決戦準備⑤ ちびリタの秘密
声のするほうを見ると、いつのまにかちびリタが実体化してた。
「さきほどはすみません……その邪魔をしてしまって」
「いや、いいよ。
相手の機嫌をそこねたわけでもないし。むしろ喜んでたと思うぞ?」
そんなオレの言葉をきいても、納得してないようだ。
……確か前、古城近くの村の温泉でもリタはこんな感じだったな。
だったらヘタに慰めてもダメなんだろう。
「まあ確かに、なんからしくなかったな」
「……そうですね。わたしはあくまで物まねをしてるだけの存在ですから……」
実のところ、ちびリタがなんでらしくないのかはなんとなく察しがついてた。
たぶん、彼女はオレに隠しごとをしている。
それを気づかれてはいけないのに無意識では気づいて欲しいと思ってる。
そんなジレンマが彼女を追い詰め、不安にさせてる。
だったら、もう潮時だろう。
ハッキリさせよう。
「いや、もうわかってるんだ。
君は『リタの指環』に封印されているリタの意思そのものなんだろ?
今はマルチナを通じてちびリタを操ってる。多分、そんなところじゃないか?」
「! な、なにを! そんなことありません!
だってわたしの体は魔王が持ち去って、魂はその指輪に封印されてるんですよ!
わたしはマルチナさんが真似をしてるだけで──」
「じゃあ、ちびリタのまま、セリフだけ戻してみてよ」
「え? え?
その、わたし…。
コ、コホン。し、しかたがありませんね、マスターは。
これで、信用してもらえますか?」
「いやいや、違うだろ。
普段のマルチナなら、ポンコツだの外道だの散々なことを言ってるはずだ」
「え? ポ、ポン? ゲドウ?
いえ、その」
「さあー、早くー」
「わかりました、じゃあ……。コホンッ。
い、いつも苦労してるんですよ?
わたし、その、マスターのようなポ、ポ、ポンコ──ああ!
そんなひどいこと、言えない!」
「もういいでしょう」
そこへ、今度は本物のマルチナが現れ、間にはいる。
「マスターはネイティブポンコツですが。
相手を洞察して心を削ることにかけては他の追従を許さないんですから。
きっと神の加護ならぬ悪魔の加護を受けているに違いありません」
「ほらな、本物のマルチナはこれ位のことは呼吸をするように言えるんだよ」
「まるで私をヒドいAIのように言ってますが。
発言のすべてはマスターの思考パターンをトレース学習した成果なのです。
それを忘れないでください」
「……さすが勇者さまです。とっくにバレていただなんて。
やっぱりなんでもお見通しなんですね」
「お見通しってほどでもないさ。
さっきまで『ひょっとしたら』くらいの予感程度のものだった。
それも、そう感じはじめたのはバルドクルツとの戦いのときからかな」
「……ごめんなさい! 今まで隠していて!
でも! でも! わたし!」
「ああ、わかってるさ。どうせマルチナに説得されたんだろ?
『そうしないと妥協して、魔王討伐をあきらめてしまうかもしれない』って」
「マスターの推察通りです。
申し訳ありません……」
「いや、まあ仕方ないだろうな」
実際、正体を隠していた間も、オレはちびリタにずいぶんと慰められていた。
もし、ちびリタが今のリタそのものだと知ってしまったら。
魔王討伐を諦めることはないと思うが、いくらか決心は鈍っていたかもしれない。
「でも、リタの不満が爆発しそうなことも感じてたんだろ?
今それを明かしたのは、そういうことじゃないか?」
さっきだって、いくらでもごまかせたはずだ。
例えば、マルチナがリタの代わりになって話すとかで。
それをしなかったのは、マルチナも彼女の限界を察したんだろう。
「それもありますが、マスターに知らせる時期がきたと思ったからです。
良い知らせと悪い知らせの2つを」
「マルチナさん! まさか!
あれを話すのですか!」
「リタさん、気持ちはわかりますが、もうタイムリミットでしょう。
これ以上先のばしにすれば、おそらく取り返しのつかないことになります」
どうやら、よほど重要なことらしい。
それに、とりかえしが付かないって……。
「まず、良い知らせのほうから。
最近ですが、リタさんの魂を元の肉体に戻す方法がわかりました」
「……ホントか!!!!!」
話を聞くに。
こよりは身体の元の持ち主の記憶を持っていた。
だとしたら、このオレの身体にも先代勇者の記憶が残ってるのではないか。
マルチナはそう考え、オレの奥底の無意識部分の記憶をたどっていたらしい。
そして時間をかけ、そこからその先代勇者の記憶に到達した。
さらにその記憶の一部、彼の見たバルドクルツの研究所の資料にたどり着く。
その中にヒントがあったらしい。
「でかした! マルチナ!
