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章末②   目を覚ましてるヒマなんてない

 王都に入るにあたり、馬車は4台用意された。


 先頭のオープン馬車にはオレとリタが乗り。

 次の神輿のような馬車には龍介が座り。

 残りは後続の馬車2台に押し込められる。



 王都でオレたちは歓呼の嵐で迎えられた。


「まったく、オレ、御遣いなんてガラじゃないんだけどな。

 天使だとしても、チョコボールの箱に書かれたエンゼルマークみたいなもんだ」


「そんなことないと思いますよ?

 レンさんも、シュウくんは天使だって、いつも言ってますし」


「いや、レン姉さんのそれは別の意味だと思うけど……。

 それに大体、みんながいたから今までやってこれたんだ。

 オレ1人じゃどうにもなってなかっただろうさ」


「それを言ったら。

 わたしなんて指輪に封じ込められて、勇者さまのそばにいただけなんですよ?

 なのに『母さまの力を継いだ』なんて、母さまにとても申しわけなくて」


 その『ずっと側にいた』というのがなによりの力になった。

 とは照れくさくて言えないオレ。


 オレとリタはオープン馬車の上で、そんなひそひそ話をしてた。

 パレードと化した登城への道のりで、引きつった笑顔を王都民に向けながら。


 それにしても、とんでもない賑わいだ。

 教会の仕込みも当然あるんだろうけど……。


 形ばかりの和平により王都に魔物が徘徊するようになって、治安も悪くなり。

 戦々恐々としていた人々にとって、喜ばしいことに違いはないのだろう。


 こっちからすると、リタを犠牲にしてオレを追放した連中なわけだけど。


 彼女にとっては、やはりここが故郷なんだ。

 それを見捨てないで良かった、と。


 うれしそうに周りに手を振ってる彼女をみていて思う。




 王城では勲章の授与がおこなわれ、そのまま戦勝パーティへ。


「よう! よくも妹を救ってくださりましたな! こんちくしょう!」


 早速、リタの兄である第二王子が絡んできた。

 辺境都市で見せたあの酔っ払い振りをあらわにしてる。


「その節は、龍介たちを貸してくださり、たいへん助かりました」

 

「ばっきゃろお! あのときはリタと2人だけで王都に帰りたかってっての!

 ありゃ、硬すぎンだよ!」


「そんな、護衛をしてくれる彼らに向かって――」


「そう! 今もリタと2人で話しあいたいのに、どこに行った!?

 妹よ!」


 あいかわらず、酔っ払ってる彼とは会話がかみ合わない。

 それにしても、


「そういえばリタ殿下が見当たりませんね」


 見渡してみるが、リタの姿が会場にない。

 ひょっとして帰った……とは考えにくいけど……。


「そういえば、お前! あのリタの人形はどうした?

 いるなら俺にも抱かせろー!!」


「ホント、殿下は妹君が好きなんですね」


「なにを言っている?

 私は王族として、妹に関わる全ての些事を管理する義務と責任がある。

 それだけの話だ」


「え?」


 いきなり声のトーンが酔っ払いから、いつものマジメな調子に戻った。


「しかし、妹がここにいないのであれば仕方がないな。

 いるとすると……別室か? 失礼、邪魔したな」


 そしてどこかに行ってしまった。

 それにしても、妹への好意を否定するためにああまでなるかな。


 あれはもう職業病に近い。

 きっと神から『ツンデレの加護』を受けているに違いない。



「まいったな。

 私など、勇者というガラではないのだが」


 続いて龍介がそばに寄ってきた。


「大体、私は講和の前に一回遭遇しただけなんだぞ。

 そのときも剣をへし折られて終わっている」


「いやいや。

 龍介がいたから、オレはリタを任せて安心して魔王へ挑めたんだ。

 ホント、感謝してる」


「そうか……そう言ってくれると気が楽になる」


「そういえば、元の世界に帰る話ってどうなったんだ?

