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三高生活委員カツオ  作者: けいティー
第1章 生徒失踪編
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第1話 入学~早々の罠~

記念すべき初投稿となります。

 早速だが、読者の皆は第一志望校に合格したという経験はあるだろうか。志望していた学校に受かり、通い、そして志望していた学びを受ける。これが最も望ましいのは当たり前だろう。僕もそうである。この春、第一志望であった「秋田県立第三(だいさん)高等学校」に合格して念願の三高生となった。何故この高校を志望したのかを僭越ながら語らせていただくと、先ず大学進学率の高さである。全体の99%は大学進学をするらしい。将来大学に行きたいと思っている僕からしたらこれは魅力的だ。そしてこれは大学進学率の高さに関係してくるのだが、勉強のレベルが高いことも理由の1つだ。県内でもトップクラスの学びを受けられるというのも相当魅力だ。


 数日前にパッと見、頭の良さそうなメガネがわんさかいた入学式を終え、入学後のテストも終え、今はクラスの係や委員会を決めるイベントの最中である。まだ数日だがクラスの雰囲気は良い。早速グループも形成されているようだが、人間関係形成に消極的な僕は輪に入れずにいた。そもそも同じ中学の奴が1人もいないのがおかしい、と言っても僕の出身中学はこの高校の隣町にある上、その町の中でも最も規模が小さい。クラスメイトは30人弱、この高校に来たのは僕含めて3人。1年生は6クラスあるし、どうせ意図的にバラバラにされたのだろう。他2人もそれぞれクラスは違うらしい。因みに僕は1年6組だ。小学校も小規模校で万年1組だった僕からしてみれば「6組」という響きは新鮮だ。

 さて本題に戻ろう。今はクラスの係・委員会決めの真っ最中だ。何があるかと見てみれば、めんどくさそうなものばかりだ。マッシュルームヘア、スーツの上から理科教師でもないのに白衣を着ている担任・土崎(つちざき)湊斗(みなと)先生の話によると、楽そうなのは「生活委員会」とやらだろうか。などと思考を巡らせているうちに「生活委員会を希望する方はいませんか?」という、黒板の前に立って係・委員会決めを取り仕切る学級委員長女子の明るい声が聞こえてきた。僕は食いぎみにすかさず挙手をする。楽に平穏な高校ライフをエンジョイする為に、絶対に負けられない戦いがここにはあるのだ。

 生活委員の定員は1人、そこへ我こそはと意気込んで挙手をした生徒は僕含めて5人。競争率5倍だ。高校受験の時の三高の倍率は1.1倍だったのでそれより高い。その時よりも今の方が緊張している。胸の鼓動が受験の時よりも速い。その勝負は5人のじゃんけんの勝ち残りによって決められることになった。己の拳に全てが委ねられたのだ。

 そして運命のじゃんけん。何度かあいこが続いた後、5人のうちの2人に絞られた。そして僕はというと…

 勝ち残った。さあこれで50%だ。ここで勝てば僕は生活委員の仲間入りとなる。行くぞ…

「じゃんけん、ぽん!」

 一瞬の沈黙が流れる。そしてそこからガッツポーズをするのではないかと思うくらい固く握られた相手の拳、それに対して僕は手を大きくしっかりと開いていた。

 勝ったのだ。僕は嬉しさのあまり、雄叫びに似たような声を上げる。それを咎めることなく先生はにこやかに拍手をしていた。

「生活委員は鹿平(かびら)勝雄(かつお)くんに決まりました。」

 僕の喜びのシャウトに驚いた人がいたのだろう、何人かのクラスメイトは笑っていた。ここ数日大人しくしていたからな、僕にそんなイメージは抱いていなかっただろう。あ、言い忘れていたが「鹿平勝雄」というのは僕の本名である。


