レン③ レンは、レンだった
今のレンは変化の指輪の影響を受けておらず。
鑑定眼の鑑定結果に素のままの情報をさらしていた。
彼女は転生者が召還される前から教会に所属しており。
その中で、おもに隠密活動を担っていたようだ。
召還の儀式の時、彼女は教会の命令で転生者と偽りクラスに潜入。
転生者たちが裏切るような行動をしないよう内部から誘導する。
そんな役割をあたえられていたようだ。
またリタとオレが出会ってからは、リタの護衛も兼ねていた。
彼女の受ける神の加護はホントに商人であり、そこにウソ偽りはない。
ただ商人系のスキルではなく、様々な隠密や戦闘系スキルを隠し持ってた。
どうりで。
ずいぶん戦い慣れているとは、オレも以前から思ってたんだ。
これらの情報を『万物の鑑定眼』から隠すため指輪を使ってたんだろう。
だけど、教会がオレの鑑定眼のことを知ってたにしては不自然な点はある。
指輪を使ったのは彼女の独断かもしれない。
そして鑑定結果の中にも、奴の口にした情報はあった。
彼女には実の弟がいて、すでに亡くしていたんだ。
バルドクルツが1人でアルベリオールの住民を皆殺しにした時に。
商人の加護を受けながら教会に所属し、隠密のような活動をする。
それは全て、弟の敵を取るためだった。
一体そこにどれだけの努力と苦労があったんだろう。
突かれたバルドクルツが調印式に参加した人々の座る席に飛び込む。
奴が腰の剣を抜き、振り回す。周りに人がいるのも関係なく。
たちまち辺りにいる人々の腕が、胴が、首が宙を舞う。
調印式の参加者が我先に建物の出口に殺到する。
オレはその場で動けずにいた。
オレは、死んだ弟の代わりだったのか――。
そんなどす黒い憶測が、否定しても否定しても自分の心に湧く。
バルドクルツの剣撃を、鉄扇を広げていなすレン。
それが次第に押されていく。
確かにスキルで上手くしのげているが、転生者ではないのだ。
限界はある。
……なんで、レンはこのタイミングで奴に仕掛けたんだ!
勝ち目なんてないのに!
悠里がレンとバルドクルツの間に飛び込む。
その前進と共に繰り出された大鎌の一振。
それは、奴の渾身の一突きを横から切り、奴の剣の刃を根元から割いた。
警戒したバルドクルツは後ろに退く。
限界ギリギリだったレンが悠里の方に倒れ、それを悠里が支える。
不意にレンがこちらを見た。
『仕方ないわね』
オレが店の客の前で慌てふためいている時。
そう言いながら、レンはオレと客との間に立つ。
そんなときにする表情を、彼女はしていた。
わかってしまう。
レンは敢えて攻撃をしかけたんだ。
場が荒れたところでオレがどさくさにまぎれて出やすくなるように。
魔王との対峙が、全部あとでレン自身のせいにできるように。
鑑定結果なんて関係ない。
レンは、レンだった。
「何やってるの! アンタのお姉さんでしょ!!!!」
悠里が怒鳴る。
オレは前に出て、レンたちとバルドクルツの間に入った。
悠里の怒声に押されるように。
姉ではない、なんて言えない。
いや、言いたくなかった。
そりゃあ、血縁関係はないけど。
最初は、住む場所と糧を得るための交換条件でしかなかったけど。
オレはレンの弟でいることが、満更じゃないと思っていたんだ。
逃げようとする人々で、辺りは大混乱している。
そこを一部の兵と龍介たちが誘導していた。
それでギリギリどうにかパニック状態になるのが押さえられている。
「シュウにい!!!!!」
いつの間にか入場していたこよりがオレを呼ぶ。
その声の方を向くと、彼女が1つの指輪をオレに投げてきた。
彼女が『シロの中のシロ』と名付けた指輪だ。
軽く鑑定するかぎり未完成なようだが、それでも使えないことはない。
オレは、回転の指輪と受け取った指輪を嵌め変える。
そして、タイムストップの指輪を使った。
今さらである。
こんな基本的なことも忘れるほど、オレはうろたえてたんだ。
今、指にはめて装備している指輪は
回転の指輪
具現の指輪x2
タイムストップの指輪
太陽の指輪
破壊の指輪
魔力結界の指輪
黒の中の黒
眺望の指輪
シロの中のシロ
以前の組み合わせから『回転の指輪』と『太陽の指輪』を外した。
代わりに『眺望の指輪』と『シロの中のシロ』をはめている。
太陽の指輪は、他の指輪への魔力供給のために今まで2つ装備していた。
だけど今まで1つ使い切ることはほとんどなかったので今回は1つ。
回転の指輪は1度に使える回数に制限があり、2つ装備なら安心ではある。
だけど、マルチナによって柔軟な指輪の運用が可能になった。
