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御前試合予選① 予選当日、…中也もよくオレの前に顔を出せるもんだ

 御前試合、予選日の朝は快晴に恵まれた。


 当日、参加者は街の中央付近のコロシアムに現地集合ということになっている。

 なので今日は早めに起きて寮を出た。

 数日前から街は祭りのようなにぎわい……てか、祭りそのもの。


 いつかTVで見たハロウィン中のシブヤがこんな感じだったか。

 なんでも遠方の町や村、国境沿いの辺境都市からも多くの人が来てるらしい。




 混雑を避けながら歩いているうちにコロシアムに着いた。

 さっそくエントリーを済ませ中に入る。


 控え室を探していると、いつのまにかコロシアムのフィールド口に出てた。

 オレはついでにそこをぐるりと見渡す。


 フィールドは楕円形。

 運動場の400mトラックより多少せまく感じる。


 そしてフィールドには2分するように1本の線が引かれていた。

 2分された片方が味方の陣地、逆側が敵の陣地となる。

 試合が始まるまでは線から離れて自陣で待機していないといけない。


 観客席のほうを見ると、ぎっしりと観客で埋まっていた。

 だが、一番奥にあるひときわ豪華な席だけは誰も座っていない。

 どうやら国王や王妃は予選の観覧には来ていないようだ。




 ほどなく控え室にたどり着く。

 ほかのパーティーメンバーにまじってリタがすぐに見えた。

 その横顔が、少しだけ緊張以外の暗い色を帯びている。

 両親がきていないのに落胆しているんだろうか。


 オレは、どうだろう。

 元の世界ではこの手のイベントであまり気負うことがなかった。

 なにしろ誰も、オレ自身すら自分に期待していないのだ。

 ただ今回は……。

 

