魔王ヴェール⑧ 宿場村の真価
空中から幾十もの火球を地上に投げつけてくる魔王。
それに対してオレは神鋼翼を枝分かれさせ、各個叩き落としていく。
たまにこちらから、奴へ攻撃の突きを放つが、それはことごとく当たらない。
向こうは空中で自由に避けれるんだ。
お互い撃ち合っている状況で、そうそうヒットするもんじゃない。
魔王のほうが明らかに有利な状況だ。
だけど先に、顔に渋い表情を浮かべたのは魔王のほうだった。
「これは……。
まさか狙っていたのか」
奴の攻撃によって、地上に土煙が立ちこめ始めたのだ。
それでも大体の位置はわかるのだろう。攻撃はそれなりに的をいてる。
だけど、その攻撃から正確さが薄れて散漫になりはじめた。
その影響で地面にさらに攻撃が当たり、土煙がますます濃くなり始めてる。
お互い地上で戦っていたときは、攻撃を上や横へはじき返してたわけで。
だからこんなことにはならなかった。
だけど、今はできるだけ少ない力でいなすために下へ流してる。
火球によって地面が乾燥してしまったことも影響しているだろう。
つまり、狙ってやったわけじゃない。
だけど、
「ただ、空を飛べればいいってもんじゃないんだぜ?
魔王ヴェール」
そう言っておくもんだろ。
「まあ、よかろう。
そういうことなら、この辺り一帯を吹き飛ばせばいいこと」
オレだったら水をまいて付近の土煙を抑える手にでるだろう。
だけど魔王は、そんなみみっちい手段に出なかった。
空中で巨大な火球が展開される。
普通なら、こんなのを出すには呪文の詠唱時間がかなり必要なはず。
だけど、奴の右手の『真理の魔掌』はそれを魔力の充填時間だけで可能とする。
火球がゆっくりと魔王の手を離れ、落下を始めた。
その熱気はこちらにまで伝わってくるほど。
鑑定するまでもない。こんなものが爆発すれば間違いなく村は全壊する。
オレどころか村に残っている全員の命が危うい。
だけどそれを防ぐ手はない。
オレ一人には。
前はザコにこんな魔法を使う必要を感じなかったんだろう。
だけど今のオレは敵として不足ないと判断したのか。
光栄……なんて思えない。
まったく、過大評価しすぎだって。
「こより、左手のアレを発動させてくれ!」
オレが呼びかけると、突然地面から神鋼翼のような銀色の粘体が湧きだす。
それがオレの左の義手に絡みついた。
粘体は地下奥深くの龍脈に繋がってる。
そして、人で扱いきれる限界の魔力をオレの左手に供給。
義手の手のひらに魔法陣が浮かび上がり、宙に広がった。
魔王ならこの魔法陣の意味がわかるだろう。
「これは! 『偽りの御手』の法陣!」
展開されたのは奴の左手に刻まれた『偽りの御手』に酷似した魔法陣。
先代勇者がこの身体に遺したものだ。
左手そのものはバルドクルツの死の瘴気によって失われた。
だけど、そこに刻まれた魔法陣は奴との戦闘前にすでに鑑定済み。
その情報を元にこよりと共同で複製、カスタマイズしたのがコイツだ。
もともとは彼専用のものだったので指輪などのアイテムには刻めなかった。
だけど、義手に組み込んでオレが使うようになんとか改造。
動力を地下の龍脈から拝借することで発動可能となった。
その魔法陣が、魔王の放った火球を包み込む。
そして、飲み込むように縮小していき。
やがて消滅した。
魔王が地上に降り立つ。
「なんと、まさか余の『偽りの御手』までものにするとは、見事!
