ならず者、打倒魔王をまた叫ぶ!?
「『リストレイン』!」
後方から勇者の叫び声が聞こえると、たちまち俺たちは身動きが取れなくなる。
気づけば麻縄のようなもので体を拘束されており、地面に倒れるしかない。
後方から足音が近づいてくる。
「逃すわけないだろう?」
「趣味が悪いぞ!」
「ハハッ!確かにね。・・・でもこのまま魔王の手下を返すわけにもいかないんだ」
言って俺の顔の近くに腰を落とし、勇者は変わらず話し出す。
「でね、ここで一つ交渉をしたいんだ」
言って並ぶ俺とメンマ、フィレンの顔を見てから楽しそうに呟く。
「どうだ、勇者の僕と協力しないか?ここにきたのは実は魔王軍の幹部がここにくるって情報を聞いたからなんだ。だから幹部討伐に協力すれば、君たちのことを僕の仲間ってことにして変わらずこの村での安泰を約束しよう」
魔王との関係がない俺とフィレンからすればそれはとても魅惑的な話だった。それに勇者とも呼ばれる人がいればそれほど難しいようにも聞こえないが・・・
「あ、ちなみに僕は参戦しないよ?だって僕が出ちゃったら、君たちが魔王側と対立するまもなく終わっちゃうからね」
・・・マジで?なんのために?
俺は微かな違和感を覚えながら、フィレンを見る。
フィレンは顔を伏せている。
彼女からすれば上司を裏切りか否かの選択を迫られているわけで・・・これは彼女にとっては決めづらいものーー
「わかったわ」
「「「え?」」」
その他三人の声が重なる。・・・ってか、言い出しっぺの勇者まで驚くなよ
「わかった、わかりました!わかったって言ってるの!!仲間なんていくらでも売るわ!!だから早くこの縄を解いてよ!」
「お、おい。ホントにいいのか?」
「あったりまえでしょ!?低賃金、最低な労働環境、最低限の福祉。まるであいつらは魔王よ!!」
「まるでも何も本物の魔王なのでは・・?」
「あんな環境に未練も何もないわ!上等よ、あなた名前はなんて言うのよ」
「ユウだけど・・」
「ユウ、乗ったわ!確か二日後にヴァンパイアが来るはずよ」
「ほう、ヴァンパイアか・・」
「そいつを殺ればいいんでしょ!!わかったから離して!」
おおよそリーダーとは思えないほどに地面を転がり回るフィレンに若干顔を引き攣らせながらも、俺たちは縄の拘束から解放される。
勇者は俺たちのすぐ後ろまでやってきた俺たちを警戒している村人たちの方を向くと完璧な笑顔で語り出す。
「すいません、皆さん。事情聴取の結果、彼女らは魔王軍ではないことが確認されました」
「で、でもこいつらは自分達が勇者であると偽ってたんですよ勇者様!!それに森への放火も」
「えぇ、知ってます。どうやら彼らはスパイとして魔王軍に潜伏していたそうです。ね?」
言ってこっちを振り返る勇者。勇者は顎でフィレンに一芝居打つよう促す。
フィレンは一歩前に出ると
「皆さん、この度は失礼を。申し訳ござません。ただ、これも二日後に襲来する魔王軍からの使者であるヴァンパ
イアに対抗するためだったのです」
「ヴァンパイだって!?」
村人たちは急に騒然とし出す。そしてそれを牽制するようにフィレンは一際大きな声を出す。
「ですが皆さん、安心してください」
力強いその声に、皆フィレンに釘付けになる。
フィレンは拳を強く握ると、高々と掲げて
「このフィレン率いるパーティーがこの村に必ずや安寧をもたらします!」
おぉぉぉ!!と村人が湧く中、フィレンはいつの日か見た時と同じ羨望の眼差しにウキウキとした顔で叫ぶ。
「ヴァンパイアだろうが、魔王がろうが、かかって来なさい!!」
魔王軍幹部、フィレンに敬礼。
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