章末① レン姉さんが、がんばってくれた
試合結果は、オレたちの負けだった。
「ゴメン!!!」
急いでフィールド内に戻ってきたオレに悠里があやまってくる。
結局2対2のバトルは、彼女がふと緊張を解いた一瞬の隙を突かれて崩れた。
直後アタッカーとの戦いに集中していたレンを、手の空いた魔道士が攻撃。
そこで勝負がほぼ決してしまう。
そのあと2人に殺到されそうになったところでリタがギブアップを宣言。
試合は終わった。
「まあ、いいさ。
オレが場外に出たから、勝てる試合を落としたようなもんだしな」
「でも、アンタ。王妃様を助けに行ってたんでしょ?
それじゃあ、仕方がないよ」
「あの、ごめんなさい!
わたしがあんな無茶なお願いをしたから……」
「なにをおっしゃってるのだか、この娘は。
試合よりリタのお母さんのほうが大事に決まっているだろ?」
「……でもさ。
それって衛兵や近衛に任せておけば良かったんじゃないの?」
「いや、それは……」
「そうでもない。王妃様を人質に取られてかなり危ない状況だったらしい。
『勇者さまが奇襲をかけてこなかったらどうなっていたか分からない』
とあそこにいた誰もが口をそろえて言っていた」
「龍介……」
なぜか、そばでやりとりを聞いていたらしい龍介がフォローに入ってきた。
それにしても、彼まで勇者って……。
「あのときはつまらない因縁をつけて悪かった。
だが、私は生まれた世界に帰りたいのだ。待っている人がいなくても。
分かってくれとは言わないが……」
「……まああたしも、帰りたくなるときはあるからね。
途中までしか読んでない漫画とか積んでるアニメとか見たいし」
「ははは、なら期待していてくれ。
お前たちの協力があれば、かならず帰れる」
そう言って龍介は去っていく。
「どうやら、彼らを見返す、という目的は果たせたようね。シュウくん」
「でも、兄様は……」
「さーて、確かお前たちが負けたら、この私を殴った代償を払う。
そういう約束だったな」
バカ王子が入れ替わりで口を挟んでくる。
「はい、おっしゃる通りでございます」
「レン!」
あっさりと認めたので、つい叫んでしまった。
そんなオレに、
「いいから、ここはお姉ちゃんに任せなさい!」
と、レンはニッコリ。
「処罰を受ける前に、ぜひ、わたしが最近入手した詩を詠ませて頂きたいのです」
「なに、詩とな……? 遺言として聞いてやろう。詠んでみよ」
「では、お言葉に甘えて……。
『ああ、愛しい我が○が学びの園へと旅立ってから、早3週間がたつ』」
「ほう、センスは褒められたモノではないが、情熱的ではないか。
嫌いではないぞ。しかし、その『○』とはなんだ?」
「『○は現在、誰一人にも干渉されることなく、
孤高にもじっと、まるで風雪に耐え忍ぶ可憐な冬花のように、
いつ来るかも分からない春をまちのぞんでいるという』」
「……? はて、どこかで……? それほど有名な詩とも思えぬが……」
「『ああ、なぜ○と私は血がつながってしまったのだろう。
もしそうでないのなら、私が、私こそが彼女の春となって、
凍えた身を包んであげられようものを……』」
「ちょっと待てーーー! お前! それは!?」
「いえいえ、わたくし、この世界の色々な方と縁がございまして。
その筋のかたにご提供頂いたのです。
誰によって書かれた詩なのかは聞かされておりませんが……」
王子の詩って、丸分かりじゃねーか。
いったい、どういう筋が入手したんだ?
こんな詩を聞かされてどう思ったかリタの顔を見る。
彼女はきょとんとしていた。誰が書いたかなんて想像の外らしい。
悠里も似たような様子。
どうやら気づいたのはオレとこよりだけ。
「ああ、もう分かった。私の負けだ。
そもそも、もはやお前たちに責を負わせるつもりはない。
いや正確にはできなくなった、と言うべきか……」
「それは……やはり予選の件が?」
「ああ。あの試合によって一部でお前たちパーティーの評価が高まっていてな。
特に、そこの鑑定士どのに関しては神の使いなどと信じている者もいる。
貴族の中にもいるくらいだ。今日の試合でさらに増えるのは想像に難くない」
……いや、ホントにたいしたことしてないはずなんだけど。
少なくとも羽根の形成や単純な跳躍は、練習すれば誰にでもできるはず。
「そんな中でお前たちを処断してしまえば、貴族との関係にも影響しかねない。
もはや私一人の一存では手を出せない状況になっているのだ」
「でも、いいの?
王子さま。それで気が済むの?」
こよりが意地悪く質問する。
「もとより、あの件に関しては私もそれほど怒ってはいない。
むしろ、感心したぐらいだ」
「感心?」
「あ、いや。とにかく! あの時ああ振る舞ったのは王家のメンツ半分。
あと妹についた悪い虫――」
「悪い虫?」
「ゲフゲフッ! いや。
末席とはいえ王家に連なるものに安易に近寄るやからがあとを絶たんのでな。
うかつ者を排除せんとああしたまで。
だが、まあ、今はその必要もあまり感じてはいない」
「兄さま、それって……」
「お前のような者にはそこのポンコツパーティーがお似合いだということだ。
まあ、仲良くやることだな。私は、もう知らん」
そう言うと殿下はオレたちに背を向け、自パーティーのところに戻ろうとする。
「兄さま! ありがとうございます!」
「……礼など言うな」
王子は振り向かなかった。
あの御前試合から数日たって、オレたちにいつもの日々が戻ってきてる。
店のオープンに向けて整理をしているとリタがやってきて。
悠里が『訓練に付き合え』と体当たりしてきて。
色々学園での活動を終えたレンがやってくる。
という、いつものパターン。
ちょっと変化があったとすれば、こよりが用事なしでも店にくるようになった。
そんなところだ。
オレの退学に関しては、試合後にリタやその兄が掛け合ってくれたらしい。
でも結局、決定が覆ることはなかった。
すでに寮からの退去も完了してる。
そこは教会の意地というか。
てかオレが羽根を使ったことで、むしろ彼らは態度を硬化させてしまった。
そりゃあ今更
『神の使いと目されるような者を教会自ら追い出しました』
なんて醜態を認めるわけにはいかないのだろう。
オレは彼らにとって絶対に役立たずの無能でなければならなくなったわけだ。
それでも妥協点として、雑貨屋の業者として学園の出入りは自由になった。
けどまあ、どうでもいい話だ。
もうオレにとっての家はこのレンの雑貨屋なのだから。
御前試合でのびのびになってた店のオープンも、数日後に控えてる。
準備が一区切りついた昼。
オレは今日も適当なところで飯を買って、店の前のテーブルで昼食をとってた。
すると、
「修道院で療養をしていた龍介さんが目を覚ましたそうよ?
シュウくん」
その日、めずらしく最初にやってきたレンがそう口にした。
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