勇者vs悠里② 勇者が鑑定士を目の敵にする理由
※シュウ視点
何時間飛んでいただろう。
オレはなんとか、村の上空まで到着していた。
とりあえず結界が維持されていることにホッとする。
魔王の性格上、すぐに侵攻はしないだろうとは思ってた。
だけど絶対の保証はないわけで。
続いて、タイムストップを発動しながら上空から村を鑑定眼で視た。
あちらこちらで煙が上がっており、どうやら魔物に侵入を許したのがわかる。
おそらく部分的に結界を破壊されたのだろう。
とすれば……勇者に侵入をすでに許してる可能性が高い。
奴の姿はすぐに見つかった。
同時に、悠里が勇者にボロボロにされながらも戦い続けてるのが目に入る。
怒りたいやら笑いたいやら、複雑な気持ちになった。
「ったく、悠里は。
適当にあしらえって言ったのに」
もっとも、ここにいたるまでの流れは想像に難くはない。
コントロールルームでじっと耐えてれば、魔王が動くまで問題なかったはずだ。
奴と戦うにしても、防御や威嚇に徹してればここまでにはなってないはず。
むしろ、どこかで疲労した勇者を崩せたかもしれない。
だけど、彼女がそんなタマでないことはイヤというほどわかってる。
多分、全力で勇者に立ち向かったんだろう。
ホント、困った奴だなあ。
村は内部にも結界が張られ、いくつかの区域に分かれている。
続いて、その各区域をざっくり見た。
勇者と悠里が戦っている地域は、かなりの数、魔物の侵入を許してた。
鑑定する限り数百におよんでる。
それも、かなり的確にコントロールルーム関連の施設や装置を狙っている。
ひょっとしたら古代文明の知識を持つ魔物がいるのかもしれない。
不意に、結界の上空の一部分に人が通れる位の穴が開いた。
オレが帰ってきたことを察して、こよりが操作したんだろう。
その穴から結界内部に入った。
コントロールルームに寄ろうか……それとも悠里を助けにいくか?
いや……それよりも、今はまず侵入した魔物をなんとかしたほうがいいか。
さっき視た限りだと魔王軍幹部クラスの魔物はその中にいなかった。
なら、それほど時間はかからないだろう。
とりあえず魔物をなんとかしたほうが効率がいい。
オレは魔物からは見えない位置に着地。
義手も含め神鋼状の魔法物質を解除した。
そして侵入した魔王軍主力をおおうよう、素の魔法物質の膜をドーム状に生成。
さらにドーム内に窒素を模したものを液体状に生成した。
魔王や幹部クラス相手ならともかく、ザコにはこれで十分。
生成された魔法物質は瞬間的に気化し、ドーム内に蔓延。
中の酸素濃度を著しく低下させる。
数分後、ドーム内に立っていられる生物はいなかった。
『魔王軍が前線から侵攻してきたときにこの手を使えれば』
なんて考えて苦笑してしまう。
あとは、集団から離れていた魔物数十体あまりを片っ端から潰していった。
予想通り手こずるような相手はおらず、これも数分で片付く。
ザコを総殺したあと、オレは悠里と勇者の戦っている場へ駆けつけた。
「て、テメー!
魔王討伐に行ったんじゃなかったのかよ!?」
ここで現れると思ってなかったんだろう。
勇者壮五はひどく驚いた顔でオレを出迎えた。
そんな奴を無視して周りを見る。
近くに勇者の開けた穴があるかもと思ったけど見当たらない。
どうやら無事に修復されたようだ。
続いて悠里の元に近づく。
彼女は直前までふらふらになりながらも立っていた。
だけど、オレを見ると安心したのか、その場で膝を落とす。
「……シュウ、リタちゃんは?
どうだった?」
「大丈夫、救出できたよ。今は向こうのほうで龍介たちと一緒にいる。
ああ、ホントはもう少しリタとの再会を堪能したかったんだけどなあ」
「そんなの、わたしじゃなくてそこのバカに言ってよ」
「ああ、そうだな。少し休んでろよ」
オレは悠里から離れ、勇者と対峙した。
「ははん、テメーさては臆病風に吹かれて、魔王退治は龍介に任せたな?
そして今までこの村で隠れてたわけだ、寄生虫野郎が」
「勝手にそう思ってればいいさ。証明できないし、する意味もない。
それにしても、まさか魔王につくとはな」
「けけけ。周りからは知恵者とか勘違いされてうぬぼれてるようだが。
テメーなんて所詮その程度なんだよ!」
「ああ、それはお前の言う通りだな。まったく見損なってた。
お前はもう少し自尊心が高いと買いかぶってたようだ。
それが勇者の座を捨てて、魔王に屈するとはな」
実際、裏切る可能性は考慮してたけど、確率として高いとは思ってなかった。
こいつは、魔王も含めて自分以外を全て見下している。
そんな奴が、誰かの下につくのを良しとすることはまずないだろう。
そう勝手に思い込んでたようだ。
「ぎゃははは!!! やっぱりテメーはバカだぜ!!
