボスはここにいるらしいが、そんなボス部屋・生徒会室前は普段と変わらない景色が広がっていた。
「ここから先が本当の戦いだ。準備は出来てるか?」
僕の呼び掛けに4人は答える。
「失礼します」
一応ノックして入室。開けた瞬間に矢とか飛んで来たら一貫の終わりだが、まあ多分大丈夫だろうという謎の自信があった。引き戸を開けると、部屋の奥にはツインテールと丸眼鏡が特徴的な、小柄の女子生徒が椅子に座って本を読み、平然と佇んでいた。彼女こそこの三高の生徒会長・大鳥桜である。
「あれっ?」
おかしなところなど何も無い。本当にここなのか?
「勝雄、教室間違えたんじゃないの?」
「そんなミスする訳無いだろ」
「ここは生徒会室ですよね?」
殿水さんは生徒会長に確認の意味で一応聞く。
「こちらは生徒会室ですわ。何の御用でしょうか?」
生徒会長は本を閉じてニッコリと微笑み、僕たちを迎え入れるような態度だ。
「詳しいことは言えませんが、ここは危険です。今すぐ逃げて下さい!」
「『危険』とは、これのことでして?」
生徒会長は立ち上がり、背中から20本を超える触手を出現させた。赤土と同様、生徒会長からも邪悪なオーラが出ている。
「生徒会長も操られているのか」
可愛い顔して背中からなかなかグロテスクなものを生やしてやがる。生徒会長がラスボス、という訳では無さそうだが戦うしかない。
「触手は厄介だな。俺が全て斬り刻んでやる」
厨川くんは居合い抜きの構えを取る。
「斬れるものなら斬ってご覧なさい!」
生徒会長は自身の背中から生やした触手を厨川くんに向けて伸ばしてきた。厨川くんは迫り来る触手攻撃の応酬に見事対応し、20本全てを斬り刻んで見せた。厨川くん凄いな。まあ確かに凄いんだが、生徒会室ズタボロになっていますよ。
「ここでは狭いですわね。場所を移しますわ」
僕の心情を読み取ったのかどうか知らないが、赤土の時と同様にバトルフィールドが学校から別の場所へと変わった。
空が夕焼けになっていることを除けば、赤土の時とほぼ同じ光景だ。
「またここなの」
神代さん、何を呑気なことを言っているんだ。
「ここではワタクシの強さは先程の3倍になりますわ」
「何倍になろうが触手が無いお前はもうなす術が無いだろう」
「その殿方はそう思っていらっしゃいますが、ワタクシはそう甘い女ではありませんわよ!」
そう言うと、生徒会長の背中から再び触手が生えてきた。
「触手は何度切っても生えてくる。触手攻撃を封じて勝とうだなんて無駄ですこと」
生徒会長は触手をこちらへ向かって伸ばしてきた。とりあえず僕は回避出来たのだが、全員回避出来たのか?
「キャー!助けてー!」
「四ッ谷さん!」
「おやおや、ワタクシと同じ眼鏡属性の小娘を捕まえてしまいましたわ」
「ならば、斬れば良い」
厨川くんの一太刀で四ッ谷さんは触手の支配から解放された。
「まだまだですわ!」
再び触手を伸ばす生徒会長。武器を持っていない僕、四ッ谷さん、神代さんの3人は先程からお荷物状態だ。一体どうすれば…
その時、腕章の通信機能から連絡が来た。土崎先生からだ。
「先生!」
『どうやらピンチに陥っているようだね』
「何とかなりませんか?」
『腕章の新機能を使うんだ。その名は「第三神器」』
「どうやって?」
『「召喚・必勝剣」と叫ぶんだ!』
「分かりました。召喚・必勝剣!」
中二病っぽさ(本来はこのような用法では無いらしい)を感じる少し恥ずかしめなワードを叫ぶと、目の前に剣がマテリアライズされた。これが必勝剣か。剣の鍔の部分に『V』の文字があしらわれたくらいの特徴しかない、至って普通の剣だ。
四ッ谷さん、神代さんも土崎先生から同じような連絡を受け取ったらしく、
「召喚・四能銃!」
「召喚・咲裂弓銃!」
と叫んでいた。因みに四ッ谷さんは少し恥ずかしがりながら、神代さんは胸を張って堂々と叫んでいた。
僕、四ッ谷さん、神代さんの3人はそれぞれ必勝剣、四能銃、咲裂弓銃を持って生徒会長に立ち向かう。戦場では現在生徒会長と厨川くん、殿水さんが交戦中だが、アンドロイドの殿水さんはともかく、厨川くんからは若干の疲れが見え始めていた。
「厨川くん、殿水さん、ここからは僕たちが!」
「お前ら、それは…?」
「腕章の新機能、というやつですよね」
「ああ。その新機能とやらで会長を止める!行くぞ!」
僕は必勝剣を携えて、生徒会長へ接近していく。
「勝雄を援護するよ、ななか!」
「う、うん!」
射撃武器である神代さんと四ッ谷さんには遠くから触手を攻撃してもらうとして、何故か近接武器の僕は、生徒会長が触手での対応に追われている隙に一気に距離を詰める、という作戦だ。しかし触手が20本もあれば1本や2本くらいはこちらへやって来る。だがしかし、そんなものは必勝剣でスパスパ斬り落とすまでだ。
「工夫しましたわね。ですが、こういう攻撃は如何かしら?」
生徒会長のツインテールが2門の大砲へと変化、僕に向かってぶっ放してきた。しかしそれも問題ナシ、何故かって僕の剣は『必勝』剣。負けることは無い、はずなのだ。
「うおおお!」
集中砲火を回避し、間合いを詰めた。あともう少し!
