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台場悠里② ひとりぼっちのお姫様

 オレは指輪を外してリタに投げる。

 彼女はそれをぎこちなく受け取り、見つめた。


「確かに太陽の指輪です。

 でも、これでは昨日のように明るくは……。

 それに、光を集めて何かを燃やすなんてできるはず……」


「ああ、その通り。

 チンピラへの脅しはウソ。

 単なるハッタリだよ。

 どうやったところで枯れ葉の一枚も焼けない」


「そうなのですか!? ではあのまばゆい輝きは……」


「まあね、この指輪には本当の使い方があるんだよ」


「え? ただ念じれば光る、松明の代わりになるものではないのですか?」


「それはそうなんだけど、そもそもこれは光を作り出すアイテムじゃない。

 普段は光を吸収して、持ち主が念じた時に放つ指輪なんだ」


 リタはオレの話に目を見開いている。


 ムリもない。

 彼女だけではなく一般的にこのことは知られてないはず。

 普通の鑑定だとリタが言ったような情報しか出てこないのだ。

 どういう原理で動作するとか、そういうことは分からない。


「そこを勘違いして、みんなこの地味な指輪を巾着とかに入れっぱなしにする。

 そして必要なときだけ出して使うから、あまり明るくならないのさ。

 でも、普段からキチンと指にはめて光にさらして使えば」


「昨日のように輝く……と。

 では、光を集中させるのは?」


「それも機能の一つだけど、そのことは普通の鑑定では現れていないのさ」


 この指輪のレアリティでは、一般的な鑑定だと欠落が発生する。

 その辺、オレの鑑定眼は一般的な鑑定に比べて精度が高い。


「そういうことだったのですね。

 でしたら、わたしでも輝かせることができるのでしょうか?」


「ああ、何ならあげるから、夜にでも試してみるといいよ」


 と、指輪をあげようとしたが、さすがにもらうことはできないと断るリタ。

 しかたないので貸すことにすると、彼女は感謝しながら指輪を巾着に収めた。

 てか、これって感謝することか?


「でも、さすがです。

 そんなことを知っているのは、やはりあなた様が勇者さまだからでは?」


「いや、オレは鑑定眼というスキルでわかっただけだよ」


「でも、普通の鑑定士の方では分からないのでしょう?

 やはり――」


 しつこいな。

 なにがなんでもオレを勇者にしたいのだろうか。

 てか根本から勘違いしている。


「確かに転生者であるオレはこの世界の鑑定士より細かい鑑定ができる。

 だけど、それだけだ。

 勇者を名乗れるのは神から『勇者の加護』を与えられた者だけ。

 オレは違う」


 この世界ではスゴいから勇者なのではない。

 勇者だからスゴいのだ。


「そうですか……。

 でしたら……あの、その、では……、お名前を教えていただけませんか?」


「ああ、そういえば言ってなかったっけ。

 オレは『晴海 修』。

 あ、この世界だと『シュウ・ハルミ』なのかな?」


「えっと……、『シュウ』さん、ですね? わたしは――」


「うん、大丈夫だよ、知ってる。

 リタさん、だろ?」


「さん、は少し恥ずかしいです。

 呼び捨てでかまいません」


「わかった。

 じゃあ、リ、リタで」


「はい、よろしくおねがいします!

 そういえば、昨日もわたしの名前がすぐにわかりましたよね?

 それも鑑定士の力なのですか?」


 問われて、ついうなずいてしまった。


 人を鑑定することを隠しているのに。

 彼女には、「君が有名人だから」とかごまかせたはずだ。




「ところで……聞きたかったんだけど、リタのその指輪ってどういうもの?」


 深入りするべきじゃないと思ったが、ついごまかし半分で聞いてしまった。

 適当に話を切り上げても良かったかもしれない。

 けど、こんなかわいい子と話す機会なんてあまりないし……。


「えっ、昨日鑑定していただいた通りのものではないのですか?」


「いや、それはホント。

 だけど、ステータスとか効果とか、そういうことはまったく分からないんだ。

 だから後学のために聞いておきたくてさ」


「そうですか……。

 でもごめんなさい。

 幼い頃、母さまから頂いた大切な指輪というだけで、それ以外は何も……」


「そっか……。

 なら、もらった時のこと、聞いてもいいかな?

 もし良ければだけど」


「そうですね……。

 あの、当時のことは大して覚えていないんです。

 ただ、あの頃は母様も父様も優しくて……毎日が楽しくて……」


 彼女が儚げな笑顔を向けて語り出す。


「それがいつの間にか、周りが冷たくなっていって。

 この指輪を頂いたくらいから母様も口を聞いてくださらなくなって……。

 父様も母様もわたしが邪魔になったって、みんなが噂をして……」


 しまった、やっぱり巨大地雷だった!


「ああ! ゴメン! もういいんだ!」


「わたしのほうこそごめんなさい。

 こんな話をしてしまって……。

 でも、シュウさんが昨日言ってくれたんです。

 『この指輪には母様の想いが詰まっている』って」


「ああ、言った。

 それは間違いない、保証するよ」


「わたし、不安だったんです。

 みんながこの指輪のこと、単なるお情けや体面で与えた安モノだって。

 わたしも、本当はそうなのかなって、頭の片隅であきらめてしまって……。

 だから、だから――」


 わわ、レンが昨日のようにまた泣きそうになってる。

 ここは男として抱きしめて……。

 でもいいのか?

 オレから切り出した話でそんな風にするのはマッチポンプっぽくないか?

 まあでも、ほら、ここは緊急事態ということで――。


 オレは立ち上がり、彼女に歩み寄った――ところまでは覚えている。




 気がつくと路面を背に、オレの視界にうつるのは青い空。

 そこに、奴の姿が入る。


 リタほどではないがちっこい体。

 その上に、アホ毛とポニーテールを髪型にした頭が乗っかっている。


 ちょっとした中学生アイドルにでもなれそうな顔。

 それが今は怒りの表情でゆがんでいた。

 てかオレ、なんかこいつのそういう表情しか見たことがない気が。


 そいつは、オレの顔面に拳を叩きつけようとしていた。

 マウントポジションから。

 フルスイングで。


 学園でいつもオレに絡んでくるあの女。

 『台場 悠里』がなぜかここに来ていた。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!


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