本戦準備① 事情聴取のはずが、いつの間にか予選のネタばらしをさせられていた
廊下に身体の一部が落ちている。
オレは一瞬その異常性に気づくことができなかった。
「ちょっと待ってくれ」
暗くてよく見えない。
落ちているところに近寄ると、それより上の身体が徐々に露わになる。
どうやら倒れた人の、足の部分が曲がり角からはみ出し、そう見えてたようだ。
てか、全裸? ……強盗かなにかにでも襲われたのか?
確かめようと、さらに近づいていく。
だが、顔が一向に現れなかった。
やがて、その身体が首から上をもたないことに気づく。
それからあとが大変だった。
御前試合の予選開場に放置されていた男性の首なし死体。
暗くて血もあまり見えず、またあまりにも現実感がなさすぎて救われた。
五体満足な死体だったら、リタの前で醜態をさらしてたかもしれない。
オレはその第一発見者として衛兵から取り調べを受ける。
危うく容疑者にされそうになったが、リタの証言でそれはまぬがれた。
質問攻めから解放されたのは次の日の朝になった。
死体は頭がなく服も所有物もなし。
外傷は首を切られたほか、胸を一突き。
ちなみに、この世界の鑑定士は人を対象にできない。
また死体は一応鑑定できるが、結果は『死体』と出るだけのようだ。
誰のものかまでは分からない。
この世界で身元の特定をおこなうのが難しいのは想像にかたくない。
もっとも実の所、オレの鑑定眼はそれを見抜いていた。
死体は転生者のもの。
それも次の対戦相手、王子パーティーのメンバーの一人。
だが、それを教えるべきか大いに悩む。
確かに人の鑑定ができるというのを隠したいというのはあった。
だがそれ以上に、巻き込まれたくないという気持ちもある。
大体、転生者なんてそう簡単に殺せる存在ではないのである。
通り魔に偶然やられた、なんてまずあり得ない。なら彼は狙われたってことだ。
それも、転生者を瞬殺できるほどの手練れに。
真っ先に浮かんだのは魔物。
だがそれらが潜入すればたちどころに検知される仕組みが王都にはある。
過信するのは危険だが、現時点ではあまり考える意味がない。
それになぜ首をもち去ったのか。身元が割れるとマズいからだろう。
だが殺害後になにか問題が起きて死体を処分する時間がなかった。
そう考えられる。
なのに、もしオレが身元の情報をもっていることを犯人が知ったら……。
正直、身震いが止まらない。
もちろん犯人が猟奇的な趣味をもつとか、細かい可能性はいろいろあるだろう。
けど……。
……なんてことを考えながら昨日は悶々としていた。
いつの間にか眠ってしまい1~2時間くらいで目覚める。その繰り返し。
知らぬ間に夜になっており、さらにそれが明けて昼前にもなろうとしていた。
だが外に出る気にもなれず結局は寮の部屋でうだうだしている。
不意に、ドアに挟まったメモが目についた。
どうやらオレが寝ている間にレンが部屋の前まで来ていたようだ。
メモを見ると、どうも教会が例の事件に関して事情聴取をしたいらしい。
……なんで教会が?
一瞬、犯人のワナかもしれないと疑ったが思い直す。
戦士系の転生者をあんな風に殺せる奴がオレ相手に小細工なんかしないだろう。
正直、今もかなりダルい。
だけどどうあれ、いつまでも部屋に閉じこもっているわけにもいかないか……。
昼すぎ。
学園にある教会内の会議室。
その中央のイスにオレは座らされている。
そしてそのまわりを遠巻きに囲む、偉そうな面々と非難がましい鋭い視線。
某作品のアレのような気分だ。いっそ"VOICE ONLY"なら気が楽なのに。
……あれ? ひょっとしてオレ、犯人扱いされてる?
ちなみに囲んでいるメンツはこんな感じ。
学園理事長。
教会の関係者らしき服装の老人。
侯爵を自称する偉そうな奴。
よく分からない若い男。
そして勇者壮五。
イヤな予感しかしない。
レンの話だと、昨日の事件の事情聴取とのことだったが……。
勇者からの質問は全く別のものだった。
「まず、君が昨日使った数々の技。
あれはすべてマジックアイテムによる効果だと思っていいんだよね?」
「ちょっと待ってくれ。
これってコロシアムの事件に関する事情聴取だと聞いてたんだが」
「ああ、そのとおりさ。
だけど、ここの人たちはあの事件と御前試合が無関係だと思っていないんだ。
だから話を聞かせてほしい、そういうことだよ。
それで、質問についてはどうかな?」
「ああ。技についてはそのとおりだ。
オレは魔法を使えないからな」
「だけど、今君のつけている2つの指輪じゃあ、あんな戦闘はできないはずだ。
だから協力者が場外から魔法などを使用していたんじゃないかって。
そう疑われてるんだけど、どうなんだい?」
ああ、なるほど。
ようするに連中はあの試合に難癖をつけたいんだな。
おそらくオレたちの勝ち方に危機感をもったんだろう。
本戦でもあんなことされて勇者たちが負ければ教会の権威に傷がつく。
なんとしても排除せねば、なんてことを考えたに違いない。
だが、直接は手を下せない。
御前試合でオレたちを痛めつけたい第二王子の心情を考慮すれば。
だがホントに不正があったなら、さすがに王子も諦めるしかないわけだ。
そして、こんな風に別の用件で呼ぶ面倒なことを考えたのは壮五だろう。
もし反則がオレの独断によるものなら、責任を全部押しつけることができる。
処刑は一人だけで、レンは助かるかもしれない。
だから他メンバーがかばえないよう、事情聴取という形でオレだけ呼んだと。
だけどまあ、そういうことなら。
「簡単な話さ」
そういいながら、オレは試合そのままの手袋をつけた右手をさらす。
そして薬指の先をつまんで手袋をゆっくりと引っ張る。
今のオレは、イタズラを成功させた子供みたいな笑みを浮かべているだろう。
やがてオレの5本の指と、各指にはめられた5つの指輪がさらされた。
「おま――君、指輪をつけた上から手袋をしてたのか!」
「なんでそんな手袋を!」
「だって、こうしないとオレの拳の指輪を見ただけで手の内がバレるじゃないか」
「じゃあ、なんで2本の指をむき出しに――」
「いや、こうすれば『2つの指輪しかもっていない』って思ってくれるかなって。
つまらない小細工だけど、効果は絶大だろ?」
こうして明かしてみれば、むしろ5つはめていて当然に思える状況。
みんな、完全に騙されただけに反論できなかった。
「で、どうなのかね? 彼のもっている指輪は?」
「はい、それぞれ
『タイムストップの指輪』
『太陽の指輪』
『回転の指輪』
『具現の指輪』
『再現の指輪』
に間違いありません」
老人が左の男に問うと、彼はオレの装備している指輪を的確に言い当てる。
なるほど、よく分からない奴は鑑定士か。
ちなみに試合時にはめていた指輪とは組み合わせが異なるが敢えて触れない。
「では、あの滑るような高速移動は?」
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