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猫ちゃん以外どうでもいいんです!(8)

「何度も言わせるな。何なら、猫をかわいがるために必要な物を用意するなど、俺のできる限りで支援もしよう。だから俺と結婚……」

「はい喜んで! 結婚しましょう! よろしくお願いいたしますっ」


 スクーカムの言葉を遮り、満面の笑みを浮かべてソマリが勢いよく言った。


(どうやらこのソマリとか言う令嬢は猫のこと以外はどうでもいいらしい。まあそれで構わないが。むしろ好都合というものよ)


 だってスクーカム自身、ソマリには何ら興味は無いのだ。ただ先ほど見かけた、天が与えたかわいさを所持する縞々の猫をもう一度拝みたい、そしてあわよくば触りたいだけ。


 そんなことを考えていたら、再びソマリの懐がもぞもぞと動いた。


(やはりあの中にあの猫が! あーもう一度姿を見せてくれないかなあ! くそっ!)


 一瞬「そこに猫がいるのだろう。出してくれ」とソマリに頼もうかとも考えたが、こんな至近距離で猫を拝もうものなら、幸せのあまり卒倒してしまう可能性が高い。


 そんな姿を、他国の王子や結婚相手の両親に見られるわけにはいかない。


 ここは我慢だ。どうせソマリを我が国に迎えれば、いくらでも猫は見放題になるはず。

 などとスクーカムが考えていたら。


「というわけでスクーカム様! ふつつかものですがよろしくお願いいたします」

「……ああ」

「なんだか今日はいろいろあって疲れてしまいましたわ! 部屋で休ませてくださいませっ。お父様、お母様、後はよろしくお願いいたします!」


 早口でそう捲し立てると、ソマリはそそくさと家の奥へと入ってしまった。

 たぶん、懐の猫をどこかに隠したいのだろう。


 猫を愛でようとしている悪女だと、自分や両親やアンドリューの前で暴露はしたものの、ここで本物の猫を出したらまたひと騒動起きてしまうことは明白だ。


(く……! やっぱりもう一度だけ見たかったけれどな! あのつぶらな瞳、ふわふわの毛、甘くとろけるような鳴き声……! くそ、思い出すだけで身もだえしそうだっ)


 なんて、スクーカムが鉄仮面の下で歯痒い表情をしていると。


「ソマリが猫……? スクーカム殿と婚約……? え、俺は一体何を……?」


 と、呆然とした面持ちでぶつぶつ独り言を呟くアンドリューと。


「えーと、あの……。スクーカム様、本当によろしいのですか? あんな娘で……。婚約破棄されたばかりですし、しかも悪魔の使いである猫をかわいがるなどと、支離滅裂なことを……」


 と、掠れた声でスクーカムに尋ねるソマリの父が傍らにいた。


(そういえば、アンドリューがソマリに婚約破棄をしたという話だったな。なぜそんな事態になったのだろうか? まあ、そんなことは知ったことではないが)


 ソマリがどんな女性であるかなど、スクーカムにはどうでもいい。


 ただ猫にもう一度会いたいだけ。そのためなら婚約だろうが結婚だろうがなんだってする覚悟である。


「ああ。俺は彼女――ソマリがいいのだ。後日、正式に婚約の儀を行おう。では失礼する」


 ソマリの父にそう告げると、マントを翻し颯爽とシャルトリュー家の玄関を出るスクーカム。


「さすが、軍事国家サイベリアン王国の王太子……。なんて素敵な殿方なの」


 去り際に、ソマリの母からそんな恍惚とした声が聞こえてくるも。


(あーあ。やっぱりもう一度だけ猫を見たかったなあ……)


 などと、スクーカムは考えていた。


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