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ならず者たちの初クエスト!?

時間つぶしになればうれしいです

「フィレン様、どうぞこの村の名産の果物でございます」


「フィレン様、村随一の宿屋を確保しております、どうぞ」


「フィレン様、明日の朝には贅沢な朝食を準備しております。お楽しみに。今日は、その疲れしっかりとおとりください」


「えぇ。遠慮なく堪能させていただくわ」


「では、失礼します。」


ホテルまで案内してくれた気品あるおじいさんは、俺たちを部屋まで案内し終わると丁寧に腰を曲げ、やさしくホテルの扉を閉める。


「ん〜!!勇者も、楽じゃないわね」


バシっ!


「いったいわね!!何よ、無言で叩かないでよ!」


「『何よ』じゃねーよ!!なに勇者顔してんだよ、魔王の下っ端が!!」


「下っ端って失礼ね!これでも、幹部なんだけど!!夢はおっきく大悪党なんだけど!」


俺たちは、勘違いした村人に案内されるがまま、明らかに高そうな宿、というよりもホテルに通された。それこそ、本当に勇者やこの国のお偉いさんが止まるためだけに作られたような、そんな村には不相応な建物だ。


ついさっきまでのギルドでの扱いが嘘の様な現状に、こいつは酔いしれている。


俺としては、せっかくの異世界生活がとんでもないことになりかけていて、気が気ではない。


「なんだよ魔王幹部って!俺、どっちかっていうと勇者志望なんだけど!魔王倒す側なんだけど!?」


「私、見る目には自信があるの。いい、ソウタ?あなたの顔はなかなかの悪人顔よ。まるで親泣かせの様な顔をしてるわ」


「じゃかましーわッ!!」


っていうか、俺は善を積むためにここにいるわけで、魔王の幹部の配下とかどう転んでも地獄行き確定ルートだろ!


ダメだ、このままじゃ美人若妻に甘やかされる人生を捨てることになってしまう!


「そもそもいいのかよ、勇者名乗ってるけどって魔王軍からすれば敵じゃねーのか?」


ビクリとフィレンの背中が跳ね上がり、ガーッと頭をかき回し出す。


「それなのよぉぉおおぉーーー!!まだ私が勇者名乗ったことは知られていないとして、あのマンイーターは支給物だから、普通に器物破損よ!!それに被害だって全然出てない。またポンコツ扱いされちゃうわー!!」


行って泣き崩れるフィレン。


魔王幹部ってこのレベルのやつでもなれるのか?意外と魔王も人手不足に喘いでいるのかもしれない。


・・嫌だな、そんな魔王。


「てか、幹部ってことは部下みたいな奴はいないのか?それとも愛想尽かされて1人なのか?」


「えっと、その・・『今は』2人ね。今は。ね?ソウタ」


1人じゃねーかよ!・・・とツッコミたかったが俺も今日この世界にやってきたばっかで正直体力がキツイ。二つあるうちの一方のフカフカなベットに吸い込まれる様にして俺は倒れ込む。


「ちょっと!?あなたもここで寝るの?そ、その。襲わないでよ?」


「魔物を一撃できる化け物に発情しねーよ」


「うぐっ!?」


勇者になるべく転生したこの世界で、畑仕事の疲れを取るために俺はぐっすりと眠った・・・




「来ないわね。もう約束の時間から二時間は経ってるってのに」


ぼやくフィレンは偉そうに肘をつき、フライドポテトの様なものに何回目か、また手を伸ばす。


そう。今、俺たちは人を待っている。


遡ること数時間前、昨夜の身の丈に合わないもてなしに、やけにツヤツヤとしたフィレンは俺を叩き起こし


「ソウタ!仲間よ、仲間。今の私に足りないものは!いっそのこと勇者と勘違いされているうちにパーティーメンバーを集めましょう。適当に既成事実を作って逃げ場を無くせば、一日にしてフィレン軍の出来上がりよ!!」


