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章末①   ブランチポイント

 光が途絶え視界が回復したその先に、魔王は立っていた


 急所である心臓の位置の武装にはかすり傷一つない。

 だが右腕がだらんと力なくしており、特に手の辺りが黒くこげていた。


 クソッ、右手で防がれたか!


「素晴らしい!!!!!

 まさか、余の片腕を使用不能にできるものがいようとは!!!」


 この期におよんでも、なお上から目線で賞賛する魔王。


「歴代の勇者でもなし得なかった快挙だ!

 拍手を送りたいところだが、手がこのありさまであるのが悔やまれる」


 その声は喜びに打ち震えている。

 今までにない攻撃にショックを受けた様子もない。

 

 とはいえ、右手の『真理の魔掌』を潰せたのは不幸中の幸いか。

 左手の『偽りの御手』で防がれていれば、完全に無効化されていたはず。


「しかし、攻撃もさることながら……なるほど、確かにウソは言っていない。

 自分自身を騙す話術もあるのだな。これだから人間は面白い」


 魔王が語りながら近づいてきた。


「まさか、これほど楽しめるとは思わなかった。

 終わらせるには少し惜しい気もするが、そろそろ幕引きとさせてもらおう」


 オレはリタを背にじりじりと、バルドロールの作った壁沿いに下がる。

 だけど、この壁がなくならない限り、逃げ場はない。


 だが、まったく攻撃手段が失われたわけではなかった。

 『シロの中のシロ』は、あと1回使える。


 おそらく、魔王はその可能性に思いいたってはいない。


 だけど、目くらましのための『太陽の指輪』の力は全て使い切っている。

 今、そのまま打てば今度こそ『偽りの御手』で防がれるだろう。


 一体どうすればいい?



 オレは、『黒の中の黒』を発動させた。


「ほう、『黒の中の黒』を出したか。

 しかし、それでなんとする? その攻撃は先ほど通じなかったではないか」


「それはさっきの話だろ? 今なら通じるかも知れないぜ」


 ホントは、今もなにもない。


 奴の眼球には、宙に浮かぶこの変形自在の黒い球体の突きは効かない。

 そのあたりはなにも解決してないのだ。


「……なにか策があるのか、それとも単なるハッタリか。

 まあ、よい。お前の思惑ごと、叩き潰せばいいだけの話」


 魔王は不敵な笑みを浮かべ、歩みは止めない。


 間もなく奴の剣の間合いがオレをとらえるが、なおもオレに近づく。


 スリルを楽しんでいるのか、勝負を付けるのを惜しんでるのか……。


 だが動きがないオレに、やはりハッタリだと判断したんだろう。

 剣を大きく振りかぶって、オレを脳天から割こうとする。




 正直もう、ネタ切れだ。


 確かに『シロの中のシロ』は1回分残っている。


 だが、目潰しができなければ奴には当てられない。

 それ以外の攻撃は通じないか、発動が困難。

 この場から逃げようにも、付近を覆う結界が突破できない。


 今度こそ打つ手がなくなった。




 ……って普通、そう思うよな?




 ああ、確かに『黒の中の黒』を発動させたのはハッタリだったんだ。

 奴の間合いに入る直前までは。


 『遠近感のない物体で敵に接近を気づかせずに、その眼球を突く』


 コイツはそういうものとして作った。

 なのでそれ以外の用途なんて考えてなかったんだ。



 勝ちを確信した魔王の表情に暗い影が差す。


 奴には、オレの目の前にある黒い丸が急に拡大したように見えただろう。

 だが違う。


 光を完全吸収する球体は、その凹凸の区別をも失わせてる。


 黒い球体は魔王に接近していた。

 まるで、風船のように膨らみながら。


 やがて黒の球体が魔王の上半身に接触。

 その部分に穴が開くが、空気で膨らんでいるわけじゃないので破裂はしない。


 さらに『黒の中の黒』は変形し、奴の首から上を包む。

 こうしてその視界は完全にさえぎられた。


 だが魔王は今、自分がどんな状態になっているか理解していないだろう。


 奴は錯覚しているに違いない。

 目の前の黒い丸が広がり、それに世界が完全に覆い尽くされたかのように。


 魔王はむやみやたらに剣を振り回して、目の前の暗闇を切り裂こうとしてる。

 だが奴が自分の頭や首を刺すようなことでもしない限り当たりはしないだろう。


 オレはそんな魔王に向けて、『シロの中のシロ』を発動させた。

 魔王と指輪との間に、白い線が走る。



 『シロの中のシロ』の、もう一つの問題。


 指輪を向ける方向がちょっとそれるだけで光の出口は大きくズレてしまう。

 狙いがとても付けにくいわけだ。


 しかも魔王が動き回っている状況では、いつまでも狙いは付けられない。


 オレは具現の指輪で、奴の手首と胴を拘束するように魔法物質を生成。

 その動きを阻む。


 どれだけ持つか分からないが、打ち終わるまでの間でいい。


 さらにタイムストップの指輪を、スロー状態で発動。

 拘束されて動きの鈍くなった魔王の動きが、さらに緩慢に見えるようになった。


 オレは奴の心臓を貫くように位置を調整する。

 そして、『シロの中のシロ』から熱光線を発した。

 