 てっきり褒賞をたずねられたときにそう答えると思ったけど」


 勲章を授与されたとき、その褒賞をたずねられる場面があった。


 そのときに、オレは『レンの店の各種出入り自由の保証』を望み。

 リタは『王の威光で世の中に安寧を』と実質褒賞を辞退した。

 そして龍介は『王国に伝わる聖剣』を所望したわけで。


「ああいや。アレは事前に教会にそう指示されてな。

 実際、大したことはしていないのだから、それをそのまま受け入れた」


 ようするに

『この世界を救った英雄がここを捨てて帰ることを望むのは体裁が悪い』

 ということで、教会が指示をしたようだ。


 ただ、裏では元の世界とこの世界を繋げる研究が進んでいるという話もあった。

 魔物の拠点の調査が行われた際、関係した古代の遺物の発見があったらしい。


 そんなわけで、帰還の目がなくなったわけじゃなさそうだ。

 その実現にどれだけ時間がかかるかはわからないけど。



「ところで、リタ殿下が見当たらないな。

 てっきりお前の近くにいると思ったが」


「まあ、聖女になったことでリタの状況も大きく変わったからな。

 引っ張りだこなんだろう」


「独占できなくなって残念だな」


「独占なんてしてたつもりはないけどな。

 まあ、彼女の環境が改善されるのなら、喜ばしいことさ」


 正直、寂しい気持ちはあるけど……。



 龍介が誰かに呼ばれてオレの前からいなくなった。

 なんていうか、ますます取り残された感が出てくる。


 それにしてもリタがいないんじゃあ、ここにいても仕方がないな。

 まあ龍介がいるし、オレも、もういいだろ。


 オレは『御遣いの役目がある』とか適当なことを言って会場から抜け出した。

 そしてバルコニーへ。


 外の空気を吸って一息つくと、自分が腹を空かせていることに気づく。


 ああ、確か別室に軽食が用意してあるとか言ってたっけ。

 そこで食ってから出てくれば良かったかな。


 いっそ食いに戻るか?


「あ、勇者さま、やはりここにいましたね」


 声をするほうをみると、リタが立っていた。


 その姿たるやまさにThe姫!


『ショウケースに入れて飾っておきたい』

 なんて、それをそのまま実行し警察に捕まり連行されるオレの姿が目に浮かぶ。


 え? オレ逮捕されるの?


「おなかをすかせているかなって思って、持ってきちゃいました」


 その手には、サンドイッチが積まれた皿が。


 彼女を姫だ、なんて言ったがアレはウソだ。


 彼女こそ天使!

 まさに本物の天使!


 それに比べればやっぱりオレはエンゼルマークだ。

 それも銀なら5枚のほう。


 サンドイッチに飛びつくか、それとも彼女に飛びつくかの判断。

 ギリギリサンドイッチに舵を切ると、オレはそれを頬張った。


「いや! 助かった!

 朝からなにも食べてないんで、どうしようかと思ってたんだ」


「くすくす、だと思いました」


「そういえば、リタもそうなんじゃないか?

 持ってきてもらっておいてなんだけど、リタも食べてくれよ」


「そうですね……、では、一つだけ……」


 そう言ってぱくり、とサンドイッチをかじる彼女は、一転して小動物のようだ。

 子猫とウサギとリスを悪魔合体させて『コンゴトモヨロシク』みたいな。


 こうして、2人で少しの間、黙々とサンドイッチを頬張っていた。

 眼下に広がる王都の夜景を見ながら。


 この時間だと都内はもう少し暗いはず。

 だけど王都全体がお祭り騒ぎで、スラム街のほうまで明かりがともっていた。


「これが、勇者さまが守った景色なんですね」


「てか、リタに見せたかった景色でもあるんだ」


『いっそ、空から見せてあげた方がいいのではないですか?』


『そうなんだけどな。

 マルチナの補助がないとちょっと低空の姿勢制御に自信が――』


「って、マルチナ!!!?」


「きゃっ!

 どうしたのですか? 勇者さま」


「お久しぶりです、リタ殿下」


 ポン、とマルチナの仮の身体が現れて挨拶した。


「マルチナさん!! 」


「一体どうして……確かにお前はあの時……」


「だって、私はクールなAIですから。

 というか、ナノマシンは自動修復されるのです。

 マスターの頭の中にほんの1粒でも残ってるかぎり。

 私の記憶は、全てマスターの心の中に全て残ってます」


「マルチナ……」


「だから、マスターが夜な夜なやっている――」


「ちょーっと、待った!

 今ここでその話するのやめような!」


「? 勇者さま?」


「ゲフゲフ。

 まあ、なんていうか……ちょっと近くに寄ってくれないか」


 オレが声をかけると、気を利かせてかマルチナの仮の身体が消える。


 オレは、少し恥ずかしげにしてるリタを自分のそばまで寄せ。

 ギュッとしたい衝動を抑えながら周りを魔法物質で覆う。

 

 そして、回転の指輪で真上に跳躍した。




 遙か上空から見下ろす王都の夜景はまた格別だ。

 リタも言葉を失い、ただうっとりと見つめていた。


 大空に放たれると、なにか全てのものから解放されたかのような自由を感じる。


 自由、か。


 本当に自由なら、このまま宿場村に帰っちまってもいいんじゃないだろうか。

 リタを連れて。


 王家や教会を敵に回すことになるだろう。

 宿場村に軍隊を差し向けられることになるかもしれない。


 けど、宿場村のシステムがあれば――


「勇者さま!」


 リタの声に驚かされる。


「あの、わたし、がんばります!

 勇者さまとあまり会えなくなっても!

 だから、勇者さまも、その……」


「その……いつもみたくムリしてないか?

 もしリタが望むなら、オレは――」


「大丈夫ですよ、無理なんかしてません。

 いえ、無理でもやっぱりがんばらないと!

