第13話 開幕!三高ゴールデンウィーク
時は6月中旬、我らが秋田県立第三高等学校は『三高ゴールデンウィーク』に突入した。『三高ゴールデンウィーク』とはクラスマッチ、三高祭の前日祭と当日祭、それに伴う振替休日の計7日の間授業が無いという、これまた素晴らしい1週間なのである。
「っしゃあー!今日からクラスマッチだ!」
この男は朝からテンションが高い。僕のクラスの数少ない友人・杉宮理音だ。
「あんまり調子乗って変なことするなよ」
「んなこと分かってるよ。てか勝雄こそ何かやらかしそうで心配だなあ~」
「何を根拠にそんなことを…」
浮かれる杉宮くんと馬鹿げた会話をしていると、そこへクラスのもう1人の友人・生保内神彦がやって来た。
「おはよう。朝から気合い入ってるね」
「そういう生保内くんこそ、いつもと雰囲気違うな」
「髪を切ったんだよ」
「そ、そうか。僕はてっきり眼鏡かと」
「ああ、これね。昨日眼鏡壊れちゃったから代わりの眼鏡だよ」
「神彦、髪切っただと?何も変わらねーじゃねーか!もっとこう、何というかカッコいいイカした感じの髪にさ!」
「ぼくちんはそういうのよく分かんないんだよね」
「男子高校生たるもの、それくらい気にしないとモテねえぞ?」
「偉そうに言ってるけど、杉宮くんはその髪型でモテてんの?」
「こ、これからモテるんだよ!勝雄、お前は良いよな。殿水さんとか四ッ谷さんとかいて」
杉宮くんは急にヒソヒソ声になって、
「ここだけの話、どっちかと付き合ってる?」
「残念だがそういう関係じゃないよ」
「だったら殿水さんは俺がもらおうかな~」
「何でだよ」
「何か問題でもあるのか?付き合って無いのであれば問題ナシでしょ。やっぱり付き合ってるのか?本当のこと言っちまえよ、ここだけの話なんだからさ」
「ぼくちんもそこんところ詳しく知りたい!」
ついには生保内くんまで乗ってきてしまった。僕は「実は殿水まはるはアンドロイドなんだよ」と言いそうになったが、そこはグッとこらえた。セーフ。
「とにかく、殿水さんは杉宮くんごときの男なんぞアウトオブ眼中だと思うぞ」
「何だそれ、根拠は?エビデンスは?ってか『ごとき』とは失礼だな。不適切にも程があるだろ。ふてほどだ!」
などと話をしていると、我ら1年6組の担任・土崎湊斗先生が教室へ入ってきて、朝のホームルームの時間となった。
そういえば僕たちを消すよう赤土沖太に指示をした男・ゴーターについてだが、聞いたところによると土崎先生は奴のことを知っていた。ゴーターは土崎先生ことリゼオン、三清学園の向能代春香先生ことギャラクスと同じく、この世界の平和の為に異世界アティカシアから派遣された超能力者らしい。
そもそも今まで土崎先生が本当は何者なのかを知らなかった。異世界出身のマッシュルームヘアの自称科学者であり超能力者、悪さをしたアティカシア人を拘束という警察のようなことをする、これくらいだろう。しかしこれについても序でに聞いたところ、『警察』というのはあながち間違いではなく、というかほぼ正解だった。
リゼオンやギャラクス、ゴーターはアティカシアにおける警察のような組織に所属しているらしい。では何故こんな田舎の高校を拠点として、そこに通う高校生を巻き込んでいるのかについてはまあ今は置いておいて、僕たちがいる世界と異世界アティカシアは連動しており、僕たちがいる世界の平和を守ることが間接的にアティカシアの平和に繋がるそうだ。2つの世界の均衡を保つとか何とか言っていたが、いまいちよく分からなかった。
