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デートスポット

作者: キッシー

1


博士は孤独な男だった。


長年の研究により手にした富や名声。


誰もが羨む彼の生活にはただ一つ愛だけがなかった。


なにより博士は理解していた。


自分が他者から純粋な愛を得るにはあまりに歳を重ねすぎていることに。


それに自らの財産に群がる獣のような女の偽りの愛を受けることを博士は是非としなかった。


年老い枯れゆく感情の中でいつしか他者に愛を与えそれ以上の愛を受けること、その欲望だけが博士の中で化物のように膨らんでいた。


2


研究所の地下室、ベッドのみが置かれた殺風景なその部屋に年端もいかぬ少女がいる。


腰まで伸びた艶のある黒髪。


触れれば折れてしまいそうな白く柔らかな肢体。


なによりこの世の悪を何一つ知らないような純粋な瞳には博士以外の何者をも映すことはない。


柔らかな蒼のライトに照らされてベッドに腰かける彼女の姿は汚れを知らぬ人魚を思わせた。


そう、彼女こそが博士の愛の結晶であった。


3


ある日博士は長年積み上げてきた財産の全てを切り崩して研究所に地下室を造り一人の幼子を飼い始めた。


他者から愛が得られないのであれば愛を与えてくれる誰かを作ればいい。


そう思い立った時、ただ死を待つのみであった孤独な老人は倫理という鎖から解き放たれ純粋な愛を生成する少女を作る研究者へと変貌した。


博士の最期の研究がその日から始まった。


4


博士は少女に食事とベッドのみを与えることにした。


純粋な愛の前には知識という不純物は邪魔になる。


世界に博士以外の生物が存在するという発想そのものを持つことを彼は少女に禁じた。


そして博士は少女に言葉を教えることをしなかった。


愛の言葉を少女に囁き、いつしか彼女がその言葉を反復して囁き返しても中身が空虚であれば意味がない。


そう考がえた博士はただ少女に対し慈しみの心を持ち接することを決めた。


いついかなる時でも傍を離れずに少女のことを優しく抱きしめ続ける。


他者から見れば孤独な老人のエゴイズムの固まり、そのものな光景だったが博士の知る愛の形は幼い頃母に受けたただそれだけであった。


5


ある日博士が亡くなった。


急死だった。


結局最期まで博士から一方的な愛を少女に与え続けただけであり彼の人生最期の研究は失敗に終わった。


意識が途切れる直前、倫理を犯してまで得ることができなかった愛を呪い博士は絶望と後悔の中で息を引き取った。


同時に少女の身体もみるみる弱っていった。


なにも出来ない少女は己の体に危機感を覚えることすら出来ず博士の腕の中で動かなくなった。


喜びも哀しみもない空っぽの人生だった。


6


「え~多くの功績を残したN博士記念館ツアー、そろそろお別れの時間と相成ってきました。


最期の展示品はこれ!


博士ご本人とその恋人と思わしき人物が抱き合っている絵画です!!!


みなさんご存じの通り博士が死の直前まで愛する人を抱きしめていたこと、その恋人も彼の腕の中で後を追ったという話はあまりにも有名でしょう!


絵の中の彼女も満たされた、幸せそうな表情をしていますよね。


小説に映画化などもされ多くの人が涙を流しました!


また、最近の研究では骨格の構造から恋人の年齢が10代後半ではないかとの説が有力とされており当時60歳の博士はかなりのプレイボーイだと言えます(笑)


この絵画を意中の人物と観賞すると恋が叶うと言われておりデートスポットとしても人気が………」

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