表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/174

辺境攻防⑦ ナノマシンにAIとか、なんでもありだな、この世界は

 水が注ぎきらないうちに、方法にほころびが生じる。


 てか、想定には『敵と一緒に溺れそうになる』というのは入っていなかった。


 水位が増しても、魔物の一部はなんとか泳ぎ、水面に顔を出して耐える。

 やがてオレの足場まで水が達すると、足場に這い上がってきたのだ。


 そして、棍棒を振りかざしてくる。


 当然そいつらに『オレを倒したら足場がなくなるかも』なんて思う知恵もない。

 実際、それは正解だが。


 なんとか今から疑似釣り鐘を生成して中に入りたいが、その余裕もない。

 オレは仕方がなく、足場を解除して自分で泳ぐ。


 クソッ、うまくいくと思ったのに。とにかく、なんとかしないと。

 敵に泳ぎながら戦う余裕がないのは不幸中の幸いだが……。


 この状態から釣り鐘状の魔法物質を生成しようとする。

 だけど、それは走りながら精神統一するようなもの。中々うまくいかない。


 そうこうしているうちに、天井に手が届く位まで水位が上がってきてしまった。

 もうこうなると、仮に疑似釣り鐘を生成できたとしても空気の量が足りない。



 このままだと死ぬ。確実に。



 そんなことが頭をよぎる。

 冗談じゃない!




『落ち着いてください』


 不意に声が聞こえる。


「誰だ! 一体どこから――」


『私のことはあとで説明します。

 貴方のタイムストップの指輪を使用したので、まずは落ち着いてください』


 気づいたら、周りの景色が色を失ってた。

 タイムストップの指輪を使った時と同じだ。


 根本的な解決にはならないが、少なくとも考える時間が稼げる。

 こんなことも失念してたなんて。


 てか、この指輪は使った本人の思考速度を速める。

 それを、外部からオレに対して使ったのか? ホントかよ。


 正直、声の主に色々問い詰めたいが時間もない。

 指輪の発動可能時間が終わるまで対策を練らないと。


 そういやあ漫画で『こんな時は逆に考えるんだ』みたいな話があったな。

 ハハ、なんだオレ。余裕がでてきたじゃないか。



 ……いや。

 潜るというのはないにしても、打てる手はいくつかあるな。

 オレはいくつか策を考えて、タイムストップの指輪を解除する。


 まず、足場を水中に作った。


 釣り鐘と違って形はどうでもいい。

 とにかく平べったい形状をイメージして魔法物質を固定生成しそこに立つ。


 これなら敵に気づかれない。

 それにどのみち身長差で同じ足場は使えないはず。


 なんだ、はやく気づけば話はもっと簡単に済んだのに。


 だが当然これだけでは解決にならない。オレは落ち着いて呼吸を整える。

 こんどは手に神鋼の切れ端を持って、釣り鐘状に変形するようにイメージ。


 今度は簡単に、オレの周りに魔法物質による神鋼の釣り鐘が生成できた。


 だが大部分に水が入ってしまっており、頭を出す程度の空気しか残っていない。

 この中では30分どころか、10分も耐えられるか怪しい。


 だけど手はある。

 一応何時間でも水中を耐えられるようにするアイデアは以前から考えていた。


 まだ試作といえる段階でしかないが、今それを一部でも成功させるしかない。


 まず水中にできた自分の足場を解放、消滅させる。

 疑似神鋼の釣り鐘はオレと一緒にゆっくりと沈んでいく。


 そして水の底まで到達ところで、あるものをイメージして具現の指輪を使用。

 たちまち釣り鐘の内側を、イメージした魔法物質が満たした。


 それは、具現の指輪によって生成された疑似酸素。

 オレが自在に消滅させられる以外は、本物の酸素とまったく同じ性質を持つ。


 だが、これだけで終わらせてはダメだ。

 オレは釣り鐘の底を神鋼で覆い、疑似酸素を少しずつ消失させた。


 こよりに相談してこの辺りの実験をしたことがある。そのとき彼女が言ってた。

 『そのままの気圧で純粋な酸素を吸うと酸素中毒になる』と。


 ホントは疑似窒素も用意できればよかった。

 けど指輪の干渉により1度に生成できるのは2種類の物質までなのでムリ。


 最終的に釣り内の酸素濃度は、さっきまでの1/3になった。

 酸素だけの空気なら、その濃度を薄くしても呼吸には問題ない。

 