ゴーターが赤土を仕向けてきたのは、土崎先生にしてみれば「仲間に裏切られた」ものであり、僕たちからゴーターの話をした時には土崎先生はかなり衝撃を受けていたように見えた。この世界でも警察官が犯罪に手を染めるといったことはある。ゴーターに関してはまさしくそれだろう。
さてクラスマッチの方へ戻ろう。僕が出場予定の卓球ダブルスはこの日の午後から始まる。生活委員の活動として校内見回りがあったが、それは早々に終わらせ、今は校内の空き教室で卓球ダブルスの練習をしている。勿論教室には卓球台などない。ではどうやって卓球をやっているのかというと、教室にある机をくっつけてそれっぽい大きさにし、ネットの代わりに英和辞典を並べて机を仕切った。随分と簡易的だが良い感じに仕上がっていると思う。練習メンバーはこの間卓球場へ行ったメンバーと同じである。僕と生保内くんペア対殿水さんと杉宮くんペアだ。
先ずはラリーから始める。順調にラリーが続いたのでまずまずといった感じだ。この4人のうち杉宮くんは卓球ダブルスに出場しないものの、以前卓球場で卓球をした時よりも格段に上手くなっている。
「杉宮くん、随分と上達したな」
「まあな。俺にかかればこんなもんよ。さて、そろそろ試合形式でやらねえか?」
「そうですね。ではサーブはどちらから?」
「殿水さんからどうぞ」
生保内くんの紳士的に思える対応により、最初にサーブを打つのは殿水さんとなった。
「では、いきますよ」
殿水さんはサーブを打つ。相変わらずえげつない回転がかかっているなと僕が思っているのを尻目に、生保内くんは涼しい顔で球を返す。この球を返すのは杉宮くん。しかしネットに引っ掛かり、ここは我々ペアの得点となった。まあそうだろうね。
「殿水さん、ゴメン!」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
殿水さんに謝罪する杉宮くん。どことなく幸せそうに見えるのは気のせいか。
その後も杉宮くんのミスが目立ち、我々ペアは勝つことが出来た。杉宮くんは「俺ももっと練習して上手くならないと」なんて言っていたが、クラスマッチの卓球競技に出ないどころか、卓球部でもない彼をそこまでやる気にさせるものは何だろうね。
休憩中、生保内くんの「アイス買いに行こうよ」という提案により、我々4人は売店へアイスクリームを買いに行った。クラスマッチ期間中の期間限定ではあるが、売店では様々な種類のアイスクリームが売られている。各々で買ったアイスクリームを教室で食べる、普段は出来ないという特別感も相まって普段より美味しく感じた。
そして午後、卓球ダブルスが始まるので僕や生保内くん、殿水さんはゼッケンを着けて、試合が行われる第二体育館へ向かう。1回戦の相手は1年2組、かつて鏡北登がいたクラスだ。午後の注目競技ということもあり、両クラス共にほぼクラス全員が応援に来ている。杉宮くんは「絶対勝てよ」などと誰よりも熱くなっていた。
「「「「お願いします」」」」
卓球台を挟んで両ペアが向かい合い、挨拶を交わす。
「卓球経験者ですか?」
相手ペアからこう聞かれたので、
「まあ一応」
「ぼくちんも経験者だよ」
僕と生保内くんはこう返答したのだが、相手の表情に明らかに余裕が無くなったように見えた。
結果は言うまでもなく圧勝。他のペアも勝利を収め、我がクラスは2回戦に進出した。
そして2回戦はというと、相手は2年1組。ピンク色のクラスTシャツが目立つ理数科クラスだ。このクラスには僕の中学時代の卓球部の先輩がいるのだが、まさか当たるなんてことは…ね。
だが、予感は見事に的中してしまった。先輩後輩対決がここで実現してしまうとは。試合は序盤から点を追う展開に。そんな時、事件は起きた。
