魔王ヴェール② 魔王ヴェールが倒せない
バルドクルツが『バルカナの勇者の宝石剣』を装備し、勇者と対峙してた。
宝石剣は魔力を込めることにより、強度が神鋼を遙かに超える。
勇者の装備している防具も役には立たないだろう。
そうなれば勇者も脆い。
少しでも自分が傷つきそうなリスクのある攻撃なんて、アイツにはムリ。
それを責める気はない。
自分を守ろうと考えるのは当然だ。
だけど、このままジリ貧でやっててもいずれ致命的なことになるだろうに。
オレが手を貸すか?
「お前の相手は余ぞ?
アレに手を貸そうというのなら、余も相応の対応をせねばならんな」
確かに、こっちも勇者に構っている余裕はない。
アイツがどうにかなる前にケリをつけないと。
オレは魔王のほうを向き、武器を構える。
「そう来なくては」
魔王も武器を左手に持ち、構える。
相手の魔法や技を無効化する『偽りの御手』のあるほうの手だ。
御手は武器を持ったままでも発動できるのか。
それとも銀翼による攻撃のようなモノには意味がないと考えたのか。
まあ、戦ってみるしかないな。
オレは銀翼の一部を鋭化させ、まるで触手のように伸ばして奴を突く。
それを魔王は体勢をほとんど変えないまま剣ではらう。
その間にマルチナが銀翼の数個所を鋭化。
突きを矢継ぎ早に魔王へあびせかける。
それを奴はうまく裁けない。そのほとんどが身体にヒット。
だけど、そのことごとくが爪の先ほども奴の皮膚に食い込まない。
ダメージなし。
わかってて避けなかったのか? 余裕をかましやがって。
オレはバルドクルツのときのように、銀翼の一部を地面に潜らせる。
そして奴の足下、あらゆる方向から伸ばし攻撃を当てようとした。
だが魔王は直前、空中に飛び上がりそれらをすべてかわす。
そこへマルチナが銀翼の突きで追撃。今度は一ヶ所に力を集中させる。
それは見事に決まる。だけど、やはりダメージはない。
にもかかわらず魔王の表情はすぐれない。
てかまたしても、意外なことを目の当たりにしたような顔をしている。
そこへ追撃をかけようとしたマルチナの攻撃が止まった。
「寄生虫野郎!!! 俺に代われ!!!!!! 烈破灰燼撃!!!!」
突如、勇者が前に出て魔王に切りつけてきた。
どうやらバルドクルツの宝石剣を嫌って、奴から逃げてきたようだ。
「ほう、勇者が来たか、いいだろう。
バルドクルツよ、鑑定士を適当に相手しているがいい。殺すなよ?」
「了解、魔王さま。
というわけで、今度は僕と戦ってもらうよ」
そう言うと、宝石剣をしまうバルドクルツ。
『マルチナ、バルドクルツの攻撃をしばらく防いでいて欲しい』
宝石剣を使われれば難しいだろうが、でなければなんとかしのげるはずだ。
『了解です、マスター。
小休止といったところですか?』
『いや、その間、オレに魔王と勇者の戦いの様子を見せて欲しいんだ。
できるか?』
『バルドクルツの攻撃頻度によると思いますが。
とりあえずやってみましょう』
どうやら魔王の奴はこの戦いが面白くなってきたようだ。
おそらく今、バルドクルツが『死の瘴気』を使おうとしても止めるだろう。
ならできる限り魔王の戦いを観察して、あとに活かすほうがいい。
勇者はすでに見えない攻撃を魔王に連続して繰り出している。
御前試合で龍介におこなったやつだ。
そこへ、さらに高速に魔王の周りを回りながら不規則に連撃を叩きつける。
以前の強気の発言が、単なる虚勢ではなかったことをうかがわせる。
バルドクルツにだって、本来余裕で勝ててただろうに。
宝石剣を出される前に押し切ってたら。
だけど魔王は、勇者のこれだけの攻撃をあびながら。
そのことごとくを受け流したり避けたりしていた。
そこに隙は見当たらない。
にしては、さっきはこちらの攻撃がそこそこ命中してたよな。
ダメージが入らないと余裕をかましていたのか。
それともオレが鑑定士ということで油断しているのか。
いや、ひょっとして――。
「ふむ、こんなモノか。
先代の勇者が素晴らしい相手だったので、期待していたのだが」
ひとしきり攻撃を浴び。
魔王はため息のようなトーンでそんなことを口にした。
「はぁ? しのぐのがやっとのテメエが、何を言ってやがる?」
勇者の攻撃がさらに速度を増し、縦横無尽に剣筋がアイツの周囲を走る。
だけどそのどれもが、あいかわらず魔王にはかすりもしない。
「クソがっ!!! 魔物ごときがちょこまかと逃げてるんじゃねえ!!!!」
「ふふふ、そうは言うが、お前の表情に焦りの色が見え始めているぞ?
もういい加減、わかってるのではないか?