 わたしには力がないから……勇者さまの助けになれなくて」


「力? 別にリタは女の子なんだからなくて当然だろ。

 それに転生者と比べたら、この世界のほとんどの人は――」


「いえ! そういうことじゃないんです。

 もしわたしが、お兄様たちのように王族としての力があれば……。

 きっとお父様たちも勇者さまにもっと協力してたと思うんです」


 ああ、そっちのほうか。


 確かに、リタになにかしらの権力なり派閥なりがあったなら。

 講和のときも色々違ってただろうし、そのあとの資金集めも容易だったろう。


「本当のわたしなんてこんなちっぽけで、なにもできない、ただの女の子で……。

 でも、せっかくチャンスが訪れたんですから。

 それを生かしてわたし、勇者さまの助けになりたいんです!」


 でも、リタが進もうとする道は茨の道だ。


 いくら名声を得たとは言え、それは教会の作り出した不安定な虚像。

 それに、彼女を貶めていた根源である父親との不和は何一つ解決してないんだ。


 それでも、リタが強制されるわけでなく自ら飛び込もうというのなら。

 オレの行く道は一つのはず。


 まずさしあたって……。


「そうだな、とりあえずリタに見せてやらないと」


「え?」


「まあ、見てな。

 あのころと比べてずいぶんと上達したんだぜ?」


 オレは翼を展開して、王都上空から滑空。

 そして急降下を始めた。



 模擬戦じゃあ半分の確率でしか成功しなかったこの技。

 今では100%どころか、不安定な低空でも問題なくバランスが取れる。

 それに鳥のように羽ばたくことで、ある程度の上昇もできる。


 そうやって飛び回ってるうちに、オレたちの存在に気がついた王都民。

 屋根のちょい上くらいを低空飛行すると、歓声を上げて手を振ってくれた。


 そこにはレンも、悠里も、こよりもいた。

 彼女たちだけじゃない。

 オレを、オレたちを支えてくれた人々がいた。


「勇者さま! 大人気ですね!」


「オレだけじゃないさ。リタのことだってみんな好きなんだぜ?

 もう気づいてるんじゃないか? 

 みんなの声援の中に、リタの名前も入ってるって」


 正直、オレを実質追い出した王都の連中に『今さら』と思わないわけじゃない。

 それでも、これからはそれがリタを支えてくれる声になるんだ。

 それをリタにわかって欲しかった。



「オレさ、またリタの隣に立つことができるようにがんばるよ。

 どうすればいいかなんて、今はわからない。

 ましてやできるかどうかなんてさっぱり見当もつかないけど……」


「勇者さま……」


 リタは感極まった声で呻くと、いつもの笑顔を浮かべながら


「大丈夫です! わたし、信じてます!

 勇者さまはいつだってどんな難問だって解決したのですから!

 あの魔王を倒したことに比べれば、きっと簡単です!」


 いつものように、純粋にオレに信頼をぶつけてきた。





 あれから1週間。

 お祭り騒ぎのようなめまぐるしい時を王都で過ごし。


 いよいよ宿場村へ帰る日がやってきた。


 帰るのは、オレとレンと悠里とこよりの4人。


 リタは王都に残る。

 それに、龍介パーティも王都で活動するそうだ。


 もうすでに語り合うべきことは語り合い、オレとリタの間に言葉はない。

 ただ、無言でお互いを見つめ合っていた。


「妹よ、なにか鑑定士殿に渡すものがあるのではないか?」


 そこを、第二王子が声をかけてきた。

 てか、渡すものって?


 そうでした、とリタは呟くと、彼女がオレに一つの指輪を差しだした。

 鑑定して視る。


『リタの指輪』


 それが、この指輪の名前。


「リタ!?」


「大丈夫です。ほんの少し、わたしの魂がこもっているだけですから。

 これで、勇者さまがどこにいても、場所がわかります」


 どうやって、用意したんだか。

 多分こよりが関わってるに違いない。


 まったく、だったらこよりも言ってくれよ。


「じゃあ、オレもお返しだ。

 コイツにはオレの魂がほんのちょっとこもっている」


 オレはリタに指輪を差しだした。


『シュウの指輪』と命名された指輪を。


 オレも、こよりに頼んでつくっておいたのだ。

 それにしても、まったく。先を越されちまったじゃないか。


「シュッ、シュウくん!?」


 それを見て、誰よりレンが激しい動揺をみせた。


 リタもまるで酒でも飲んだかのようにわかりやすく赤面してる。

 かと思うと、受け取った指輪を目を閉じぎゅっと両手で祈るように握った。


「お、お姉さんね! そういうのはちょっと早いと思うの!?」


「まあまあレンねえ。シュウにいはほら、転生者だしね」


「! そ、そうね! 知らないわよね!

 それじゃあ、仕方がないわ! でも、やっぱり……」


 レンはまだなにか納得していないかのように見えた。

 それを無理矢理こよりが抑える。


「それでは、お互いがんばりましょう!

 わたしも勇者さまだけにがんばらせませんから!

 そして、いつか2人で」


「ああ」



 オレたちは、お互いに背を向け、それぞれの道を進む。

 その先、お互いの道が交わり、2人寄り添って歩いていける日を信じて。


 そんな日はこないかもしれない。

 けど、それでも、



「また、一緒に!」



 普通、ここはそう言うもんだろ?





  劣等スキル持ちなので転生者学級を追放されたが、

  オレを好きだと言ってくれた生け贄の姫様を真の仲間と協力して救うので、

  お前らは勇者ごっこでもしていればいい


  終

続いてエピローグを投稿します。

ほんのほんのちょっとだけ続きます。



ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!


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