8対10、相手のセットポイントだ。ここで点を取られてしまうとこのセットは取られてしまう。僕がサーブを打とうと構えたその時、相手ペアの1人が苦しみ出した。
「大丈夫ですか!?」
「おい、大丈夫か?」
僕と先輩はその人の元へ駆け寄る。試合は一時中断だ。それから数秒後、次々と体育館にいる生徒が苦しみ始めた。苦しみ出したうちの1人に杉宮くんもいた。先輩とダブルスを組んでいた人は任せ、僕と生保内くんは杉宮くんの元へ駆け寄る。
「杉宮くん!」
「大丈夫!?しっかり!」
僕と生保内くん、他の生徒も呼び掛けてみたが、返答出来ないくらいの苦しみようだった。
「とりあえず保健室へ連れていきましょう!」
学級委員長女子の一声によって、僕たちは杉宮くんを搬送する準備をしようとしていた矢先、突如として大人しくなった。目はしっかりと見開いていたので、気を失った訳ではない。かと思えば普通に立ち上がり、見境無く暴れ始めたのだ。
「杉宮くん、一体どうした…キャッ!」
杉宮くんは目の前にした学級委員長女子を突き飛ばした。
「おい、何やってんだ!」
僕と生保内くんは杉宮くんを止めようとするが、生保内くんは腹部に膝蹴りを食らって撃沈、僕はキックを食らって倒れ込んだ。
「鹿平くん、大丈夫か!?」
その声の主は担任の土崎先生だった。杉宮くんへの対応で周りが見えていなかったが、先ほど苦しんでいた、先輩とペアになった上級生も含め、体育館のあちらこちらで一部の生徒が杉宮くんと同様に暴れていた。
「先生、これってもしかして…」
「ああ。これはもしかするな…。鹿平くん、腕章を着けろ!」
「はい!」
僕は腕章を着け、杉宮くんを止めに入る。腹部にパンチを入れると、杉宮くんは気を失って倒れた。
「杉宮くんごめん。ちょっと眠っててくれ」
他の生徒の暴動も止めようとしたその時、あの3人組が体育館に現れた。
「ここはオレたちに任せろ」
「生徒会室から強いエネルギーを感じる!」
「生活委員の皆様、生徒会室へ急いで下さい!」
三清学園の向能代先生、大砂川信太、殿水まゆりの3人・HSMが何故か三高の体育館にいた。
「何故ここに…なんて言ってる場合じゃないよな…。分かった、生徒会室だな!厨川くん、殿水さん、四ッ谷さん、神代さん、みんな無事か!?」
「問題ない」
「準備万端です」
「うん、大丈夫!」
「当たり前でしょ!」
僕の呼び掛けに4人はしっかりと答えた。
「バックアップは任しておけ」
先生は力強く言う。
「はい、よろしくお願いします!みんな、行こう!」
僕たち生活委員の5人は校舎2階の生徒会室へ向けて出発した。
階段を韋駄天の如く駆け上がり、2階の長い廊下へ入ったのだが、誰かが生徒会室へ行かせまいと通せんぼをしていた。
「久しぶり、あるいは初めまして」
通せんぼをしていたのは、赤土沖太だった。他校の先生生徒がガンガン出入りしているのですが、この学校のセキュリティどうなっているんですかね。
「お前がいるってことは…まさか!」
「全てはゴーター様の為に…」
以前会った時の赤土とは違う、邪悪なオーラを放っていた。
「コイツも体育館で暴れていた奴と同じようだな」
冷静に厨川くんは分析する。
「生徒会室にゴーターがいるのか?」
「全てはゴーター様の為に…」
「おい、質問に答えろ!」
「全てはゴーター様の為に…!」
その一点張りで、赤土はナイフを片手に襲いかかってきた。
キャラクター紹介!
(13)生保内神彦
所属:秋田県立第三高等学校1年6組
誕生日:7月31日
一人称「ぼくちん」、クラスマッチの卓球で勝雄とダブルスを組んだ、頭の良さそうなメガネの男子生徒。卓球経験者で知識が豊富である。