御前試合本戦④ オレの天使伝説に新たな1ページが
オレがとらえていたのは、リタの視線の先。
最初に吹っ飛ばしたヒーラーの浩が、今にも王妃をさらおうと接近している。
周りの守護兵をなぎ倒しながら。
「マヌケが! こんなタイミングで動きやがって!」
ヒーラー『遠藤 浩』は変化アイテムによって何者かが変化した偽者。
だけどそれは、鑑定眼によってあらかじめわかっていたことだ。
彼がこういう行為に出てくること自体は計算に入ってた。
てか、こうなるのを狙ってコロシアムの特別席のそばへ飛ばしたわけで。
王子パーティーがオレたちに負けた場合、4位以下となり表彰されない。
そうなれば、守りの薄い王妃に接触できる絶好のチャンスを逃す。
なので負けた時に特別席の近くにいれば、なにか動きを見せるだろう。
そう読んでた。
それを事前にウィーラーに説明。
偽ヒーラーが行動に出やすくなるような根回しもすんでる。
それでも動きを見せるのは、試合が終わったあとという想定だった。
勝敗が決まった直後に会場の沸き立つタイミングを狙うと思ってたんだ。
だけど、実際はそれより前に騒ぎは起こった。
おそらく龍介が飛ばされたのを見て、試合の行方を察したんだろう。
マヌケはオレだった。判断ミスだ。
だけど、このままにはさせない。
勝敗の行方はレンと悠里に任せて、オレはリタとのもう一つの約束を守る。
オレは構えると魔法物質を展開し、回転の指輪により跳躍する。
今回の翼は予選の時とはひと味違った。
折りたたまれたときは流線形状に体を包む。それはまさにミサイル形状。
跳躍できる距離は予選と比べ相当増していた。
瞬く間に、オレの体は騒動が起きている場所付近へと運ばれる。
そこで1対の羽根を展開して空気抵抗で減速、そのまま軽やかに着地……。
としたかったが、勢いを完全に殺すことができず。
オレは観客席にそのまま突っ込む。
もう1対の羽根で体を覆っていなかったら、大けがをしている所だ。
オレはその場でタイムストップの指輪を使用。
偽ヒーラーが後ろから王妃の首を片腕で締めている。
そしてナイフを持った手を振り上げ、いつでも切れるアピールをしてた。
だが今、その表情は唖然とした色を見せている。
ここにいる誰もがオレが突っ込んできた状況を飲みこめてない。
……しかしこの状況でも一切、感情を表情に出さない王妃。
色々な意味でスゲーな。
さて、ここは相手が状況を把握していないうちに速攻するに限る。
しかし、できるか? いや、迷っている暇はないか……。
アレを使えばなんとか……。
オレはタイムストップの指輪を解除。
まず手やナイフを動かせないよう、その周りに魔法物質を固定生成する。
強く力を入れれば破られるし、見えない腕の裏側には生成できない。
一時的なものだ。
そして相手が状況を理解する前に、数秒だけ太陽の指輪改で光を放った。
とっさのことに偽ヒーラーはそれを直視。思わず王妃を解放してしまう。
……ん? 前にこんな感じのことをどこかでやったような。
オレは高速移動で距離をつめ彼女を救うと、もう一度高速移動。
王妃を安全な所にゆっくり降ろす。
それが大きな隙になった。
偽ヒーラーはすでに拘束から解放されていた。
とてつもないスピード。
もうすでにオレの側まで来ている。
振り上げられるナイフの一閃。
それが振り下ろされればオレは――
「勇者さま!!!!!!!!!!!」
悲鳴のようなリタの声がオレの耳に届く。
と、同時に偽ヒーラーの動きがピタリと止まった。
リタの声に気を取られたのか?