自分の攻撃が見切られていることを」
魔王の言っていることはウソやハッタリじゃない。
相手の一撃が本気か、牽制やフェイントか。
感情を読み取ることで、魔王にはそれがわかるのである。
ましてや勇者は基本、直情型。すぐに感情を露わにする。
あとは相手の視線などを見れば、その攻撃を見切るのはさほど難しくない。
魔王にとってはまさにカモと言っていいだろう。
「うるさいうるさいうるさい!!!!!」
だが、勇者はそれを認めようとしない。
確かアイツは、魔王が感情を読み取ることを知らないはず。
教えてやっても良かったが、どうせそれでも行動を改めないだろう。
感情にまかせた攻撃は雑になり。
やがて魔王は、上体を反らすだけでそれらをかわせるようになる。
「つまらん。もう良かろう」
魔王が一言もらした。
突然、それまで勇者の攻撃を受けているだけの奴の剣が、ふと消える。
かと思ったら、アイツの身体が真上へ大きく跳ね上がった。
無造作に振り上げた剣の風圧が、勇者の顎に当たり打ち上げられたんだ。
まるでボクシング漫画でアッパーを食らった選手のように。
勇者の身体はそのまま自由落下を許し、頭から地面に叩きつけられる。
ダメージはそれほどでもないはずだが立ち上がってくる気配がない。
ボクシングで言うところの『脳が揺さぶられた』というやつだろうか。
「さて待たせたな、鑑定士よ。
お前には、先ほどに引き続き奇抜な奮戦を期待する」
その言葉にいち早く反応したバルドクルツ。
うやうやしく一礼すると、後ろに下がる。
同時に魔王は剣先に強烈に光る球体を生成した。
それは細かいプラズマのようなモノをいくつも発している。
おそらくは電撃系の魔法。
そんな球体がオレに向けて投げつけられた。
かするどころか近づくだけで致死量の電撃が身体を流れることになる。
当然受けるなんてもってのほか。
だけどオレはバルドクルツの動きに気を取られ、反応が遅れる。
その魔王の攻撃を避けるタイミングをのがしてしまった。
迫る電撃球体。
発せられる放電の火花が雷となりオレを襲う――ようなことはなかった。
その電撃球体は、透明な何かに覆われオレの手元におさまる。
予知してたわけではないが、こんなこともあろうかと対策は考えてあった。
包んでいるのはダイヤモンドと同質の魔法物質。
それを電撃球体の周りに生成したのだ。
ゴムも絶縁体ではあるが絶縁破壊が発生し、防ぎきれない可能性がある。
その点ダイヤモンドはその約100倍の絶縁耐力あり防ぐのにもってこい。
オレは無力化された球体をバルドクルツに向かって軽く投げる。
まるでキャッチボールでもするかのような気軽さで。
高速で投げていれば奴に避けられたかもしれない。
バルドクルツはゆっくりと飛んできたそれを軽くキャッチする。
うかつにも。
瞬間、オレは電撃球体の周りを覆う魔法物質を解除した。
「ぐぎゃあぁぁぁあああぁあぁあーーー!!!!」
覆っていたダイヤモンドの囲いが霧散。
途端、息を吹き返したかのようにその電撃球体は周りに放電。
それは、あますところなくバルドクルツに襲いかかる。
バルドクルツは膝をついて、倒れたまま動かなくなった。
鑑定眼で奴を見る限り、致命傷とは言えないもののかなりのダメージ。
おそらくしばらくは起き上がってこないだろう。
「ふふふ、さすがだ。よくぞ余の――」
言い終わるのを待ってなんてやらない。
瞬間、オレの前方に生成された、黒い穴。
『黒の中の黒』から実質不可視の棘が隆起する。
その堅さは神鋼に匹敵する強度を持つ。
それが、魔王の顔に、目に向かって伸びた。
奴の目をくりぬかんと、脳を貫かんと。
魔王ご自慢の読みでも、それをかわすことはできない。
奴が予見し、かわせるのは感情のこもった攻撃だけ。
だから勇者やオレの攻撃がことごとくかわされた。
だけどマルチナには、思考によって発せられるような生命力がない。
魔王に検知できない彼女の攻撃。面白いように当たるわけだ。
この攻撃もオレの意を受けてマルチナが発動させている。
魔王に受けたり避けたりする気配はない。
そして、その黒い槍先が奴の眼球に達し、
ガキンッ!!!!
鋭い金属音を放った。
「光を完全に吸収する物体は、その凹凸の区別がつかなくなるのだな。
なるほど、面白いものを見せてもらった。褒めて遣わす」
魔王は何もしなかった。
ただ、真っ正面からそれをまともに喰らっただけ。
「くそ……、眼球まで神鋼並みの堅さって、なんだよそりゃあ……」
失望を露わにせずには、いられない。
魔王幹部の眼球をことごとく潰した『黒の中の黒』の攻撃。
だけど、魔王に対しては身体を攻撃するのと大して違いはなかった。
『黒の中の黒』の攻撃は、魔王には通じなかった。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
もし、
・面白かった!
・続きが気になる!
・更新がんばって!
・応援するよ!
と思われた方
よろしければ
広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。
すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、
感じたままでかまいません。
また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!




