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幕間⑩-1 王妃、魔王と対峙する その1

※第二王妃コーデリアの視点

※約10年前



 王都を少し離れた草原。


 夫、娘、そして私の3人、ピクニックにやってきていた。

 今日は月に1度のお忍びでの外出だ。


 それ以外の日は城のバルコニーに出るのも制限されている。

 この国に嫁いで、私に自由というものはほとんどなくなった。


 今だってここから見えない周囲に、おそらく数十名の護衛兵が控えている。


 でも、それでいい。

 自分の持つ力には、そうするだけの価値と警戒するべき危険がある。


 私の一族が代々受け継いでいるのは封印術。

 20年後、魔王が復活した時に世界の行く末を左右する重要なカギ。



「かあさま! とおさま! ここにかあさまのお花が!」


 考え事をしていると娘が花を持って、とてとて近づいてきた。 

 今年で5才になるはずだけど、歩き方があいかわらず少し危なっかしい。


「なあに? 私の花って?」


「かあさま、おっしゃってたではないですか。

 この花が好きだって」


 差し出された花は、この国の春先の道ばたでよく見かけるもの。

 娘の言うとおり、私の好きな花だ。


「まあまあ、覚えていてくれたのね。

 あなた、リタが花を摘んできてくれましたよ」


「そうか」


 夫――この国の国王である彼が、気難しそうな顔をして、ただうなずく。


 傍から見ると、花や娘が嫌いなのではないかと疑うかもしれない。

 けど違う。夫はただ、どう返せばいいかわからないと困惑しているのだ。


 もっとも私だって、そういうのがわかったのは嫁いでから1年経った後。

 その前までは、国政以外のことに興味のない、気難しい人だと思っていた。


 私に本当にまれに見せる笑顔。

 それを娘に、みなにも向けられたら、印象も変わるでしょうに……。


「はい! とうさま! かあさまの花です!」


 それでも娘は、私に向ける笑顔を夫にも向けてくれる。


「そうか。……くれるのか?」


「はい!」


 そう言って父親の側まで走り寄ろうとしたところでコケてしまった。

 夫は棒立ちしたまま――かと思ったら早足で娘のもとへ駆け寄り、起こす。


「とうさま……ありがとうございます!」


 リタは父親に向かってニッコリ笑った。



 夫に対する周りの反応が変わる日も、そう遠くないのかもしれない。




 就寝前。


 侍女を下がらせ就寝する直前。

 不意にバルコニーへ通じる窓の開く音がした。 

 侍女が閉め忘れたのだろうか。


 音がした方を向くと、そこには1人の男が立っていた。


「何者です」


 出そうになる悲鳴をかろうじて抑え、かろうじて質問を投げる。


「夜分に失礼するぞ。

 余はヴェール。お前たちには魔王のほうが馴染みも深かろう」


 魔物特有の特殊な気配。それも今までになく濃い。

 ほとんど冗談としか思えないその発言を、信じないわけにはいかなかった。


 内心、冷や汗が止まらない。


 魔王の復活は、あと20年ほど先と聞いている。

 それに合わせて王国も準備を進めていた。


 だから今のタイミングでは迎撃の準備がまったく整っていない。

 転生者も召還されてはいないのだ。


 勇者として発現した者がすでにいるのが救いだが、それでもわずかに7歳。

 今魔王に暴れられたらどうなるか……。


「その魔王が、私になんの用でしょうか?」


 内心の動揺を隠し、冷静に問う。


「ふむ……抵抗されると思ったが、話を聞いてもらえるとは。助かるぞ。

 遺跡の仕掛けの発動に、お前の力が必要でな。協力してほしいのだ」


「遺跡? それはどのようなものなのですか?」


「その名は、『エヴァンスの扉』という」


 『エヴァンスの扉』?

 少なくともその単語に思い当たるものはない。


「人間界と魔界を繋げる扉でな。そこから我は魔界に帰ることができる。

 そうなれば人間も我の恐怖に怯えなくてすむわけだ。

 お前たちにとっても良い話だと思わぬか?」


「人間界と魔界を繋ぐ……?

 それが本当である証拠はあるのですか?」


「ここでは示せぬ。

 だが、おそらくは扉を見れば、お前自身の記憶が証明してくれるであろう。

 私の言葉が真実であることを」


 そう言われてピンと来たことがあった。

 確か私の先祖が、人間界と魔界を繋ぐ門を封印したと。

 名までは伝わってなかったが……。


 それが本当であるのなら、確かに悪い話ではないように思える。

 

 けど封印されたのなら、そうしなければならなかった理由があるはず。

 それを私が勝手に解除していいものだろうか。



 魔王は、私自身の記憶が証明すると言った。

 まずは扉を実際にこの目で――。



   ガギン!!!