それはもう、立派な魔王側の発言だった。


てなわけで、俺たちは勇者(勘違い)特権による飲食無料券を使ってギルドの中でたむろしている。


「大体さ、お前どういう貼り紙貼ったんだよ。こんなに来ないなんておかしいだろ」


「張り紙なんて生ぬるいわ」


そう言うとフィレンは手を組んで、まるで悪役のように嘲笑う


「掲示板にある応募用紙を全部のけてもらって、おっきな紙に『あなたも勇者になってみませんか?頼もしい仲間と素敵な旅を!!若くして高収入も!?』って・・」


「おし、立て。一発わからせてやる」


「なんでよ、蜜はわかりやすいほうがいいでしょ!?」


「こんなのにくるやつは総じてバK・・・」


「す、すいません」


「あ??」


か細い声がフィレンの胸ぐらをつかんで説教をしている俺の後ろから声を掛けられて二人一緒に振り返る。


そこには、うさ耳のようなものがついてダボっとしたパーカーを着て、少し長い茶色な前髪で目が隠れた、背丈は俺と大して変わらない女の子が手をモジモジしながら立っていた。


「す、すす、すいません!!」


「いや、俺の方こそごめんよ。ただ悪いことは言わないから」


「ようこそ我ら勇者パーティーに!ささ、こっち座って!」


逃がさない。とでも言いたげなフィレンはそのか弱そうな少女の細い腕を掴んでテーブルに連れて行く。


・・本当に大丈夫だろうか、俺の新しい人生は




「それじゃ、自己紹介お願いします」


隣のフィレンが張り切って面接官の真似事をすると、目の前に座っている女の子は大げさに驚いて見せる


「え、え、っと。私の名前はモナです。や、役職はタンク希望です。あ、志望動機は勇者ならお金もあって働かなくていいと思ったからですすす!」


「正直ね!?」


「あ、で、でも!勇者様のためには雑用だって、足だって喜んで舐めさせてもらいます!!」


モナは時々声を裏返しながらも、その熱量だけはうかがえる。


「お、おぉ。えっとタンクって言ってたけどその割には体格が」


「だ、大丈夫ですっ!!えっと・・魔力で作った頑丈な鎧を装着するのでこの体格でも問題ないです・・」


「ネームカード見せてもらえるかしら?」


「あ、はい」


モナはポッケから一枚のカードをフィレンに渡す。


「これはね保持者がどんなスキルを持ってるか、魔力、体力とかがが数字化されてるの。ほんとね『プロテクション』だけレベルが異様に高い。ソウタ、このこ本当に優秀なタンクよ!」


「ゆ、優秀なんて・・!え、えへへ」


「決めた!モナ。今からあなたは私たちのパーティーの一員よ!!よろしくね、頼りにしてるわよ。優秀なタンクさん」


「おい流石に早まりーー」


「は、はハイ!優秀なタンクですぅッ!!」


2人は固い握手を交わし、謎の結託感が出ている。もう本当に正式加入したようだ。


さっきからひしひしと感じる嫌な予感が、現実にならないといいんだが・・




やってきたのは、村の離れにある森である。


ギルド嬢によれば、この森の奥部には図体が大きなトロールという人形の魔物がいると。


そいつは人里まで降りてくることは稀であれど、食物を荒らしては帰っていくので勇者様が行脚でいらした時に討伐してもらおう。と


俺たちはそんな依頼を受けて今ここにいる


いやもうこれ無理だろ


だってこちとらも能力者だぞ。攻撃手段は鍛冶屋でもらった一番切れ味があるという短剣のみ。


間合いに入ろうとした瞬間蹴り殺されて終わる未来しか見えない。


タンクであるので一番先頭を歩くモナはさっきからキョロキョロと挙動不審に周囲を確認している。


・・・てか


「どうしたんだ、モナ。顔色悪くないか?」


「ヒョぇ!?あ、あの、さっきからとんでもない敵意を感じるので気が気じゃなくて」


なるほど。敵意を感じる魔法なんてのもあるのか。それでトロールがどこにいるのか肝を冷やしてたのか。


「あ、これは魔法とかじゃないですからね。なんていうか、人目を気にしすぎて学校生活送ってた弊害というか、へへ。昔はあんまり話したこともない人から敵意感じたりするんですよね不思議ですよね、フヒッ」