一年待った甲斐があったぞ!」
相変わらずの上から目線の賞賛。
「だが、その大仰な仕掛け。
余のものと比べてあまり使い勝手がいいとは言えないようだな。
まあ発動できるだけ、よくやったと褒めるべきなのだろうが」
悔しいが言うとおりだ。
龍脈から力を供給する必要がある以上、場所が限定される。
当然、動きながら使うみたいなマネはできない。
また再発動にも間を置く必要がある。
魔王や勇者がやってるような使いかたはまずできない代物だった。
「まあ、よい。
確かに余も先ほどのような魔法を何度も使うというわけにはいかない。
ゆっくり攻略させてもらうこととしよう。
余が打ち破る前に果てるなよ?」
「そんな時間はねえよ。
お前は、ここに誘い込まれたんだから」
「なに?」
オレは神鋼翼を展開し、その尖端を複数のトゲ状のドリルに変形させ放つ。
「今さら、そんなものが!」
それを難なくかわす魔王。
だけどそれは想定内。
奴が一瞬トゲに視線を向けてかわし、そしてこちらへと戻す刹那。
それを狙って、オレは太陽の指輪を全開で発動する。
単純な目くらまし。それこそ今さらだ。
その場で即座に使ってたら警戒して魔王に避けられたかもしれない。
だけど、このタイミングで放たれた光は魔王の反応を遅らせ、奴の時間を奪う。
ほんの数秒だけ。でも、それで十分。
オレは光学迷彩で自分の姿を見えにくくして、光に、そして村に紛れた。
「まさか逃げた……いや、そんなことはないようだな」
奴はオレのいる方に向けてそんな言葉をもらす。
光学迷彩によって俺の姿は見えなくなってるはずなのに。
どうやらオレの魂のオーラから、こちらのいる方向をつかんでいるようだ。
奴は無造作に右腕を前に突き出す。
そして『真理の魔掌』から、オレの方に向けて無詠唱で大きな火球を放った。
だがそれは空中で、なにかへ吸い込まれるように消滅した。
この辺り一帯に乱立してる、光学迷彩の施された魔法物質の柱に阻まれて。
奴をここへ誘い込むこと。
戦闘に入ってからオレの行動は全て、それを目的としてた。
ムダな攻撃を絶え間なく行っていたのは、こちらの意図を隠すため。
特に、奴はこちらの感情を読む。
ただ動いていただけでは、その意図に気付かれる可能性が高いわけで。
攻撃を当てることを主に置き、合間に狙いやすい場所に誘導する。
そんな心持ちで臨み、結果、奴は今ここに立ってるわけだ。
また、単純に時間を稼ぐ意味もあった。
その甲斐あって、既にシルバーバレットを生成済みだ。
あとは、ここでなんとか奴にその高火力攻撃を直撃させる。
「なるほど。
余はお前たちのワナに誘い込まれた1匹の獣、ということか。
用意周到なことだ。さては、この展開になることも読まれていたか……」
読んでいた、というのとは少し違う。
確かに計画は巨大魔法で奴をしとめる作戦がメインだった。
だけどそれが100%成功する保証なんてどこにもない。
むしろ可能性は半分もないと思ってたわけで。
だから全てのケースを検討した。
その上で、相手がどう動いても対応できるように、可能な限り準備したんだ。
その一つが、この村全体で魔王を迎え撃つシステム。
オレたちがこの辺りに立ち入った直後。
ここら一帯は、こよりの操作によって見えない柱が発生している。
そいつは、ぶつかった魔法や物理的エネルギーを龍脈に逃がす役割を果たす。
避雷針みたいなものと言っていい。
またコントロールルームから操作し、生成した疑似神鋼を射出する機能もある。
魔王に対しては、大したダメージにはならないだろう。
だけど、威嚇や気をそらすのに十分な役割を果たしてくれるはずだ。
とはいえ、魔王にはオレの位置がバレてしまってる。
だとしたら隠れて戦うことに意味がない。
そればかりかこちらの戦術を狭めてしまう可能性もある。
なら。
オレは光学迷彩を解き、姿を現わす。
と同時に柱のいくつかが、鏡のようにオレの姿をうつしだした。
奴には同時に何人ものオレが現れたかのように見えてることだろう。
「ふははは! お前の位置などすでにお見通しなのだよ!
こんなもので惑わされるか!」
――と、魔王なら思うよな。
オレは最初に放ったモノよりも硬く、早く、黒いトゲを一発だけ奴に飛ばす。
『黒の中の黒』と同じ性質の、遠近感を完全に失ったトゲ。
奴はそれに反応できなかった。
トゲが奴の身体をかすり、細い筋のような傷を残す。
魔王の数少ない欠点の一つだ。
奴は目がいい。
それだけに目で完全に見切ってしまう。
だがそれだけに目に頼りすぎ、その情報に振り回されるのだ。
そこにいないとわかってても、見える幻影を完全に無視できない。
結果、オレが地下に潜り込ませた神鋼翼への対応が遅れることになる。
それは魔王の周辺の地面から飛び出し、的確にその足下に絡みついた。
奴がその場から離れようとするが、足を絡め取られそれは叶わない。
さらにそんな奴の周囲を、用意したシルバーバレットごと神鋼の膜で覆う。
こいつで魔王も蒸し焼きだ!
オレは、そのトドメの一撃に引火させ――
寸前。
魔王を覆う神鋼の膜が内部から両断された。
魔王の手にあるのは1振りの剣。
「ふむ、気紛れに落ちていた剣を使ってみたが、以外と切れるものだな。
武器が粉々に砕けると思ったが……」
鑑定眼で視る。名は聖剣クラウソラス。
確か元の世界にもそういう名前の剣がゲームで度々出てきたような気がする。
それと関連性があるかはわからない。
この世界でも何回か名前を聞いたような……。
『確か、勇者壮五が教会から与えられた聖剣がそれだったかと』
マルチナが、鑑定では出てこない情報を注釈してくれた。
奴が持ち込んだのか!
あの野郎、余計なことを!
『しかし、それでも魔王自身の剣技は素人同然。
いくら聖剣とはいえ、自身の手刀と比べ使い物にならないと思うのですが……』
その通りだった。
それがここにきて、薄いとは言え神鋼の膜を両断したというのは……。
まさか!
「ふむ、いいタイミングで戻ってきたようだな。
クルツよ。その力を使わせてもらうぞ」
明日10時頃に投稿再開予定です。
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