俺様は勇者の座を捨ててねえ!! この世は勝った者が正義なんだよ!!
だから俺様は正義なんだ!! 俺はまだ勇者だ!!」
「お前『勝ったものが正義』って。
そのセリフ、噛ませ犬や負け犬がよく口にするってわかってるか?」
魔王だって『自分が正義』なんて思ってないだろうさ。
むしろ、自分が人間にとっての悪だとわかってるはずだ。
でも、わかっててやってる。
それが自分自身の欲するものだから、悪であることをためらわない。
そのセリフを口にする奴は、たいていその前に自分の中の正義を裏切ってる。
言ってみれば、とっくに自分自身に負けた奴が口にする言葉なんだ。
「へへ!! 負け犬の遠吠えをかましてるのはテメーだろうが、寄生虫。
だが、そんな野郎に寄生される生活ももう終わりだ!!
前世からのテメーとのウゼー因縁、ここで切り捨ててやんよ!!!」
「……前世?
待て、お前、元の世界でのオレのことを知ってるのか?」
「……は?」
奴が、今までにない強烈な怒気をオレにぶつけてきた。
この感覚、どこかで……。
「テメー!!!!!!
忘れたのか!!! 前世で俺はどれだけテメーに!!!!
テメーが寄生しなきゃあ!!!!
テメーが! テメーがぁああぁああああ!!!!!!!!!!!」
まったく心あたりがない。
だけど、強いてあげれば……。
「お前、トラック事故のときに――」
「ああ!!! 確かに事故に巻き込まれて死んだ!!! テメーと一緒にな!!
だが、それだけじゃねえ!!! もっと、ずっと前から!!!!」
だよな。
あれは事故であって、オレのせいじゃない。
そんなので恨みを買ったんだとしたら、とんだ八つ当たりだ。
「中学、高校と、俺はずっとお前と同じクラスだった!!!
あのとき、どんだけテメーが目障りだったか!!!!」
……ん?
クラスに壮五なんてやつ、いたか?
正直、覚えてない。
てか、趣味友以外はまったく興味がなかったからな。
今となっては、いたともいなかったとも断言できない。
「前世でも、俺は名家に生まれた高貴な存在だった!!!
なのに勉強でもスポーツでも結果が残せねえ。
一族で肩身の狭い思いをしてたんだ!!!
それを、なんで、勉強もしてねえテメーが、俺より成績いいんだよ!!!!!
ゲームばっかりやってろくに授業も聞いてなかったくせによぉ!!!!」
……ちょっとまて。
確かにオレの中学高校生活はゲーム三昧。
それでも要領よくやって、成績は学年内でも上の中くらいはキープできてた。
だからって、誰かの成績を脅かすとかそんなんじゃなかったはずだけど。
……いや、そもそもそれ以前に。
それが、なんだってんだ?
オレの成績が奴より良かったことと、この世界でのこと、なにか関係あるのか?
「いや、でも。
オレたちより成績が良かった奴は沢山いただろ」
「そんなの知るかよ! スゲー努力してたんだろ!!?
なのにテメーは遊びほうけやがって!!!!」
「……なあ、念のため聞くが。
オレがお前のなにかを妨害してたってことじゃ、ないよな?」
「はぁ!!? そんな問題じゃねえ!!!
だいたい、テメーごときが妨害してなんで俺の成績が下がるんだよ!!?
遊んでばかりのテメーがずっと目障りで、目障りで!!
そのせいでずっと全てのことに手がつかなかったんだよ!!!
テメーがいたせいで!!
テメーがいなければ、俺はもっとうまくやれたんだ!!!」
「……ホントに、ホントにそれだけか?
例えば、俺がお前の身内の誰かを殺したとか。
なにか人生にとって重大な選択を――」
「だから!! テメーごときが俺や一族にどうこうできるわけねーだろ!!!
身の程を知れ!!!」
……なるほど。
つまりこいつは昔の悠里と同じようなことを考えて、オレに絡んできてたのか。
……。
……結局、八つ当たりじゃねーか!!!!!
ここまで引きずっておいて、それか!!!
こんなうすっぺらい、くだらないことに、オレの、オレの異世界生活は!!!!
……はあ。
正直、ここに来るまで内心、複雑な思いがあったんだ。
オレの中で、ある疑惑があった。
壮五がここまでキツく当たるのは、こっちになにか原因があるんじゃないか。
気づかないうちにとんでもないことをしでかしてたんじゃないか。
ある種の高揚感もあった。
1年ぐらい前までは、絶対に届かないと思っていた遙かなる高み。
今それに挑み、越えられるかもしれない期待感みたいなものもあり。
それがオレに多少の罪悪感をもたらしてもいた。
それが……!
それを……!
………………………もういいや。
面倒だ、ちゃっちゃとやってしまおう。
続きを15時ごろに投稿予定です。
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