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バルドゼクス戦① 敵幹部と戦うことになった

※シュウが砦に到着する2時間ほど前


「これはご丁寧に、とでも返せばいいか?

 それで、なんのようだ? 襲撃しにでも来たのか、おい」


「いえいえ、私としては、今回の鑑定士殿の手際を賞賛したく参上しました。

 それと、ついでに警告を一つ」


「賞賛はいいから、その警告っていうのを聞かせろよ」


 どうせ、これ以上我々に刃向かうとどうとか、そんなところだろう。

 くだらない。


「なるほど、ではそうしましょう。

 私の同僚の1人が砦に向かっております」


 ……なんだって?


「私としては、我が軍が城に閉じ込められた時点で作戦は失敗。

 これ以上の戦闘は意味がないと思っておりまして」


 随分とあっさり敗北を認めたな。


 まあ、ああなれば、魔物を解放できるのはオレたちだけ。

 逆の立場なら、一旦引いて対策を考えるだろう。


「ですが、同僚が勇者と決着をつけるまでは帰らない、と聞きませんでね。

 早く行かないと砦が危ないと思いますよ?」


「それって、なんのつもりだ?

 オレたちにその同僚とやらを止めて欲しいのか?」


「そう取ってもらって結構です」


 不可解だ。なにを考えてるんだろう?


 オレたちを村人から引き離すための発言か?

 いや、村人やオレたちには策を講じるような価値も脅威もないはずだ。


 てか、勇者ですら歯が立たない敵をオレたちでなんとかできると思ってるのか?


「ちなみに企みのような、そんなたいそうな話ではありませんよ。

 こちらも一枚岩ではない、そういうことです」


「ふーん。

 でも止めるどころか、わたしたちで倒しちゃうかもしれないよ」


「ははは、ご冗談を」


「むかー! ねえ、とっととコイツ倒しちゃって、砦へ行こうよ!」


 バカ悠里が。

 この場で追い詰められてるのは、ある意味オレたちのほうだっていうのに。


 バルドロールを鑑定眼で見る限り、戦闘能力は悠里とだいたい互角。


 オレたちのパーティーで倒せない相手じゃない。

 悠里1人でもなんとかなるかも。


 だが、オレたちの後ろにはたくさんの村人がいる。

 それを守りながら戦うのは……。


「って言っても、オレたちが砦へつくのは早くても夕方ぐらいだ

 その頃には、全部終わってるんじゃないか?」


「ここにいる者、全員で行けばそうなるでしょうね」


……こいつ、アレのことを知っている?



「ねえ、あの煙……なにかしら?」


 不意にレンが砦のほうを指さす。


「おやおや。

 どうやら、もう始めてしまったようですね」


 確かにその方角に煙が立ち上がっているのが見える。


「まあ、私としてもここであなた方を足止めするのは本意ではありません。

 用件も伝えましたし、私は失礼します」


 そう言うと魔物の着ているローブの背中が割け、骨が突き出た。

 それが羽のように見える。


 悠里が突進し大鎌で切りつけるが、魔物は避けるように跳躍。

 そのまま飛び去ってしまった。




「その、砦が危ないというのは本当でしょうか」


「多分、本当だと思う。ていうか、オレたちにウソをつく理由が思い当たらない」


 仮にオレたちをどうにかしたいのなら、不意打ちでどうとでもなっただろう。

 わざわざワナにかける意味はない。


 少なくとも幹部の襲撃はホントなんだろう。

 完全な善意ってのはありえないと思うが。


「いずれにしても、早く出発したほうがいいわね。

 多分、間に合わないと思うけど……」


「ああ。だからここはオレに先に行かせて欲しい。

 オレ1人なら1時間半でつく。少なくとも、時間稼ぎはできると思うんだ」


「それ、ホント!?

 でも仮に1時間くらいで行けるとしても、シュウくん1人じゃあ……」


「……ひょっとして、シュウにいは、クロちゃんを使うつもりなの?」


 クロちゃんって……って、ああ、この黒い指輪のことか。


 黒い指輪は、こよりと2人で対魔王を想定して作っていたマジックアイテムだ。

 今は実験段階だけど、これを防ぐのは初見ではムリだろう。


「だったら、こっち持っていきなよ。実は改良したの作ってあったんだよね。

 30秒で発動するようにしたんだ」


 鑑定眼で見ると、確かにその辺りが大幅に改善している。

 前は5分くらいかかってたからな。


 それに、今回のものには名前がついていた。


 『黒の中の黒』

 こよりはそう命名したようだ。


「なにさ!

 そんなのがあるんならさっさと出せば、お城であんな苦労――」


「いや、これってタイマン専用武器みたいなところがあるからさあ。悠里ねえ。

 ……忘れてたワケじゃないよ?」


「まあ、どうあれありがとう。

 いざという時は使わせてもらうよ」



 見ると、悠里とレンとリタが不満そうな視線をこちらに向けている。


「うーん、そのすっごく早く行ける技、わたしにもつかえないの?