「食らえ!」
僕はすれ違いざまに生徒会長を一閃した。すると途端に触手と邪悪なオーラが消滅、僕たちは元いた生徒会室へ戻された。
「これで本当に終わったのか?」
僕は殿水さんに確認すると、彼女は微笑んで答えた。
「ええ、終わりました」
「…ん、あれっ、ワタクシは今まで何を…」
生徒会長が目を覚ました。操られていた間、何も覚えていないらしい。
「何があったか説明してくれる?」
神代さんは生徒会長に問う。神代さんは1年、生徒会長は3年、本来ならば敬語で話すべきだろう。やはり彼女は変わっている。
「三高祭準備をしていましたら、教育実習生の生鼻崎先生が来て…そこから記憶がありませんわ。今日は何月何日ですの?」
神代さんは今日の日付を伝える。
「そ、それほど長い間ワタクシは…。それでワタクシは先程まで何を…」
今度は僕から今までの経緯を生徒会長に話した。
「皆様にご迷惑をかけてしまったようで、申し訳ありませんわ」
「いえ、どこも怪我をしていなくて良かったですよ」
「ワタシは良くありませんけどねえ」
そこへ現れたのは、とっくに教育実習を終えたはずの生鼻崎文人先生だった。
「生鼻崎先生、何でいるんですか?」
「それは、こういうことだからさ」
生鼻崎先生の姿がみるみる変わっていく。シルクハットを被った紳士のような姿へと。
「この姿を見せるのは初めてだな。生鼻崎文人は世を忍ぶ仮の姿、ワタシの本当の名はゴーターだ」
「お前が…ゴーターだったのか!」
ドラゴンズアイの時と同様、黒幕は身近にいたパターンだった。
「何故こんなことを…」
「ゲームをする為さ」
「ゲーム?」
「と言ってもまだ準備段階なのだがな。ワタシはゲームをするのが好きなんだよ。聞いているんだろ土崎先生、いやリゼオン」
『ゴーター、お前はこんな奴では無かっただろ!どうしたんだ!』
僕の腕章の通信機能を介して土崎先生は言う。
「君は知らないだけで、ワタシは元々こうなのさ」
『何?』
「嫌いになったならそれでも構わん。ワタシのゲームには関係無いからな」
「それで、ゲームって何なんだ?」
「ゲームはゲームだよ。この三高を、いやこの街を舞台にしたね。ワタシはその為の準備をしていた。今日のアレは存外上手くいったようで満足したよ」
「アレとは、生徒を操ったということですの?」
「そう、まあ操るなら正直誰でも良かったんだけどね。今回は校則違反をした生徒を罰として操ってみたんだ。その為に生徒の長である、生徒会長を利用させてもらった。学校行事があるというのに、校則を破っているようでは三高祭の真の成功にはならない。だからそうされて当然の人選さ」
振り返ってみると確かにそうだ。杉宮くんはスマホを許可無く使って反省文を書いていた。あの上級生も何かしらの校則違反をしていたということにもなる。
「だからと言ってやり過ぎだ」
「そうかい?多少やり過ぎくらいがちょうど良いと思うけどね」
「校則違反をした生徒と生徒会長を操ったなら、赤土は何故操られていたんだ?アイツは三城高校の生徒であり、三高の生徒ではない」
「ああ、彼ね。彼はこの世界での『邪魔者』である君たちを倒したいという利害が一致してね、それで協力関係を結んだのさ。だけどそれが駄目だったね。呆気なく負けるわ、ワタシのことをバラすわで役立たずだった。だからいっそのこと操り人形にしてやったわけ」
「仲間までそんなことをするとは…」
「仲間だろうが何だろうが、面白いゲームが出来るなら何だってするさ。お役御免の生徒会長を消したり…ね」
ゴーターは右の人差し指を生徒会長へ向ける。
「まずい…会長!危ない!」
僕は覆い被さるように、咄嗟に会長の前に立ち塞がった。
「序でだ。鹿平勝雄、お前も道連れにしてやる!」
「そうは、させません!」
直後僕の背後には、ロングヘアーの女子生徒が立っていた。
「殿水さん!?」
「殿水!」
「まはる!」
「まはるちゃん!」
キャラクター紹介!
(14)生鼻崎文人
所属:秋田県立第三高等学校1年6組教育実習生
誕生日:不明
本名:ゴーター
一人称「ワタシ」、当初は教育実習生[のフリをして]として三高へ来たのだが、その正体は異世界アティカシア出身の超能力者であり、クラスマッチ期間中の三高を混乱に陥れた。