戦闘中の補充も楽になったし1つでもなんとかなるだろう。
これで大丈夫だ、問題ない。
……なんて言い切ると、フラグになりそうで怖い。
周りを探る。
今の状態では周囲を見渡せない。
だけどマルチナが眺望の指輪の視界を整理して情報として送ってくれる。
まず気になるのは魔王の動き。
奴は腕を組み、愉快そうな顔をしてこちらの方を見ている。
どうやら傍観を決め込んだようだが、油断はできない。
こよりは、あらかじめ決められたルートでこの場から離れようとしている。
一緒に戦ってもらえればありがたいが、今の彼女には酷だろう。
リタは魔王の後ろでこちらを心配そうに見ている。
ここでのオレの最終的な目標はリタをさらって逃げることだ。
だけど当然、この場にいる悠里やレンを置き去りにするわけにはいかない。
レンはすでに戦闘できる状態にはないだろう。
悠里に逃してもらうしかない。
そしてオレ1人で、魔王とバルドゼクスをしのぎ。
隙を見て魔王の背後にいるリタをさらって逃亡する。
ハッキリ言って無理ゲーだ。
初動で怖気づいたことが悔やまれる。
レンがバルドクルツに切りつけた時に連携して動けていたら……。
いまさら悔やんでも仕方がない。
あとで悠里に一発、殴ってもらうか。
幸い、魔王がオレを攻めてくる気配はない。
油断していると考えるのが普通だろう。
だけど案外、オレが意表を突いてリタを確保することを警戒してるのかも。
どうあれ、まずは魔王がその気になる前にバルドクルツを墜とす。
それが第一歩だ。
タイムストップの指輪を解除する。
「悠里、レンをつれて一旦ここを離れてくれ」
「そんなこと言って、アンタ、大丈夫なの?」
「……まあ、失敗の尻拭いくらい自分にやらせてくれよ」
「わかった、すぐに戻ってくるから。
それまで、持ちこたえてね!」
そう言って、気を失っているレンを軽く担ぐ。
そしてこよりが出ていった方へと走った。
「くくく、君がゼクスを追い詰めたんだって?
スゴいねえ。アイツが魔王さま以外にやられるなんて」
「そこは、相性の問題もあったんだろうさ」
実際そう思う。
奴は直情型で、フェイントは多少あっても全体的に手は読みやすかった。
「まあ、僕は事情があってめったに戦わないんだよね。
戦闘を楽しむような趣味はないからいいけど。
でも今回は少し楽しみ――」
瞬間、その姿が消え背後に衝撃が走る。
前にバルドクルツが繰り出してきた攻撃。
それを、さらに速いスピードで奴は実行してきた。
それは、マルチナが瞬時に展開した銀翼によって完全に防がれる。
スピードはバルドゼクスより遙かに速いが、そのぶん威力に欠けるようだ。
瞬時に元の位置へ戻り、マルチナの繰り出す攻撃をかわすバルドクルツ。
「……まあ確かに、ゼクスもマグレで倒せるような奴じゃないよね」
とぼけたようにそんなことをぼやきながら、別の剣を取り出し構えた。
後ろにいる魔王は、あいかわらず愉快そうにこちらを見ている。
「いい位置だ」
「え?」
オレのその言葉の意味をバルドクルツが理解する前に。
バルドクルツの両目が何かに貫かれた。
「がはあぁぁああ!!!」
貫かれた目のうちの片方を押さえて奴が呻く。
抑えられていない方の目からは、奴の血らしきドス黒い液体が垂れてる。
オレの前方に浮かぶ、まるで空間に穴が開いたような黒い球体。
『黒の中の黒』改。
早々に切り札の一つを出させてもらった。
光をほぼ100%吸収する変形自在の黒い球体。
それは形状の変化を悟られることなく、相手の目を穿つ。
今回のものは、前より生成時間と変形時間を大幅に改善してる。
バルドゼクスに通じたその攻撃は、バルドクルツにも有効のようだ。
だけど魔王の前であまり回数を使いたくない。
ネタが割れれば、いくらでも回避方法があるからだ。
視線の大部分が魔王とバルドクルツで重なる今の位置取り。
それは格好の狙い目だった。
「く、くふふ、ゼクスに話を聞いていなければここで詰むところだったよ」
そう言うと床に落ちた剣を拾い、こちらに構える。
どうやらバルドゼクスの話を聞いて気配を探る方法を得たらしい。
とはいえ、周りを完全に把握できるものではないようだ。
バルドゼクスのように、こちらの動きに敏感に反応している感じはしない。
これならなんとかなりそう。
よし!
初手『黒の中の黒』はうまくいった!
「ほほう。これが話に聞いていた技か。
中々興味深いな。どれ、余にも見せてみよ」
だけど、この手は裏目に出る。
魔王はこちらに歩を進めてきた。
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