 オレはどうにか、自分で仕掛けたワナに自分がはまって死ぬのを免れた。



 とりあえずピンチをほぼ脱したところで、太陽の指輪で釣り鐘内を照らす。

 そして、


「ありがとう、とにかく助かったよ。

 君は味方と判断していいのかな? もしそうなら姿を見せて欲しいんだけど」


 先ほどの声の主に呼びかけた。


『肯定します。味方どころか一心同体、あるいは半身、またはこれから寝食を共にし、同じモノを聞き見る存在、と考えて差し支えないかと』


「な、なんだよそれ! お前ストーカーか何かか!?」


 女の子の声でそんなことを言われてちょっと照れてしまった。

 そういえば、心なしかもう少し音程を高くすればリタの声質に近い気が。


『否定します。また、時間がないと忠告もします。

 が、今後の為に敢えて自己紹介をさせて欲しいと進言します』


「ああ、とりあえず姿を見せてくれ」


 すると突然、釣り鐘の一部が盛り上がった。

 やがて、それは身長10cmほどの人型へと変形する。


 鑑定眼では、魔法物質であることと神鋼の特徴しか出てこず。

 この謎の人型の正体に関する情報はまったく得られない。


「君は妖精なのか?」


 身体の色が銀なのと羽が生えていない他は、まさにそんな感じのビジュアルだ。

 それは2.5等身の、カワイイ系のマスコットキャラっぽいなにか。


 だけど、どうやら違うらしい。


「否定します。この身体はコミュニケーションを円滑に取るための擬態です。

 本体は別の所にあります」


「それは、この城のどこか、ということ?」


「ざっくり言えばそうなりますが、もっと適切な表現があると指摘します。

 私は――貴方の頭の中にいます」


「頭の中!?」


「私は、貴方の頭の中に存在するナノマシンにより形成されたAIです」


「ナノマシンって、そんなのいつオレの頭の――いや、ひょっとしてあの時」


 こよりと落とし穴に落ちた先で、変な仕掛けに刺されたことが脳裏に浮かぶ。


「肯定します。

 あの時、貴方の身体にはナノマシンが注入され、それが脳に到達。

 先ほどマシンの初期化が完了し、起動した次第です」


 ……おいおい。


「確かに超古代文明はスゴいけど、さすがにこれはちょっと信じられないな。

 何か証拠はないのか?」


「ありません。

 貴方は自分自身が人間である証拠を今ここで出せますか?」


「……なるほど、そりゃそうだ。今はどうあれ、そっちの前提に乗るしかないか。

 しかしスゴいな、こんな未来的な施設にナノマシンにAIとは」


「そこには少し注釈を必要とします」


 そのAIは説明する。


 こいつは、オレ自身の頭の中にある知識をそのまま借用しているらしい。


 つまり、本当は別の名前がついた別の技術だけどオレはそれを知らない。

 だからそれに近いナノマシンやAIって言葉で代用してるとのことだ。


「そうか……、ん?

 ってことは、例えばこの城についても、オレが鑑定した以上は何も知らない?」


「肯定します。

 貴方の知識以外で私が知っていることは、自己紹介用の最低限の知識だけです」


「そうか、それは残念。

 そういえばさっきはオレの代わりに指輪の力を使ってたけど。

 ひょっとして鑑定眼や攻略Wikiも使えたりするのかな?」


「……否定します。

 おそらくその力は貴方の魂に対して神が与えた恩恵。

 そのため、私が使用することはできないようです」


「そっか。

 オレの代わりに魔力供給するようにやってもらえるかと思ったんだけど、残念」


「あと、計算とか思考とかはコンピューターのように高速にできたりするわけ?」


「否定します。思考処理も大部分は貴方の脳を間借りしています。

 基本的に貴方の頭の処理能力でできる以上のことは、私にはできません」


「そっか……」


 正直、世界樹と接続してなんでも教えてくれるようなのを期待してたんだが。

 思ったより使えないな。


「あ、今、『思ったより使えないな』って考えましたね?」


「い、いや、そんなことはないさー」


「否定しなくても構いません。

 正直、自分で説明していてそのポンコツっぷりに愕然としているところです。

 もう少しマトモな主人に使ってもらえれば、と少しガッカリしています」


「悪かったな」


 それにしても、興味深い話かもしれない。

 自分で言うのもなんだが、これでもオレの知力は自己鑑定でSSだ。

 古代人は、ひょっとして標準的にそれ以上だったのだろうか。


 まあ、細かいことはおいおい考えていくとして。


「とりあえず、これからよろしくな」


「こちらこそ、よろしくおねがいします。

 それにあたって一つ、提案があります。私に名前を付けてください」

時間を置いて次話を投稿します。



ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!


もし、


・面白かった!

・続きが気になる!

・更新がんばって!

・応援するよ!


と思われた方


よろしければ

広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。


すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、

感じたままでかまいません。


また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