じゃあ、悪い知らせっていうのは、方法の難易度のことなのか?」
「いえ、彼女の身体さえ取り戻せれば、それほど難しくありません。
ちびリタを具現化する方法の応用で実現可能です」
「おお! そいつは!
まあリタの身体を取り戻すっていうのが難易度高いけど。
もとよりやるつもりだったしな! よし! これで希望がでてきた!」
「そして悪い知らせですが……」
「おう! なんでも言ってみな! 全部オレがぶち破ってやる!」
「この方法には制限時間があります」
「制限時間!?」
「指輪に魂を封じた場合、それが完全に定着するまでには時間が必要です。
定着前なら、方法さえわかれば指輪から解放するのは難しくはないのです。
逆に、定着してしまうと……」
察しはつく。
今までアイテムに込められた魂を元の肉体に戻す方法は散々調べてきた。
だが、過去にそれが成功した事例はみあたらない。
マルチナがその方法を見つけ出したのは奇跡に近い所業なのだ。
だけど、
「……で、定着までどれだけ猶予がある?」
「今から、約三ヵ月後です。
その前兆として、あと一ヶ月で彼女はちびリタとして出現できなくなります」
「! お前!!!! どうしてそれを早く言わなかった!!!!!」
「ごめんなさい! わたしが口止めしたんです!
その、もし勇者さまが早まって、討伐に失敗して殺されてしまったら!
わたし、わたし……」
バカかオレは!
もうすぐリタは表にでてくることができなくなる。
彼女の様子がおかしかったのは、それが一番大きい理由のはず――。
なにが『オレは鈍感系じゃない』だ!
全然わかってなかったじゃないか!
「それと、最初の計算ではあと2年くらいは持つはずでした。
しかし王都での戦闘でリタさんが死の瘴気の影響を肩代わりしてしまい……。
それで期間が大幅に縮まってしまったようです……」
「……なんだよ、結局一番悪いのはオレじゃないか」
「違います! 勇者さま!
わたしが見てられなくて、勝手に……」
「……とにかく、わかった。どうあれやるしかない。
悩んでたしな、魔王討伐をいつ行うか。
目安ができたぶんむしろ、これも悪くない情報かもしれない」
「ですが、それにしても三ヵ月は……。
古城への移動時間も考えれば、正味二か月ほどに……」
「やはり、わたしを元に戻すのは一旦あきらめて……」
「なにをおっしゃってるんだか、このおひめさまは。
べつにオレは世界を救いたいんじゃない、リタとその帰る場所を守りたいんだ。
リタが帰ってこないのに、その場所だけ守っても仕方がないんだよ」
「……勇者さま」
「まあとにかく、みんなに話してどうやればいいか、考えてみよう」
次の日オレは、集会場に関係者を集めた。
第二王子はもとより、ロナルド卿まで話に加わってくれたのは意外だ。
まあ勇者壮五は別だが、まあアイツは村にいないようだし、いいだろ。
魔王討伐のため出発するのは今から二ヶ月後。
そこから1~2週間かけて魔王のいる古城へ移動する。そして決戦。
オレと誰かの2人で行くなら半日で到達できるけど、派手に動くのは避けたい。
指輪の魔力も温存したいし。
今のところ問題は『オレの義手』と『遠距離魔法攻撃のための魔法装置』だ。
けど幸いと言うべきか二か月なら、両方ともギリギリなんとかなりそう。
その間、各人のレベルなどは上げられるだけ上げる。
それでもやはり、オレと悠里以外は魔王と直接対峙するのは難しそうだ。
だけど足りないならないなりに、やりようはある。
作戦に関しては、前に決めたとおり。
オレと龍介パーティーで古城へ向かい、魔王を古城の特定箇所に誘導。
その間、悠里、レン、こよりは村に残ってもらい、防衛に備えてもらう。
で、合図を送ったら村から遠距離魔法装置で魔王を攻撃。
ざっくり言えば、そんなところだ。
こうして、事態は動き出した。
こうなって初めて、自分自身、思ってたよりずっとビビっていることに気づく。
マルチナのいう通りだ。
こんなことになってなければ、ずるずると作戦決行を先延ばししてただろう。
オレは。
ホント、情けないったらありゃしないが、こうなったらもう、やるしかない。
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