短編 84 尻毛が話し掛けてきた
爆笑しながら書きました。
一片の悔いもなし!
短編を書くのって楽しいですね!
ある日の事。
お風呂に入っていたら話し掛けられた。
「お手入れしてー」
すわ! 痴漢か覗きか!
そう思った。だって私は現役女子高生。アイドルにだって負けない美貌の美少女なのだから。
しかし風呂場には自分以外に人は無く。窓も閉まっていて誰も覗いていなかった。
……疲れてるのかな、自分。
美少女として外面を気にすること、十数年。本当はうんこもおならもするのよ? でも人前では我慢しているの。まぁ普通は人前でうんこしないし。
「お手入れしてよー」
声はまた聞こえた。
「どこ! どこにいるのよ!」
この美少女の裸を拝んで只で帰ろうなんて、そんなの世界が許しても私が許しはしない! 金払え! お手入れも只では……お手入れ?
「ぼく、君の尻毛なのー。結構もじゃってるのよ?」
こうして私の不思議な日々が始まった。
自分の尻毛が喋り出す。人生って何が起こるか分からないって言うけど……これは反則じゃないかな~と美少女な自分は思いました。
「もじゃ~」
「黙れ尻毛! 美少女が尻毛もじゃもじゃなんて世界が許しても私が許さないのよ!」
早々に消し去るつもりであったが私のお尻はデリケート。ブチりと引きちぎるのは優雅ではないの。
尻毛も「優しく抜いてー」と騒いでいる。
お風呂上がりの私は悩んでいた。
ガムテープで一気に行くか。
それとも剃るか。
「ねぇ、尻毛?」
「もじゃ?」
何その返し。まぁ良いけど。
「剃るのとガムテープ……どっちがいい?」
一応本人の意向も聞いておくべきだと私は思う。自分の尻に話し掛けてる事は気にしない。美少女には秘密が沢山ある。これもきっと秘密になるはずだ。
私自身もどうかと思う質問だけど尻毛は普通に答えてくれた。
「脱毛クリームがお勧めなのー」
尻毛のくせに生意気な。一番乙女っぽい答えを出しやがった。
確かに後々を考えるとそれがベストとも言える。
でもその前に。どこから生えてるおけけなのか気になった。
「生えてるのは右? それとも左?」
私のお尻は割れてるの。どっちかなー?
「どまんなか~」
どまんなか……つまりは……あそこか。これは脱毛クリーム一択であると悟った。乙女としても、美少女としても、そこは少し、いただけない。誰にも見られないけど……見られないのよね。だったら……。
「お手入れしてー」
「ちっ、やかましい尻毛め」
こうして私と尻毛の戦いは始まった。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう。お姉さま」
明くる日である。
私の通う学校はお嬢様学校。挨拶からしてお嬢様。今日も朝からお嬢様なの。おほほほほ。だって平日なんですものー。
「ごきげんもじゃー」
「ごきげ……もじゃ?」
「おほほほほ! 何でもありませんことよー! おほほほほほほ!」
ヤバイ。尻毛の言葉は普通の人にも聞こえる仕様だった。てっきり私の妄想だと思ってたのに。
とりあえずトイレに駆け込んだ。女子高なので女子トイレだ。一応教員用の男子トイレもあるにはある。どっちにしようかすごく迷って女子トイレの個室に駆け込んだ。
ドアを閉めて便器に座っ……座らず尻に向けて話しかける。見返り美人に見えるかしら?
「尻毛。学校では黙ってなさい」
「もじゃ?」
「おい尻毛」
「もじゃ~?」
「……お前……何を企んでる?」
「……もじゃもじゃ?」
何となく理解した。こいつは確かに私の尻から生えてきた毛だ。
こいつ……イタズラしまくる気だ。
私でも同じことをするだろう。絶対にやる。椅子に座ったら『ぶー』とか言うに決まってる。私もやる。絶対にやる。そして笑う。超笑う。
……とりあえず……抜くか。
「きゃー! そんな乱暴に引き千切らないでー!」
「お黙り! 私も涙が出るほど痛いのよ!」
尻毛の悲鳴と私の悲鳴が朝のトイレに木霊した。ぶっちんぶっちんという音も木霊したかも知れない。
トイレで良かった。引っこ抜いた尻毛は流しておいた。抜いたら静かになったので死んだのだろう。きっと。
こうして私と尻毛の戦いは終息を迎えたのであった。
その三日後。
「お手入れしてー」
今度は家のトイレで声を掛けられた。踏ん張ってる時に返事など出来はしない。とりあえず無視した。
「僕は背中毛なの~」
「ちょっと黙りなさい。アイス食べ過ぎたからお腹が……」
「もじゃ~?」
ぐっ! 私は清らかなる乙女。背中に毛なんて生えてるはずがない。無駄毛にしても背中はない。というか見えねぇよ。
尻毛は全て殲滅させたはず……ぐぉぉぉぉ。腹がぁぁぁ。
「もっじゃ、もっじゃ、も~」
「人が唸ってる時に歌うな!」