 光線は武装を貫き、見事に心臓付近に命中。

 だが、それは魔王の身体の表面を焼いただけにすぎない。


「ぐうぅ、なにかしているな、鑑定士!」


 魔王はめずらしく苦痛の声を上げる。

 『偽りの御手』でそれを無効化しようとするが、左手はすでに拘束済み。


 魔王はそれでも身をよじり、かわそうとする。

 オレは鑑定眼も発動しながら、身体の動きに合わせ光線の当たる位置を調節。


「がはあっ!」


 どうやら深部に達したらしい、魔王の動きが痛みで一瞬止まる。


 良し! このままいけば、あともう少しで――





「でかしたぞ、寄生虫野郎!!! 止めは俺が刺す!!!」





 いままでどこにいたのか。


 突如、勇者壮五がこちらに走りより、剣を振り上げ、全力で振り下ろす。

 黒い球体ごと、魔王の頭を真っ二つにかち割るために。


 その攻撃により『黒の中の黒』は、はらわれてしまう。


 視界を回復させた魔王は斬撃と『シロの中のシロ』の光線をかわす。

 そして絶妙な体捌きで勇者に体当たりをしかけ、オレのほうへ吹っ飛ばした。


 勇者の身体が当たり、オレの体勢が大きく崩れ、倒れてしまう。

 体勢を立て直す前に『シロの中のシロ』の光線が、途絶えた。


「壮五!!!!!!!!!!!!!!」


 オレの怒号は、気を失った勇者には届かなかった。



「ふ、ふふ、まさか、余がここまで追い詰められるとは……。

 お前たちの世界に『窮鼠猫を噛む』という慣用句があるらしいな。

 まさにそれだ」


 ああ、間違ってない。

 ついでに耳でもかじってやりたいぜ。


「だが、お前たちはあきらめていない」


「お前『たち』?」


「ああ、お前の愛しのお姫様は、こちらをじっと睨んでおるぞ。

 お前の心配はしているが、不安は一切感じられない」


「リタが……」


「そして同時に、お前は死を覚悟もしている。

 どちらが本当なのだ? まだなにかあるのか?

 それとも奇蹟でも期待しているのか?」


「……さてね」


 試せることは全てやった。


 さっきの『黒の中の黒』だって、運良く思いついたにすぎない。

 もはや攻撃の手はない。



 どうやら、決意しなければならないようだ。


 オレは全力で魔王に突進した。

 手には神鋼の破片を握っている。


 魔王に向けてそれを伸ばした。


 奴は軽々――とはいえない緩慢さでギリギリ避ける。

 今までの攻撃でだいぶ体力を削れたようだ。


 オレはさらに神鋼の棍を延ばし続けながら、避けた魔王を横殴りする。

 奴はそれをギリギリ右腕で受けた。


 だけど伸び続ける神鋼の棍は、まるでムチのようにしなる。

 そして奴の腕ごと身体に巻き付き、拘束。


 それを無理やり力で引きちぎろうとする魔王。


 その足下から、流体金属がじわりとあふれ、奴にまとわりついてきた。


 神鋼翼の別形態だ。

 神鋼の棍、流体金属の2つに絡め取られ、奴は動きが取れなくなった。


「リタ!!!!!!!!

 『転移の指輪』を使え!!!!!!!!」


 オレはリタに向けて大声で叫んだ。



 調印式が始まる前に、オレはリタに転移の指輪を渡していたのだ。

 もし力およばなかった時、リタだけでも脱出できるように。


 ホントは調印されると同時に指輪を使ってもらうつもりだったけど。

 それは、迷惑がかかると拒まれた。


 このアイテムは、装備者を一度通ったことのある龍門へ瞬間的に転移可能。


 龍門は王都の入り口に一つある。

 そして、これは大地の龍脈を通じて移動する。


 これならバルドロールの張った結界の影響を受けずに脱出できるはず。

 龍門にさえ行き着けば、あとはこよりがリタをうまくやってくれるはずだ。


 それまで魔王を数分でも拘束し続ける。

 たとえここで力尽きて、魔王に命を奪われることになるとしても。




 だけどいつまで経っても、リタに指輪を使う気配がない。


「リタ!!!!! なにかトラブルでもあったのか!!!!」


 オレの問いかけに、


「勇者さまを置いていけない……」


 リタがそう呟いたのがわかった。


「ダメだ!!!!!

 最初から、そう決めてあっただろ!!!」


「ムリです……。

 だって、勇者さまを置いてきぼりなんて、できるわけないじゃないですか……」


 その時、魔王がオレの拘束を力で無理やり外してしまう。


「リタ……」


 脱力して、膝をついたオレに、魔王は慈しむように声をかけてきた。


「どうやら、本当にもう手は尽くしたようだな。

 ならば、最後の話くらいはさせてやろう」


「……」


「なんなら、その転移の指輪をどちらかが使うのを見逃してやってもいい。

 当然、残ったほうには今回の顛末にふさわしい処遇をあたえることになるが」


 オレは魔王をにらみつける。


「うむ、良い感情だ、美味である」


 魔王は、べつに情けをかけたわけじゃないのだろう。

 オレとリタのやりとりで生じた感情のオーラを味わいたいだけなのだ。

 くそったれが。


 リタがオレに近づいてくる。



 撤退して体勢を立て直す。

 理性的に考えれば、それがベターだ。


 そのためにオレ一人、指輪を使ってここを脱出する。


 ……できるはずない。


 でも、じゃあ、戦うか?


 どうやって?

 対抗手段なんてないだろ?


 彼女を助けるために全力を尽くし、先に逝く。

 そんな行為に満足を得るなんて、単なる自己満足だ。


 どうする、どうすればいい。


 オレは――





※魔王と最後まで戦う   → このまま次の話へ


※撤退して体勢を立て直す → 目次に戻り『間章① なんで、オレに鑑定士の加護なんて……』から読む

続きを夕方か夜以降に投稿します。




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― 新着の感想 ―
[一言] まだくたばってなかったんかこの寄生虫… さっさとこのドクズな寄生虫の頸落としてなかったのが今作戦最大の敗因だあなぁ てか、最低でも達磨にしとけば良かったんにな?
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