幕間⑦ 勇者壮五、逃亡する
※勇者壮五視点
※シュウたちが村に到着した次の日
王都を追い出されてからから三ヶ月たった。
あれから驚いたことに、あの筆頭審問官の言うとおりになりやがった。
突如ペルナーム砦のそばに魔物の軍が陣取ってきたらしい。
そこで俺たちは緊急で、ベレビア砦から配置換えってことに決まる。
まあ、これが一段落したら王都に帰れるって話だから別にかまわねーがな。
手柄をあげて戻ったら、もう王都の連中にグダグダ言わせねえ。
だが、魔物の侵攻が実際に始まったのは今日。ったく、遅すぎるぜ。
とっとと終わらせて俺は王都に帰りてーんだ。
とはいえ、ここで喜び勇んで張り切るのは三流のやること。
このまま敵を簡単にひとひねりしたんじゃ、ありがたみがねえだろうからな。
見せ場のチャンスまでを手を抜く。
そして、ここぞという時に力を発揮するのが玄人のやり方ってもんだろ。
……と思ったが。
戦端が開かれてから、今までオイシイ展開がまったくねえ。
なんかスゲー魔物が出てきて、兵の数万でも犠牲になるとかねーのかよ。
クソ、このままじゃあ見せ場がねえうちに終わっちまうじゃねーか。
こうなったら今、俺がこの戦いにケリをつけてやる!
そう思って、大技を発動させようとした途端。
俺にガンくれてる野郎を感じて、それをとりやめた。
クソッ、邪魔しやがって。
やがて魔物の集団の一部が割れ、青い肌をした人型の魔物が出てきやがった。
「どうした? なにか技を出すんじゃなかったのか?
え? 勇者サマよ?」
ハハ、こいつはとんだラッキーだ。
魔物の中でも人語を使うやつは例外なく強いらしい。
周りの敵の動きからして、多分コイツが魔王軍の幹部。
つまり、コイツを倒せば確実に大手柄ってことだ。
こうなると、このクソ魔物を瞬殺するのはもったいねーな。
ある程度暴れてもらって、コイツの脅威をクズどもに分からせてやらねーと。
「君がこの軍団の長かい? 悪いけど、ここで倒させてもらうよ。
君たちにこれ以上仲間を傷つけさせるわけにはいかない」
「傷つけるっていうのは、こういうことか?」
そう言って、クソ魔物は剣を一振り。
周辺にいる俺以外のクズどもの胴体が、他の魔物ごと真っ二つに引き裂かれる。
「やめろ!!!」
ナイスだ!
この手の奴は、仲間がどうの的なセリフ聞くと大体こんな挑発をしてきやがる。
思った通り扱いやすいぜ、チョロいな。
ニヤけてしまいそうな顔を引き締め、俺はクソチョロい魔物に斬りかかった。
クソ魔物は両手に一本ずつ持つ剣でそれをいなしやがる。
カッコつけやがって。だが……、まあ大したことはねえな。
今の一撃で、コイツの剣さばきの底を完全に見抜いちまった。
コイツ、確かにパワーはまあまあ。うちの龍介よりは遙かにマシなレベル。
だが剣術がなっちゃいねえ。ハッキリ言って素人レベルだ。
ならまあ、適当にいなして苦戦を演じ、注目を集めたところで止めをさす。
そのまえにこいつに逃げられるとやっかいだが……。
まあ、適当に挑発してれば、逃げることはねーだろうよ。
楽な仕事だぜ、チョロいな。
あ、ゴミの持ってるクズ剣が片方くだけちまった。
この俺様と戦うんだぜ? もっとマシな剣を持ってこいってんだ。つかえねえ。
「剣が片方使い物にならなくなったけど、どうするんだい?
もし、投降するなら、命までは取らないよ?」
つーてまあ、投降はしねえだろう。
こういう奴は、こういう時最後まで悪あがきするに決まってるぜ。
だが、コイツは。
使えなくなった剣の柄はおろか、使える方の剣まで地面へと放り投げやがった。
……おいおい、ちょっと待てよ。本気で投降する気じゃあ――。
「けっ。『勇者は生かさず殺さず』なんていうから余興半分に剣を使ってみたが。
やはりこれじゃあ燃えねーな」
生意気にもいっちょ前に、そんなことをさえずりやがる。
そして見よう見まねか、なんか武闘の構えをとりやがった。
「……つまり君は今まで本気を出してなかったってことかい?」
「本気を出していたつもりだったんだが。剣士としては、な。
いや、勇者サマを前につたない剣技なんぞ見せて悪かった」
そんなことを口にするコイツから、今まであった一切の隙が消えちまった。
……ウソやハッタリじゃねえようだ。クソッ、面倒な。
だがまあ、悪くねえ流れか? 戦況を長引かせるには。
ここらで周りを巻き込むような大技を出してくれねーかな。
「ここから先は、本来のスタイルで行かせてもらう」
そう口にした途端、瞬く間に距離をつめ、俺に殴りかかる。
ハハ、スピードもパワーもマシになったじゃねーか。
他の奴なら避けきれずにその一撃で命を落としているところだ。
だが、話にならねえ。俺はその拳の軌道に盾を合わせ、それを受ける。
勇者の加護で強化された神鋼製の盾だ。そんな攻撃じゃあびくともしねえ。
だが、勢いは殺せなかったか。俺の身体が後ろの方へ吹っ飛ばさ――。
「逃がさねえよ」
クソ魔物がそんなことをさえずりやがる。
同時に、コイツ、もうワンステップで俺の足を踏みやがった!
