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バルドゼクス戦③ なんとか勝利できた、と思ったのに……

 このまま、球体の内側に拳の気を解き放たれたら。

 奴の言うとおりオレは粉々に砕かれ、骨も残らず焼かれてしまう。



 オレがその神鋼の球体の中にとどまっていたら、の話だが。



 奴がなにかしゃべってる隙に、オレは見つからないように球体内を出ていた。

 そして10m程度はなれた位置に跳躍。


 オレと球体は細い神鋼で繋がっているので、そこから出ても形は維持される。


 そして奴が闘気を放ち高笑いしているところで球体を消滅させた。

 敵が離れた場所にいるのを見て、唖然とするバルドゼクス。


 その隙を逃さない。オレは奴に神鋼翼の棘を伸ばした。


 奴の全方位の地面から20本の棘が伸び、襲いかかった。

 神鋼翼の一部分を変形し、地面に潜らせ、奴を囲むように棘を放ったのである。


 『回転の指輪による魔法陣が地面に描かれていない』ことによる油断。

 『地面からくる攻撃は大したことない』という油断。


 この2つの油断により、奴はその棘の何本かに身体を貫かれた。


 だけど、巧みにも致命傷になる攻撃は全て外されてしまう。

 もっとも、オレの攻撃はまだ序盤だ。


 オレはさらに奴の足下に回転の指輪で反発力を発生させる。


 今の体勢で足下の反発力を回避するのは難しいだろう。

 だが奴はそれをなんとかこなす。


 もっとも、奴が指輪の効果を回避するかどうかはどうでもよかった。


 オレはその隙に回転の指輪で飛び上がり、翼を変形。

 神鋼の立方体をあらん限りの大きさで生成する。


 その重さ、推定約20トン。

 ちなみに大きめのロードローラーが冷却水も含めてそのくらいの重さになる。


 そして、そのまま奴に向けて自然落下した。

 回避するために空中に飛び上がった奴は、神鋼の塊をかわすすべを失ってる。


 バルドゼクスはなすすべなく、20トン近くある神鋼塊の下敷きになった。




 突如、砦の外壁から大歓声が上がる。

 外壁の上でこの様子を見ていた兵たちによるものだ。


 砦の出入り口から、そして半壊した外壁から。

 わらわらと兵たちがオレに向かって殺到してきた。


 魔王軍幹部の1人、バルドゼクスは神鋼の下敷きとなってこの世から滅される。

 砦の危機は去った。


 そういう安心感で沸き立つ兵たち。


「見事な戦いぶりでした!!!」


「さすが転生者様だ!!」


「貴方こそが真の勇者様です!」


「いや、この方こそ我らの救世主!!!」


 オレをもみくちゃにしながら、彼らが口々にオレを賞賛する。

 命が助かったからといって、とんでもない賞賛振りである。




 突如、ドン! と大きな打撃音が当たりに響いた。




 と同時に、魔物を押しつぶしたはずの神鋼の塊が大きく宙を舞う。

 まるでシュートされるバスケのボールみたいに。


 そして少し離れたところに轟音をたてて落下する。


 下敷きになったはずのバルドゼクスが立ち上がってきた。


 殺到していた連中は我先にとその場から1人残らず逃げ出す。

 残って一緒に戦おうとする奴がいないのは、正直複雑な気分だ。


「へへへ、すげーな、おめえは!

 ありえねーだろ。ここまでつえー打撃を喰らったのは初めてだ!」


 息を切らしており、それなりにダメージは入っているとは思う。

 だがオレの攻撃を賞賛するその声に、まだこれから、という気迫が感じられた。


「どうした!? さすがに今の攻撃でやられたと思っただろ!?

 残念だったなあ! だが、まあまあの攻撃だったぜ!」


「いや、こんな攻撃じゃあやられないって、わかってたさ」


「そうかい? なら、他にもっとねーのかよ? いや、そんなわけねーよな?

 さすがにこれほどの技はもう他には――」


 興奮気味にしゃべっていた、奴の声が途切れる。


「なんだ、お前の横にあるその『穴』は」



 奴を押しつぶしてから、30秒が経過していた。

 『黒の中の黒』を発動させるのに十分な時間が。



「がはあ!!!」


 突然、バルドゼクスが、右眼を押さえ苦しみ始める。

 その押さえたところから血があふれ、だらだらと地面に滴っている。


「お、おい! 今、なんの攻撃をした!?