 リタに寄るが、近くで見ると彼女の顔のこわばり具合がわかる。

 オレには気づいていないようだ。

 横からリタの頭を軽くチョップした。


「きゃあ!!」


「緊張してる?」


 こちらを向いた彼女へぶしつけに質問してみた。


「え? 勇者さま! いや、その……。

 ……はい、そうですね」


「まあなんていうか、リタはあまりうまくやろうとか考えなくていい。

 ただできるだけ相手から遠ざかることを意識していれば大丈夫」


 オレはローブの内側に隠していた右拳をまっすぐリタに向かって突き出した。


「リタが無事でさえいてくれれば、あとはオレたちがなんとかするからさ。

 予選さえ通過できれば、本戦では元気な姿を両親に見せられるよ」


「! はい! ありがとうございます!」



 そんな様子を、レンがニコニコしながら見ていた。

 彼女はリタと対照的に普段通りのように思える。


「姉さんはずいぶんと余裕だね。こういうのに慣れてるの?」


「別にそういうわけじゃないけど……。

 だって、今日はシュウくんの晴れ舞台ですもの。

 そう思うとワクワクしてしまって」


 そんな様子を見て、リタも少し落ち着きが戻ってきたようだ。


「それにしてもシュウくん。その黒ずくめの格好、お店では見たことないけど。

 今日のために用意したの?」


「まあね」


 今日は普段と違い、黒い半袖Tシャツの上に黒いローブを羽織っていた。

 両手には厚手の黒手袋を装着。

 靴やズボンなどの足まわりも黒で統一。


 右手の手袋の人差指と中指の布地は切り取っており、指がむき出しに。

 その指には『太陽の指輪』『回転の指輪』がはまってる。


「それにも、その格好はなにか作戦があるのですか? 勇者さま」


 ようやく緊張がほぐれてきたリタが、オレにたずねてくる。


「どうだろうな。

 まあ、あるような、ないような」


「! あ、そうですね。こんなところで話したら作戦になりませんよね」


 オレのあいまいな言い回しに、なんか納得してくれた。


 もちろん作戦もあるんだが……。

 やっぱりカッコいいよね。黒。


 その辺の事情を察しているのか、レンはただくすくすと笑っている。


 照れを隠すように視線をそらすと、その先には堅くなったまま座ってる悠里が。

 なんだ、もう来てたのか。

 ずっと黙ってたので気づかなかった。


 悠里について一緒にパーティーを組むようになってわかったことがある。

 こいつは恐いもの知らずだが、それはなにも考えずに動いているところによる。

 だけど、今回みたいにその時間を与えてしまうとヘタレるときがあるのだ。


「彼女、大丈夫かしら?」


 レンが、少し心配そうにオレに聞いてくる。

 まあ試合が始まり、考える余裕がなくなれば大丈夫だろう。




 その後、開会式が行われそれが終わると試合開始。

 予選が数試合消化され、いよいよ出番がきた。


 合図と同時にオレたちは対戦相手とともにフィールドへ出る。


「よお、役立たずでもうすぐ学園を退学になるお前が、なに試合に参加してんの?

 まさか、勝ち進んで実力を認めさせてそれを取り消そう、とか思ってるわけ?」


 確かこいつ……相沢中也だったか?

 挑発したいんだかそれともあざ笑うためだけに来たんだか、話しかけてきた。


 まあどう返すか、実はすでに決めてある。


「悠里から聞いたぜ?

 お前、オレのところからマップ盗んだんだってな」


「! ちが、俺は――」


「ああ、いいよ。別に批難してるわけじゃない。

 あのマップは失敗作だしな」


 失敗作というか、習作というのが正確なところだ。

 最初は別のスキルの修行としてダンジョンを視て、その内容を記してた。

 だけど、ついゲームをやっている気分になって熱が入ったわけで。

 キリがないので途中で止めてるが、ホントはもう少し手をいれたいところ。


「失敗作!?

 あれでか!?」


「ああ、マップなんてくれてやっても良かったけど。

 修行で書いた失敗作を見せるのは恥ずかしいから捨てるつもりだったんだ。

 そんなゴミをあさって活用してくれたっていうならうれしいね」


「ウソをつけ!

 あんな精巧なマップが――」


「ああ、そうそう。

 実は、実戦訓練で使われるいくつかのダンジョンのマップ。

 もう完成品ができてるんだが、いるか?」


「! ホントか!? なら――」


「ああ冗談冗談。できてるわけないだろ、どのダンジョンか知らないし。

 てか、そんなにほしいのか?

 まあダンジョンの場所教えてくれたら作ってやってもいいけど。

 ただし有料で」


「このクソや――。

 ……フン! 誰が頼むか!!

 てめえなんざぶっ潰してやる!!!」


 これ以上話しても挑発にならないと思ったのか引き上げていく中也。


 正直、頼まれたらホントに作って売ってやってもいいんだが。

 金は相場の倍はもらうけど。

 あの感じだと、あとで来るかどうかは五分五分ってところかな。




 続いて挨拶が交わされ、各メンバーが所定の位置についた。


 布陣は……。

 なるほど、予想通りアタッカー3人が自陣ギリギリ前、20m間隔で横並び。

 確か名前は左から、木元安則、相沢中也、牧宗佑だったか。

 リーダーは奥に引っ込み、その目の前には赤1点、竹沢さなえが控える。

 

 どうやら『開幕、オレの単独ダッシュでリーダーへ速攻タッチ』は難しそうだ。


 連中の考えは……。

 開始と同時に、3人がオレたちをものともせずリタへのタッチを目指す。

 魔道士は自軍リーダーの守りに徹する。非戦闘職を相手に援護は必要ない……。

 といったところだろう。想定通りだ。


 一方こちらは悠里を先頭にレン、オレ、リタと、縦に15mの等間隔に並ぶ。



 オレはチラリと前方の悠里を見る。

 彼女は挙動不審にまわりを見回し、明らかに目の前の相手に集中していない。


 悠里は考えるより体が動くタイプだ。

 だから、なんのかんの本番になれば問題ないと思っていたが……。

 見誤ったかな。明らかに雰囲気に飲まれている。


 オレの心配をよそに、試合開始の合図が発せられた。


 その直後。

 悠里の前にいる中也が距離を急激につめてきた。

次回から投稿は基本、平日は午後6時、土曜日は午前0時、日曜は朝10時となります。



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