 晴れて生活委員となった僕だが、早速委員会の召集がかかった。「早く帰りたかったのに」という気持ちを抑えて委員会が行われる特別教室へ向かう。教室の引き戸を開けると、そこには既に2人が席に座っていた。

「…どうも。」

 僕はやや小声で挨拶をして、仏頂面で腕を組み座っている七三分けの男子生徒の前を通り過ぎ、適当に空いている席へ座る。左隣の席にいる、ポニーテール黒ぶちメガネの女子生徒からの視線を物凄く感じるが気のせいだろうか。

 …気まずい。とにかく気まずい。特に会話も無いまま沈黙が流れる。教室の外は帰る生徒たちで騒がしいが、ここは試験でもやっているのかという程静かだ。そして相変わらず左隣の女子からの視線を感じる。彼女は僕に何か言いたいことでもあるのか?そんな沈黙を破るかのように、嵐のごとく女子生徒が入ってきた。

「どうもー!」

 なまはげが入ってくるかのように引き戸を開けて、その長身ショートボブの女子はやって来た。いわゆる「陽キャ」と呼ばれる人種なのだろう。ニコニコしながらやって来ては僕の右隣の席へ座った。

「よろしく、あんた名前は?」

 陽キャ女子は席につくやいなや僕に話し掛けてきた。

「鹿平勝雄だ。」

「カツオって言うのね、随分と美味しそうな名前じゃない。」

 …コイツはアホなのか?初対面の奴に対して名前を聞いて「美味しそう」とは。全国のカツオさんに謝れ。

 「いや、『カツオ』という字はなあ」と言う暇も無く、陽キャ女子は聞いてもない自分の名前を勝手に名乗りだした。

「あたしは神代(じんだい)(さき)、気軽に『咲お嬢様』とでも呼んで!」

 …やっぱりコイツはアホだ。これで確信した。そんなアホと応対していると、さらにまた別の女子生徒が入ってきた。

「こんにちは、お疲れ様です。」

 綺麗なサラサラのロングヘアーに整った顔立ち、そして何がとは言わないが大きいものをお持ちで。僕の右隣のアホ・神代さんは目を見開いて驚愕の表情だ。

「お待たせしました。」

 ロングヘアー美女は誰に話し掛けたのかと思ったら、腕を組み座っている仏頂面の男子生徒にだった。この2人は知り合いかな?その男は眼球だけをちらりと美女の方へ向け、すぐに元の体勢に戻った。そしてロングヘアー美女は仏頂面男子の右隣へ座った。

「あんた、大きいわね!どうすればこんなに大きくなるの?」

 やはりというか何というか、神代の標的はロングヘアー美女へと向いた。しかし初対面のくせにまあよくもそんな話が出来るな。

「よく食べて、よく眠ること…ですかね。」

 僕には分かる、明らかにそのロングヘアー美女は困っている。僕は助け船を出したいが、いまいち勇気が出ない。神代さんとロングヘアー美女のやり取りを眺めていると、今度は別の男子生徒が入ってきた。

「どうも!あ、おら最後みでだな。」

 彼は秋田の現代っ子には珍しい秋田弁ユーザー、そしてザ・田舎の少年といった風貌の坊主頭、物凄く親しみやすい雰囲気を醸し出している。

「もう委員会始まったんだが?」

 坊主頭の彼は、近くにいたロングヘアー美女に訊ねている。

「いいえ、まだです。先生が来るのを待っています。」

「んだなが、へばいがった。んだばおらも空いでるとごさ座って待つべ。」

 坊主頭は七三分けの左隣に座った。程なくして委員会担当の先生が入ってきた。マッシュルームヘアに白衣、この特徴的な見た目は…。


 我らが担任、土崎先生だ。

「よし、どうやら全員いるみたいだね。」

 土崎先生は教室を見渡して言う。

「あの、生活委員って6人しかいないんですか?」

 僕は純粋な疑問を先生に投げ掛ける。うちの高校は1学年につき6クラス、つまり1年から3年まで18クラス存在する。生活委員は1クラスにつき1人だから、18人いないとおかしい。