 突如、何者かが魔王を背後から剣で強襲してきた。

 それは確実に相手を切ったはずだが、魔物の王は微動だにしない。


 しかけたのは少年勇者だった。

 転生者以外、それも6才で加護を発現させた、歴史上最年少の勇者。


 年齢は娘とほとんど変わらない。

 けど、現時点でも伝承に伝わる勇者に引けを取らない実力を持っていた。


 その彼が、攻撃を受け流された体制のまま部屋になだれ込んでくる。


「なりません! 王妃様!

 扉が解放されれば、漏れ出した瘴気は人間界を蝕みます!」


「ほう、城の下層に放ったはずの魔物を外から昇って回避したか。

 見事である。しかも『エヴァンスの扉』のことを知っているとは……」


「魔物を放った、ですって?」


「その通り。

 話し合う時間を稼ぐために、ここへの通路を封鎖させてもらった」


「話し合いなどというのなら、こんな夜盗の様なマネをするな!」


「威勢のいいことだ。しかし勇者よ、お前は瘴気がどうと言っていたが。

 それは余を人間界に留めておかなければならないほど危険なものなのか?」


「とぼけるな! 開けば、国土の全体に瘴気がひろまる。

 体力や魔法抵抗力のない多くの人々が死ぬことになる!」


「なあに、安心するがよい。

 瘴気と言ってもお前たちほどの者ならばさほど影響は受けまい。

 死に絶えるのはなんの役にも立たない下級クラスの人畜程度よ」


「それを、私が看過すると思っているのですか?」


「ふむ。その辺りの感覚が余にはわからぬな。

 弱い個体など廃棄して、新しい個体を生成すれば良いだけではないか」


「……今ここで要求に応じる気はありません。

 お引き取りを」


「なるほどな。どうやら決心は変わらぬと。ならば仕方があるまい。

 少々痛めつけ、しかる後に余の住処で説得させてもらうことにしよう」


 魔王は右手を振りかざすと、突如空中にこぶし大の石が生じる。

 それは私に向かって飛んできた。


 あれが私たち一族の伝承に聞く『真理の魔掌』。

 詠唱なしで呪文の効果を発生させる右手の力。


 飛んで来た岩石は、とてつもない威力を秘めている。

 急所に当たれば間違いなく命を落とすだろう。


 もっともあえて私の急所は外しているようだが、それを幸いとは思わない。

 即座に防御陣をしき、それに応じる。


 私の持つ封印術を応用したその術も詠唱不要。

 そして威力に関係なくあらゆる攻撃から術者の身を守る。

 

「ふむ、どうやら城の形を維持できる程度の攻撃ではそれは崩せなさそうだ。

 ならば、全力の攻撃を放つしかあるまい」


「させません」


 私は魔王の周りを別の結界で覆う。

 この結界に直接攻撃を防ぐ効果はない。けど、


「ふふふ、『真理の魔掌』の弱点をこうもあっさりと看破するとは、見事」


 あの掌は魔力を魔王自身ではなく、周りから吸い取り、得る。

 その流入を防げば、魔掌での魔法発動はできなくなるのだ。


「だが、詠唱による魔法を防ぐことはできないようだ。

 さて、それを防ぐ手段はあるのかな?」


「それは、ボクがさせない」


 言うが早いが、少年勇者が魔王に矢継ぎ早に攻撃をしかけた。

 これなら長い詠唱を必要とするような強力な魔法は使用できない。


「これは厄介な。

 だが、まあいい、それなら剣術で相手をすればいいだけのこと」


 そう言って、腰に差していた剣を抜いた。


 それに臆することなく、勇者は剣で斬りかかる。

 それを余裕で受ける魔王。その手に持つ剣も神鋼に違いない。


 それから勇者と魔王は、お互いの剣が折れてしまいそうな勢いで打ち合う。

 けど、どちらも一歩も引かない。


 やがて勇者は大きくバックステップをふむと、左手を剣から放す。

 その人差し指と中指を立て、剣舞のような動きを見せた。


 一見、無意味な動作はそれでいて牽制も果たし、魔王も迂闊に近寄れない。


 そんな勇者の周囲から膨大な魔力の気配が生じるのを感じる。

 おそらく彼は何か技を仕掛ける気だ。


 その膨れ上がった魔力は剣へと宿り、炎のようなオーラが剣から立ち上る。

 彼は一歩踏み出し、剣をそのまま前方へ鋭く突き出した。


 剣の周りの炎は前方へ渦を巻き、放たれる。

 それはまるでスピアを突き出したかのように、魔王めがけて突進した。

時間を置いてもう1話投稿します。



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