「気のせいだろ」


「な、なんなら私の後ろ、ソウタさん側からも少し敵意を感じます」


「・・・気のせいだろ。俺はお前を信用してるからな、優秀なタンク」


「え、えへへ!ど、どどんとこいッ!」


モナは胸をポンっと叩いて、ニヤニヤとしながらまた周囲を警戒しながら進む。


・・よかった、こいつが単純で。


てか、こんなコミュ障ぽいのもそれなりの理由があるんだな、深くは聞かないことにしよう・・


「帰ったら魔法使い探さなきゃね。正直今の私たちじゃ火力に欠けてるからね。だから、モナが気をひいている間に全員で火力を出さないといけないわ。モナはタンクだから火力は出にくいだろうけど、ないよりはマジだからお願いね」


「・・!?は、はぃ・・・」


体をびくつかせ、より一層頼りな下げに俯くモナ。


どうしたのだろうかと横顔を覗こうとした、その瞬間フィレンが叫んだ。


「くるわ!!」


ドスン、と大きな音と共に目標であるトロールは俺たちの前に現れた。


森の大きな木々に引けを取らないほどの体躯のそいつはその長い鼻越しに見えるであろう俺らにドスン、ドスンと近づいてくる。


「モナ!前衛は頼んだわよ」


「りょ、了解です。『プロテクション』!!」


モナがそう叫ぶと、まるで何かの召喚魔法のように魔法陣がモナの足元に描かれる。そして、その魔法陣が淡く光ったかと思うと、その光にモナは包み込まれーーー


腹たつ顔した二足立ちのウサギが出てきた


・・・は?


「も、モナさん?」


「ハ、ハイ!?」


「動いてもらっていいですか?」


「ム、ムリデス!これ真っ暗で視界がないんです!!それにこれ頑丈な素材でできたぬいぐるみなので身動き一歩すら取れないんですぅ!!」


一番先頭で、視界がない中で近づいてくる足音にビビって今にも泣きそうなモナの声。


・・つッ、つかえねぇ


「あ、き、気をつけてください!私の後ろに敵がいるかもしれません、とんでもない敵意を感じますぅ!!」


「俺だよ!!」


視線を前に戻すと、魔法の効果なのか、確かにトロールはこのヘンテコなぬいぐるみの方を見てじっと見て動きを止めている。


よし、今のうちに俺とフィレンで火力を叩き込めば・・!!


瞬間、トロールはぬいぐるみの耳に向かって手を伸ばし、片手で持ち上げぶんぶんと振り回し始めた。


「ナ、なんですかコレ!?急にぐるぐるして気持ち悪いですぅぅ・・・」


「ソウタ、今がチャンスよ!一気に攻め込みましょう」


フィレンの掛け声に釣られ、駆け出したフィレンに俺はついていく。


フィレンは力強く地面を蹴ると、魔法の効果でか大型であるはずのトロールの目線の高さまで体を跳ねさせると、右手を突き出し大きく叫ぶ。


その右手は徐々に眩い光を纏い・・


「『フラッシュ』!」


「「うぎゃああぁぁ!!」」


トロールの目を潰した。


――俺のと一緒に。


「ソウタ、何してるの!今がチャンスよ!!」


「目が、目が、目があぁぁ!」


状況もわからず両目を抑え、痛みで地面を転げ回っている俺に謝るのではなく叱咤するフィレンの声。


あの野郎・・帰ったら食後に逆立ちさせて昨日の俺の気持ち味合わせてやる・・・!


今日のコレからの予定を暗闇の中で決め、今から反応を楽しみに内心ニヤニヤしていると、また少し離れたところからフィレンの声がした。


「ソウタ、危ない!!」


グチャァ


フィレンの鬼気迫る声とその音だけが、嫌に耳に残った

読んでくれてありがとうございました

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