「ああそうだよ。この委員会、1年生しかいないから。」

 部活動じゃあるまいし、1年生しかいない委員会って聞いたこと無いぞ。

「先生、なして1年生だけしかいねんすか?」

 坊主頭がマッシュルームに質問をする。

「学校としてはちゃんと2、3年生もいることにはなってるけどね。」

 土崎先生は生活委員の名簿を見せた。確かに名簿には18人分の名前がある。

「2、3年生は架空の生徒だから。つまりリアルにいるのは1年生6人だけってこと。」

 この先生は何を言っているんだ?

「架空の生徒って、何でこんなことしてるんですか?」

 神代さんも土崎先生に問う。

「2、3年生もいても良かったけどさ、あんまり人数多くてもねー。ってか、この委員会、わたくしが作ったんだよ。」

「先生、全く答えになっていないのですが…。」

 思わず僕はツッコミを入れる。

「あー、とりあえず今から詳しい話をするから、耳の穴かっぽじってよく聞いてくれ。いいか、わたくしたちは『生活委員会』な訳だが、それは表向きの話だ。勿論生活委員会としてそれっぽい活動はする。挨拶運動とか自転車にステッカー貼ってるかチェックとか。でもわたくしが生活委員会を立ち上げたのはそれが目的ではない。」

「真の目的があると。」

 腕組み仏頂面七三分け男子生徒がようやく口を開いた。

「その通り。わたくしたち生活委員会の真の活動内容、それは校内の治安維持だ。」

 おいおい、土崎先生よ。聞いてたことと違うぞ。

「『聞いていたことと違うじゃないか』と言いたい気持ちは分かる。わたくしは君たちや君たちのクラスの担任にもウソの活動内容を吹き込んでいたからね。それはすまない。しかしウソを吹き込んでも君たちを集める必要があったんだ。」

「集める必要?」

「ああ、実はここ最近本校生徒が失踪する事件が起きている。欠席になっている生徒の中には失踪で行方が分かっていない生徒がいるってことだ。」

「失踪って…。なしてそんたこと隠してるんだ?」

「生徒の欠席理由は公認欠席でもない限り、他の生徒に明かさないことになっているのさ。だから生徒は知らない。」

「いや、それはおかしくないですか?失踪した生徒がいればその友人経由で分かりそうですけど。『連絡がつかない』とか何とかで。」

 神代さんの言う通りだ。アホとか言って悪かった。

「えーっと、ちょっと複雑なんだけど、学校側としてはこのことを秘密にしているから生徒たちは失踪事件のことを知らないというテイになっているんだ。勿論実際は知っている生徒もいるよ。」

 大人の事情というのはよく分からん。土崎先生の話はまだまだ続く。

「で、わたくしの調べによると、この第三高校周辺で『異世界への入り口』が発見されたんだ。わたくしはこれが失踪事件の鍵であると思っている。」

 異世界への入り口?情報量の暴力で理解が追い付かない。っていうか、あのポニーテール黒ぶちメガネ女子生徒、何か言ったらどうだ?さっきからずっと黙ってるけど。

「で、わたくしたち生活委員会の目的としては生徒失踪事件の解決、つまり犯人を見つけ出して倒すことっていう訳。組織としては大勢いた方が戦力にはなるけど統率が取れるか自信無かったし、だから1年生6人で委員会を組織した。でも委員会のテイを保つ為に架空の上級生の名前を入れているってことだ。また明日詳しい話をするから集まってくれ、今日は以上だ。あ、明日から応援練習だったな。せいぜい頑張ってくれたまえ。じゃあ!」

 言いたいことだけ言って土崎先生は教室を後にした。失踪事件?異世界への入り口?犯人を倒す?もう訳が分からない。さらば、僕の平穏高校ライフ。

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