 その黒い穴からなの――ぐがあぁぁあああぁ」


 今度は左目から血を吹き出した。



 元の世界で最近作られた塗料に「ベンタブラック」というものがある。

 それは真の黒色。


 黒色というのは光を吸収することによって黒く見える。


 だけど、どんな黒でもほんの少しだけ光を反射しているのだ。

 そのために微妙な陰影が出て、例えば黒いボールでも立体的にみえる。


 だがその塗料はそのわずかな光の反射すらないという。


 この塗料で塗られた物体は一切の立体感がなくなる。

 まるで空間に黒い穴が開いているように見えるらしい。


 それを応用したのがこの『黒の中の黒』。

 全ての光を吸収する真の黒色をした、変形自在の球体である。


 基本的には神鋼翼と似たような存在。

 だが表面の真の黒色により、陰影がなく立体に見えない。


 つまりどんなに近くに寄っても接近を認識できないということだ。


 球体の表面が針のように隆起して、その先端が目を貫くほど接近したとしても。



 達人なら、気配みたいなものを感じ取ることができるのかもしれない。

 だが、少なくともこの魔物にそんな技能はない。


 それは、ここまで戦って色々な方向から攻撃してみてわかっていた。


「もう、それじゃあ、戦えないだろ?

 オレの勝ちだ」


 そうは言ったが、内心は驚いていた。


 この攻撃は目を潰すだけではなく、脳まで貫いているはずだ。

 なのにコイツは生きているどころか、知能を保っていた。


「ああ、確かにもう戦えねえ。お前の勝ちだぜ。

 だがオレも戦士だ。ここは最後の抵抗をさせてもらう」


 バルドゼクスは言うと、自分の全身に気を集中させ始めた。


 ……ヤバい。

 鑑定眼で見てわかる。こいつ自爆する気だ!


「ハハ! こうなったらお前らの1人でも多くを道連れにする!

 ちなみに、オレに触れるなよ? 触れればその場で爆発するぜ!」


 拳に気を集めて放っただけであの威力だ。

 ましてや全身なら……。


「へへ、本当は最後、魔王様と戦って死ぬつもりだったんだがなあ。

 だがお前みたいなのと戦え――」 


バルドゼクスは言いかけて、突然言葉を止める。


「お、お、まえ、なにか、やったのか?」


「ああ、最初からな」



 コイツから空気を奪う。

 保険として最初からそれを狙っていた。


 そのために、指輪で疑似窒素を奴の顔の下半分に固定生成し続けてたのだ。


 固定生成した疑似物質はターゲットから見て常に同じ位置を保つ。

 それはこいつの口や鼻をおおい、それでも吸うことのできない疑似気体となる。


 これによって奴は呼吸困難に陥ったわけだ。


 ただ、コア物質なしでオレから離れた場所に生成するのは時間がかかる。

 また普通の濃度だと分子間の隙間から自然の空気が入りこんでしまう


 だから、出会ってから手が空いた時には常に生成し、重ね続けた。

 そして今、その努力が実ったのだ。



 バルドゼクスは目を潰され、呼吸もままならない。

 勝ちは決まったも同然だが、油断はしない。


 オレは回転の指輪で奴の身体を真上に跳ね上げる。

 そして変形させた神鋼翼を地面に敷いて受け止めた。


 情けや親切心ではない。


 さっき下敷きにした時は地面が柔らかかったのでダメージを吸収された。

 今度は神鋼を下に置き、さっきと同じ神鋼の塊を落として潰すのだ。


 神鋼翼の上で横たわる奴の上空で、羽を変形させた神鋼の塊が大きくなってく。


 やがて神鋼の塊がさっきと同じ大きさになり、潰す準備ができた。

 あとは、これを下に叩きつければ、バルドゼクスを倒せるはず。


 オレは、上空の神鋼塊を落とすようマルチナに――



「お待ちください。鑑定士殿」



 今朝、オレたちをけしかけた魔物『バルドロール』の丁寧でいて冷たい声。

 それがオレの背後から発せられた。


「誠に勝手ながら、貴方を止めにきました。

 まさか、ここまでやるとは……」


 こうなる可能性について、頭の片隅にはあった。


 こいつは、バルドゼクスの作戦無視を止めたいだけ。

 破滅を望んでるわけではないんだから。


 だが、それならオレを攻撃すればいいのに。

 わざわざ呼び止めたのはどういうことだ?


「ホント、勝手だな」


「ええ、そう思います。

 ですが、これは貴方のためでもあるのです」


「コイツに止めを刺したら命がない。

 とでも言いたいのか?」


「いえ、我が主人、魔王ヴェール様が先日、この国の王と会談。

 そこで我が主人より、講和の提案が成されました。

 我らと貴方が所属する王国とは、ただ今、停戦状態にあります」




「……は?」

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