 そうすれば、アンタと一緒に行ってそいつぶっ飛ばしてやるのに」


 うん、悠里なら言うと思った。


「……ムリするな、って言っても多分ムダなのよね? シュウくん」


「面目ない」


「ごめんなさい。

 わたしが、『村人を助けたい』なんて言ってしまったから……」


「そんなこと言うなって。

 みんなのことを思うリタだからオレは、その、うん。まあそういうことだ」


「ヘタレ」


「うっせえ、悠里。

 そんなんじゃないって」


 オレは、照れ隠しのように皆に背を向けると、回転の指輪に意識を集中する。




 通常半日かかるところを、短時間で移動する方法。

 それは、回転の指輪と具現の指輪による高速移動の応用技である。


 回転の指輪の反発力は人間なら最大時速80Kmで空中へ打ち上げる。

 それを斜め上に指定することにより、前方へ約時速50Kmで移動できるのだ。


 そして落下し始めたら例の羽を使うことで、勢いを保ちつつ飛行距離を伸ばす。

 理論的には大体80分くらいで到着するはずだ。


 だが前にやってみたが、空中での高速飛行をコントロールするのは難しかった。

 今のところ、1回の飛行時間は5分弱。


 それでもやるしかない。

 そう思ってたら、マルチナが自分でコントロールすることを提案してきたのだ。


 それにより今現在、約40分を着地せずに飛行させることに成功している。 


『ありがとうございます。ポンコツな私に任せてくれまして』


『ポンコツって』


 オレはマルチナに教えられ、声を発せずにこいつと会話できるようになってた。


『マルチナは前に『オレの身体でできること以上はできない』って言ってただろ?

 でもそれは『オレにできることしかできない』とは微妙に違うと思ったんだ』


『そうなのですか?』


『例えば、オレが考えると感情がノイズになって答えが導き出せないこともある。

 だけどマルチナなら感情抜きで冷静に考えることができるはずだ。

 まさに『クールなAI』って奴だな』


『クールなAI、ですか』


『だから、これから探していければと思う。

 マルチナにできてオレにできないことをさ』


『分かりました。

 では、このポンコツな身体をどう活用するか、考えてみます』


『その前に、コミュニケーションを快適にする方法を考えたほうがいいと思うぞ?

 お前は』




 そして今、オレは無事に砦の前に到着していた。

 砦前で誰かが戦闘していたので駆け寄る。


 そこにいたのはボコボコにされて倒れた勇者壮五。

 そして、そんな壮五に渾身の拳を振りおろそうとしている男。


「待ってくれ。

 クズだとは思うが、死ぬほどじゃあないだろ」



 勇者のことは、頭にきていた。

 『どこかで野垂れ死んでればいいのに』と思ったのも一度や二度ではない。


 だけど、実際まのあたりにして、思わず割りこんでしまった。


 男は戦争には向かない肩の出た薄手の軽装をしている。

 肌が青くなければ、どこにでもいる普通の格闘家だと思っただろう。


 コイツがバルドロールの言ってた幹部か。


 鑑定眼で見る。

 なるほど、『バルドゼクス』っていうのか。


 確かに化け物だ。


 魔力適性は殆どないが、体力や力は勇者や悠里と互角か、それをしのぐ。

 少なくとも、真っ正面からでは勝てない。


 それに、勇者がここまでボコボコにされているのは予想外だった。


 『黒の中の黒』は発動に時間がかかる上、それ以外のことが基本できない。

 勇者がいれば、2人で潰し――いや戦ってる間に準備できたんだが……。


 『黒の中の黒』が使えない場合の保険はすでにかけてある。

 だけどそいつはとてつもなく時間がかかる上、確実に決まる保証はない。


 まずは様子を見て隙を探るか……。




「……まさか、ホントに間に合うとはなあ。

 バルドロールの奴から聞いた時は、とてもムリだと思ってたんだが」


 そう言って目の前の魔物はオレに向かって構えた。


 オレはとりあえず回転の指輪で勇者壮五を砦のほうに吹っ飛ばした。

 着地とか考慮していないが、勇者の加護があるから大丈夫だろう。


「さて、ここまできた度胸は褒めてやってもいいが、その後はどうする?

 鑑定士ごときで、どこまで耐えられるか、なっ!」


 その魔物がいきなり消える。

 と次の瞬間、拳の届く範囲にまで詰め寄り、オレの前で大振りに構えた。


 こんなのオレのステータスではどうすることもできない。

 敵の第一撃は腹部にみごとヒットしてしまった。


 オレは吹っ飛ばされ、その場に倒れる。


 そこへ、間髪入れずに駆け込んでくるバルドゼクス。

 まるでサッカーでゴールでも決めるかのような鋭い蹴りが炸裂した。


 やはりなすすべなく、オレの身体が地面を転がる。


 さらに、奴はそれに追いついてきてた。

 大きく拳をふり上げ、倒れている俺にそのまま振り下ろす。


 とっさに転がるように避けるが、その拳撃は大地を崩し、吹き飛ばす。

 まるで木の葉のようにオレの身体が宙に舞った。


 まるで手が出せない。

 落下して無様に地面に伏しているオレに、奴はゆっくり近づいてきた。



「お前、なにかしてるな?

 オレの攻撃くらって、その程度で済むはずねえ」

午後6時位に続きを投稿します。



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