足が固定されて、俺の身体が後ろに倒れ込む。
「ぐはあ!」
俺に尻餅をつかせるとか! 許さねーぞ!! クソが!!
だが、そこでクズ魔物の追撃が来やがった。
避けられねー! 受けるしか!
クズ魔物の拳が俺の顔面に迫る。
間に合わねえ!
周りの景色が灰色に染まりやがる。
ヤバい。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
俺は――、死ぬ?
とっさにクズ魔物の拳を盾で受ける。
なんとか受けき――
「うううぅうぅぅうううあがあぁぁああ!!! がぁあああぁ!!」
腕が! ねじれ――、腕がああぁああ! クソがぁぁ!
なんで! なんでぇぇ!
痛え! 痛え! クソがぁ!
クソッ、あのクソ、魔物が! ぶっ殺してやる!
チクショウ! 痛え! なんで、こ、こんなことに!
…
……
………
ケガは自己回復でだいぶやわらぐ。
だが、受けた時の痛みは、抜けきらねえ。
それにしても、どういうことだ? 追撃がねえ?
気絶したフリをして周りを伺う。
あのクズ魔物が他の魔物となにか話をしているようだが……。
クソッ、まだもう一体、幹部クラスがいるのかよ。
「――リ言って興ざめだぜ、バルドロール。
確かに、身体能力は高いが、剣術はハッキリ言って新米レベルだぜ?
もう、なぶり殺す以外にコイツに面白みを感じないんだが?」
俺を! この俺を新米レベルだと! クソがっ。
「そうかもしれないのですが、ヴェール様が気に入っておられるのです。
今までの転生者にない、性根の腐ったクズ野郎であると」
クズ! この俺を、この、この、この……。
「なにか勘違いしてるな。オマエ。俺は魔王がおもしれーからいるんだぜ?
従う義理ねーんだよ。だがまあ、戦場のあっちにも面白そうな奴がいたな。
あっちで楽しむ間は待ってやっても――」
「ああ、チューヤという奴でしたら、ほら」
なにかが落ちた音が聞こえる。どうやら俺の近くになにかを放り投げたようだ。
意識を戻してるのを気づかれたか? いや、大丈夫……だな。
脅かしやがって。
それにしても、なにを投げやがった?
確認しようと薄目を開ける。
目の前に転がる、中也の頭部だったものと目があった。
ひぃぃぃぃ!
「オマエ! マジかよ!
クソ! 先にやっときゃ良かったぜ。俺の楽しみを奪いやがって」
「そういうことでしたら。もっと面白いものがありますよ。
実はアリュース砦を攻めあぐねてるんですよ」
「はあ? オマエがここに来たから、てっきり攻略が終わってると思ったぜ。
オマエ、今回の策略で攻め落とせるって自信満々だったじゃねーかよ」
「ええ、ですから手を借りにここまで来た次第でして。
こちらに手を貸して頂いて戻ってくるまでだいたい1日。
勇者がこの有様ですから、多分ここもその程度までは持つのでは?」
アリュース砦、だって? ……そうか。
ベルナーム砦を攻めたのは転生者を砦に引きつけるための陽動かよ。クソが。
「ふん。言ってもどうせコイツを殺させねーための策なんだろ?
だがまあいいぜ。その策に一旦はのってやる。
だが、戻ってきたら、遠慮なくこいつを……」
「まあ、その時は仕方がないでしょう。ご自由に」
その言葉を最後に2人の気配が急速に遠ざかる。
俺は気配が感じられなくなったことを確認して立ち上がった。
痛え。傷は魔法で回復したが、初級じゃ痛みは取れねえか。
尻餅をついた際に足もくじいちまった。
痛みがヒドくて片足を引きずるようにしか歩けねえ。クソが、やってくれる。
拳を喰らったとき……。
盾で相手の拳を受けきることはできたはずだ。
なのに盾は腕ごと弾かれ、腕が雑巾を絞ったみたいにねじれちまった。
元の世界なら腕が複雑骨折ってところか……。
もし、あの拳が顔面にモロ当たっていたら――。
死。
間違いなく俺の頭は粉砕していた。
ガッツスキルなんて効くかどうかわからねえ。いや、効くはずだ。理屈じゃあ。
だが、当てにならねえ。効く気がしねえ。死ぬ。俺は死ぬ。死んでしまう。
今さら身震いが止まらねえ。
ゴメンだ、こんな所にいたら、俺は間違いなく殺される。
この戦場は1日もつに違いねえ。
戦場を探すのに時間がかかればさらにもう少し時間が稼げる。
まずグズ回復系魔術師を見つけて完全回復。
そしてこんなところ、一刻もはやくおさらばだ!
ここの連中がどうなったってしるか!
俺様をこんなところに送ったてめーらがわるい。
だいたい、子分が親分を守るのは当然じゃねーか。
逃げるんじゃねえ。再起を図る。
再起を図って、そして、そして――。
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