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古城探索① レン、バグる

 翌朝。

 オレたちは読書会の一部メンバーと共に古城へと出発した。


 砦へといたる道を馬車で北へ進み、渓谷を渡り、途中で西へのびる林道に入る。

 林道をある程度進むと、森の中にしては不自然なほど整備された道に出た。


 林道の開発中にこの森の中の古道が発見されたのが、つい数ヶ月前。

 そしてまもなく、この先にある古城も人の目にさらされることになる。


 森と森の間を縫うように走る古道を進むこと数時間あまり。

 昼前には古城を囲む城下町跡へ入った。


 見る限り、城下町の様式は王都とほとんどかわらない。

 ただ、中央の城への道は曲がりくねっており複雑だ。

 初見では間違いなく迷う。


 さっそく古城と城下町跡を鑑定眼で視る。


 古城の名前は「グレオノリス」。レアリティレベルは4。

 鑑定結果に作られた年代は出ていない。


 そういう場合、たいてい超古代文明の産物のようである。



 街中を進み、少し深めの堀に1本かかった橋を渡り、その先の城門の奥に入る。

 そこから徒歩で入城することになり、馬車を降りて庭園を抜け城内へ入った。


 城内エントランスの壁や天井には宗教画らしきモノが一面に描かれており。

 荘厳というしかない空間が広がっていた。


 この絵、どこかで見たことがある。

 そう思いとりあえず鑑定してみると結果はすぐに出た。


「バルカナの勇者の図絵……」


 たしか以前、バルカナの勇者の宝石剣を鑑定した時に絵の写しを見たんだった。

 そうか、あの剣はここで発掘されたのか。


「あ! そうね!

 宝石剣の鑑定の時に、ここの絵の写しを取り寄せたんだったわ」


 レンも覚えていたようだ。


「そうですね! あそこにきらびやかな剣を持った勇者さまがいます!」


 リタがはしゃぎながら絵を指さしているのがほっこりする……ところなのだが。


 正直、オレはエントランスの中央に積まれたアイテムの山が気になってた。

 あれを鑑定するのか……。


「見て見て! あっちには剣や鎧が並んでるよ!」


 こよりの歓声を聞いてそちらを見てみる。

 そこには鎧や剣などの装備品が、これまた所せましと並んでいた。


 てか、百体をゆうに超えるシャレにならない量に、思わずため息が出てしまう。


 とはいえ、引き受けてしまったものは仕方がない

 その現場の担当の人から軽く説明を受けて、その後メンバーに分担をわりふる。


 とりあえず、レンとこよりにはアイテムの山を大雑把に整理してもらう。

 そしてその間にオレは剣と鎧の鑑定。


 リタにはオレの出した鑑定結果の整理を手伝ってもらう。

 悠里には鑑定の終わった剣や鎧の運び出しを指示した。


 そんな感じで分担を決めるとオレも含めて各自持ち場に散る。


 で、とりあえず1時間ほど鑑定するが、量が量だけにまるで終わる気配がない。

 さすがに疲れてきた。ここらで休憩でもするか……。



「ふう、ちょっと休憩しよう。疲れた」


 いったん気が抜けると、途端に支えが効かなくなって自然とゆかに尻がつく。

 それを見たリタが、どうぞ、と自分の腰にある水筒を差し出した。


 そういえばそんな気の利いたモノなんて持ってきていなかったな。

 のどが渇いていたオレの手が水筒にのびる。


 ありがとう、と礼もそこそこ受け取って、中身を一口。

 ん? これは水ではない?


 このほどよいほろ苦さはお茶……というより麦茶の味か。

 当然この世界に麦茶はない。


「これって、お茶?」


「はい! 村の方に茶葉を譲って頂いたので煎れてみました。……どうですか? 

 勇者さまの故郷でよく飲まれるお茶に近いと、こよりさんから聞いたのですが」


「ああ、美味しい!

 でも久しぶりだなー、この味」


「よかった! さめてしまっていたので、ちょっと心配だったんです。

 こよりさんは大丈夫って言っていましたが……」


「いや、大丈夫だよ。むしろ冷えている方がいいんだけどなあ。

 冷却系のアイテムも探しておこうかな……」


「冷却……ですか?

 わたし、ほんのちょっと使えますけど……」


「え? ホント!?」


「はい、ただ初歩というか、魔法を発動させる前の準備みたいな感じなので……。

 戦いにはまだ使えませんが、そのお茶を冷やすくらいなら」


「それで全然構わないよ! ちょっとやってみて」


 オレはお茶が入った水筒を渡した。


 それを受け取ったリタは両手で持つと、祈るように目をつぶる。

 魔法を使う場合、ここから呪文の詠唱に入るわけだ。


 だけど、彼女は特に声を発することもなくそのままの姿勢を保ち続けていた。

 なるほど、これが準備段階という所なのだろうか。


 そんな彼女の横顔に見惚れながら待つこと五分ほど。

 彼女は、はい、とオレに水筒を差し出してきた。


 それを、まず飲んでみるように彼女にうながす。

 その言葉に彼女は、水筒の中身を一口。


 その途端、リタはハッとした表情を浮かべて、ゴクリと飲み込んだ後に


「美味しい!」


 と一言。


「だろ? オレたちの世界だと、飲み物を冷やして飲む場合があるんだ。

 夏とか、こういう何か作業をした後とかに飲むと、それが格別でさ」


「はい! 熱いお茶も美味しいのですが、これはまた……。

 勇者さまも、どうぞ!」


 と、再び水筒を差し出してきたので、それを受け取って口をつけ――

 ようとして、重要なことに気がつく。


 これって、間接キスなのでは?