違う。
オレの持つ低レベルのアイテムがパチンパチンと音を立てて砕けていく。
偽ヒーラーを拘束しているのは、魔法でもアイテムの効果でもない。
ただただ強大な魔力。
なんだかわからないが、その隙にオレは懐の短剣を取り出した。
柄の部分に収納されていた魔鋼の刃が飛び出る。
それが、不快な共鳴音を発し始めた。
それはまごうことなき『高周波ブレード』。
刃の高速振動でブレード部分の強化、および接触物の軟弱化を行う武器だ。
こよりと冗談を言いながら調整していったら、本当に完成してしまった。
硬直してからほんの数秒で、偽ヒーラーは再び動き始める。
振り下ろされたナイフを、オレがとっさに短剣で受け止める形になった。
こより嬢特製の武具は想定以上の切れ味を発揮。
ナイフは火花を飛び散らした上、その刃の部分を容易に離す。
偽ヒーラーは武器として使えなくなったそれを放り投げ、逃走を図ろうとした。
そこに龍介が現れ、その木刀が彼の首を直撃。
一瞬で意識を刈り取った。
「うちのパーティーメンバーがなにかやらかしたようですまない」
事情を知ってるのか知らないのか。
とぼけた言葉に、オレは疲れた笑いをこぼすことしかできなかった。
偽ヒーラーがその場で大勢の衛兵に取り押さえられるのを確認したあと。
オレはコロシアムのフィールドを見た。
まだ、試合は継続中だった。
これだけの騒動が起きれば、中止になるかもと思ってたんだが。
しかしこうなると、試合は悠里とレンにがんばってもらうしかなくなった。
適当な席で、成り行きを見物することに決める。
オレが座ると、騒ぎで離れていた観客が一人一人戻ってくる。
だけどオレの周囲だけなぜか人が寄ってこない。
試合を見ながらもたまにチラチラとこちらを見てくる。
……てか、両手を合わせてこちらに礼をしている連中がちらほらいる。
あれ、まさかオレに祈っているわけじゃないよな?
きっとこの世界ではあのポーズには別の意味があるんだよな?
「どうやらお前の天使伝説にまた新しい章が加えられたようだな」
いつの間にか来ていたウィーラーが後ろからオレに話しかけてくる。
「すまなかったな。
試合を台無しにしてしまって」
「まったくだ。
あそこでこんなことになってなければ確実に勝てたのに」
「ちなみに、やはりあれは魔物が指輪で変化した者だった。
協力感謝する」
「まあ、リタと約束していたからな。まったくの慈善ってわけでもないさ。
そういえば指輪って……。
メリオール装備ってあとは剣とか鎧とかじゃ?」
「いやアレは装備の名前ではなく、指輪の中石に刻まれている紋章だった。
多分他に残った3つもそうに違いない」
と、指輪を見せてくれたので、自分が持ってるのを出して比べてみる。
確かにオレのほうの指輪にはリングみたいな紋章が入ってた。
だけどウィーラーのは剣みたいな形だ。
「で、一つ聞きたいのだが。
お前はこのあとも魔物の襲撃があると思うか?」
「……どうだろうな。
少なくともあと1人、魔物か、それに与する奴が確実にいるとは思うけど」
「1人!? お前はそれが誰かわかってるのか!?」
「いや、誰かまではわかってないし、そいつが今後どう動くかも今のところは」
ただ、疑わしい奴が1人いた。
それでも確証はなく、ここで口にはできない。
「そうか……。
あとは我々に任せて、試合に集中するといい」
そう言うと、立ち上がって去っていった。
それと入れ替わりで、龍介が近寄ってくる。
隣に座った龍介はオレに嫌みを言うでもなく。
かといってお互いの健闘を称えるわけでもなく、ただ黙って試合を眺めていた。
な、なんだ?
正直色々あって疲れていて、気まずさを感じるほどの余力もない。
だけど、それにしても不気味ではある。
「事情は聞いた。どうやら迷惑をかけたようだな。
わたしも完全に見あやまっていた。
まさか彼が裏切り者だったなんて……」
裏切り者?
てことは、変化の指輪まわりのことはふせられてるのか。
汚名を着せられ、ホントの浩が少し気の毒だ。
「いや、仕方がないさ。
オレは鑑定眼で今回の件が視えたって、それだけの話だ。
龍介たちにわからなくても仕方がない」
「そうか……鑑定眼の力か……」
そう漏らすと、うつむく。
「……お前たちは戦っていたんだな。
私たちが茶番だなんだと言って拗ねていたときには、すでに」
「それは――」
拗ねていたのはオレも同じだ、ただオレはリタが――。
と口にした言葉は、歓声にかき消される。
「今日はお前たちと戦えてよかった」
そういうと龍介は立ち上がり、手を差し伸べ、握手を求めてくる。
オレも立って、それに応じた。
彼は振り返り、軽く右手を挙げ、この場を去っていく。
会場が一段と大きな歓声に沸く。
どうやら龍介と話してる間に試合に決着がついたようだ。
試合結果は、オレたちの負けだった。
……え?
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