なんで私の無駄毛はこんなにも陽気なのだろうか。こんなにも清楚で可憐な私のボディから生えていると……。
「ぬぐぅぅぅぅ!?」
来た。いきなり来た。脂汗が止まらない。
「もっじゃ、もっじゃ、ももも~」
ぐぬぅ……。トイレの床に私の汗が垂れている。なんて事なの。まるでジムのようだわ。トイレ暑い。でも汗を拭いてる余裕もない。両手は腹を抱いているのだから。
超痛い。子供を産むときもこんな感じなのかなぁ。ふふふー。
「もっじゃっも~。もっじゃっも~」
ラマーズ法? 背中の毛は私を援護してくれるのね。
「トイレ臭いの~。流して~」
「黙れ無駄毛! ぐぬぅぉぉぉぉぉぉ!」
このあと三十分はトイレで唸り続けた。アイスを三個食べるのは無謀。それがよく分かった。
アイスは一日一個。
どんなに食べたくても、それは鉄の掟ね。
で、ゲッソリした私はお風呂に入る事にしたの。汗がすごかったし、何より背中の確認のためにもね。
そういうわけで全裸でお風呂よ。
「もじゃ~」
「ふぅ……で、背中の毛はどうすれば良いのよ」
何となく自分が汗臭い。あれだけ脂汗を出していたので当然なのだが、乙女としてちょっとアウト。早くシャワーを浴びたいけどグッと我慢。
「お手入れしてー」
「ガムテープ?」
とりあえず風呂の鏡で背中を確認してみる。濡れた肌にガムテープは張り付かないのよねー。またしても見返り美人ね。腰を捻ると括れる私。流石!
……うーん。
……。
マジで?
「もじゃ~」
私の背中が、もじゃってた。
産毛なのだろうが……もじゃもじゃだった。
そんな……そんな事って。
私は美少女なのに……背中がこんなにも……こんなにも……もじゃもじゃだったなんて。
「もじゃ?」
「……おかーさーん!」
私は助けを求めることにした。もはや体裁を気にしている余裕はない。
お母さんがお風呂場にやって来た。私の助けを呼ぶ声に反応してやって来た。
「あらまぁ。あなたも年頃になったのねぇ」
「もじゃ!」
「ええそうよー。女の子は年頃になるとどうしても全身がもじゃるのよねー」
「もじゃ~」
母親と背中の毛は平然と会話をしていた。どゆこと?
そして私は全裸のままだ。風呂場だし。
どゆこと?
「お母さんも若い頃は大変だったわー。思春期に毛深くなっちゃって」
「もじゃ~?」
「やったわねぇ。ガムテープで一気に。そのあと腫れちゃって大変だったのよー」
あれ? お母さんも脱ぎ出したぞ?
「もじゃでございますのー」
「もじゃっ!?」
「お母さんのもじゃは手強いわよー?」
……あれ? なにこの超展開。お母さんの股間から、おしとやかそうな声が聞こえたぞー? あれれー? おかしいなぁー。
「お母さんが無駄毛との付き合い方を教えてあげるわね。うふふ。まさか娘もこんなもじゃになるなんて……血は争えないのね」
「もじゃでございますもの~」
「……どゆこと?」
「もじゃ?」
この日は親子の絆が強まる事になった。
そして後日の事である。
「ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、お姉さま」
今日も平日。なので学校。私はいつでもお嬢様。
「お姉さまのお髪は今日も綺麗ですわね」
「おほほほ。特殊な油を手に入れましたの。ガマ由来ですわ」
「まぁ! カエルさんですの?」
「鏡の前で、じとーっとするんですのよ。じとーって」
「まぁ、カエルさんはナルシストなのかしら」
どうなのかなぁ? お嬢様学校に通うお嬢様って変人が多いから会話のテンポに慣れるまでが大変なのよね。
かと思えば、やたらと男前なお嬢様もいるし。重度のショタコンもいるし。女子高は闇が深いわ。
「それでは今日も健やかでありますよう」
「ええ。そちらこそ」
これを素でこなせるようになるまで三年も掛かった。幼稚園からのエレベーターなのにね。
「もじゃ! 敵影なし! オールグリーンもじゃ!」
「黙れ無駄毛」
結局背中の毛は殲滅出来なかった。母曰く『共存するのがベターなのよー』だそうだ。
私の伴侶は無駄毛ごと愛してくれる者を選びなさいとも言われた。
「もじゃ?」
……バイトしよう。そして全身永久脱毛するんだ。私はそう決意して今日も学業に専念するのであった。
そんな決意をしてから半時後。授業中の事である。
「……ぶー!」
「まぁ! おならですわね!」
「無駄毛ぇぇ! 貴様やりやがったなぁぁぁぁ!」
「……もじゃ~?」
この日から私のあだ名は『屁こき姫』となった。友達は激増したが、乙女としては死んだと思う。あと無駄毛は絶対に殲滅する。必ずだ。
今回の感想。
真面目な話になります。キチンとオチまで書けたので完成度は高い作品になりました。中身はともかくとして。
話としてのまとまり感。グッドです。
中身はともかくとしてね。