 ここにいたるまで思いもよらなかった。


 リタは気付いていないのだろうか?


 なんていうか、コレまでの人生において無縁の言葉だ。


 自分のPCに入力したらFEPが『関節キス』と予測変換するくらい。

 『お前にはそれがお似合いだ』と言わんばかりに。


 てか、それ以前にこの世界にキスという概念はあるんだろうか。


「あの……やはりあまり美味しくなかったですか?」


「え? いや、あの、これって、かん……」


 いやまてまて、彼女の様子からして明らかにわかってない。


 仮に『間接キスって何ですか?』みたいに聞かれたらオレはそれに答えるのか?

 まずキスとは何か、懇切丁寧に彼女に教えるのか?


 無理。絶対に無理。


「あ~~!! ズルい! シュウにいだけサボって!

 あ! それリタねえが今朝煎れてたお茶でしょ! どれどれ」


 突如、こよりがオレを批難しながら近寄ってきた。

 かと思うと、オレの手にあったリタの水筒を奪い取り、一口。


「うわー、なにこれ!? 冷たい! 美味しー!」


 と、興奮気味に語るとゴクゴクと飲み始める。


「はい!

 勇者さまに冷やすと美味しいって教えて頂けたので冷却系の魔法を」


「お、おい! 全部飲むなよ!? オレだってまだそんなに飲んでないのに!」


「……ん? なんか言った?」


 彼女が次に口を開いた隙をついて水筒を奪還する。

 だけど手に取った水筒は哀しくなるくらい軽い。

 オレは負け惜しみのように、一口分も残っていない中身を自分の口に空ける。


「ちょっと、待っててくださいね。実はもう一本水筒を持ってきてるんです。

 取ってきますね」


 リタはそれを見ると、自分の荷物の置いてある方に駆け出していった。


「えへへ、リタねえとの間接キスのチャンスを奪ってゴメンね」


「ませたこと言ってんじゃないの。それより、お前は平気なのかよ」


「平気って、何が?」


「それ、冷やす前にオレ、口つけてるんだぜ?」


 するとこよりの顔がみるみる赤くなり、十秒ほど硬直した後こちらを向き、


「……ごちそうさまでした」


 と一言。


 不意に視線を感じてそちらの方を見ると、レンがニコニコしながら近づいてきた。


「……どうしたのかしら?」


「いや、リタが用意した飲み物をこよりが全部飲んじゃってさ」


「こーら、こよりちゃん。わたしも飲みたかったのに」


「えへへ、久しぶりの味ですっごい美味しかったからつい……。

 ゴメンね、シュウにいとの間接キスのチャンスを奪っちゃって」


 こよりめ、レンにもオレと同じようなからかいの言葉をかけてきた。

 だが、レンはそんなこよりの言葉に反応することなく、


「カンセツキス? 何かしら、それ?」


 と、まるで初めて聞いた言葉のようなリアクションを返す。


「え、いや、間接キスっていうのは……レンねえ、知らない?」


 こよりも、まさかそんなふうに返されると思っていなかったのか。

 多少戸惑い気味に問いかける。


「キスというのは、親愛・友愛・愛情など接触を示す。

 チュウと相手の頬・唇、手などの唇をさせ俗にもこと言う」


「「……え?」」


「また絡め口内に合う自分の互いに唇を相手の時に挿入し。

 触れあう舌をだけでなく舌を、舌を!!!!」


「わああ!!! レンねえがバグったあああ!」


「レン姉さん!!! しっかりして!!!」


 慌ててこよりと二人してレンを揺さぶると、レンはハッとした表情をした。


 ……ふう。なんとか我に返ってくれたようだ。


「……あ、あれ? わたしどうなっていたのかしら?」


「レン姉さん、覚えてないの?」


「ええ、確かカンセツキスのことを聞かれて……キス……キス……」


「レ、レン姉さん! 無理に考えなくてもいいんだ!」


「え、ええ、そうするわ。ヘンねえ、疲れているのかしら……」


「そ、そうそう、レンねえはもっと休んでなよ。

 アイテムを分けるのわたしがやっておくから……」


 まさかレンがここまでこの手の話に拒否反応を示すとは思わなかった。

 彼女の前ではこの手の話は危険すぎる。


 こよりのほうを見ると彼女と目が合う。

 『レンの前ではその手の話題は禁句』彼女もそう思ったのか、黙って頷いた。


 それから、リタのお茶のおかわりを飲み干した後、作業を再開した。

 レンには念のため休んでもらう。


 そして作業も進み、ようやく装備品からアイテムの鑑定に移ろうとした頃。

 にわかに読書会の陣営の方が騒がしくなってきた。


 しばらく様子を見ていると、陣営で手伝いをしていた悠里が戻ってきて、


「今からみんなで、ウィーラーを探しに行くよ」


 オレたちに告げた。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!


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